サイバーパンクと青春記録   作:水面どり

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26話 メインジョブ 『悪友/』 3

どうしてこうなった。

 

昨日は昼前に寝て、いるはずのないジョニーからのお休みメールという悪夢から脱出し今日の早朝に起床。 風情のかけらもない剥き出しコンクリート部屋で目を覚ますと、盛大な音を立てて扉が開け放たれた。

そこにいたのは目をグルグルに回したテロ狐ことワカモがいた。 何故か顔はやや赤く、耳と尻尾がピンと立ち、仮面を顔に付けるどころか何処にも装備されていなかった。

 

「後輩、風呂!」

 

……?

 

ヤケクソ気味に言い放たれた、その言葉の意味が理解できなかった。

風呂?ああうん勝手に入ってこいよ、とその時は勝手に解釈していた。 だからあんな返事をしてしまったのだ。

 

「おう」

 

おう、じゃない。 もし俺が時間を巻き戻せたら今すぐにでもタイムスリップしてこの時の俺を殴り飛ばしただろう。

だが言ってしまった言葉は無かったことには出来ない。 覆水盆に返らず、とは誰が言っていた言葉だったか。

 

そのまま腕を掴まれて廃ビル、俺の部屋の対角側に位置する風呂場まで連行されてしまった。 振り解こうと思えばいつでもゴリラアームでどうとでも出来たのだが、ワカモの有無を言わせぬ気迫に強い抵抗ができなかったのだ。

 

「なあワカモ? お前どうしたんだ? もしかして風呂場にゴキブリでも湧いて退治してほしいとか、そんな話じゃないだろうな」

 

「後輩、脱ぎなさい」

 

…………

 

「why?」

 

「後輩、脱ぎなさい」

 

ワンモアなんて言ってない。 何故?と聞いたのだ。 だが俺の意思を無視してワカモはそのまま制服と和服が合体した様な衣装を脱ぎ出してしまった。

 

「おいまて狐、本当にどうした」

 

「いえ別に」

 

だがワカモは慣れた手つきでテキパキと服を脱いで、畳んでいく。 その肢体が顕になっていくが、別に女の裸なんてナイトシティで見慣れているのだ。 今更どうこうするようなものでは……

 

 

 

目に映ったのは、健康的な肌色。 何処にも手術の後はなく、クロームやサイバーウェアで一切加工されていない絶世の美が俺のキロシに焼き付いて……

 

 

 

ガンガンガンガン!!!

 

俺は必死に頭を壁に叩きつけて今すぐに見た光景を処理しにかかる。 そして自分自身の魂として男のサガを無理やり停止させた。

 

「後輩ー!?」

 

ワカモが驚きの声を上げるが今は無視だ。

 

何だあの体!? 女性の未加工の天然ボディはあんな破壊力を持っていたのか!? 瑞々しい肌、艶やかな黒髪、ふわりと舞う尻尾と耳、完成されたプロポーション、どんなBDでもお目にかかれない極上の中の極上だ。 しかもめっちゃいい匂いがした。

 

正直に言おう。 ワカモの体つきに非常に興奮した。

 

だがまさか大人の俺が生徒のワカモに手を出すなど論外だろう。 そんな事するのはナイトシティの汚い妖精で十分だ。 マジでアイツがこっちに来てなくて良かった。 もし来てたらありとあらゆる生徒に唾をかけている様子が簡単に想像がつく。

 

「ふぅーー! 落ち着け、落ち着け俺。 そう、今は俺だって女じゃないか、何を慌てふためく必要がある? 俺は誰だ? そう、あのアダムスマッシャーすら倒したイケてる傭兵V様だ。 たかだが女の体一つでチェリーボーイみたいにはしゃいでどうするんだ? ジグジグストリートの連中に馬鹿にされてしまうぞ」

 

「大丈夫ですか? 後輩」

 

「わっほっひゃーーい!!!」

 

