宿儺は嵐の様に去っていった。
今までの事がこの数時間の間に起きていたとは思えないほど、時間が長く感じられた。
「ひとまず、陛下に報告しに戻ろう。」
細愛親王がそう声をかける。
依姫としても、自室に戻って休息を取りたかった。
「宿儺様...凄まじい実力でした。それに私とやり合ったときは本気ではなかったのが、
恐ろしい限りです。あの状態でも、能力使用を余儀なくされたと言うのに、それ以上がある...。」
「気持ちは分かる。私もかつて、宿儺様と手合わせしたがのされてしまった。
あの方は、武の高みにおられるのだ。我々は
「お気遣い、有難う御座います。細愛様。」
ただこれでハッキリした。素の肉体、フィジカルでは宿儺が上である。
武神を降ろせばわからないが、能力なしの勝負であれば確実に負ける。
「しかしそれにしても、地上の妖怪の侵攻が我々に影響を与えていたとは...」
依姫が宿儺のことを考えている傍らで、都久親王がそう口にした。
月の都の中では、『地上の妖怪は月の都の戦力を前に手も足も出ずに降伏した』として
既に終結していた。月の都側の大勝利として記録されているのだ。
そんな中で、地上の妖怪による侵攻で明確な悪影響があったと知られたら、今の上層部に不信感を抱く者も現れるだろう。政敵であった八意思兼をようやく排除できた都久親王にとってそれは、なんとしても避けたかった。
「細愛殿、依姫。陛下には、宿儺様の復活は伝えるが、地上の妖怪による侵攻で穢れが撒かれてしまったことは伝えないほうが良いと思うのだが、どう思う。」
「「そうだな(ですね)」」
その意図を察した細愛親王はもとより、依姫は都久親王とは別に不味いと思っていた。
地上の妖怪によって悪影響が出たと知られれば、八意様から受け継いだ地上を監視する役目から
降ろされてしまうかもしれないと考えたからだ。
何にせよ、三人の思惑が重なり合い、穢れの件は陛下へは伝えられなかった。
「宿儺様の復活が、結界に影響が出ないのであれば、朕は何も言う事はない。
地上へ行かれたのであったとしても、宿儺様なら問題なかろうて。」
と、陛下からの判断が下され、事態は終息した。
事後報告を済ませた依姫は、自室のベットに横たわった。本当は湯浴みも済ませたかった。
が、初めて味わった敗北感を前にふて寝を選択した。
宿儺は
その事実は、指導試合で師匠に負けたモノとは別種の敗北感を、綿月依姫に味あわせた。
もっと鍛えなければ。そう思いながら、依姫は深い眠りについた。
0章としていましたが、プロローグと変更しました。
また、各話に多少変更を加えました。