(ピース→なんか怖そうじゃん 宿儺→ガキの相手は苦手だ)
──マズイ。
心臓を貫かれたことではない。確かに肉体の治癒に難儀する今では問題にする価値があるが、それ以上にマズイことが起きている。
貫かれたところから、結晶が生えてきた。浜辺で見たものと同じ、黒曜石のような結晶。
それが何なのか、理解したときには既に体が動いていた。
「うぇ……気でも狂った? アタイ能力使った覚えないんだけど……」
「──ほう……お前、の……能力、は、他者を……狂わせる……のか……?」
「そんなアタイから見ても、いきなり自分に剣を刺すなんて狂ってるとしか言いようがないよ」
礼節も合理性も知らない、これだからガキは苦手だ。貫かれたところから生えた結晶を抑える為には、正のエネルギーを至近距離で当てる必要がある。だからこそ刃を傷の近くに刺し、症状の悪化を防いだ。それだけの話だというのに。
「差し支えはない……それに、直に受けたお陰で『完成』の能力のタネが見えた。差し引きとしてはプラスだな」
元々、ある程度予想はしていた。同じタイプの能力か、或いは別の力から派生したか。
仮に同系統、穢れに作用する能力だとすれば、この状況下で弱体化していないわけがない。だが『完成』は妖精と自分に能力を使った。しかも妖精の方は異常なほどに強化され、弱っているとはいえ
つまり、あの能力は穢れを操る
「──術式対象の拡張」
無論、拡張するにしても”穢れ”にまで作用するほどの高い運用性と精密性は流石の一言に尽く。そしてそんな事ができる能力の方も、良いものを持ったと言わざるを得ないだろう。
大祓や禊ともまた異なる穢れの抜け方。元に戻されるような、ありのままの自分にさせられるような、付き物が落ちていくような、釜の底が抜けるような、あの感覚。そこに浜で見た『完成』と妖精の異常な強化も加えれば、能力の真相は自ずと見えてくる。
推し量るに、あの『完成』の能力は__
「あらゆる事象の純粋化……純化と言った方がいいか?」
妖精を見据えながら、胸に刺さった剣を抜く。まだ内臓に欠損はあるが、結晶は中和できた。戦線復帰に支障はない。
それに欠損など、これからどうとでもなる。
「出し惜しみはせん。本気で行く」
クラウンピースは地獄の妖精として、それなりの数の実力者を見てきた側である。
自らの主であるヘカーティア・ラピスラズリ、その友人である純狐は言わずもがな。地獄の下の方の連中もヤバい奴ばかりだし、幻想郷で戦った秘神も強かった。
そしてピース自身も、純狐の能力によって自然の縛りから解き放たれ、今や神にも匹敵する力を有した
だからこそなのか、或いは根っこである「妖精」としての弱者故の勘か。
心臓も射貫かれ、自身との力の差が歴然である目の前の敵から、形容し難い底知れぬ何かを感じた。
その”圧”を前に、クラウンピースは動くことができなかった。
──クラウンピース
「──ー!」
胸を回復しきった宿儺に対し、『友人様』である純狐が再び動く。
クラウンピースの脇を、光線が抜けていく。先程は一本だけであったが、当たれば宿儺とてただでは済まない。そんな代物を、今度は複数。況んや純狐の方も殺意が高い。
だが宿儺それを跳躍してあっさり回避。そう簡単には食らってくれないという訳か。避けられた光線は、無常にもそのまま木々の奥へと消えていく。
「……あれ?」
だが不思議なことに、宿儺は何故か降りてこない。それどころか更に上へと飛んでいっている。
なぜか? クラウンピースは考えた。過去に類を見ないほど頭を回して考えた。
「──まさか、友人様!」
純狐の方を先に始末し、強化のなくなった弱った自分と戦う。それこそが宿儺の狙いなのだと、クラウンピースは結論づけた。
それを阻止する。そこからの行動は早かった。
「月夢『エクリプスナイトメア』!」
まだ上空にいる宿儺に対し、クラウンピースも光線を放つ。
『エクリプスナイトメア』はピースのスペルの中でも特に速い光線。
実際、その速度が功を奏した。光線は見事宿儺に命中し、着弾地点は爆煙に包まれた。
「よし!」
想定通り。このまま引きずり落とし、完全なる決着に持ち込む。
足首を掴んで投げ飛ばす様を思い描きながら、クラウンピースは宿儺へと迫った。
──だが悲しいかな、その思いは中途で途切れることとなる。
「ッッ──!?」
背中に大岩が乗った……どころではない。足が、腕が、胴が、頭が、指先が、心臓が。全身が押さえつけられたような錯覚に、身動きが取れなくなる。生殺与奪の権を握られたような、一挙手一投足が死因となるような恐怖感。迂闊に動けば、待っているのは”死”であると本能が警鐘を鳴らしている。
それをもたらした存在は、間違いなく先程まで劣勢だった……はずだ。
「──言った筈だ」
声を聞いた耳が、頭を上げさせた。爆煙が晴れ、男の姿が露になる。
──だがその姿には、クラウンピースは見覚えがなかった。
無理もない上、当然の反応だ。だって──
「『本気で行く』と」
──現れたのは、四ツ目四ツ腕、腹に口がある異形。そしてなにより、顔の右側が歪に変形した男だったのだから。
やっぱり完全体宿儺のデザインって凄いよね。異形なのにすんなり入ってくるというか