サイバーパンクと青春記録   作:水面どり

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55話 サイドジョブ 『回収』 3

ユウカが連れられたのはブラックマーケットの更に奥、『元』アビドス自治区側に放棄されたと見える倉庫だった。

壁には縄張りでも主張するかのように落書きが施され、取り付けられたフックには穴の空いたヘルメット、砂で薄汚れた銃器、床には整備に使われたと伺えるスパナやボルト、工具類が散乱していた。

 

「ここ、元はヘルメット団のアジトだったのかしら・・・・・・?」

 

「仕事に失敗したゴミどもの古巣だ」

 

鼻を鳴らすように嘲りと共に、落ちていたヘルメット団の旗を踏み潰していくマーケットガード。 ヘルメット団がいくら不良とは言え、同じ生徒を侮辱する彼らに不快感を感じずにはいられなかった。

 

「・・・・・・酷い言い草ね。 いったい彼女たちが何をしたって言うのよ」

 

その不快感はユウカに口火を切らせた。 自分自身でも何やってるんだと思ったが、それでも止めることができなかった。

 

「さっき言った通りだ。 奴らは仕事に失敗して、それを我々マーケットガードが掃除した」

 

「大した実力もないくせにブラックマーケットにノコノコやってきて大失敗する。 叶うはずのない夢を見て現実に叩き潰される。 もはや元の自治区に戻っても居場所はなく、こんな場所にしがみつくしかない。 どうしようもない連中だ」

 

「・・・・・・確かにそうかもしれないわね」

 

ユウカとしてもヘルメット団やスケバン連中のような不良生徒達に思うところはある。 ああ言った連中に煮湯を飲まされたり、大なり小なり仕事を増やされたことだってある。 それでも・・・・・・

 

「それでも、やり方は間違えてるけど彼女達だって全力なのよ」

 

ミレニアムにはそんな生徒ばかりだ。 開発だ、ゲームだ、ハッキングだ、トレーニングだ、野球だ・・・・・・どの生徒も常軌を逸してる行動ばかりする。 だけど彼女達が手を抜いてる所なんて一度も見た覚えはない。 彼女達は全てに全力を注ぎ、今この瞬間はもう二度と来ないと言わんばかりに楽しもうとする。

 

「全力だからなんだと言うんだ。 結果が伴わなければ意味がないだろう」

 

「そうね、確かに結果は大事よ。 でも結果と同じくらい過程も大切なの。 私の知り合い曰く、『ロマン』というものらしいわ」

 

「ふん、理解できんな」

 

マーケットガードが鼻を鳴らすように嘲ると、倉庫のシャッターがひとりでに動き出した。 シャッターの向こうには薄汚れたトラックが停車しており、倉庫の中へとゆっくり動き出した。

 

それに合わせるように先ほどまでユウカと会話していたマーケットガードがトラックに向けて歩き出した。 周りの兵士たちはトラックを取り囲むように展開する。

 

ユウカは懐に手を伸ばして録音機器の電源を入れた。

 

「念の為いろんな記録媒体を持って来て正解だったわね」

 

そんなユウカとブラックマーケットの警戒心が露わになった現場でトラックは停止し、ヘッドライトを消して完全停止した。

 

「やあお得意様! 今日もミレニアムの品を取り揃えていますよ!」

 

中から現れたのは白いスーツのような制服身に纏い、白い髪に三角形の青いヘアピン、何より目についたのは構造が明らかにズレてるようなヘンテコな銃を持った生徒だった。

 

「・・・・・・貴様は誰だ?」

 

「おっと! 私としたことが大変失礼いたしました。 遅ればせながら自己紹介を・・・・・・」

 

 

 

「私の名前はミライ! 貴方が今まで取引していた擬似科学部、その部長をしております! ミレニアムでは知らない生徒がいないほどの・・・・・・」

 

 

 

「え、誰?」

 

目立ってはいけないのにユウカは思わず呟いてしまった。 そしてその呟きは想定を遠く乗り越え倉庫中に反響し、なんとも言えない静かな空気を生み出した。

 