どうにか落ち着こうと深呼吸と言い訳を繰り返してる所にタオルを巻いたワカモが心配そうに顔を覗き込んできた。 巻いたタオルがワカモの豊満な谷を強調してる光景に対し、咄嗟に顔を背けてそのまま衣服を入れるロッカーに自身の顔面を叩き込んだ。

 

「ええええーー!! ちょ、大丈夫です!?」

 

「大丈夫、超大丈夫、ちょっと核爆弾でこのアラサカタワーを吹き飛ばすだけだから、な! ジョニー!」

 

「それタワーじゃなくロッカーです。 あとジョニー誰?」

 

すーはーすーはー。 落ち着け、おちつくのだ。 おれ。 まずはおちついて……そう、タケムラの顔を思い出せ。 いつまでも仏頂面の天然でボケ倒す忠義の塊の様な男を。

 

「わーい、ナイトシティの錆びついた香りがするー、このロッカーすごーい。 タケムラみろよー、本物の鶏肉だぜー」

 

「後輩ー!! お願いだから戻ってきなさい!!」

 

 

 

数分後

 

 

 

「で、何でこんな真似した」

 

女性の体でも構わず腰にタオルを巻く俺と体にタオルを巻いたワカモは湯船に浸かる事にようやく成功した。 当然俺はワカモに背を向け、距離を開けている。 もう二度とあんな醜態を晒すものか。

 

「……そう、ですね」

 

ピチョンと、閉まった蛇口から一粒の雫が湯船に落ち、しばらくの沈黙の後ようやく口を開いてくれた。

 

「後輩、何か悩んでますか?」

 

「……あー、気づかれたのか」

 

ガレージに戻った時に気づかれていたのだろうか。 まだまだ短い付き合いなのによく見てくれている。 ワカモはここで根掘り葉掘り聞くつもりなのか、こうなったら話すまで俺のことを返す気はないだろう。 俺は少し考えて、自分の言葉を選びながら紡ぎ始めた。

 

 

 

「連邦生徒会とアビドスの連中との戦闘で、ちょっとな。 ワカモは俺がキヴォトスの外から来たのは知ってるよな」

 

「ええ、存じています。 ナイトシティという所から来たと、とても劣悪な環境だったことも」

 

「あそこはな、簡単に人が死ぬんだ。 ニュースじゃ『今月の死亡者数クイズ』なんてやるほどにな。 そこで俺は傭兵をやっていたんだ」

 

「……では、以前話された人を殺したというのは」

 

「ああ、お前が想像してるよりもよっぽど多い数だ。 何人も、何十人も、ナイトシティの傭兵の中じゃ殺してない方の数だが、キヴォトスじゃ違う。 ここだとみんな誰一人殺しちゃいないんだろ?」

 

「……殺していたとしても、殆ど事故の様なものです」

 

「だろうな。 俺たちのいた世界は腐ってんのさ。 殺された人間は殺した奴から見ぐるみ剥がされて、治安維持機関は賄賂で自殺に偽装して、トラウマチームっていう医療機関が死んだ人間の臓器を売り飛ばす。 死んだら何もかも奪われる世界なんだ。 そんな掃き溜めみたいな所だ」

 

「貴方はそこで生まれた」

 

「ああ、だからかな……この世界が、キヴォトスがあまりにも都合が良すぎて、眩しくて仕方ないんだ」

 

「治安の悪さは俺たちと同じくらいなのに、どいつもこいつも後悔のない顔をして街を歩く。 痩せ我慢なんかじゃなく、明日は今日よりいい日が来ると根拠もなく信じてるんだ。 銃で撃ち合いしても次こそ必ず勝つって、恨みじゃなく純粋な悔しさで言う。 俺たちの世界じゃそれはない。 負けたら次なんてなく、惨めな最後を遂げる」

 

「なんだかさ、俺、本当にここにいていいのかなって考えちまったんだ」

 

