サイバーパンクと青春記録   作:水面どり

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16話 メインジョブ 『砂塵の逃亡劇』 4

ブラックマーケットとアビドス自治区の境界線付近のビルの屋上、後数時間もすれば朝日が登る未明の時に俺とワカモはターゲットがくるまで冷たい夜風を受けながら待機していた。 ワカモは自前の銃剣の付いたスナイパーライフルを点検し、俺はサイバーウェアのメモリに登録された曲を聴いていた。

 

「〜〜♪」

 

やはりSAMURAIの曲はいい。 コーポの連中とやり合う前に聞くと気分が高揚してくる。 体の芯まで響いてくるギターの振動、叫ぶような、それでいてしっかり聴き取れる歌詞、声に込められた感情、今まさに現状を打開したいという若い渇望、ここに確かにSAMURAIがいたという証を残した曲だ。

 

「何を気前よく歌っているのでしょうか?」

 

銃の手入れを済ませて手持ち無沙汰になったのか、そう聞いてきたワカモにちょいちょいと指を動かして近くに来いと促す。

 

「ワカモさん、何か音楽を出力できるもの持ってないか?」

 

「使い捨てのケータイならここに」

 

ピンク色の『ケータイ』と呼ばれる折りたたみ式のデータ端末を受け取って、電源を入れて手首から伸ばしたプラグをジャックインさせる。 幸いにもプラグがちょうど良く入る穴を見つけた。

 

「……」

 

ワカモはその様子をまじまじと観察していたが、それを無視して脳内端末の音響出力をケータイに流れるように設定する。

 

この世界じゃ機械の体が珍しいのか? いやでも普通にロボット市民もいるからそうでもないか。

 

そんな事を考えている間にケータイからギターの重苦しくも激しい活力に満ちた音が唸りをあげた。

 

「これは……すごいですね」

 

「だろ」

 

上手いとか、綺麗とか、聴きやすいとかではない。 SAMURAIの曲はただただすごい。 正直に言って演奏は然程上手いわけでもなく、一人一人の演奏が独立して暴走を始めるところもある。 だがそれがこの曲を成り立たせているファクターなのだ。

 

「まるで感情がそのまま口を使って歌って、いえ、叫んでるような」

 

「まさしく人の渇望と夢の歌だろ。 でも本人は世界の不満を叫んでるだけなんだぜ。 目に映る物どれもこれも気にくわねぇってな……」

 

音楽を鳴らしながらケータイを弄り、ある事を試してみる。

 

「ワカモさん、このケータイってサイバースペース、じゃなくてNETに接続できるのか?」

 

「スペース……? ええ、ネットの使用が可能ですが……あまり性能はよろしくないですよ」

 

ケータイをポチポチと触りながら脳内端末でキヴォトスのNET接続を試みる。 今までNETに接続できなかったのは俺の脳内端末がサイバースペースに接続する形でアクセスしていたからで、ヴードゥーボーイズのネットランナー達の様に直接NETに接続すればもしかしたら無線接続が復旧するかもしれない。

そもそも俺たちの世界では基本的にサイバースペースと呼ばれる、物と物の電磁波、マイクロ波、無線有線、電話、様々な情報媒体や電子機器によって作り上げられた世界中に繋がった超広大な通信ネットワークが主流だ。

だがある事件によってネットワークは壊滅的な被害を受け、そのほとんどが不良AIの巣窟と化してしまった。 この不良AIの進行を止める為にブラックウォールというこれまた巨大なセキュリティウォールが構築され、俺の世界では表層のネットワークにしかアクセスできないという事情があったのだ。

 

長々と話したが、要は俺の世界のNETとキヴォトスのネットは全くの別物になってる可能性があるのだ。 というかそれしか考えられない。 なのでこのケータイをハシゴにして上手い事ネットワークに接続しようとしてるのだが……

 

「ダメだ、全然わからない。 どう弄れば脳内端末の接続方法を全く未知のネットワークに設定出来るんだ……」

 

テックに詳しい自信があるが、ネットになるとさっぱり手がつけられない。 もう少しTバグの話を真剣に聞くべきだったか。

 

昔の仕事仲間を思い出しながらインターネット接続を諦めると、ちょうど良くSAMURAI曲が一通り流し終わった。 ケータイへのジャックインを解除してプラグを手首に収納し、ワカモにケータイを返そうとしたがそれを手で静止されてしまった。

 

「Vさん、そのケータイは貴方が持っていてください。 連絡方法がないと不便です」

 

「いいのか?」

 

「ええ、先ほども言いましたがタダ同然の安物ですので、良い曲を聞かせてくれたお礼と思っていただければ」

 

「そういう事なら遠慮なく頂くよ。 ありがとう」

 

