透き通った空に浮かぶ星   作:哲学の階司書補

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筆が乗ったのでいつもより文量が多いです。
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ゲヘナの風紀委員会との交流戦

 借金完済から数日、それぞれは強くなるために鍛錬を積みつつ、好きに過ごしていた。

 そんな中、ホシノは、ゲヘナとトリニティ、ミレニアムそれぞれの、風紀委員会、正義実現委員会、C&Cに、今の騒ぎが落ち着いた頃に、交流会、もしくは交流戦をしないか、という旨の手紙を送る。アビドスが陥落寸前の弱小校と認識されている場合、いい返事は来ないかもしれない。だが、1校でも実施出来れば、間違いなく他の学校も頷いてくれるだろう。

 

 そこから1週間後。騒動はひとまず落ち着いたらしく、それぞれから返事が返ってきていた。

 トリニティとミレニアムは断りの手紙、返事が来ただけ律儀に対応してくれたといえる。しかし、ゲヘナからはどこから聞き付けたのか万魔殿が、風紀委員の仕事を増やすという名目で引き受けてやる! との事だった。手紙にそんなことまで書いていいのか、と思うところはあったが、引き受けてくれるならなんでもいっかー、と気にしないことにした。

 日程の調整をアヤネにぶん投げた後、いつも通り、ビナーとの戦闘演習へと赴くホシノだった。

 急に仕事をぶん投げられたアヤネも、最近あまり事務仕事をしていなかったのもあって、こっちの方が落ち着く……なんて思いながら、日程調整に励んでいた。

 

 

 

「おや、外に出向くのかい。まあ、お前たちが勝てぬものは無いだろうよ。それがお前たちにとっての試練であろうと」

 

 ゲヘナに向かうべく、駅の近くで集合していたホシノとシロコの元にビナーが通りかかる。

 

「おぉ〜、先生がそう言ってくれると、気合い入っちゃうね〜」

 

「ん、任せて。全員倒してくる」

 

「シロコちゃん、そういうのじゃないからね?」

 

 ふんすふんすと興奮気味なシロコを宥めるホシノ。

 

「帰ってきたら茶会でも開こうか。トリニティから好い茶葉を仕入れたから」

 

「先生の淹れる紅茶、好きだから。楽しみがひとつ増えた」

 

 少し前まで警戒心の塊のようだったシロコも、戦闘演習やお茶会で、今ではしっかり懐いていた。

 

 

 

 

 

 

 広場に集められたゲヘナの風紀委員達は、それはもうテンションが下がっていた。聞いた事があるんだかないんだかわかんない廃校寸前の学校相手に交流戦なんて。

 その分の書類周りは多少万魔殿が引き受けてくれたが、面倒くさいという感じが、ほぼ全員から溢れていた。

 風紀委員長である、ヒナ1人を除いて。

 

「(小鳥遊ホシノ……私が情報部にいた時に聞いた要注意生徒の名前……連邦生徒会長不在の混乱に乗じてって訳でもなさそうだし、目的は一体……もしかして、シャーレの先生に関する情報を求めて?)」

 

 少し前にキヴォトスにやってきた大人である先生。そして超法規機関であるシャーレ。チナツから上がってきた報告書で知った先生は、現在ミレニアムにいるらしい、ということが情報部による調査でわかっている。

 

 ヒナがそんなことを考えている一方で、ガヤガヤザワザワとした風紀委員達の話声は、2人の生徒がやってきた瞬間に静まる。

 

「うへぇ、あんま歓迎されてなさそうだねぇ」

 

「ん、『キキキキキ、主要メンバー全員参加で疲弊させて、仕事を停滞させてやるわ!』って書面で言ってた」

 

「まあ、おじさん達からしたら、ありがたいことなんだけどね〜。初めまして、風紀委員長ちゃん。おじさんはホシノ、こっちはシロコちゃん。交流戦のお誘い、引き受けてくれてありがとうね〜」

