透き通った空に浮かぶ星 作:哲学の階司書補
宙にひとつの星が昇る。
黒の衣を纏い、嘗ては調律者、若しくは指定司書であった其れは、目を醒す。
砂漠、そして廃墟。
外郭を思い出させる光景に、其れは、いや、彼女は笑みを浮かべる。
「ここは……都市とも外郭とも違う空気。これはまた、退屈しなくて済みそうだね」
蝶の羽ばたきが大きな渦を生み出すように、たったひとつの違いが、やがて大きな流れへと変わって往く。
其処にある筈の鉄の大蛇は姿を消した。同じ”名前”であったから。其れを識る者が多く無かったが故に。
その存在を塗りつぶした者の名前は。
ガリオン、否、『ビナー』
「ふむ……少し分かりやすくしようか」
彼女は、此方へと向かう人の群れをちらりと見ると腕を掲げ、
黄金の衝撃波が砂漠を駆け抜けた。
︎︎閃光、地響き。
視界が開けた頃には、優に500人は超えていたであろう人の影は片手で数えられる程度の、幸運な数人しか残っていない。
一人一人強度を確かめて、壊れなかったもので確かめるくらいならば。
わざわざ大隊を相手にする必要はない、運良く残ったもので試せばいいと。
捲れ上がった岩盤も、砂に飲み込まれた人の姿も気に留めることなく。
痛みと恐怖に動けなくなった兵士に近づいていく。
「少しばかり、付き合ってくれたまえ」
──────────────
翌朝。黄金の衝撃波による影響はアビドス高等学校や、その周辺の市街地にも出ていた。
しかし、発生地点からは離れていたため、影響と言っても本棚から本が飛びててきたり、食器が数枚落ちる程度。
しかし、今までアビドス自治区を悩ませていた主な災害は砂嵐。初めての形の天災に、確かに彼らは恐怖の感情を抱いた。
アビドス高等学校。
その日は深夜に地震があったこと以外、特に襲撃もなく平和な1日だった。
次の日も。その次の日も。
なぜだかカタカタヘルメット団を見かけることも少なくなり。
定期的に行われる対策委員会の会議では、急激にヘルメット団による被害もなくなったこともあり、議題は自然と地震のものになる。
「それでは、定例会議を始めます。まずは、数日前に発生した地震についてなんですが」
進行役のアヤネがホワイトボードに文字を書いていく。
初めての災害だっただけに、他の対策委員会のメンバー達もいつもに比べ、真剣な表情を浮かべている。
「震源地は砂漠方面、ここからかなり遠くの地点だと推測されます。市街地の人達への聞き込みでも、そこまで大きな被害は無かったそうです。ドローンでの調査も行ったのですが……」
上に震源地、下に市街地、と大まかな位置関係を図で表す。
そこから少し外れた所に書かれたのは砂嵐の文字。
「砂嵐の頻発区域、学校から一番近い地点が地震発生の日から、ずっと砂嵐が止んでいたんです」
「そういえば、ヘルメット団もすっかり見かけなくなりましたね〜 」
地震発生日からの変化、ということで思い出したかのように、ノノミが発言する。
毎回撃退出来ているとはいえ、毎日のように襲撃してきていたチンピラ集団が、地震を境に音沙汰無くなったというのは、少し不気味な話だ。
「偶然って可能性は?」
「もちろんあると思います。発生から数日程度しか経っていませんし、ヘルメット団も地震によってパニックを引き起こしたのかもしれません。しかし、ここまで連日砂漠が澄んでいるというのはかなり珍しい状況です」
シロコの質問に返答しながら、ヘルメット団、パニック? と書き足される。
地震をきっかけに発生した2つの異変。
全員がその事に思考を巡らせていると、突如、委員長であるホシノの表情が険しいものになる。
「みんな、武器構えて。いつでも机を盾にできるように準備。もう侵入されてる」
「でも、監視カメラにもドローンにも異常は……っ! ハッキングでも破壊でも無い形で無力化されています!」
邂逅の時は、すぐそこに。
「幼いな。だからこそ、育つ余地がある。完成したものを見守るのは心が踊らないだろうね」
纏う黒の外套。開けられていたドアからそれが見えた頃には、ホシノを除く4人は鈍く輝く鎖によって縛られ、内3人はヘイローが消え気絶、シロコのヘイローも点滅し、意識が朦朧としているのを示している。
しかし、ビナーは驚いていた。瀕死程度になるよう威力を調整したにもかかわらず、未だ意識を保つ者がいたから。
悲鳴をあげる暇もなく倒れた仲間に動揺、怒り、恐怖、様々な感情に駆られるホシノの横を素通りし、遮蔽物となるよう倒された机に凭れ掛かる。
当然ホシノも何もしなかった訳では無い。武器を構え、一度たりとも彼女から目を離さなかった。
「(隙が無さすぎる。いや、そもそも私でもきっと歯が立たない。でも、このままじゃ大切な後輩たちを守れない……!)」
「恐れているな、喪うことに。それも、経験によるものだろうね」
「っ…………何が目的なの」
未だ癒えることのない傷に触れられる不快感。全て見透かされているような恐怖。
「私も必要以上に事態を混乱させることは望まない。そうだな、私がお前達の顧問になろう」
ホシノの頭に最後に残されたものは、困惑だった。
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