透き通った空に浮かぶ星   作:哲学の階司書補

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ビナー様が誑かしたらだいたい酷いことになってない?
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ヒナの天秤

「ヒーナちゃんっ! お茶会は楽しめてる? あー……なんというか、難しい顔してるねぇ。そんなに先生の言葉が気になるの?」

 

「楽しんでるわ。スイーツもとても美味しかったし。でも、えぇ。きっと私に向けられた言葉だけど、上手く解釈出来ずにいるの」

 

 ヒナがじっと空になったカップを見つめていると、ホシノが覗き込んでくる。

 さっきまで、気になっていたゲヘナで話題のスイーツを取り寄せていてくれたり、1年生の2人がクッキーを焼いてくれていたり。

 自然と口角が上がるくらいには楽しんでいたと思う。

 会話だって、アビドスとしての苦労話を聞かされるでもなく、それは何気ない日常のもので。揚げパン専門店が出来たとか、新作のドーナツが美味しかったとか、可愛いアクセサリーが目の前で売り切れた、だとか。

 自分にもそんな話が、とふと思ったヒナだったが、どうしてか何も浮かばない。

 

「あれ……?」

 

 

 

 ヒナは風紀委員として、ずっと仕事に励んできました。風紀委員長になって、より頑張ってきた。書類仕事も、現場での制圧も。

 ヒナは天秤を幻視する。それの片方には、風紀委員長のヒナを乗せましょう。

 もう片方に、休みを、睡眠時間を、おしゃれを、スイーツを、友達との時間を、プライベートを。甘えられる相手も、心から自身を任せられる相手も。その全部を天秤の皿に乗せても、動くことはない。

 だって天秤は壊れているから。

 

 ならば捧げてしまいましょう。

 

 天秤を少しも傾けられないものは。

 

 

 

 

『どうして壊れた天秤が自分を修理出来るだろうか』

 

 

 

 

 ビナーの言葉がフラッシュバックする。自分はもう壊れていて、直らない? 

 ヒナが本当に欲しかったものも、憧れたものも、ヒナ自身すらも全部乗せた。それでも天秤は少しも傾きを変えない。

 

「……私は壊れていたのね」

 

 天秤とは自分の事だった。仕事熱心といえば聞こえはいいかもしれない。だが、何もかもを切り捨てて仕事を優先してしまうのは、どこか壊れているのだろう。

 

「先生の言葉は理解したけど、スッキリはしてなさそうだね。仕方ない、おじさんが胸を貸してあげよう〜」

 

 ヒナの様子で何かを察したホシノ。項垂れたままのヒナの手を取り、外へと連れ出す。

 連れてこられたのは、毎回砂漠まで出向くのは、ということで整備された演習場。

 

「ヒナちゃん。ここなら暴れても大丈夫だからさ、心をさらけ出そう。おじさんが、ううん。私が、全部受け止めてあげるからさ」

 

「心を……?」

 

「そうしたらきっと、新しいヒナちゃんになれるよ。手放してしまったものも、きっと掴み直せる」

 

「わた……しは…………あまえたかった。私だって、友達をつくって、一緒にお出かけして、スイーツを食べて……心から任せられる人をつくりたかった」

 

「うん。今からでも遅くないよ」

 

 感情が爆発し、泣きじゃくりながら叫ぶヒナ。

 そんなヒナにホシノが手を差し伸べる。

 しかし、その次の瞬間には、ヒナのヘイローがどろりと溶け落ち、それはヒナを包み込む。

 

 

 ヒナはもう一度天秤に大切な物を乗せました。それでも天秤が動くことは、ありませんでした。

 

 そこにあったのは諦めだった。これから先の全てが、きっと仕事に塗りつぶされるのなら。

 

 溶けたヘイローが流れ落ちると、ヒナは手に天秤を持っていた。その片方には何も乗っていないにもかかわらず、そちら側に傾いている。

 そして、少しも希望を抱くことがないように、その目は包帯で隠されていて。

 かつて冠があったそこには、灰色の歯車がひとつ浮かんでいた。

 

「ヒナちゃんは賢いから、考えすぎちゃったんだね。そのままでいたら、自分がどうなっていくのか」

 

 面影を残しながらも大きく変化したヒナに、ホシノは優しい視線を向ける。

 

「小鳥遊ホシノ……今日あなたと一緒にいて、羨ましく思った。自分が壊れていたことに気付かされて、私の未来には誰もいなくて。自分すらもそこにはいない」

 

「きっとヒナちゃんに必要なのは、隣に立ってくれる、対等な人なんだと思う。風紀委員長のフィルターをかけずに見てくれる人が」

 

「……五月蝿い。持っている人間が、講釈をたれないで!」

 

 激情に駆られたヒナは、ホシノに向かって灰色のレーザーを乱射する。その手に銃を持ってこそいるが、弾源はもはやそこにはなく、ヒナの周囲から吐き出されていた。

 

「いいよ、それでヒナちゃんがすっきりするなら!」

 

 咄嗟に反応したホシノは、その隙間を駆け抜け、弾をしっかりとヒナに命中させていく。

 しかし、硬い神秘に護られたヒナに、それはあまりダメージにならない。

 演習場は校舎から少し離れているために、増援はあまり期待できない。

 それでもホシノは、自分が受け止めると言ったから、と、一人でヒナを相手取るつもりでいた。

 

 

 

「埒が明かないね、お互いにさ」

 

 息を乱すこともなく、全てを回避していたホシノだったが、お互いに決定打を持たない状態では、弾を消費しないヒナに分がある。

 

「だから、私も本気出すね」

 

 ホシノのヘイローが黒く変色する。理性をそのままに、恐怖と神秘が増幅される。

 下手に生徒が近寄れば、すぐに気絶してしまうだろうほどの神秘と恐怖が、2人によって撒き散らされている。

 

 お互いが今にも動き出そうというとき。

 

 

 

「時間切れだよ」

 

 聞こえたのは、ビナーの声だった。




字数を犠牲に投稿頻度を召喚です。

あと、モチーフがjustitiaというだけで、審判鳥E.G.O.ではないのであしからず……
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