透き通った空に浮かぶ星 作:哲学の階司書補
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ゲヘナの風紀委員会ではアビドスとの合同訓練が行われていた。
日程の調整を任せられたアコ以外にはほぼ突然の布告だった為、少々混乱が生じたが、ヒナ以外のメンバーを何とか集めることが出来た。
合同とあるように、風紀委員会以外のどこかと一緒に訓練することになるのだが、その相手すらも知らされていないことで、不安や好奇心でザワザワとしていた。
「時間になりましたので、風紀委員会と、アビドス対策委員会による、合同訓練を開始します。簡単に私たちの自己紹介をしておきましょうか。こちらから、奥空アヤネ、黒見セリカ、十六夜ノノミ、砂狼シロコです」
マイク越し話すのはアヤネ。タブレットを確認しながら話を続ける。
「今回の合同訓練は、風紀委員長である、空崎ヒナさんの負担を減らすことが目的とされて行われます。皆さんがこの訓練で手を抜いた場合、それは風紀委員長の負担を増やすことになる、というのをお忘れなく」
思い切り圧をかけているのは不良達がゲヘナらしくしっかり強いせいで、ヒナ以外はほとんど抑止力になっておらず諦めを感じていると聞いていたから。というか、ゲヘナで秩序の側に立つというのが、そもそも変わった存在。
きちんと力をつけて、実績を作ってもらう。ヒナに頼り切りじゃなくても戦えるように。
「そして……私達アビドス対策委員会が教官となります。実力が分からないと納得いかないでしょうから、代表で1人、私達のうち1人を指名して、実戦形式での演習を行いましょうか」
力に重きを置くゲヘナだからこそできる、わかりやすい方法。力で黙らせられるのは楽だな、と考えていた。
風紀委員たちの視線は、自然とイオリへと集まる。なんとも言えない表情をしながら頭を搔くと、仕方ないな……と言い前に出る。
「誰を選んでもいいんだよね……なら、進行をしてるアヤネ。1人はなんか……目が怖い」
「はい、大丈夫ですよ。あと、シロコ先輩は闘志を抑えてください」
手に持っていたタブレットをノノミに渡すとガサゴソと刃の潰れたお手製偃月刀を取り出す。
「え……銃じゃないんだ…………」
「えぇ、私は後衛支援がメインなので、いざ戦うのは拠点へと潜入された時。ですから、近接武器で中距離にも対応、迅速に制圧が利くこれを運用しています」
イオリの武器はスナイパーライフル。レンジが特に長い銃であり、近接武器が得物というのに少し困惑していたイオリだったが、近付かれる前に仕留めればいいだろう、と、高を括っていた。
演習場に移動した2人をカメラを搭載したドローンがその様子を映す。
イオリは遮蔽物に身を隠し、一方アヤネは堂々と姿を晒している。
「(スナイパー相手にこの距離、しかも武器は偃月刀に腰に差したハンドガン。普通なら負ける要素が無い。それに、開始のタイミングはこっちに任されてる)」
妙な緊張を感じながらも、ふぅと息を吐き、アヤネに狙いを定め……撃つ。
読んでいたかのように偃月刀を振り下ろすと、カキィンと甲高い音を立て、それを軽々と弾くアヤネ。
「最近は事務仕事が少し多かったですけど、鈍ってなくて良かったです」
コツ、コツと、何事も無かったかのように歩いてイオリへと近づいていくアヤネ。撃たれれば弾く、ただその反復を続けながら。
身を逸らしても避けることは出来る。でもそれをしないのは圧倒的な実力差を思い知らせるため。
そもそも、距離を問わず戦車以上の火力で狙撃が可能なビナーとかいうやつに師事しているのだから、それに無傷では無いしギリギリではあるが、対応出来るアヤネに、ちょっと強い程度の生徒による攻撃など、脅威ではなかった。
「(無茶苦茶だろ……そんなの委員長でも…………いや、委員長なら出来るかも)」
イオリは内心、恐怖を通り越してドン引きであった。キヴォトスにこういう戦い方をする生徒がそもそもいないというのもある。フィジカルゴリラの延長といえばそうなのだろうが……
など考えていると、気付けばアヤネはすぐそこまで近づいていた。身を隠していた遮蔽物は、偃月刀にいとも容易く破壊され、苦笑いしつつ降参するイオリだった。
その映像を見ていた風紀委員達もしっかりと引いていた。同時に、まあ、これだけ強いなら教官でもいいか……とそこそこ納得もしていた。
実際に現場に出る風紀委員達には、それぞれに部隊ごとの戦い方が存在しているので、基礎能力向上のために、一人一人に必要なトレーニング内容を配布。
医療部やオペレーター達は、いくつかのグループに別れて、アヤネとエンドレス組手をすることに。拠点への侵入を許してしまった場合を想定するので、一対一ではない。が、ハンドガンと素手での格闘、偃月刀を振り回し広域攻撃を繰り出すアヤネに、もれなく全員ボコボコにされていた。当然ただボコボコにするのが目的ではなく、一連の組手での問題点や改善点をそれぞれのグループでレポートにして提出。後日アヤネから評価と更なる改善点、必要なトレーニングなどが纏められることとなった。
そしてヒナがいない時のメイン戦力となるイオリは……
高速で戦場を駆け回るシロコに一撃でも入れられたら開放される、地獄のような特訓を組まれていた。
オペレーターにアコが付き、たまに飛んでくるシロコからの攻撃でのダメージを回復するためにチナツがつくという、普通にやるなら過剰戦力な部隊。
しかし、擬似的な未来予知の偏差射撃と精密射撃の複合攻撃によるビナーのスパルタレッスンを受けているシロコは、相手の姿が見えていなかろうと、今の自分の位置を狙って攻撃される分にはほとんどの攻撃を回避出来るようになっていた。
高火力広域攻撃か、1寸の隙間もない弾幕か、それくらいでないとまともにダメージを与えることが出来ない上に、回避態勢からでも問題なく射撃できる、アビドスの切込隊長の名に相応しい実力を持っている。
それでもホシノの近接攻撃を絡めた散弾による射撃やビナーの柱を絡めた連携には敵わない。あと、ヒナの弾切れのない超火力も、反撃の隙を見つけられず体力切れになってしまう。
そんなシロコに漸く一撃を入れられたのは、開始から5時間半が経過しようという頃。
とても満足げなシロコと、それとは正反対に疲労に疲労を重ねたような3人であった。
それから何回か行われた合同訓練だったが、次の日の風紀委員のほとんどの目が死ぬ代わりに、しっかりと不良たちを制圧出来るだけの力を手にしていた。
特にイオリの成長は目覚しく、ほぼ単騎で制圧が出来ることから、第2の風紀委員長と呼ばれるほどに。
その結果、温泉開発部から公共の施設付近、というかそのものの場合は開発の許可を求める申請書が届いたり、美食研究会が比較的話し合いに応じるようになったり、ゲヘナ内の治安が多少改善されつつあった。