戻らない時間に涙する男~時間系能力には気を付けろ~ 作:I'mあいむ
もし能力を貰えたら何をしたい?
この問いに対して過去の俺ならそれを使って何かをしたがっただろう。金稼ぎに使ったかもしれない。
今の俺ならこう答える。能力を発動しないと。
視界に映るのはどうにも歪んだ世界。遅くなった世界で俺はいつも溜め息を吐いている。
◆◆◆
俺の名前は
何だその名前と思ったそこの貴方。俺も思った。自分の子供になんて名前を付けてるんだと思ったが今なら分かるよ。避妊しなかったんだろうなあ。誕生日が物語っている。完璧なクリスマスベイビー。三人兄妹の中で唯一望まれなかった子、それが俺だ。
そんな子だったからなのか知らないが俺は転生者だ。
日本社会に酷似した世界に転生した。しかし違うところもある。
この世界は特殊能力がものを言う社会なのだ。
能力と呼ばれる不思議な力が世の中に存在している。勿論目覚めない人もいるが、この世界ではそちらの方が特異体質として扱われている。
まあ、礼に漏れず俺も目覚めた。物凄い遅めに目覚めたがそれは良い。問題なのは能力の内容だろう。
名は体を表すとは良く言ったもので、俺の現在の状況は既に手遅れだ。こうなったのはもう数年前だから諦めもついたが。
能力は加速。それも時間操作系の。つまり俺だけ時間の流れが遅くなった世界で動ける。良い能力に見えるだろう。相当使い勝手の良い能力だと俺も思っていた。
それが発現した当時、最初に気付いたのは音だった。音の聞こえ方に妙に違和感を感じたのだ。動画を見る時に速度を早めたら正常になって、ああこういう能力なんだって理解した。
まあそんなのあったら色々試したくなるのが転生者。取り敢えず感覚で色々いじる訳だ。それがいけなかった。遅くなった世界の中で俺はあることに気付いた。この能力は不可逆性。なんと戻せないのだ。
俺はこの遅くなった世界から抜け出せなくなった。時既に遅し。正に手遅れ。致命的な手遅れだった。
日常会話が成り立たず一気に社会のはみ出し者。時間に干渉する能力なんて前代未聞で何も出来ない。家族には文や画面などの書体を通して何とか意志疎通を行った。みんなからは俺が物凄く速く動いてるように見えるらしい。
更に、この能力は物理法則すらもねじ曲げてしまう。高速で動いているのに空気抵抗は普通のまま。空気も普通に吸える。まるで自身だけ世界から切り離されたような、ただ加速するだけでもない能力。
こんな能力なら正直いらない。この能力のせいで元々良くなかった家族関係が更に悪くなって。落ちこぼれの俺は更に落ちこぼれとなった。
転生しても何も上手くいかないとは、本当に嫌になる人生だ。
「お、来た」
そんな今の俺はアマゾネスイーツの配達員。まるでAma〇onとUb〇rを足して二で割ったような名前だ。今日も今日とて置き配をしながら頑張る毎日である。
◆◆◆
現在17歳、うら若き高校生の筈の俺は中卒だ。日常会話の成り立たない俺では高校などキツすぎる。中学も先生達に苦労して貰いながら何とか卒業したのだ。
本来能力ってのは7歳ぐらいまでには発現するものだが俺の場合は14、中3の夏に発現した。それからは皆に白い目を向けられた。全く俺が何をしたのか。まああの年頃じゃあ異端な奴を叩くのは当たり前だ。俺としても仕方ないだろうなと思っている。
こんな状況では買い物をするのにも一苦労。
慎重に動かなければ迷惑がかかりすぎる。何かにぶつかりでもしたら物凄い被害が出る。人の近くに移動すれば、いきなり現れたように見えるから相手はぶつかること間違いなし。店員さんと会話なんて出来やしないからそれなりに迷惑をかけて行うしかない、等々語っていったらキリがない。
だから基本的に俺は置き配で物を取り寄せる。クレジットで引き落とせる世の中だ。これが最適。音声が絡むとどうにも出来ず辛くなる日々だ。
「あ、犯罪者」
信号の先には少女を襲おうとしてる怪人のような見た目の何か。能力物の社会だ。能力犯罪も起きる。日本で言うところのヒロアカに似たような物だ。あれより平和なのかどうかは知らないが。
能力と言っても色々ある。異形になってしまうものもあれば概念系など本当に色々。それとはまた別ベクトルの種別として操作系、放出系なんかがある。
操作系は本人が色々操作できるのだ。炎の操作系なら消えない炎を作りだせるし、消える炎も作れる。ただ出力が弱い。炎としての方向性を決める変わりに威力は据え置き。
放出系は操作出来ずただ出すだけ。その変わりに出力の幅が広い。強くも弱くも出来るが一辺倒。出してしまったら操れない。そんな感じ。
