「おやおや、セミナーの会計ともあろう人がこんな逃げ場のない屋上に来てしまうなんて・・・・・・とんだ計算ミスですねぇ?」
倉庫の屋上、そこで社員に伝達する為のアナウンス用の拡声器にケーブルを繋げたユウカに煽るようなミライの声が届いた。
「両手を上げて武装を解除しろ」
ミライの隣に立つマーケットガードが指を鳴らすと倉庫のシャッター側からEMPで一時的に起動不全を起こした合体式戦術ドローンが飛び出し、搭載された銃口をユウカへと向けた。
「あら、そのドローン治ったのね? てっきり貴方たちが余計な手を加えたせいでバグが発生してると思ったけど」
屋上の出入り口はミライ、マーケットガードに封鎖されている。 仮に屋上から飛び降りても浮遊してるドローンはついてくるし、倉庫周辺はマーケットガードの兵士たちに完全包囲されていた。
「ふふふ、その余裕いつまで持ちますかね? セミナーの会計を人質にとれば調月リオも無視できないでしょうし、あわよくば我ら擬似科学部も復活できるかもしれません♪」
「そして我々は貴様の身柄と交換でミレニアムの技術を取り入れる。 くくく、マーケットガードのブラックマーケットに置ける優位性は完璧になる!」
「ブラックマーケットでの優位性?」
ブラックマーケットの武力組織はマーケットガードが最大規模のはず・・・・・・そしてここは治外法権、つまり実力が物をいう場所だ。
「驚いたわ。 貴方たちマーケットガードの武力でも優位に立てない存在がここにはいるのね」
「ふん、影に潜む忌々しい古株連中め・・・・・・だがそれもここまでだ・・・・・・ミレニアムの技術が我々に合わさればブラックマーケットだけじゃない、他の自治区にも手を伸ばせる。 だが先ずは古株連中の手先、アフターライフだ。 ゴミ共の寄せ集め集団め、叩き潰してやる」
「その際は我々擬似科学部もより良い商品を提供いたしましょう。 その為にも早瀬ユウカさん、貴方を拘束させて貰います。 抵抗は無駄ですよ。 この数、そしてドローン、完全包囲、退路なし、貴方一人ではどうする事も出来ません」
「・・・・・・・・・・・・ええ、そうね」
諦めたように両手を上げて膝をつく。 サブマシンガンは床に置かれ、攻撃する気配はまるで無くなった。 セミナーの会計、早瀬ユウカはあっさりと抵抗しなくなったのだ。
「・・・・・・やけに素直ですね、何か企んでるのでしょうか?」
それに不信感を抱いたのはかつてセミナーに煮湯を飲まされた擬似科学部の元部長のミライだ。 彼女はそのセミナーの計算高さにやられて廃部へと追い込まれたのだ。 だからこそ警戒した。
「キヴォトスの生徒は無駄な抵抗をする物だと思ったが?」
そしてマーケットガードもそれに同意するように銃を構える。 彼だって日夜ブラックマーケットで部隊を指揮して無謀な攻撃をする不良生徒を叩きのめしている。 生徒という性質をある程度知っていた。
「別に? 私は無駄な事があまり好きじゃないってだけよ。 とても合理的に動いている、それだけよ」
「合理的・・・・・・その言葉、鼻に付きますねぇ。 調月リオの口癖でしたか、数字でしか語らないあの女には未科学の魅力が伝わりませんでした。 貴方もそうなのでは?」
「どうかしら? 何度も言うようだけど私はとても合理的よ。 無駄な抵抗なんてする気も起きないわ。 無駄な抵抗は、ね」
「・・・・・・? 何を言いたいので?」
ユウカは数歩後ろに下がり、拡声器に近づく。 そして足を振りかぶった。
「私がするのは、完璧な計算ってことよ!!」
靴底が、拡声器のスイッチを叩きつけた。
『やあお得意様! 今日もミレニアムの品を取り揃えていますよ!』
『・・・・・・貴様は誰だ?』
『おっと! 私としたことが大変失礼いたしました。 遅ればせながら自己紹介を・・・・・・私の名前はミライ! 貴方が今まで取引していた擬似科学部、その部長をしております! ミレニアムでは知らない生徒がいないほどの・・・・・・』
「・・・・・・コレはなんだ?」
「我々の取引を録音してたのですか?」
最大出力の拡声器によって周辺に散らばる取引内容。 ユウカは録音していた内容を拡声器で拡散させたのだ。
「・・・・・・で、それがなんです? コレをSNSやモモトークで広めた方が効果的だったでしょうに、それをこんな原始的な方法で広められても痛手にはなりませんよ」
「それにこの周辺は既に我々マーケットガードが完全に封鎖している。 聞かれて困る奴などいない」
「それはどうかしら? 実は私以外にもブラックマーケットを彷徨うミレニアム生を探している奴がいたのよ」
ユウカが探していた存在、擬似科学部とは限らないが・・・・・・アレが探していたのもミレニアム生には違いないようだった。
「だからこうして私は両手を上げてるの、間違って撃たれたら洒落にならないし」
それに今思えば妙な点が多々あった。
ユウカの服装は変装後も変装前も結局はミレニアムの服だ。 違いはセミナーとしての身分を隠してるか否か、そんなのアレには知ったことではないだろう。
それなのに何故、ユウカの追跡を振り切った? 追跡してる存在が自分の探すミレニアム生徒気づいたなら振り切らずに取り押さえ尋問でもすればいいだろう。
他に可能性があるとすれば・・・・・・
「彼女は私を敢えて逃した。 そして密かに追跡してる」
だとすればアレは今、この状況を遠くから見てるはずだ。 だが見てるだけで得られる情報には限りがある。
「だから私は『音』という形でアプローチを仕掛けたの。 視覚、聴覚の情報で完全に私達の状況を理解したはずよ」
「さっきから何の話を・・・・・・時間稼ぎですか?」
「もういい、さっさと捕えるぞ」
重厚な対生徒用の手錠を持ってユウカに近づくマーケットガード、今後の大成を信じ切って笑みを浮かべるミライ、内心上手くいくか冷や汗をかきつつも何でもないかのように手を挙げるユウカ。 そしてまだ機能を生かしていた録音機器が拡声器という出力で、舞台を彩った。
『だが先ずは古株連中の手先、アフターライフだ。 ゴミ共の寄せ集め集団め、叩き潰してやる』
ダン!!!!
