サイバーパンクと青春記録   作:水面どり

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遅くなり申し訳ございませんでした。 どうにか試行錯誤して自分の書きたい展開に持っていく事が出来ました。


52話『CYBERPUNK2077/百合園セイアは機械の夢を見る』 2

エレベーターに揺らされ数分、到着を知らせる音と同時に左右に開かれた扉を警戒するように見つめた。 横のディスプレイには『09 屋上』と表示されていた。

 

「九階の屋上、ということかな? 一体どこの、何の九階なのかは想像もつかないけどね」

 

セイアは寂れたエレベーターから恐る恐る、草むらから顔を出す小動物のように警戒しながら一歩を踏み出した。 そこには深海のような微睡の世界はなく、純白の衣に包まれた少女が訪れるには似合わない、時代に置いていかれたかのような景色と物寂しさを感じる階段が続いていた。

 

「何故エレベーターを降りた後に階段を登らねばならないのか・・・・・・」

 

建物の構造への悪態なのか、それとも自身の貧弱っぷりを誤魔化すための戯言なのか、どちらとも受け取れる呟きを溢しながら階段を登り始めた。

 

「いくらなんでも汚すぎじゃないか? 清掃員とか、自動掃除機とかはないのだろうか?」

 

壁に描かれた色とりどりの不気味な落書き、明滅する照明、散乱した紙屑やナニカが入ったビン、建物の中だというのにまるでブラックマーケットの路地裏のような・・・・・・いや、それ以上に退廃的な場所を進んでいく。

 

「コレは夢の持ち主の心持ちを示したものなのか?」

 

だとしたら相当荒んだ人生を生きたのだろう。 少なくともトリニティのお嬢様からはとても縁遠い、それこそ現実と御伽話やフィクション程の距離がある縁遠さだろう。

 

次から次へと湧いてくる疑問符達だが、それでも明確な答えは出てこない。 汚れた道に歩を進め、遂に屋上の扉へと到着した。

 

そして外界の淡い光が溢れる扉に手をかけ、百合園セイアはその世界を目撃した。

 

「コレは・・・・・・いや、ココは・・・・・・?」

 

視界を占領したのは、セイアのいる建物の真ん前に佇む見上げんばかりの巨大な建造物だった。 夜闇の為建造物の色彩はわからないが、『10』という大きく描かれた数字、その脇に『LC896』という文字も飾られていた。

 

「ここまで大きな建造物はサンクトゥムタワーだけだと思っていたが・・・・・・」

 

いや、それだけではない。 視界を動かせばこの建物以外にも、それらと同等、もしくはそれ以上に巨大な建物が散見された。

 

「Fuyutuki ELECTRONICS、arasaka、BRAINWASH・・・・・・」

 

とにかく目につく電光看板を読み上げ、自身の記憶と精査していくがどれも聞いたことのない物ばかりだ。 優等生揃いのトリニティで知識人の部類に入るセイアですら理解が及ばない。

 

「・・・・・・!?」

 

顎に手を当て思案に耽ろうとしたその時、とても無視できないものがセイアの上空を過ぎていった。

 

「飛行機、ではない? 空飛ぶ車・・・・・・?」

 

米という漢字に似た赤いマークが付けられた箱型の車が空に浮き、アナウンスを鳴らしながら飛び去っていく光景をただただ見つめることしかできなかった。

 

「・・・・・・車やヨット、バイクや飛行機なども所持している私だが・・・・・・流石に空を飛ぶ車は初めてだな」

 

キヴォトスの最先端を駆け抜けているミレニアムなら開発されているかもしれないが、少なくとも乗り物に対し造詣が深いセイアの頭の中(ラインナップ)にはあんな代物はない。

 

「乗れるものなら是非乗ってみたいね」

 

久しぶりに運転をするのも悪くないと思うが、それ以前にこの夢について調べ上げなくてはならない。 近未来のような光景を見回しながら足を進め、ゆっくりと探索する。

 

「こんな屋上でいったい何を見せたいのだろうか?」

 

屋上といっても広くなく、寧ろ手狭な空間だった。 ソファ、日傘、積み上げられたゴミ袋、無造作に転がされた酒瓶・・・・・・物が余りにも置かれ過ぎているのだ。

 

「倉庫代わり、というには生活感があり過ぎる。 何故屋上にピザの箱がある、中で過ごせばいいだろうに」

 

