東方宿儺譚    作:雅之幻想

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(微だけど)エロ注意ッ!エロ注意ッ!


閑話3. 旧地獄温泉旅行 下

『戦いは”遊び”であり、”命の奪い合い”ではない』

 八雲紫に告げられたそれは宿儺にとっては理解に易く、同時に納得し難いことであった。

 

 ”遊び”というのは分かる。宿儺もまた、人のときは人生を暇つぶしとして過ごした身。楽しみを求めるその在り方故、戦いの半分は”遊び”だったと言っても過言ではないだろう。

 

 だが”命の奪い合い”ではないというのには、従いはしつつ納得に遠かった。術式・呪具・或いは肉体(フィジカル)など、どれをしてみても、力を使う=殺。それが術師、呪霊、食事のための狩りであろうと同じこと。例外が幾らかあったとはいえ、宿儺にとってはそれが当たり前だった。

 

 そして敗北とは、全てを出し切った上で敗れること。それは生殺与奪を相手に握られていることも同義。故に宿儺的には、敗北=死なのである。

 

 だが、幻想郷は違う。肉体を幾ら傷つけようとも、余程のことがない限りは死なない強者達。人間の使う反転術式の比ではない__否、反転術式だけではない。元の肉体も、能力も、人間の力を遥かに凌駕する神妖の蔓延るこの幻想郷において、ある意味命の奪い合いは存在しない。命のやり取りがあるのなら、それは一方的な蹂躙であり、戦いと形容できるモノではない。

 

 もし、博麗霊夢や霧雨魔理沙のような人間が戦うのであれば、『弾幕ごっこ』という”遊び”。  そこに命のやり取りはないとはいえ、彼女たちにとっては”戦い”であり、神妖にとっては”遊び”。

 

 血が流れ、肉がぶつかり合い、欠損もあり得る行為。それこそが、神妖の”戦い”。

 そして宿儺にとっては”遊び”_もとい”戦い”なのだ。

 


 

「──さて、博麗の居場所もわかったことだ。移動する前に決着ををつけるか」

 

 宿儺が相対するのは、幼い見た目をした少女二人。どちらも頭には角が生え、そして、その容姿に見合わぬ力を有する強者だ。

 

 ──方や山の四天王と呼ばれた、幻想郷でも最上位の実力を持つ鬼。

 ──方や畜生界の三大組織の一角である剛欲同盟の同盟長。

 

 その二人を相手にこれだけ立ち回れているだけでも、宿儺の実力の高さというのは十分理解できるだろう。

 

「おー、戻ってきた戻ってきた」

 

「そしてケリをつけるって? ククッ。中々面白いことを言うなぁ」

 

 童子の方はさておき、一度負けた饕餮の方はなぜ余裕そうなのか。それは彼女にとって、これは戦いであると同時に、遊びだからだ。__否、彼女だけではない。饕餮の隣にいる萃香も、これを肴に酒を飲む旧地獄の住人も、そして当然宿儺も。誰もが皆、遊びを真剣に楽しんでいる。

 

 

「来い。次で終わりにしてやる」

 

「リベンジ、果たしてやる!」

 

「鬼相手にいい度胸! それが蛮勇だったと言わせてやろう!」

 

 

 真剣に楽しむ三者、それぞれが三様の行動を取る。

 手印・飛躍・霧散。それぞれの方法で距離を詰め、お互いの間合い、というより宿儺の間合いへと入っていく。実に2mにも満たない間、妖怪にとっては無いも同然。攻撃が迫るその中で、しかし宿儺は手印を解かない。それは諦めの合掌、ではない。寧ろ逆だ。近づかれることこそが、宿儺の狙いなのだ。

 

 というのも、宿儺にはやってみたい事があった。

 それは渋谷にて、特級呪霊・真人が土壇場で見せた『0.2秒の領域展開』。この領域展開は通常よりも高い技術を必要とする割に、展開することの旨味が非常に少ない。第一に、領域を展開→即解除というのは脳への負担が通常よりも大きい点。第二に、たった0.2秒の領域展開でも、術式が焼き切れている時間は大して変わらない点。

 通常の領域展開よりもメリットが殆どないこの技を使うことなど、()()()()()()あり得ない。

 

 

「領域展開」

 

 

