ナイトシティ 7:06
ワトソン地区 リトルチャイナ
H10メガビルディング0716号室
「・・・・・・チッ、またかよ」
かつてナイトシティで伝説になりかけた傭兵が住んでいたその部屋で、凄まじく不愉快そうな顔で起床した男がいた。
男は何が気に食わないのか非常に苛立った様子で、スモッグで霞んだ朝日が差し込む酒瓶をひったくると、逆さにし一気に飲み干してしまう。 完全に迎え酒だった。
如何にも不健康まっしぐらな起き方をした俺、伝説のロッカーボーイ、ジョニー・シルバーハンドは酒への悪態をつきながら、招き猫が出迎える脱衣所で服を脱ぎ、窮屈なシャワールームへと入っていく。
本来の家主ならここでペット2匹の餌やりを始めるのだが、現在その2匹はオカルト女ことミスティの所で有意義な生活を送っている。
「くそ、あの畜生共・・・・・・俺が帰ってくるなり引っ掻いてきやがって」
Vから体を渡されて帰ってくると、サイバーサイコを検知したタレットの如く苛烈な攻撃に出迎えられた。 皮膚は浅く切り裂かられ、あちこちに歯形が出来、追い出され、その後あれやこれやといろんな奴らに追いかけ回されドッグタウンの隠れ家で一晩明かす羽目になった。 その後アフターライフの女王ローグに泣きつき、全員からボッコボコにされたのだ。
そんな一週間前の苦い記憶を思い出しながらシャワーを浴び終え、いつものタンクトップと本革のパンツを履き、SAMURAIのロゴがあしらえたジャケットに袖を通す。
保管庫からまだ墓場に運んでいないピストルを一丁腰に刺して、最後にお気に入りのアビエイターを装備して出かける準備が完了した。
「相変わらず訳わかんねえ銃だな」
取り出した銃の名は『M-10AF レキシントン DYING NIGHT』
メガ10ビルディングのガンショップのオーナー、ウィルソンがVのレキシントンを修理ついでに勝手に改造したマシンピストルだ。
Vはどうやら気に入っていたようだが、あまり・・・・・・いや、全然使っている所を見た記憶がない。 というかその銃口の下に取り付けられたナイフの刃はいったいどういう意図で取り付けたんだ。
「確かにDYINGだな」
銃身に傷つけるように刻まれた文字に哀れみを覚えながら、俺は出来れば会いたくない男NO3に君臨するリパードクの元へと向かった。
天敵ペットがいるオカルト女の店を避け、ロクデナシどもが屯する路地裏を潜り、目的地である薄暗い診療所へと到着した。 俺は何も躊躇う事も気を使う事も思い遣る事もなく、両開きのシャッターを開いてズカズカとボクシング中継に夢中なヤブ医者の元へと歩く。
「よお、ヤブ医者」
「ここにヤブ医者はいない、とっとと帰れ盗人」
アラサカタワー吹き飛ばした伝説のテロリストを盗人呼ばわりとは、随分と豪胆なリパードクがいたもんだ。
ヤブ医者改め、Vから名医と呼ばれたリパードク、ヴィクター・ヴェクターはボクシング中継を映すテレビから向き直り、淡々と、つまらなさそうに口を開いた。
「で、何のようだ。 お前を見ていると最後の最後で別のリパードクを頼った馬鹿と、その馬鹿から体を奪ったクズ野郎を思い出すから2度と来るなとその体に刻み込んだ筈だが」
時間が経ったから少しは落ち着いてくれてると思ったが、考えが甘かったようだ。 ローグなら悪態つきながらも最後にはノリノリになってくれるのだが、この男はそうは行かないらしい。 とは言え此方も止むに止まれぬ事情がある。 このまま無茶を承知で話を進めよう。
「お前が俺の事をどう思おうが知った事じゃねえよ。 それに如何あれテメェはこの体を放置出来ない、そうだろ?」
ヴィクターから背を向け、無遠慮に手術台に仰向けで倒れる。
「またVの体がどうこうの問答なんて御免だ。 そんなに気に入らないならこのまま俺を殺せばいい」
俺の開き直り同然の無抵抗っぷりに呆れたのか、椅子を引いてきてくれた。 どうやら話を聞いてくれるらしい。
「お前はまったく・・・・・・聞きしに勝る傍若無人ぶりだな。 いいだろう、話を聞かせろ」
「俺が誰かの意思を汲むとでも? そんなに慰めて欲しいならジョイトイでも頼めよ」
「訂正だ。 話す前に一発殴らせろ」
調子に乗りすぎたようだ。 手術用のインプラントとは反対側の腕で思いっきり殴り飛ばされ、手術台からズリ落ちる羽目になった。 いつもならここでバシッと決まって悪態の応酬という挨拶が始まる筈なのに。
「・・・・・・・・・・・・俺、この体になってから格好がつかなくなった気がするが気のせいか?」
「間違いなくVの呪いだな」
洒落になってねぇぞそれ。 ローグの所でいつもみたいにテーブルの上に足を乗せると怒られる前にピストルをぶち込まれ、ジグジグストリートの女でも引っ掛けようとしたらVが無自覚でたらし込んでいた女共(野郎もいた)に囲まれて逆に食われそうになり、憂さ晴らしにレースに出ようとすれば出禁リストに載っていたり、NCPDからは何故か仕事を回され(当然無視した)、レジーナからは妙なサイバーサイコ見つけたから殺さず捕まえてこいと無茶苦茶を言われて(無視!)・・・などなどエトセトラ・・・
「俺もしかしてカリスマ性が消えたか?」
「今更か」
「・・・・・・銀の腕」
「絶対に装着させないからな」
ちくしょう。 せめてアレが有れば威厳の一つでも復活しただろうに。 俺は元ボクサーにぶん殴られ、ヨタヨタ立ち上がりながら、要件を漸く口にすることができた。
「ここ最近の話だ、妙な夢を見る」
「妙な夢?」
「ああ、断じて悪夢じゃねえが・・・本当に奇妙な夢だ」