俺のはまあ放出だろうな。しかも永遠に続く。オンオフぐらい出来ても良かっただろうに。もし最大威力にしたらどうなるかなんて想像もしたくない。
それで……ああ、そうだ少女が襲われてる。今の俺の体と同年代かちょっと下だ。一応能力であらがってるようだが相手が悪い。あれは放出系、しかも俺のと同じような感じだ。人間に戻れない代わりに耐久力とかがめっちゃ高い。操作系の能力じゃキツイ。
かと言って介入するのか?それは流石に面倒だし………てかヒーローいないの?こんな世界だし能力犯罪を取り締まるヒーローもいる訳で、それなら何とかしてくれよ。
………あー、これ間に合わなさそうだな。助けないと寝覚め悪いよなあ。
だからって素人が手を出すのも……それに協会に言われたら………いや、人の命には代えられないか。自己満足でも行動に意味があるよな。
えーっと、30メートルくらいか?全速力で走れるな。よし。
足に力を入れて普通に走る。よくある短距離走みたいに、体力テストみたいに走る。ただ一生懸命走って、走って、そんでもってその勢いのままにぶん殴る。これだけで良い。
まあそりゃそうだ。力は質量×速度。大体この体積の人間が時速………300㎞ぐらいか?まあ分からないが、車より圧倒的に速く殴ってるんだ。そりゃ吹き飛ぶ。
てかおかしいよな。何でこの速度で殴ってるのに俺は拳が痛い程度で済んでるんだ?普通ホネが砕けると思うんだが。物理法則さんが仕事をしていないよ。
さて件の少女は……うん、大丈夫そうだな。何かボーッとしているが………ま、いっか。
それじゃあな、少女よ。あんまり見えて無いだろうけど。
「………え、あのヴィラン何処に」
◆◆◆
家族関係が悪くなった俺は家を出て一人暮らしをしている。金が稼げる職業でも無いから兎に角体を張って頑張ってはいるが、歳をとったらマズイだろう。足腰が弱くなったら加速を強める事態になりかねない。しかし、それこそ日常生活が成り立たなくなる原因だ。自動ドアで何分も待たされるなんて俺は嫌だ。一日が一年とかに伸びたら最悪だ。そうならない為に日々足腰を鍛えている。と言っても仕事の合間を縫っているだけだが。
この生活は不便だ。金を稼ぐ為に基本的に毎日仕事をしているし、家賃や食べ物なんかにありつく為には必死でやるしかない。体の成長や衰え。つまり寿命なんかの歳をとるのだけは変わって無い気がするが、気がするだけかもしれない。怪我の直りの速度は普通に変わってるから分からないけど。
「ほーん、最近はそんな感じなのか」
そんな俺の楽しみと言えば紙媒体だ。小説やラノベは速さを問わないからな。新聞なんかも良い。世の中から隔離されたような俺みたいな奴には最適である。
この歳でスキャンダルやゴシップ紙にドハマりするとは、俺の人生は終わっているのかもしれない。
ピ~んんポ~~~ン
「………どっちだろうなあ」
変に伸びた音ははここ数年で聞き慣れたこの部屋の呼び鈴だ。誰か、もしくはナニカが来たのだろう。
俺の家を訪ねてくるなんて大体が録でもないことだ。最初こそ俺の能力を聞き付けてヒーローや悪の組織が勧誘に来た物だが、今では音沙汰なし。単純にやりにくすぎる俺の能力が駄目だったらしい。
ヒーローの方は半ばタレント業だから仕方ないだろう。俺ではカメラに映れない。しかし悪の組織はもう少しやりようがあるだろうに。指令ぐらい紙で何とかすれば良いのでは、と思ってしまう。こっちは結構ノリノリだったんだけどな。
そんな今の俺には二通りの可能性がある。数少ない有り難い知り合いか、俺に何らかの依頼があるかのどちらかだ。もし後者だった時は非常に面倒で厄介で危険な場合もあるので慎重さが肝となる。
そーっと部屋の外を覗いて、うん、どうやら前者だったらしい。『お身体はお変わり無いでしょうか?』、と書いてある紙を持ちながら扉を開ける。そこには久しく見ずにいた女性が居る。
「君、久しぶりの挨拶がそれってどうなのよ」
◆◆◆
彼女、北原希美は委員長で、クラスの取り纏め役であった。少なくとも俺の知る当時の彼女はそうであったと認識している。当時というのはそう、中学当時。良く居る委員長タイプ、という人間が本当に現実で見れたのは少々幸運なのかもしれない。まあ、それも学校の中だけのような気もするが。
『すみません、上がって下さい』
「うん、ありがと」
実際教室では気を張っていただけなのだろう。彼女は学校の外で話す時は基本的に普通だ。何かを咎めるような、空気を締め付けるような委員長の感じが抜ける。