「だ、だれ?! って!!? 私はあの有名な擬似科学部!! そしてその部長で・・・・・・あのビッグシスター調月リオと対決して!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?????」

 

顎に手を当てて深く考え込んでみるが・・・・・・結果は芳しくなかった。 ミライの投げた投球はユウカを通り越してキャッチャーへすっぽり、ストライクである。

 

「いや本当に困ったような顔しないでくださいよぉーーーー!!!?」

 

ユウカはよく完璧という単語を口にしている通り、秀才だらけのミレニアムの中でかなり上位の成績を収めている生徒だ。 故に同僚のノア程とはいかないが、それでもかなり記憶能力はある。 その彼女を以てしても『擬似科学部』なる部活は記憶になかった。

 

「・・・・・・ははーん、わかりました。 さては貴方新入生ですね。 なら知らないのも無理はーー

 

「いえ2年生だけど」

 

ガン!!

 

崩れ落ちたミライの頭がトラックのバンパーに激突。 スリーアウト、チェンジするまでもなくゲームセットだ。

 

「お、おのれぇ邪悪なビッグシスターめぇ・・・・・・まさかここまで完璧な情報隠蔽をするなんて・・・・・・」

 

いや多分リオ会長は何もしてない、と喉を出かけたが上手く堪える。 こんな事口走ればセミナー関係者だとバレてしまう。

 

と、そこでマーケットガードがユウカを見ながら口を開いた。

 

「・・・・・・・・・・・・待て、確か擬似科学部だったか? お前達はコイツの事を知らないのか?」

 

あ、ヤバい。 そういえば私、擬似科学部なる際物部長の一味という事になっていた。

 

余りのミライのインパクトにその事をユウカはすっかり忘れてしまっていた。

 

「? ええさっぱり。 初対面ですね」

 

そろりそろりと、誰にも悟られないように足の向きを出口に向かわせる。

 

「・・・・・・我々はコイツがお前達のグループメンバーだと思ってここまで連れてきたが?」

 

クラウチングスタートでも切るかのように足に力を入れる。 そして決して潤沢とは言えないが神秘も流し込む。

 

「はい、ウチの子達じゃありませんね」

 

幾つかの逃走経路を頭の中で組み立て、手段を模索する。

 

「そこの女を捕えろ!!」

 

マーケットガードの言葉と同時に取り囲んでいた兵士達が一斉に銃を構えた。

 

即座に撤退の二文字を実行。 決定的な証拠は手にできなかったものの、言い訳や言い逃れするには十分な情報は入手できた。 ミレニアムに戻って深く調べ上げれば、それだけでトリニティは納得・・・・・・は無理だろうが、いきなり宣戦布告のような展開は避けられるだろう。

 

足に蓄えた力と神秘を解き放ち一気に駆け出す。 ブカブカの白衣とメガネを脱ぎ捨てながら、白衣の裏に隠した愛用のサブマシンガンをばら撒きながら逃走開始。

 

「な!? あ、アレは憎きセミナー!! しかもその会計・・・・・・『冷酷な算術使い』ユウカ!!?」

 

「誰よそれ言い出したのは!?」

 

シャッター方向は擬似科学部の部長と運転手の生徒が張っていて通り抜けられない。 自分達が通ったドアに向かって走り出すが・・・・・・ドアからは巨大なドローンのモノアイがこちらを覗いていた。

 

「エネミーを確認、対処します」

 

「な、デカ!?」

 

しかもタダのドローンではない。 大型で幾つかの分離した子機を操るタイプの戦術ドローンだ。

そういえばウタハが分離合体するドローンとかロマンじゃないか、とかそんな理由で部費の申請をしていた気がする。

 

「ウタハーー!! アンタも売ってたんじゃないのーー!!」

 

なにが『部員の一部がそんなこともしていた』だ! 部長直々に売ってるじゃないか!!