「ぐぁ!!?」
屋上に鳴り響いた銃声、撃ち抜かれた手から落ちる手錠、驚愕に目を見開くミライ、被弾したにも拘わらず事態を把握できないマーケットガード、更に緊張感を高めるユウカ、そして・・・・・・
「よおチューマ、随分ご機嫌じゃないか? そんな所で蹲って、前後にいる美人のおかげでポジションでも気にしてんのか?」
片手で銀銃を回しながら嘲るように見下す生徒、落下防止フェンスの上に立つ傭兵Vはその様子をつまらなそうに見ていた。
「き、さまァ・・・・・・銀銃か・・・・・・!!」
「ご名答、景品は拍手だ。 それとも鉛玉のお代わりが良かったか?」
不安定な足場であるフェンスの上を悠々と歩きながら、銀色に太陽光を反射するピストルを回す。 その堂々とした佇まいは油断ではなく余裕という意思の表れか、間違いなく大量発生している偽物ではなく本物。
「何故貴様がここに居るのかは知らんがちょうどいい、手土産として拘束してやる!! やれ、ドローー
「サンデヴィスタン」
『『『『『『『『ダン!!!』』』』』』』』
「は・・・・・・え・・・・・・?」
マーケットガードが合体式戦術ドローンに指示を出した、筈だった。
バキン!!
ミライの視線の先には子機ドローンが瞬く間すらなく沈黙し、親機である大型ドローンのモノアイが銀銃の手によって貫かれている光景が広がっていた。
「バカな・・・・・・!?」
子機の親機、共にエンジニア部のウタハが設計そして開発した一級の代物だ。 当然装甲だって高速機動のため幾らか軽量化したとはいえ十分な硬度を維持していた。 少なくともサブマシンガンやピストルの弾などでは1発で撃墜など不可能だ。
「いつ見ても出鱈目ね、その拳銃も、貴方自身も」
しかもだ。 戦術ドローンはモノアイに映った銃口の向きから弾道を算出して回避するプログラムが打ち込まれている。 少なくともこんな一瞬で決着がつく訳がない・・・・・・本来なら。
「一度回避して終わりかよ。 しかも脆い、欠陥品か?」
彼女たちの前に立つ傭兵は幾多ものサイバーサイコシス、大企業コーポのエリート兵士、ナイトシティという蠱毒の中で生き残ったギャング共、そういったロクデナシ共相手にドンパチを繰り返し生き残った存在だ。
「ライトマシンガンの斉射も完全回避する連中と比べたら物足りないな」
ナイトシティの髑髏マークのついたギャング共と比べながらジェネレーターを引きちぎる。 ブチブチとコードが引きちぎられ、淡くピンク色に輝くコアが露出された。
「なんだこれ、どういうエネルギーで動いてるんだ? 電気なのは間違いないが・・・・・・」
そのコアは丸い蓋をした四角い容器にピンク色の謎の液体が入っていた。 それを見たユウカがあんぐりと口を広げていた。
「古代の電池、しかも完全状態のオーパーツじゃない!?」
指先に乗せてクルクルと弄ぶように回しながらゴリラアームで貫いたドローンを屋上から投げ捨てた。
「ぎゃーー!! エンジニア部からこっそり盗んで改造を施したドローンがーー!!」
そんなミライを無視してオーパーツ『古代の電池』にスキャンをかけ続ける。 そんなVにユウカが両手を上げながらおずおずと尋ねた。
「・・・・・・一応聞くわ、味方でいいのかしら?」
「今はまだ敵じゃないだけだ。 つか、俺が来なかったらどうするつもりだったんだよ」
「貴方が来なかったら私がこいつらに捕まって、貴方が追うべき手がかりが全部消えてたわね」
「・・・・・・先生の入れ知恵か、それ?」
「さあどうかしら? で、どうするの? ここで私と敵対するか、それともお互いの目的のために共闘するか・・・・・・ねぇいい加減こっち向きなさい。 いつまで電池見てるのよ」
「待て待て、コレクターとしてオーパーツなんて聞かされたら黙ってられるかマジでどうなってんだコレすっごーい」
「ちょ!? それは我々擬似科学部が苦労して手に入れた貴重品なんですからね! 絶対返してくださいよ!?」
「倒した敵の所持品は全て俺のものだ。 つまりこの子はもうウチの子」
「蛮族すぎる!? 貴方どこで育ったんですか!?」
「ナイトシティ」
「マジでどこだよ!!」