「だってそもそもおかしいんだ。 俺は……本当はオルトと一緒にブラックウォールの向こう側でデータのカケラとして残るはずなのに、こんな、天国みたいな場所にいて、ズルみたいじゃないか」

 

「もしかしたらこの現実はオルトが見せてる超精巧なVRなんじゃないかって考えちまうんだ。 全部、嘘なんじゃないかって、この輝きが全部紛い物なんじゃないかって、ちょっとでも間違えたら全部壊れてしまいそうで」

 

「後輩、いえ、V」

 

気づけば、ワカモは正面に立っていた。 その顔は険しい顔つきで、ゆっくりとしゃがみ込み、俺の手を握ってきた。

 

「冷たいですね」

 

「まあ、そりゃあ半分義手みたいなものだしーー

 

パァン

 

頬に鋭い痛みが走り、顔は横へと向いていた。 何が起きたかわからなかった。 ゆっくりと顔を正面に戻すと、真っ直ぐにワカモが俺を見つめていた。

 

「いてぇよ」

 

俺が頬を抑えてそう言うと、ワカモも手を振って痛みを誤魔化そうとしていた。

 

「私も痛いです」

 

キチンを思いっきり叩けばそうなるのは当然だ。 というか以前に俺をぶん殴って痛い目を見たじゃないか。

 

「貴方の腕は冷たく、叩けば痛くて、馬鹿の癖に変なところで考えて、誰よりもお人好しで、早撃ちしてる姿は頼もしくて、こうでもしないと全部一人で抱え込もうとして、食事が好きで、人の裸を見て慌てふためいて」

 

「V、私はまだ貴方の事をこれだけしか知りません。 正直にいうと、オルトとか、ブラックウォールとか、貴方の言ってる事は未だによくわかっていません。 でも、これだけは言えます」

 

 

 

 

 

「キヴォトスを舐めてんじゃねぇぞ」

 

 

 

 

 

「たった数日しか見ていない新入生が知った口を叩かないでもらえますか?」

 

「ズル? 嘘? だからなんですか、私はいくらでも騙した事があります、寧ろ上等ですよ」

 

「ちょっとでも間違えたら全部壊れる? その程度で壊れる場所ならこの私『災厄の狐』がとっくの昔に粉々にぶち壊してます」

 

「今までたくさん殺した自分がここにいていいのか? 貴方が貴方自身を認められないなら、私が貴方を認めます」

 

「だから後輩、いえ、V」

 

「貴方がもし本当に間違えたら、その時は私が止めます。 貴方が足を止めたら、その時は思いっきり背中を蹴り飛ばしてやります。 だから、私と一緒にこの町で青春を謳歌しませんか?」

 

ワカモは再び立ち上がって水に沈んだ俺に手を差し伸べた。

 

「まいったな、年下に説教されちまうなんて……俺もまだまだ未熟者だな」

 

ワカモの手を掴んで立ち上がる前に、一つだけ聞きたいことがあった。

 

「なあ、連邦生徒会を襲う時、何で俺を仲間に入れてくれたんだ?」

 

「そうですねぇ……頼れる仲間が欲しかったというのは本当で、強さはもちろんですが……ほっといたら変な方向に突っ込んでいって大惨事を招きかねない危うさがありました。 それに直感ですが」

 

 

 

 

 

「私達、相性抜群、って気がしません?」

 

 

 

 

 

「……本当に参ったな。 俺を落とすならこれ以上ない最高の口説き文句だ。 惚れちゃいそうだ」

 

ワカモの手を掴んで湯船から立ち上がる。 だが口説かれっぱなしも癪なので俺の方からも口説き落としてやるとしよう。

 

 

 

 

 

「不束者ですがよろしくお願いします、ってか? キヴォトス歴三日のピッカピカの新入生だがよろしく頼むよ。 “ワカモ先輩”」




ぬわあああああああん!!

シリアス難しいよおオオオオオ!!!!

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