 

「戦えるって聞いて遥々ここまで来た」

 

「私が風紀委員長の空崎ヒナ。こちらこそ、遠方からわざわざありがとう」

「(小鳥遊ホシノ……1年の時から随分変わってる。それに廃校寸前のアビドスが他校とわざわざ交流を、なんて。現状がどうなってるかわからない分、警戒が必要かしら)」

 

 万魔殿の企みがシロコから筒抜けになったが、それをヒナはなんとなく察していて、最初から、戦力としては圧倒的な自分が相手をして、他の風紀委員は実質的な休みにしよう、と考えていた。

 

「悪いけど、私が2人を相手にする、でもいいかしら」

 

 ホシノがチラリとシロコを見る。むむむと少し悩んだ末にひとつため息をつくシロコ。

 

「いいよ、先輩が出て。先生に鍛えて貰って、いちばんワクワクしてたの、知ってるから」

 

「うへぇ〜悪いねぇシロコちゃん。次にこういう機会があったら譲るよ〜」

 

 シロコの口から出た先生という単語。これに反応したのはヒナとチナツ。風紀委員会の情報部では、アビドスに『先生』がいたという情報を得られておらず、チナツが見た先生と生徒を鍛えるということが繋がらなかったから。『先生』の実物を知っているだけに、チナツはつい気になって聞いてしまう。

 

「あの、おふたりは『先生』と面識があるんですか?」

 

「あれ、先生ってゲヘナに来たことあったっけ。あと、君のお名前は?」

 

「あぁ、すみません。風紀委員会所属、火宮チナツです。風紀委員で『先生』と直接お会いしたのは私だけですが、名前はしっかり広まってますよ」

 

「うへぇ〜、まあ、一目見たら忘れないよね」

 

「はい、私もそう思います。キヴォトスの外から来た大人は珍しいですから。ところで、鍛えてもらった、とはどういう……」

 

「チナツ、初対面の相手に余り根掘り葉掘り聞くものじゃないわ。小鳥遊ホシノ、まずはこの交流戦のやるべき事をやりましょう?」

 

 ヒナは梔子ユメの一件について知っている。故に、変にホシノの地雷を踏んで、面倒なことになるのを避けるために、チナツを黙らせた。

 しかし、内心『先生』について気になっているのはヒナも同じで、交流戦が終わったら、ホシノから話を聞こうと思っていた。チナツに謝るのも忘れずに。

 

「まあ、楽しみにしてたのは本当だしね。やろっか、風紀委員長ちゃん」

 

 眠たげにも見えた眼は鋭くなり、雰囲気ものほほんと柔らかなものから、恐怖すら感じる、刺々しいものに変わる。

 

「初め見た時は2年前と同一人物か疑ったけど、全然変わってないみたいね」

 

「うへぇ、そんなことまで知られちゃってたかぁ。まあ、先生のおかげだろうね〜」

 

 実戦演習場の定位置に着く2人。

 そこそこの遮蔽物があり、一般的な街中を再現したものだ。もっとも、お互い遮蔽物は使わないのだが。

 

 風紀委員の1人が端末で開始の合図をすると、ホシノは盾を構え突撃する。大した威力のない攻撃は弾いてそのまま突き進み、シールドバッシュやハンドガンから自分の動きやすい距離へと展開する。これはビナーが妖精による弾幕を張って来た時の対処法だった。

 

 ヒナは斉射によって牽制するが、その弾は妖精に比べればとても軽いもので。それを易々と弾きながら、飛び出すように急接近してきたホシノのシールドバッシュをバックステップで距離を置きながら回避するヒナ。

 

「あぁ、そっか。先生と違って、普通なら片手で止めないし、カウンターされないんだ」

 

「は?」

 

 ぽつりと零れたホシノの呟きに、ヒナは少しの間、宇宙ヒナになってしまう。『先生』が、今のシールドバッシュを? チナツの報告では華奢な女性で、そんな荒事に精通した感じじゃない、って上がってたのに。しかも今の攻撃に対し、防御を選んでたら確実に追撃されていた。それに直撃なら、ヒナでもダメージは免れないだろう。それを、しかも片手で? 