 だが宿儺にとって、普通などどうでも良いのである。”出来るか否か”、やってみたいという心。肝心なのはそれだけだ。出来れば良し。出来なければ、その時は勝ちを譲って霊夢と合流する。

 別に失敗しても構わない__遊びとは、気楽でいいものだ。

 

 

「『伏魔御厨子』」

 

 

 0.2秒。その短い時間がそのまま効果時間となる以上、必然として斬撃の量は非常に少なくなる。

 無論それでも領域内の大半を無に帰すには十分すぎるが、今回の相手は人をゆうに超える存在。しかも斬撃を受けるということに対して厄介な能力持ち。必中効果次第

 そこで”縛り”。『相手に逃げ道を与える』という縛りを『効果範囲』ではなく『領域効果の底上げ』に適用することで不安要素をカバー。”霧”と”沼”の能力を貫通し、斬撃を見舞う。

 

「か、ハッ!」

「っ゛あ゛あ゛!」

 

 一瞬にして全身に走った激痛に、少女たちは苦い声を上げ、攻撃が中途で止めてしまった。それによって生じた隙を宿儺が逃す筈もなく、鬼には拳を、羊には蹴りを放つ。

 別々の方向に飛んでいった二人は、そのまま落下地点にあった地面や家に激突した。

 

「ケリはついたな」

 

 宿儺は理解した。”遊び”の楽しさ、負けてもいい戦いがあることを。

 


 

「随分派手にやり合ってたねぇ」

 

 博麗霊夢のいた温泉、その建物で宿儺を迎えたのは星熊勇儀だった。

 

「あの二人の能力上、俺の術式は相性が悪い。派手にやっていたのは俺ではない」

 

「ま、何にせよだ。霊夢に会いに来たんだろう? 案内するよ」

 

「助かる」 

 

 旧地獄にしては、落ち着いた印象を与える内装だ。静かで趣のある、宿の手本のような雰囲気。 

 それにしても人の気配が無さ過ぎる気がしたが、それは星熊勇儀が気を利かせてのことらしい。

 

「あいつは有名人だからねぇ。下手に誰かと絡ませると喧嘩が止まなくなる。まあ、誰かさんが喧嘩してくれたお陰で連中の闘争意欲がだいぶ削げたから、もう心配はいらないかもしれないな」

 

「寧ろ高まっているように見えたが、本当に大丈夫か?」

 

「催しが終わったら、その余韻に浸りたくなるものさ。暫くはそれが肴になってくれる」

 

 彼女がそう言うのであればそうなのだろう。この旧地獄の元締めである彼女の言葉には説得力があった。尤も、あまり人付き合いが多くない者の感想など説得力がないだろうが。

 

「しかし、いい宿だな。落ち着きがある」

 

「お前さん、宿を見る目あるね。その通りだよ。ここは旧地獄でも指折りの宿でね」

 

 ものすごく長くなりそうな話を振ってしまった気がするが、きっと気の所為だと信じたい。信じよう。

 

「温泉の水質も、食事も、酒の質も、旧地獄の中ではトップクラス。博麗の巫女も大人しくなる」

 

 そう言い切ると同時に、星熊勇儀は目の前の襖を開け放った。

 

「なっ……!」

 

 意思を有した存在は、予想外のことが突然起こると脳の処理が追いつかずに動きが固まってしまう。それは戦闘でも日常でも、神でも人間でも同じ。お酒で判断力が鈍っていれば尚のこと。

 

「──博麗、呑み過ぎだ」

 

「う、うるさい! 誰のせいだと思ってんのよ!」

 

 故に、お酒の入っていない宿儺の方が言の葉を早く紡げたのは何も不思議ではないし、お酒のせいであられもない格好を見せてしまった霊夢を責められる者もいないだろう。

 


 

「……あれは俺が悪いのか?」

 

 霊夢の居なくなった部屋で、酒を注がれながらそう呟いた。

 

「私が言うのも何だけど、あの台詞は女心を分かってないと思うねぇ」

 

「真っ先にごめんとか言って目を背けてあげるのが一番だったと思います」

 

 女性2名に脇から攻められては、流石の宿儺といえども何も言い返せない。というか片方は寧ろ謝る立場ではないのだろうか。

 

「今から謝りに行くのも、恐らく逆効果だな」

 

「だろうねぇ」「ですね〜」

 

