小鳥遊ホシノとヘルメット団の一件から数時間、更に水筒を飲みながら歩き続けて深夜と呼べる時間になった。
「流石に、しんどいな」
今日だけで企業のスクラップ場の脱出、砂漠の無茶な横断、ゴーストタウンでの探索と小鳥遊ホシノとの邂逅。 いくらアラサカを正面から打倒した最強の傭兵とはいえ、堪えるものがあった。
これ以上の移動はサイバーウェアに異常が出ると判断して、適当な廃墟で休憩することにした。
「誰も、いないか?」
見つけた廃墟は、壁に砂や虫の死骸が張り付いて人の手入れがされてないようだが、それでもまだ住居としての機能が残っているように見えた。
一応軽くノックしてみるも、帰ってくるのは反響したノック音だけだった。 人の気配はない。
「だいぶ砂の量も減ってきたが、この辺りも廃墟なのか」
いったいこの街に何があったのだろう。 見た感じでは砂嵐でやられたような感じはするが、ここまで広範囲で大規模な被害が出るものだろうか? こんな被害がでてれば幾ら離れていてもナイトシティのニュースになってそうだが。
廃墟の中に入り、インフラが生きてるかの確認を行なっていく。
「ガスは……ダメか。 電気は……発電機があるが砂で完全にダメになってるな。 水は……でる!? よし!!」
水をホシノから貰った水筒に注いでいく、ジャバジャバという流れる音が砂漠で荒んだ心に余裕をもたらしていく。
「この水、随分綺麗というか、ホシノから貰った水と一緒か? この辺りは水質汚染が進んでないのか」
……カイザーとかいう大企業があるのに、水質汚染が全くない?
「なんだ、この違和感。 ここがナイトシティじゃないのはとっくに理解したが、本当にそれだけなのか?」
人のように喋る企業のロボット、 あるはずなのに存在しないサイバースペース、 いつまでも繋がらない通信、 そして
「小鳥遊ホシノをスキャンしたが、サイバーウェアをつけてなかった」
彼女がインプラント禁止の宗教家には見えなかった。 なのにサイバーウェアの反応が欠片も見つからなかった。
「ここは、まさか」
ありえない。 まさか、そんな。
「はは、いやいやいやいや、ここが、まさか」
頭がこんがらがる。思考がまともに出来ていない。それなのに、フラッシュバックのように思い出してしまう。
小鳥遊ホシノの頭の上に、天使の輪がついていなかったか?
瓦礫から這い出た時に見た塔だって、天使の輪がついていた。
てっきり、装飾品の類が変な流行り方をしたと思っていたが、実は本物だとしたら?
「ここが、別世界……だって?」
……考えすぎだろう。 きっと考えすぎだ。 そうに決まっている。 疲れてるせいで変な考え方をしてしまったんだ。 あのショットガンを構えた少女が天使とか流石にありえない。
「シャワーでも借りて、落ち着こう」
頭に水でも被ればこの熱された考えも治るだろうと、現実逃避じみた理屈をつけて俺は浴室へと向かった。
俺は、忘れていた。
あの時、ヘルメット団は何と言っていた?
『おうおうおうおうおう!!! 女二人で夜デートとは随分お楽しみじゃねぇかよ小鳥遊ホシノさんヨォ!!!』
『女二人で夜デート』
女二人とは、ホシノと一体誰のことだったのか。
その答えが出されたのだ。
浴室手前の洗面台の向こう側、そこにそれはいた。
健康的な肌色 プラチナブロンドの肩に掛からないくらいの髪 身長は160前後と思われ 胸は控えめで プロポーションはまずまず サイバーウェアのクロームが体のあちこちに散りばめられ 瞳は秋を思わせるオレンジ色 そして小鳥遊ホシノと同じく、頭の上に天使の輪をつけていた。
そんな少女が、服を脱いで洗面台に入った俺を呆気に取られた顔で見つめていた。
「す、すまない!!? まさか人がいるとは思わなかったんだ!! 俺はすぐさま退散するから、どうか騒ぐだけは勘弁してくれ!!」
そうダメ元で声を荒げながら会話を試みるが、きっと無駄だろう。 今からどうせ甲高い悲鳴がこの廃墟を貫くのは容易に想像できた。
腹を括って目を閉じ、舌を噛まないように引っ込め、引っ叩かれる覚悟を決める。
「……」
「……」
「…………?」
だが覚悟に反して、いつまでも衝撃は来なかった。 なんだったら悲鳴すら聞こえてこない。
もしかしてダメ元の俺の祈りが届いたのかと恐る恐る片目を開けて状況を確認してみると
そこには俺と全く俺と同じ態勢で恐る恐る片目を開けてる少女がーー
サンデヴィスタン起動
俺は全力で洗面台から離脱し、ドアを叩きつけるように閉めた。この間、わずか0.01秒
サンデヴィスタンを切るのも忘れ、超加速空間の中、俺は顔を青くしながら冷や汗を大量に流していた。
「無理、無理、それは無理」
見たくない、今は絶対首を絶対下に向けたくない。 俺の息子が消えてる現実なんてみたくない。 顔向けたら最後、その現実が俺を絶望に叩きつけるだろう。 具体的にいうと頭の中のテロリストが俺を殺しにくるよりもキツい絶望が。
「た、助けて、助けてくれジョニー!!!」
何だったらもういないテロリストにすら縋っているレベルだ。
そして、数時間後。
死んだ顔をした少女がシャワーを浴びながら、呪詛を呟いていた。
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。
俺をこんなふうにした奴は例え神でも殺してやる!!!」
そして俺は、ぶっ倒れるように寝た。
ナイトシティ
ウエストブルック地区
ノースオーク
慰霊堂
一人のSAMURAIのジャケットを着た男が、名前のない墓前に二丁の拳銃をぶら下げてやってきた。
「V、別に死んだわけじゃねぇだろうが、見舞いに来てやったぜ」
この墓は、アイツに親しかった連中が勝手に作った墓だった。 まさかフィクサー達まで関わってくるとは思わなかったが。 随分と暇な連中だよ。
「俺はもうじき、この街を離れる。 そこでだ、テメェがあちこちから片っ端に集めてきたあの武器ども、そして車にバイク、どうすりゃあいい?」
「あんなの全部荷造りして運ぶなんざ俺は御免だ。 何でテメェのを律儀に俺が全部持ってなきゃいけねぇんだ」
そして腰から、銀に輝く銃、マロリアンアームズを取り出す。
「そこでだ。 テメェの物はテメェのものって事で、全部ここに置いてくことにした。 そしてこれは俺からの旅の餞別だ」
タバコに火をつけながらそう言うと、俺は自分の愛銃を、かつて相棒だった奴の墓に置いた。
「テメェから貰われっぱなしは癪でな、まずはこいつを持ってけ」
そして俺は慰霊堂から出て行き、911ターボに乗り込む。
「次はテメェが古い発電所で見つけてきたあの刀を持ってきてやるよ。 全く、いつまでもバカみてぇに振り回してたよな。 どんだけ好きだったんだよ気色悪りぃ」
窓を開けて、エンジンを吹かす。 火をつけたタバコを吸わずに、投げ捨てる。
「聞こえてるわけねぇと思うが、またなV」
そうして911ターボが走り去った。 その後ろ姿を、一人の男が見つめていた。
節制への道は変わりつつある。
貴方はどれくらい知識がある?
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サイバーパンクは名前だけ知ってる
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サイバーパンクは雰囲気でプレイ済み
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サイバーパンクはガチでやった
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サイバーパンクで知らないことなど何もない
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サイバーパンク? なんそれ?