透き通った空に浮かぶ星 作:哲学の階司書補
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ビナーに鍛えてもらうことになったセイアだったが、まずは睡眠不足の解消から、として、睡眠記録を毎日提出するところから始まった。
ブルアカスリープ、というわけではなく、夢の中の世界で自分がどうしたか、ということを書き出すのがメイン。体力が戻っていないため、干渉せず、ただこれから起こることをただ見詰めた。
赤く染るキヴォトスの空。
終焉が迫り、世界が軋む音がする。
炎に包まれた式典の場。
阿鼻叫喚。苦しみがトリニティに蔓延する。
見知らぬ制服に襲われる自分。
その校章は髑髏と薔薇。迷いを持ちながら虚しいと考えは放棄された。
自分の手にあったのは、ボロボロの傘。
いつでも雨は降っている。
暗転。
雨が降っている。然し日は照っている。
水溜まりに映るのは、白いボロ布を纏い、傘を差す自分の姿。
悪夢で見た空崎ヒナが変貌した姿を幻視する。
恐怖に背筋が凍る。
呼応するように水溜まりには波紋が広がり、自分の姿がボヤける。
向き合う。自分自身と。
見る度に絶望していたあの景色も、己の身に降りかかる脅威も、変貌した風紀委員長の姿も。
嘗ての自分にとって恐怖し怯えるしか無かったもの。
これから自分が立ち向かい、乗り越えねばならないもの。
目を覚ました頃。傘は私の内にあった。
ビナーに聞いたところ、これをE.G.O.と言うらしい。自分の心、あるがままの姿が発現したもの。
その人だけの武器で感情によってより力を引き出せる。
これから訪れる困難に立ち向かう為の力。
この傘を手にしてから、酷く絶望に落ち込むことが減った。
1週間は様子を見るとの事で、セイアは自室で、ティーパーティーとして書類の処理を行っては、どこか嬉しげに傘を見つめていた。
そんな、いつものどこか憂いを含んだ表情とは打って変わって嬉しそうにしているセイアに、側近は揃ってソワソワしていた。
そして、E.G.O.の獲得を境に、セイアはナギサとミカ、2人との交流を少しずつ増やしていった。
「そういえば、セイアさん、最近はその傘をいつも持ち歩いていますね。日傘、という訳ではないようですが」
「晴れていても雨は降るものだよ。狐雨。ふふ、私にピッタリだとは思わないかい?」
ふわりと微笑むセイアに、ナギサは内心ギョッとする。
慈愛とでも言うべきだろうか、そんな表情を浮かべるセイアを見ることはほとんど無かったから。
笑みを浮かべることはあれど、どこか遠くを見ているような、そんな気がして。
「なになにー? ナギちゃんてば、そんなギョッって効果音が付きそうな顔しちゃってさ」
少し遅れてやってきたミカがナギサを揶揄う。ナギサは澄まし顔のまま心の内で驚いていたつもりだったが、バッチリ顔に出てしまっていた。セイアはあえて突っ込むことは無かったが。
「なっ……ミカさん! だって珍しいじゃないですか! セイアさんがあんな、可愛らしい笑顔してるの!」
つい興奮気味に話すナギサ。一方でちょっと引き気味なミカだったが、自分たち2人を見つめるセイアの顔は、説教臭くてどこか冷たさを感じていた普段のものとはまるで別物で。
「ほんとにセイアちゃん? いや疑ってはないんだけど……」
このとおり、あまりにも今まで空気が違いすぎて、ミカも結局驚いてしまっていた。
ミカさんだって失礼なこと言ってるじゃないですか! なんて、わちゃわちゃと幼馴染漫才を繰り広げている。
幼馴染という、強い繋がり。それに水を差すのは、と遠慮していた。
もし2人が、自分のように助けを求めた時、そのサインを見逃したくないから。
「最近頗る調子がいいんだ。2人とももっと密に交流を持ちたいと思ってね。体調を崩して、2人に負担をかけてしまうことも多かったし、これからは、生徒会長たちの1人として、もっと頑張らないと、と考えていたところだから」
「わお……びっくりするくらい前向きだぁ」
「ティーパーティーとしての結束が強くなったと思えば喜ばしいことですが……無理していませんか?」
特にナギサにはいつも心配をかけてしまっているな、と思わされる。迷惑も同じくらいにかけているだろうから。
その分、2人のことをこれからは助けていきたい。贖罪なんていうと大袈裟だけど。
ビナーとの出会いは、E.G.O.の発現以外にも、セイアに確かな影響を与えていた。