「元はといえばお前のせいだろう。あと奥野田、憐れみながら酒を注ぐな」

 

 今、霊夢は襖を隔てた奥の部屋で閉じこもっている。距離的には非常に近いが、近寄り難い雰囲気が漂っていて近づけない。ましてや謝りに行く空気でもない。これは長丁場になるだろう。

 

「しかし……俺無しで事件が解決したなら、俺は神社で雪かきに勤しむべきだったな」

 

 そうすれば、博麗との仲が悪くなることもなかっただろう。

 

「久しぶりに会えたっていうのに、つれないことを言ってくれる」

 

「私は、宿儺さんも助けに来てくれたって聞いて嬉しかったですよ!」

 

 今度は逆に慰められている。やはり今日は厄日だ。

 

 注がれた酒には、顔の曇った男が映っていた。

 


 

 あれから、一週間が経過した。

 

 奥野田美宵は元の居酒屋に戻り、何食わぬ顔で仕事を再開した。本人は「帰省」と言い張り、事を誤魔化した。記憶を操作できる時点で、その間に関してはどう繕おうとも、間違えを指摘できないのだから、誤魔化せたのも不思議ではない。便利な能力だ。

 

 鬼の噂も、とりあえずは沈静化した。その代わりと言うべきか、『カレーを喰う鬼』というものが噂になった。危害を加えるか分からない様な鬼の噂に比べれば可愛いものだが、バレるような変装ならもう少し改善しろと言いたい。尤も、あの角では無理があるだろうが。

 

 そして、かく言う俺の方はといえば……

 

「やああああっ!」

 

 博麗霊夢のストレス発散に付き合っていた。そのストレスの原因は曲がりなりにも俺なので、断るという選択肢も無いわけだが。

 

   ー」

 

 豪雨のように降り注ぐ弾幕。札や針、陰陽玉など多岐に渡るそれらは、普段庭先で行うもの(遊び)より遥かに容赦のないものだった。速度もさることながら、そもそもの身体を通せるだけの隙間がほぼほぼない。逃げ道を寄越せと言いたいところだが、「自分でなんとかしろ」ということなのだろう。

 故に、以前失敗した”落花の情”を練習するにはちょうど良かった。

 

「触れたものを自動で弾く呪力プログラム」と言ったところだろうか。その仕組みがこの嵐相手には非常に相性が良い。一つ一つの弾幕を的確に弾いてくれるので、ダメージを受けなくて済む。まあ別に受けたところでどうというほどのモノでもないのだが。

 

 因みにだが、呪力に術式をそのまま適用させようとすると、大抵は上手くいかない。こういうのは結界術や生得術式、或いは呪具などをワンテンポ挟むことで初めて呪力の運用が効率的になる。溶き卵を直接鍋に入れるのではなく、一度菜箸を伝わせて流し入れた方が形が良くなるのと同じだ。こと落花の情に関しては、”動かない”という縛りが菜箸の役割を果たしている。

 もし動きながらでも使えるようになれれば、相手の打撃や遠距離からの弾幕への対処が楽になるだけでなく、雨の中傘を差さずとも濡れずに歩くことができるというのに。

 

 そんなことを思っていると、ようやく弾幕の嵐が止んだ。

 

「はぁ……はぁ……」 

 

 見ると、そこには力なくへたり込む博麗霊夢が。どれだけ気合を入れていたのか、汗を掻いて顔に光沢が出ている。

 

「気は済んだか?」

 

「あんたが余裕そうなのが気に入らないけど、まあちょっとはスッキリしたわ」

 

「付き合ったかいがあった。これで、先日の件は水に流してもらえるんだろう?」

 

「それよりも汗を流したいんだけど」

 

「……湯を沸かそう」

 

 この分では、暫くこき使われるのだろう。なんだか以前と変わらない気がするが、まあ良い。

 

 裏手に周って火起こしの準備だ。

 

「”解” ”捌”」

 

 普通の丸太へ十字に斬撃を入れ、薪を作る。

 ある程度の量になったら薪を火の縄で縛り、窯に放り込む。

 

赤開荒縄(レッド・フーガ・バインド)

 

 いやしかし便利な魔法である。思えば、あの膨大な量の本の中から最初に見つけたのが『火熱技法論』だったのは本当に僥倖だった。正しくツイていたと言えるだろう。

 