まず、最初に見たのは砂漠だ。 風に吹かれた砂は舞い上がり、空から照らす太陽によって熱された環境。 そこをプラチナブロンドの少女がバッタみたいに飛び跳ねながら移動するという妙な夢だった。
次に見たのは廃墟が並ぶ街でピンクの髪をした子供に銃を突きつけられる、少女の姿。 そしてバイク達を銀色の銃で一蹴するところで目を覚ました。
「次の日に見た夢は、そいつが黒い狐耳のガキと一緒にビルを襲撃する所だったな」
こうして、俺の夢に見た光景を広げていく。 平然と生きてるように道を闊歩するスーツを着たロボットと二足歩行する動物、ビル前でのオママゴトのような戦闘、再びピンク髪少女との邂逅、そしてショッピングモールと見れる場所での激戦・・・・・・
「夢と言うにはどうにも続きすぎてる。 しかも俺は頻繁に夢を見るような生活習慣なんざしちゃいねぇ。 しかも・・・・・・夢にしてはどうにもリアリティがありすぎる。 今朝だって包丁が脳天にブッ刺さる衝撃を味わって目覚めちまった。 クソ! まだ頭が痛ぇ」
「そうか」
吐き捨てるように言葉を締めると、興味なさげにヴィクターはパソコンをいじり始めた。
「おい、そりゃねぇだろ。 コイツの体の問題だぞ。 もっと真摯に向き合ってくれてもいいじゃねぇか」
「俺を頼らず最後は他所のリパードクを頼った奴がどうなろうが知ったことか。 そもそもそれは本当にVの体の問題か? どうせお前の自業自得なんじゃないのか」
そもそも夢だの精神だのといった事柄は門外漢だ。 そう言いながら更にパソコンでタイピングを続けるヴィクター、その様子に苛立ちを覚えながら立ち上がる。
「ああそうかよ。 世話になったなクソドクター」
「まあ待て」
中指を立てながら退出してやろうと足を踏み出すが、それを止めたのはまともな受け答えをしなかったリパードクだった。 くるりと椅子を回して此方に向き直り、パソコンの画面を見せつけるように傾けた。
「あ?」
Vの体に搭載されたキロシを使ってズーム、表示された記事に目を通した。
『謎のサイバーサイコシス!
突如パシフィカ在住の女性がサイバーサイコシスを発症。 住人十数名とNCPD三名を銃殺』
「別にいつものパシフィカじゃねぇか」
「もっとよく見ろ。 この女、戦闘用インプラントを積んでいない」
「・・・・・・あ?」
更にパソコンを操作して幾つかのニュース会社の同様の記事を掲載していき、現場の情報が洗練されていく。
女性は戦闘用インプラントは搭載していなかった。 護身用で所持していたショットガンはポシャル。 運良く生き残っていた隣人曰くサイバーサイコシスの予兆や精神的に不安定になるような環境ではなかった。
「・・・・・・普通じゃねぇな」
「ああ、幾らサイバーサイコシスだとしても戦闘用インプラント抜きでここまで暴れられるわけがない」
「・・・・・・で? だからなんだ? お人好しなどこかの誰かさんなら外出中だ」
いくら奇妙なサイバーサイコシス事件だとしても俺がでしゃばる理由はない、その上この事件が俺の夢の話しとなんの関係もない。 このヤブ医者が俺にこんな記事を見せた理由がわからない。
「お前さん、さっき言ってたよな・・・・・・夢の話で」
「だからなんだって・・・・・・言う・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・だ・・・・・・?」
『目撃者は語る! サイバーサイコシスの頭上に謎の天使の輪!? 幻覚か見間違いか!?』
嫌な予感がした。
この記事を読み上げた直後、背筋に冷たい何かが這い回るようなゾッとする違和感が急に膨れ上がった。
何故かはわからない、根拠なんてない、理屈じゃない。
メイルストロームの謎儀式から湧いてきたサイバーサイコシス事件の時のような嫌な予感ではない、もっとでかい何かだ。
「確か言っていたよな。 天使の輪をつけたケツの青いガキどもがドンパチを繰り返していたって、何か関係があるんじゃないのか?」
レジーナの言っていた妙なサイバーサイコシス事件はコレかと、俺はヴィクターの診療所を飛び出してレジーナにホロコールをかけるのだった。
「全く、この街は暇にならねぇなクソッタレが!」
既に節制の道は外れた。 楔をもって惹かれ合う二つの街。 比較の検証によって繋がれた世界。
『人を壊す街』ナイトシティ 『人に壊される街』キヴォトス
まさに、テクスチャーそのものに対する新たなアプローチだろう。
貴方はどれくらい知識がある?
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サイバーパンクは名前だけ知ってる
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サイバーパンクは動画勢
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サイバーパンクは雰囲気でプレイ済み
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サイバーパンクはガチでやった
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サイバーパンクで知らないことなど何もない
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サイバーパンク? なんそれ?