そんな彼女と俺がどうして会話出来るのか。それは彼女の能力に由来する。彼女は意思や感情と言ったものを直接相手の脳内に叩き込めるのだ。まあテレパシーを持ってるって話だな。
思考を読むことも出来るらしいがそれは犯罪だからやってないんだとか。
まあ、会話と言っても俺は紙面に書いているから怪しい部分だよなあ。
『今日はどうされました?』
「………久しぶりに君のことを思い出しただけ。どうしてるのかなって」
彼女が俺みたいな奴の家に来るようになったのは能力が発現してからだ。委員長として俺を気にかけてくれたらしい。人との交流関係が日に日に無くなっていったあの時、新しい知り合いが出来たのは正直信じられなかった。
彼女は俺の家に定期的に来て学校関係について教えてくれた。そこから少しだけ彼女と俺の細い関係が繋がったわけだ。それもここ一年程は来なかったから途絶えたと思った物だが、どうやらふと思い出してくれたらしい。
それにしても、随分と見た目が変わったな。イメチェンというか、綺麗になったというか。時の流れを感じる変化だ。彼女も大人になっていく途中ということだろう。
『粗茶ですが』
「ああ、うん」
返された言葉はどうにも煮え切らない。少し考え事をしていたような反応だ。
『最近はどうですか?』
「最近……」
反応から察するに、きっと彼女の生活は上手く出来ている。ただ、何かしらの鬱憤、もしくは悩みがあるのだろう。もっと酷い場合はこんな反応はしない。逆に何も無い場合に生返事になることなど無いだろう。
伊達に前世があるわけじゃない。人間関係的なのも少しは分かる。
『私は最近は絵を描いてみたいなと思いまして』
「絵?絵画とか?」
『こういうのです』
少し動作を意識しながらスマホに画面を映す。こうなるとフリック入力はやりにくくて仕方ない。自然とローマ字で打つことになった。性能の良いスマホなら俺でも使いやすくなるんだろうか?
「あー、ゲームとかの」
『こういうのだったら私は速く描けるので』
こういうイラスト系は今も人間が描いているのだから、俺もやれるのかもしれない。出来れば紙媒体が良いんだが、ネットなんかに投稿したいならこうするしかない。最近はお金が貯まってきたから良い機器を買って始めたいと思ってる。
『他にも実はこんなことが───』
てきとうなことを書いては彼女に見せていく。相手の悩みを聞く時は先ずは自分から話すのだ。俺の場合話すではなく書くなのだが、そこは良いだろう。そして自分のを聞いてもらった上で相手のことを聞けば、自然と話しやすくもなるのだ。前世のヤリチ○風イケメンが言ってたから間違いない。
『私ばかり聞いてもらってすいません。北原さんも何か悩みとかあったら是非話して下さい』
「実は───」
そこからはもう楽だった。彼女の話を聞くにどうやら人間関係が少し拗れてしまったらしい。確かに、一学生にとってそれは重要だ。まあ、俺に何かが出来るわけでもない。何も言わず、ただ聞くことが今は先決だろう。
「私が悪かったのかな……って、ごめんこんな話。つまらないよね」
『いえ、私は聞いてるだけで楽しいですから。それで、北原さんはどうしたいんですか?』
「私は……」
彼女は非常に優秀だ。才色兼備で能力も優秀。考える力をもう持っている。このままの未来を辿った結果、結局上手くいかなかったとしても大丈夫だろう。それは彼女の中の人生で百分の一にも満たない筈だ。それ以上に奇想天外で幸福な人生になるだろうから。
俺は何も心配をする必要がない。というか、そんなに親しい訳でも無いしな。今の俺には友達どころか家族すらいないんだから、心配なんて烏滸がましいことはしちゃいけない。
しかし彼女は何処かアドバイスを求めてるように思う。愚痴ではなく、相談な気がするのだ。
『大丈夫ですよ』
「え?」
『人間関係はなるようになりますから』
………一応伝えておくか。人生の先達として、青春を過ごす人達へ言いたいこと。あとちょっとだけ、存分にその若さを楽しんで欲しいしな。
『せっかくですし、後悔しないぐらい楽しんでいきましょう』
「そっか…………うん、ありがと。私も少しだけ、楽しんでみるよ」
『ええ』
きっといつか、その日々を懐かしむ日が来るだろう。そこに俺は居ないのだろうが、是非とも幸せであって欲しい。
青春とは尊きものであるのだろう。俺はそれを過ごすことが出来なかったが、きっと人はそれを知るべきだ。
「青く藻掻いて下さいね。汚れが見えない内に」
それは過ぎ行く。果てしない感情と幼さを、渇望も、憧憬も、その蒼さを置き去る程に。この加速する視界よりも、遥かに速く。