「──ちょっと! ねえ宿儺! ちょっと助けて!」

 

 面倒事が生えてくるこの頃とは大違いである。

 


 

「──で、何があった? 虫でも出たか?」

 

「さらしの結び目が汗で固くなっちゃって……ほどいてくれない?」

 

「……お前、この一週間空気が悪かった原因を理解しているのか?」 

 

 やはり、ここ最近は厄の流れがこちらに向いているような気がする。

 

「こっ……今回は特別よ! 私だって別に……その……」

 

「今までもこうなることはあっただろう。その時はどうしてたんだ」

 

「そういう時は丁度良く魔理沙が居たりしたから問題なかったんだけど……今はあんたしか居ないし……だから、特別よ!」

 

「分かった分かった。分かったからそう顔を赤くして怒るな。ほどけばいいんだろう」

 

 そうして彼女の背中に手をかける。顔の色とは逆に色白でいて柔らかな肌は汗ばんでいて、熱を帯びていた。前にも思った気がするが、これが本当の紅白の巫女か。

 

「ぬ……確かに固いな」

 

「ちょ、ちょっと……くすぐった、んっ……」

 

 妙に色っぽい声を右から左に流しながら、固く締まった布をほどくのに集中する。別段指先が器用な訳では無い上、汗で指先が滑って力が上手く入りにくいのが障壁となってしまっている。かと言って力を込め過ぎれば、今度は博麗の方にかなりの負担が行ってしまう。

 

「あっ、ちょっ、すく……やっ……」

 

「おい動くな、手元が狂うだろう」

 

 ちょくちょく動くせいで手元が安定しないのも苦戦している原因だ。引っ張っているのでもがきたいのも分かるが、大人しくしてほしい。

 ……というか普通に斬ったほうが早いのではないだろうか。

 

「む、胸……胸、にっ……あんっ」

 

「だから動くな。というか斬っていいか?」

 

「んっ……き、斬る? ひゃっ! ……さ、さらしを?」

 

「嫌ならまた初めるが?」

 

「い、良いわよ! 斬っていいから! これ以上は、ほんとにマズイから!」

 

「言質は取ったからな。”捌”」

 

 結び目を切って少し弄ると、あっという間にさらしはほどけた。露わになった部分には汗がべったりとついていた。あのまま放置していたら蒸れていただろう。

 

「はっ、はっ、はーっ、は──っ……」

 

 息を切らして地に手をつける博麗霊夢。耳の先どころか、首まで赤くなっているのがわかる。しかしなぜ悪戦苦闘した俺よりも疲れているのだろう。

 というか、最初から切ってしまえば良かった。もっと早く提言していれば、窯の火の様子も見れたというのに……ん? 窯の火?

 

「──ッッ! まずい! 窯の火!」

 

 経過時間的に、何処か、或いは風に流れてきた落ち葉とか新聞とかに引火してしまっていてもおかしくはない。急がなければ。

 

 全く、やはり最近は厄続きだ。

 


 

「はあ……」

 

 ため息の理由は、身体にまとわりついた汗のせい……ではない。それは既に流し終えている。

 では何故なのか。実を言うと少女自身もよくわかっていない。答えが霧に包まれていて見えないような、否、そもそも答えがあるのかもわからない、奇妙な感覚だ。

 

「宿儺……」

 

 ポツリと、その名を呟く。

 何故呟いたのか。それもよくわからない。考えたら、勝手にその名前が出てきた。

 

 最近_というか一週間前のあの時から、妙に宿儺を意識してしまう。別に怒っているという訳では無い。気にしていないと言えば嘘であるが、もう怒の感情を抱いてはいない。さっきのも宿儺を許すための、けじめのようなものだ。

 では一体、なぜなのだろうか。

 あのちょっと背が高くて顔がかっこよくて物知りで馬鹿みたいに強くて家事とか色々やってくれるだけのやつに、なぜこんなにも、鼓動を高めさせられるのか。

 

「……きっとお風呂に入っているせいね。そうに決まってるわ」

 

 だから、この妙な気持ちもきっと気の所為だ。

 

 ──そう自分に言い聞かせ、博麗霊夢は湯船に深く浸かった。




大変申し訳ありませんが、暫く更新が滞ります。
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