ワカモから貰ったケータイを折り畳んでポケットに仕舞い、ビルの屋上から明かりが一つも灯らない静まり返った街並みを見渡す。

 

「ここの夜は静かだな。 ナイトシティとは大違いだ」

 

「おや、そうなのですか? ナイトシティとかいう名前なので静かな場所と思っていたのですが」

 

街並みから背を向けて、落下防止用の手すりに背中を預けた状態で夜空を見上げる。

 

「まさか、夢の街なんて呼ばれてるがいつまでもギラギラとしたネオンの鬱陶しい光に、道路を走り続ける車、空飛ぶAV、インプラントを埋め込んだギャング共、鳴り止まない銃声と悲鳴、毎日出動してるトラウマチーム、そういうのに隠れてコソコソするカス共、自分たち以外見下すコーポ連中、嫌気がさすほど賑やかな場所だ。 おちおち眠れたもんじゃない」

 

俺の言葉に頷くでもなく、じっと聞いてるワカモの表情は仮面に隠れて見えないが、少なくとも楽しそうには見えなかった。

 

「……先程の曲達も、そこで生まれたものですのね」

 

「ああ、変えようと思っても変えられない世界、足りない自分の実力、避けようのない現実、通り過ぎてしまった過去、それでも理想に手を伸ばし続けるバカヤロウ達が作った曲だ」

 

「Vさんもそうなのですか?」

 

ワカモの問いに少しだけ考えてみるが、全て過ぎた後の話だと思い直す。 もうあの世界に俺の居場所はない、後は残った連中の物語りだ。 あのあとどうなったのかなんて気にしても仕方ないだろう。

 

「……どうだろうな。 そういう事が聞きたいなら、先ずはその『Vさん』って呼ぶのをやめな」

 

「……では『V』も私の事を『ワカモ』と呼んでいただけます?」

 

「わかったよ『ワカモ』」

 

少し悩んだ後に俺の事を呼び捨てにしたワカモは、何の抵抗もなく呼び捨てにした俺を気に入らないのか恨めしい目で睨んできた。

そういうところがまだまだ子供だな、と思っていると、ワカモが閃いたようにパンと手を叩いた。 何だか嫌な予感がする。

 

「いいこと思いつきました! V、貴方もテロリストなのですよね?」

 

「待て、確かに巷じゃそう呼ばれてるかもしれないが、俺は傭兵だ。 そこは間違えるなよ」

 

「テロリストとは得てして周りがそう呼ぶ物です。 かくいう私も周りからそう呼ばれただけで自分からそう名乗った訳ではございません」

 

「いや、まぁそうかもしれないが……」

 

「そして! 私の方が貴方より先にテロリストデビューしています!」

 

なんだこの狐女、何を言い出す気なんだ。 妙な悪寒が体を巡るのを感じながら一応ニヤニヤと笑みを浮かべるワカモの発言に耳を傾ける。 怖いものほど気になる物とは誰の言葉だったか。

 

「つまり、私は貴方の先輩という事です!」

 

「…………はい?」

 

「私の事は『ワカモ先輩』と呼びなさい」

 

「ゲンコツされたいのかナチュラルサイバーサイコ女?」

 

絶対にそれはない、何で遥かに年下の女を先輩呼びしなきゃならんのだ。

 

「私も貴方の事を『後輩』と呼びますので」

 

「うるせぇよ」

 

別に呼ばなくていい、というか呼ばないでくれ。 不味い、コレは本当にいけない状況だ。 このままゴリ押されたら最悪、先輩後輩の関係になし崩し的に持ち込まれかねない。

 

「では後輩、早速私の事を『ワカモ先輩』と呼んでみてください」

 

「絶対に呼ばないからな狐女」

 

と、そんなやりとりをしていると暗闇に覆われた街並みから複数の光が伸びてきた。 ナイスタイミングだ。 俺はこれ幸いにと指を差して話題を逸らす。

 

「わ、ワカモ! アレがターゲットじゃないか? スコープで確認してくれ!」

 

俺が指を差した方向へ首を向け、状況を理解したようで諦めたように息を吐きながらスコープを覗いてターゲットの確認を行った。 俺も安心したような息を吐いてしまう。

 

「車両にカイザーPMCのロゴを確認しました。 オーナーに連絡をお願いします。 こ・う・は・い」

 

どうやらまだ諦めるつもりはなさそうだ。 俺は自身のキヴォトスライフの先行きに不安を覚えながら、ワカモから貰ったケータイでオーナーに連絡を取るのだった。

貴方はどれくらい知識がある?

  • サイバーパンクは名前だけ知ってる
  • サイバーパンクは動画勢
  • サイバーパンクは雰囲気でプレイ済み
  • サイバーパンクはガチでやった
  • サイバーパンクで知らないことなど何もない
  • サイバーパンク? なんそれ?
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