 

頭の中にある説教ノートにウタハの名前を記入する。 ちなみに一番デカデカと書かれているのはマキである。

 

ドローンは子機を装甲でもパージするかのように展開させ、全部で4機の子機をユウカへと嗾けた。

 

 

 

 

 

「どうです? 我々が売った合体式ドローン」

 

手持ちのノートPCでカタログスペックを表示させて意見を伺うミライ、しかしマーケットガードの表情は堅かった。

 

「ああ、機動力、AIシステム、搭載武装、性能は申し分ないが・・・・・・合体が全て人の手でやるのはどうなんだ? それただ片付けてるだけな気がするのだが」

 

「はっはっは、気のせいですよ」

 

全く感情のこもってない笑いで誤魔化しながら評価のところにカーソルを合わせた。 しかも星5の所である。 厚かましい。

 

「しかも親機と10メートル離れたら子機が動かなくなるのは戦術として欠陥では?」

 

「愛嬌ですよ愛嬌、ちょっと茶目っけがあった方が可愛いじゃないですか。 今回もそんな商品をお持ちしましたよ♪」

 

 

 

 

 

「可愛くないわよお!!!」

 

ユウカは点検用兼非常用の階段を駆け上がりながらサブマシンガン放ち、子機ドローンから逃げ回っていた。

 

だが子機は乱数的な不規則な動きでユウカの射撃を回避、お返しと言わんばかりに二門の銃口から弾丸を吐き出した。

 

何発か被弾しつつもサブマシンガンを二丁持ちにして迎撃する・・・・・・が、それでも宙に浮くクラゲのようにふわりふわりと回避される。

 

「ああもう!!」

 

これでは埒が明かないと迎撃は放棄し、移動と回避だけに意識を割く。 大型の方は動きが鈍いのだが、親機は厚い装甲で覆われユウカ単体の火力では貫くことができない。

 

階段を上り切り、そのまま鉄橋を駆け抜け屋上を目指す。

 

「アレはどこへ向かう気だ?」

 

「さあ、とにかく逃げ回っているだけでは? この倉庫の出口は完全に押さえてるので逃げられることは有りませんよ」

 

マーケットガードとミライの嘲るような会話を無視しながら懐から何かを取り出す。 それは青いラベルが貼られた丸みを帯びた物だった。

 

「対V用に持ち出していたけど、ここで使う羽目になるなんて、ね!」

 

言葉の終わりと同時に投げられたソレはコロコロと鉄橋を転がり、そして落ちて、電子的な起動音を知らせた。

 

「喰らいなさい!」

 

ソレは青白い電気をあたり一面に撒き散らし、磁場を掻き乱し、凡ゆる電子機器を一時的な行動不能へと叩き込んだ。

 

「EMP!?」

 

ミライは咄嗟にノートPCを抱えて倉庫外に走り出し、マーケットガードと出口付近を守っていた兵士達も迅速に避難した。

ユウカは素早く屋上へと身を投げるように飛び込み、慌てて扉を閉めることでEMPから避難した。

 

「私の記録媒体や電卓も駄目にするわけにはいかないから、屋上に出るまで使えなかったけど・・・・・・あの調子じゃ大半の兵士は生き残ってそうね」

 

あわよくば全兵士が感電してくれてれば悠々と脱することも出来たが、それは叶わなかったようだ。

 

「それにあのEMPだってそこまで強力な代物じゃないから、あのドローン達も少しすれば自己復旧しちゃう。 急がなきゃ」

 

ユウカは倉庫の屋上に取り付けられたアナウンス用の拡声器に向かった。

 

「完璧どころかほとんど賭けみたいな物だけど、上手くいくかしら」




尚、ウタハがドローンを売ったわけじゃなく倉庫で埃をかぶっていたドローンが勝手に持ち出されてます。
それに擬似科学部があちこちから安く買い取った未完成プログラムやら不完全なOSやらをチグハグに掛け合わせた結果出来上がったのが、今回のドローンの正体です。

「つまりワタシは被害者ということだね」

「それでも部長として勝手に持ち出された事に対する監督不行き届きの反省文は提出してもらうわよ」

貴方だったら、どっちのルート? 対策委員会編

  • アロナの依頼ルート
  • ヘルメット団依頼ルート
  • どちらも選ばない、便利屋ルート
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