 

「『其れは其れ、此は此。眼前の戦闘から気を逸らせば、身に危険を招く』 ちゃんと前見てないと、怪我しちゃうよ〜?」

 

 その一瞬の思考が隙になり、懐に潜り込んできたホシノによるショットガンを至近距離で放たれてしまうヒナ。

 咄嗟に腕で防ぎダメージを軽減しようとするが、ビナーへの攻撃を基準としているホシノの攻撃は容易にヒナを吹き飛ばす。

 普段ならありえない、ヒナが一方的に攻撃を受ける展開に、観客となっていた風紀委員達はざわめき出す。

 

 ヒナが体勢を立て直しているころ、ホシノはこの状況を少しマズイと考えていた。お互い本気を出してないとはいえ、このままでは下手すると勝ってしまう。ゲヘナの安全装置の役割もあるヒナがどこの誰とも知らない奴に負けたとなると、治安は悪化するだろうし、そうなればあまり良くない関係になりかねない。

 

「(もう少し遊んだら、程よいタイミングで引き分けるか負けよう)」

 

 警戒しながらゆっくりとヒナに近づくホシノ。瞬間、紫の閃光と共に砂埃の中から放たれたのはビームとも思えるような一点射撃。それにより構えていた盾は後方へと弾き飛ばされる。

 

「やるね、風紀委員長ちゃん」

 

 余裕のある笑みを浮かべながら、追い討ちのように放たれる紫の弾幕の間を駆け抜ける。ホシノは強固な防御力による前衛タンクだけではない。驚異的な回避能力と神秘による防御で無理矢理距離を詰めることだって出来る。これも全部、全方位に柱と鎖を乱射するビナーのせいである。

 

「いやぁ、これも先生のおかげだね〜。厳しい訓練の成果を確かめられておじさん嬉しくなっちゃうなぁ」

 

『先生』というワードがヒナを動揺させた事を見逃さなかったホシノは、敢えて聞こえるように話す。発砲音でかき消される可能性もあるが、一瞬でも惑わせられれば儲けものだ。

 しかしヒナも歴戦の生徒であるため、一度引っかかったことに、二度目はない。心底気になってはいるが。

 

「(っ……当たらない、せっかく盾を奪ってもこれじゃ埒が明かない)」

 

 さっきのショットガンの直撃のダメージが響く。次に接近されてもう一撃受けてしまえば、勝負は大きく傾くことになるだろう。

 

「(そろそろこの辺りでいいかな、成長は実感できたし。もし本気でやり合うとしても、6割は勝てそうかな〜)あだっ!」

 

 ホシノは目的は十分果たしたと考え、あと1、2メートルという所で敢えて直撃を受け吹き飛ばされる。演技じみた間抜けな声を上げて。

 

「ギブアップ〜、盾がないとやっぱりキツいね〜」

 

 両手を上げて降参するホシノ。我らが風紀委員長が勝ったことに、歓声を上げる風紀委員達。

 一方でヒナは強い違和感を感じていた。あのままやっていたとしても、攻撃は殆ど避けられただろう。それに、かなり力を込めた一点射撃を盾を弾く程度で済ませたホシノの防御なら、直撃一回程度どうということは無いはず。

 そんなことを考えているとホシノはヒナに近づき耳打ちする。

 

「風紀委員長ちゃんが負けたり引き分けたって知れたら都合悪いでしょ?」

 

「ゲヘナの内情を知ってたのね……助かるわ」

 

 ヒナは自分と並び立つレベルの相手に気を遣わせてしまったことにため息を吐く。それは、戦闘狂という訳ではないが、自分が強くなるチャンスだとは思っていたから。

 

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