透き通った空に浮かぶ星 作:哲学の階司書補
8月はずっと忙しくなりそうで、頻度もまちまちになると思いますが、どうぞよろしくお願い致します。
感想やしおりお気に入り評価全部モチベになってます、本当にありがとうございます!
「ようこそアビドスへ〜、風紀委員長ちゃん」
「出迎えありがとう、今はほぼオフだから、名前でいいわ、小鳥遊ホシノ」
「それじゃあ遠慮なく、今日はよろしくね、ヒナちゃん」
対策委員会のお茶会に招待されたヒナは、アビドスへとやって来ていた。電車から降りて駅を出ると、手をブンブンと振っているホシノを発見する。
オフといいつつ、いつも通り制服なヒナと、フリル付きの白のブラウスと黒のプリーツハイウエストスカートにポニーテール、楽な格好で私服なホシノ。
こうやって気軽に呼び合えれば、友達になれる、はず。とヒナは風紀委員長をしている時は完璧超人と言えるほどだが、プライベートに関してはかなり初心だった。
「誰かをアビドスに招くっていうのは、今まで出来なかったからね〜。こうやってヒナちゃんを招待できて、おじさんは嬉しいなぁ」
砂嵐に借金、それにヘルメット団。問題が山積みだったアビドスでは、下手に人を呼べば巻き込む恐れがあったし、敵を増やす可能性がある行為はしないに越したことはない。
しかし、先生がやって来て、全部が改善したから、こうやって招待出来ている。
そんなことをホシノは、すこぶる嬉しそうに話す。
嬉しそうにするホシノを見ると心が暖まる。そんな初めての対人関係に自分も少し嬉しくなるヒナだった。
「ここがおじさん達の学校だよ、って言っても、本館じゃないんだけどね」
「本館は……あぁ、砂嵐に」
「そ。まあ、全校生徒5人だから、今はこれで構わないんだけどね〜」
そんなことを話しながら、2人は校舎の中を歩く。お茶会を開く教室が近づくにつれ、僅かに甘い、良い紅茶の香りが漂ってくる。
「うへぇ〜、タイミング完璧だ。未来でも見えてるみたいだよね、ほんと」
教室に入るとちょうどビナーがカップに紅茶を注いでいるところだった。
「それじゃあ改めて。ようこそヒナちゃん、アビドスのお茶会に! そして今紅茶を淹れてるのが先生だよ」
「あなたが……アビドスの、先生」
ビナーの姿にヒナの目が釘付けになる。吸い込まれるような黒の外套。光すら飲みこむ漆黒の瞳。今まで会ってきた誰とも違うオーラ、存在感。
「ああ、そうとも。お前は私の事を識らないだろうが、私はお前の事を良く識っているよ」
「っ…………」
ヒナは自分がゲヘナでは有名人であることは自覚しているし、その外でも知られていることもわかっている。でも、恐らく外の人間である目の前の大人が、自分に興味を持つとは思っていなかった。
「壊れた天秤の傾きは変わらない。然し、其の姿しか知らねば、誰も気付くことは無いだろうね。どれだけ重しを乗せたとしても」
「壊れた、天秤……」
揺らいだヒナの心に、ビナーの言葉が入り込む。きっと自分のことを指しているであろうそれに考えを巡らせる。
壊れた天秤。例えば善悪を計る物。それが壊れたとなれば、全てを善しとするか、全てを悪とするか。これは違う気がする。
もっと簡単に考えるなら、ふたつの物事の重さを計る、だろうか。
「どうして壊れた天秤が自分を修理出来るだろうか。其れは壊れている事にすら気付いていなかったというのに」
「おーいヒナちゃん〜、先生も、難しい話は後にして、今はお茶会を楽しもうよ〜」
思考の海に沈みそうになったヒナをホシノが引き上げる。
「そうだね。冷めてしまう前に頂こうか」
「え、えぇ。そうさせてもらうわ」
ヒナは動揺を隠せないでいたが、カップを手に取り、紅茶に口をつける。
その後は対策委員の面々と話したりしていたが、どうにも、ビナーの言葉が頭から離れないでいた。