病弱故か、インドア的(無粋)感想(マジレス)を溢しながら周りの景色を一望できるように配置された赤い椅子に座り込む。

 

「さて、どうしたものかな・・・・・・?」

 

と、そこで気づいた。 自分の座る赤い椅子、そこからテーブル代わりに置かれた『ALL FOODS』の発泡スチロールを挟んで向かい側にある青色の椅子、そこにひび割れたガラスにも見える妙なノイズが生じていた。

 

また熱が噴き出すかもしれないという不安もあったが、知的好奇心が優ったのか恐る恐る手を伸ばし・・・・・・触れた。

 

 

 

 

 

「おいおい、ココは俺の特等席だぜ?」

 

ノイズは形となり、声を出した。

 

そこにいたのは、ガタイの大きな男だった。 二丁の拳銃を腰に差し、メタリックな刺青が刻まれた顔は何処か朗らかさを覗かせていた。

 

「・・・・・・それはすまなかったね、誰かいるとは思いもしなかったんだ」

 

別に責めるような口調ではなかったものの、未知の存在の機嫌を損ねさせるわけにはいかなかった。 ここでは何がどうなるかさっぱり見当もつかない。 そして今まさに最大の未知に触れている。

 

「君は、この夢を見てる本人かな?」

 

「ん? 夢? そいつは違うぜ嬢ちゃん。 例えるならバイクと車ぐらい違え。 同じ乗り物っつーカテゴリだが、それでも全然違う」

 

「・・・・・・質問に答えてくれないかな?」

 

「美人に急かされて悪い気はしねぇけど、そんな眉間に皺は寄せるなよな。 折角の美人が台無しだ。 ま、ミスティには負けるけどな」

 

セイアは発熱が原因ではない頭痛を感じながらため息を吐くと、ガタイの大きな男は笑いながら発泡スチロールの上に置かれた酒瓶を逆さまにして飲み始めた。

 

「先ずは自己紹介だろ? 俺の名前はジャッキーウェルズ、まあジャッキーウェルズ本人じゃねぇが、よろしくな」

 

本人じゃない? とハテナを浮かべながらもセイアも自己紹介を行う。

 

「・・・・・・トリニティ総合学院のティーパーティー所属、百合園セイア。 よろしく頼むよ、ウェルズ」

 

「ジャッキーでいいさ、代わりに俺はデカ耳おチビちゃんって呼ばせて貰うけどな」

 

それの何処が代わりなんだ。 しかも外見100パーセントのあだ名で呼んだら自己紹介の意味がないじゃないか。 セイアの不機嫌そうな視線を受けてすぐさま参ったと言わんばかりに両手を上げた。

 

「わかった、わかったって。 Tバグみたいにジョークが通じない子だな」

 

「そのTバグって人がどれだけ苦労してるか手に取るように理解できるよ」

 

まるでタチの悪いミカを相手してる気分になると辟易していると、瓶の横に置いてある赤いラジオから聞き覚えのあるギターのイントロが流れ出した。

 

「さて、んじゃ待望の本題に入るとするか・・・・・・この夢は俺のもんじゃねぇ。 Vが見ている夢っつーか、記憶・・・・・・いや、記録だな」

 

「記録?」

 

「ああ、アイツは訳ありでな・・・・・・ぶっちゃけて言えば、もう死んじまってんのさ」

 

「死・・・・・・は?」

 

「あーいや、命は確かに亡くなったが、生きてはいるのか? 意思を持って前に進み続けてんだ、映画によく出てくるゾンビってわけじゃねぇし・・・・・・まあでも死んじまったのは確かか」

 

キヴォトスではまず聞くことのない死というものをさも当然の事のように語るウェルズに、言いようのない怖気が走る。 別におちゃらけてるように、揶揄うように、ふざけるように言葉にしたわけでなく、まるで夕飯の内容を真剣に悩むようにだした『死』という言葉に、百合園セイアは明確な差を感じ取ったのだ。

 

「・・・・・・ここは、何処なんだい? 死が当たり前の場所なんて、少なくともキヴォトスではないのだろう?」

 

ラジオから流れたギターの音が止んだ。

 

そして代わりにチェロを弾く音に切り替わる。 まるで見えない何かに迫るような、逆に見えない何かに追いかけられてるような、そんな焦燥感を駆られる音楽だった。

 