そんなコントをかましているとドタドタと階段を駆け上がる音と共にマーケットガードの兵士たちが駆けつけてきた。
「隊長! ご無事ですか!!」
だがマーケットガードの顔は優れない。 銀銃と呼ばれるテロリストの戦闘能力がテレビで聞いた通りならば勝ち目はないからだ。 そして事実として戦術ドローンを片手間で処分している。
「・・・・・・貴様ら、時間を稼げ!」
「は・・・・・・え!?」
「アイツらの目的はきっと取引の目録だ。 絶対に渡すわけにはいかん!」
「りょ、了解!」
「く、覚えていなさい悪のセミナー! 冷酷な算術使いユウカ!」
そう言い捨てて屋上から逃げ出したミライとマーケットガード、そのあとをユウカは追いかけようとするが・・・・・・
「逃すわけにはいかな・・・・・・貴方は本当にいつまで電池眺めてるのよ!?」
「待って待って、あとちょい、あとちょっとでスキャン終わるから」
「バカ言ってんじゃないわよーー!! 逃げられてるの!! 急がなきゃ全部終わっちゃうわよ!!」
ユウカがグイグイとVを引っ張ろうとするがビクともしない、ユウカだってキヴォトスの生徒なので力がある方なのにも拘わらず微動だにしない。
そんな事をしてる間にマーケットガードの兵士達は布陣を終え、その銃口をVとユウカに向けた。
「ああ、もう!」
ユウカはその場を離れ計算機を手に取りいつでもシールドを張れる状態にする。 だがVは銃口を向けるマーケットガードを一瞥すらしない。 そんな態度が癪に障ったのか、はたまた油断から生まれた好機と悟ったのか、銃口の全てがVへと向かった。
あ、これは・・・・・・
全て悟ったユウカは計算機をしまい、数歩更にVから離れた。 巻き添えは勘弁だからだ。
「射撃開始!」
「サンデヴィスタンバレットカウンター」
鎧袖一触、マーケットガードが放った弾丸は腰に差していた紅刃に阻まれ、そのまま撃った張本人へと帰っていった。
バタバタと倒れていく兵士、音もなく抜刀していたエラッタを振り払い納刀するV。 そしてようやく古代の電池から目を離した。
スキャンが完了したのだろう。 フッと鼻で笑い、何処か悟ったような空気を出すその姿にユウカは近づいていく。
「なるほど。 コレがオーパーツ、スキャンしても何も分からん、アイタぁ!!?」
今までの時間は何だったんだよと思いっきり後頭部を引っ叩く。 そしてVの耳を掴みツカツカと移動を開始する。
「痛い痛い痛い痛い!? 待て待て流石にキチン皮膚は耳まで覆ってねぇから、衝撃に強くなるだけで引っ張るっつーアクションには無力だから!!? 千切れる千切れる!?」
「もう御託はいいわ、協力しなさいV。 さっさとアイツら捕まえてミレニアムに帰るんだから」
「わかった。 わかったから離せって! そのまま階段降りようとしないでくれ危ねえから!?」
こうしてなし崩し的に臨時タッグを組むことになった二人、耳のところを赤くしたVと疲労のせいか表情が変わらなくなってきたユウカ。 二人が階段を降り切ると、やはりと言うべきかミライが乗ってきたトラックは無くなっていた。
おいどうすんだコレ、そんな刺すような視線がユウカから向けられたVは特に気にする様子もなくスキャンモードを起動した。
「・・・・・・よし、タイヤの跡をスキャンした。 後を追うぞ」
「貴方便利ねぇ・・・・・・ほんと」
ミレニアムのセミナーとテロリスト傭兵の奇妙な共闘がブラックマーケットを舞台に始まった。
ユウカとVをどうやって共闘させるかが1番の難題でした。 だいぶ回り道した感じになりました、うーむ文才が欲しい。
貴方だったら、どっちのルート? 対策委員会編
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アロナの依頼ルート
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ヘルメット団依頼ルート
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どちらも選ばない、便利屋ルート