厄災の流れの中で書いた一本。温かい目で読んでいただけると幸いです。
月夜見宿儺は、肉弾戦においても幻想郷でトップクラスの実力を有している。
それはたとえ神宝と御厨子の2つの能力を封じたとしても、穢れによる肉体強化と観察眼、更には兄譲りの高い戦闘センスで幻想郷でも上位の力を有する程である。
そして特に重要なのは、やはり穢れによる肉体強化だ。
穢れは呪力や魔力よりもエネルギーの密度が大きい。それ故、肉体強化などで出力される力も強くなる。勿論、穢れというのは猛毒であるため宿儺以外に100%で扱える者はいないのだが。(自然の権化である妖精も穢れをエネルギーに変換することは出来るが、扱える絶対量が少ない上に効率も悪いので大したものではない)
つまるところ、肉弾戦における宿儺の強みは、『穢れ』という誰も扱えない力を用いることで攻・防・速の全てにおいて高いパフォーマンスを発揮できることにあるのだ。
「──チッ」
「えい! やあ! とりゃ! せや!」
間の抜けた声とは裏腹に恐るべき威力が込もった一撃。だが妖精らしいというべきか、攻撃にはフェイントも何もなく単純で、軌道は簡単に読むことができる。一発一発の着弾点を予測することで、すんでのところでこれを回避。普通であれば鼻で笑いっていながら回避しているところだ。
しかし、今はそうもいかない。漏れるのは笑みではなく、苛立ちを含んだ舌打ちだけだ。
「シッ──!」
「キャハハハ! 斬撃もその程度! さっきのパンチといい、アタイにはなんともない!」
「……これも効果無し」
攻撃が効かないということは、それだけ相手の力量と差があるということだ。これほどまでの劣勢なのは宿儺の中でも稀。原因は大きく2つだ。
一つは、宿儺の出力の大幅減退。磐長阿梨夜の能力によって穢れのコントロールそのものが上手く出来ないことだ。穢れを普段通り動かすだけでも意識を使うというのに、更に出力を上げろというのは無茶な話である。全力疾走しているところに「もっと早く」と言っているようなものだ。
穢れの強化幅が大きい分、欠ければそれだけ威力も落ちる。伏黒恵に出力を落とされている時より少しマシな程度だろうか。
「それっ、お返し!」
「──ッ」
そしてもう一つは、妖精の域を明らかに超えた出力だ。神社の下から感じていた気配、それとは比較にならないほどの膨大な妖気。あの『完成』の能力による強化幅が尋常でない程に大きいことだ。今も、血を吐き出させられるほどの一発を見舞われた。さらに、迸る魔力は防護壁ともなって宿儺の一撃を殆ど通さない。八握剣による攻撃も効かないことは判明済みだ。
「───ー」
「あれ? 治せるんだ。神様の肉体は自然治癒が基本って聞いてたんだけどな〜」
だが敗北しか道がないかと言われれば、そうではない。
磐長のせいで穢れ同士をぶつけて正のエネルギーを作ることは出来ないが、剣の正のエネルギーを流用すれば反転術式自体は使用可能。損傷過多で逃走という事態は避けられている。
そして回復によるの恩恵は、敗北が遠ざかることだけではない。
「……誰に聞いたのかは知らんが、お前の詰みは近づいているぞ。妖精」
確かに、宿儺の基礎能力は穢れによるものが大きい。実際この状態では、クラウンピースに勝つなどまず不可能だ。
「え何、強がり? それともハッタリ? 今までのでアタイには勝てないってのが分からなかったの? 宿儺さん、顔は良いのに頭の方は残念なんだね〜」
「馬鹿はお前の方だ。俺に着実に詰められているとも知らず、無闇に手札を晒したことを後悔するといい」
だが、宿儺の強みは穢れだけではない。兄であり、武神でもあるスサノオ譲りの戦闘センスと観察眼。今の状況ではそちらの方が余程役に立っている。
「お前の動きは粗方見切った。今の一撃で屠れなかったことを悔やむ事になろう」
「へーそうなんだ。凄い、ね!」
馬鹿にしたような口調の台詞の直後、それが来た。強烈な踏み込みから繰り出された拳は、いままでのどの一撃よりも速い。瞬き一つで5メートルほどの距離は消え、喰らえば頭が飛ぶような一発が向かう。こればかりは、本調子の宿儺であっても当たればただでは済まなかっただろう。
「──当たればな」
だが如何に速い攻撃だろうと、
「なっ──!」
「これが年季の差だ。分かったかクソガキ」
「ッぅうう────っ!!」
自慢の一撃を避けられたことが余程堪えたのか、がむしゃらに攻撃を仕掛けてくる。だがそれも今までの延長線。子どもが喧嘩で放つような、何の技も策略もない攻撃。勿論威力は子どもどころか大人が即死するようなものだが、宿儺的にはそんな攻撃は威力云々以前の問題である。
「いくら速かろうと、見えてしまえば遅いということだ」
確かに、攻撃速度は尋常でない程に速い。勇儀や満月時のレミリアとトントンといったところ。だが、その二人には技巧があった。両者ともども荒削りではあるものの、ブラフやフェイントを仕込んだ攻撃をしてきていた。どちらも、クラウンピースにはないものだ。
「技巧がない。経験がない。観察も足りない。初めの方は驚かされたが、見切れてしまえば何という話でもないということだ」
「で、でも! アタイもお前の攻撃は効かない! だからまだ、アタイは負けてない!」
まあ尤もな言い分である。だが同時に、切れない札がないわけでもない。
「確かに、今の俺ではお前にダメージを与えられん。……今の俺では、な」
宿儺が待っていたのは、隙だ。圧倒的攻撃速度故に見出だせなかった隙、それを攻撃をいなすことで強引に生み出させ、ついに致命的なものとなる。
「あっ!」
勢い余って前に体勢を崩したクラウンピース。それを宿儺は、頬を歪ませながら見ていた。
「
それは先刻まで、クラウンピースの方が持っていたもの。戦いにおいては重要な”精神的余裕”。それが宿儺の元に渡り、流れも宿儺の方に来ている。宿儺は完全に勝ちを確信していた。
──だが実際に宿儺の元に渡ったのは、クラウンピースが『余裕』と勘違いしていた『油断』であったというのは、胸に走った痛みによって初めて気がついた。
「──な……に……」
それは、白光だった。白い光が、宿儺の胸を貫いたのである。
体勢を崩したクラウンピースによる土壇場の抵抗__ではない。
これまで参ずることのなかった第三者。宿儺が真っ先に警戒し周囲すら見えなくなるほど集中させた者であり、クラウンピースがここに来た理由__
「友人様!」
沈黙を保っていた『完成』がようやく動き出したのだった。
書かないと文章力は落ちるってはっきりわかんだね