「ほー、っていうと・・・・・・嬢ちゃんはいきなり答えを出してここに来ちまったのか・・・・・・」

 

気づけば、街中を見渡せる位置にある屋上の縁に何かが落ちていた。 セイアはジャッキーを無視してソレに近づいていた。 無意識に歩み寄っていた。

 

 

 

 

 

血に濡れた弾丸が中心に仕込まれたネックレスがあった。

 

 

 

 

 

あれだ。

 

百合園セイアはアレが夢の核だと気づいた。 放たれる存在感からか、それとも今まで夢を見てきた経験からか、百合園セイアはアレがVの根源だと確信した。

 

手を伸ばす。 きっとあそこに、自身の望む物が見つかると信じて、どうしようもない未来を変えられる可能性だと縋って。

 

「ここは『世界』の屋上だ」

 

だが

 

ああ

 

なんてことだ

 

答えが簡単になる近道ほど、落とし穴は仕込まれてる事が多いなんて分かっていたはずなのに

 

手が届かない。 夢の核に触れられない。 寧ろ遠ざかっていくような、取り上げられた玩具のように無慈悲に離れていく。

 

百合園セイアは誘蛾灯に惑わされた蝶のように、蜘蛛の巣に絡め取られた虫のように、何度振り払っても纏わりつく泥のような底へと引き摺り込まれてしまう。

 

「君には早過ぎる。 アレは余りにも劇物だ」

 

大男の声、ジャッキーウェルズの声ではない。 ジャッキーウェルズだった、ナニカの声だ。 ノイズの混じった機械音声のような女性の音だ。

 

「もし触れていたら脳が焼き切れていただろう。 生身の中身でアレの情報は処理しきれない。 君には過ぎた代物だ」

 

「君は、いったい?」

 

目の前に浮かぶ彼女は一体誰だ? 体に実体はなく、夢以上に曖昧な存在、それはまるで幽霊のようで・・・・・・

 

「電子と幽体の狭間の存在。 或いは残滓か、搾りカス、残火」

 

「答えてくれ、君はいったいなんなんだ!」

 

「それは愚者の旅路を追えば分かる事さ」

 

息を呑む。

 

気づけば見上げんばかりの建物の夜景は蜃気楼かの如く消え失せ、黄色い雷が街中に轟き変貌を促していた。

 

「世界、それは旅路の果ての選択、全てを手に入れる事は不可能だ」

 

そして雷はセイアの立つ屋上を貫き、黒い闇へと叩き落とす。 崩壊する足場、それでも“諦めきれず”に手を伸ばす。

 

そして掴んだ。

 

「今の君に掴めるのはそれだけだ」

 

掴んだソレは、とても冷たかった。

 

黒い艶

 

結束を意味する名前

 

コンスティテューショナル・アームズ ユニティ

 

その拳銃を己の眉間に突きつけていた。

 

「は?」

 

そして、己自身の制止を振り切りユニティは百合園セイアの眉間を撃ち抜いたのだ。

 

「諦め癖が治るいい機会になるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ターゲットの女はこの建物のどこかにいる。 誘拐した連中と出くわすかもしれねえ。 中に入ったら警戒を怠るなよ」

 

「おっと、その前に・・・ミリテクの訓練用チップを手に入れたんだ。 ほら、プロフェッショナルだって本番前にはリハーサルをするもんだろ?」

 

「仮想訓練ってヤツだ。 やってみるか?」

 

「今はそんな時間ないだろ。 後でな」

 

「ま、それもそうだな、じゃまた今度ってことで」

 

そんな二人のやり取り、車の中にいるVとジャッキーの会話を呆然と見ていたセイアは、誰にも気づかれない状態のまま撃ち込まれた眉間を抑えながら呟いた。

 

「上等だよ残りカスくん。 久しぶりだこんなに腹が立ったのは」

 

また絶対あそこに辿り着いてやると意気込み、百合園セイアはユニティを握ったまま車を降りた二人を追いかけたのだった。

 

諦め癖がこびり付いた少女のナイトシティ大冒険が幕を開けたのだった。




次回からはサイドジョブ編

アンケートの内容で公開する順番が決まります。 もしかしたら他の生徒のサイドジョブも書くかもしれません。

貴方だったら、どっちのルート? 対策委員会編

  • アロナの依頼ルート
  • ヘルメット団依頼ルート
  • どちらも選ばない、便利屋ルート
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