透き通った空に浮かぶ星 作:哲学の階司書補
いつも感想や評価、お気に入りにしおり、ありがとうございます!励みになります!
キラキラと太陽の光を反射する水面。裸足で歩くことを全く考慮されていない灼熱のプールサイド。数日前まで放置されていたとは思えない夏の景色を、ただジッと眺めているのはティーパーティーの1人、聖園ミカ。
「(今の私は、数日前までの汚れきったプールだ。そこにどれだけ綺麗な水を注いでも、直ぐに汚れちゃう。先生なら、このプールみたいに、透き通った私にしてくれるのかな)」
お供も付けずに、ただプールを眺める。タッタッタッと、足音が聞こえると、その方向に向き直る。
『ごめん、遅くなっちゃった』
「ううん、今来たところだから」
シャーレの先生。ミレニアムをはじめとして、キヴォトスでの問題を解決して回る、外から来た大人。尊敬できたり出来なかったりするエピソードをたくさん持ち、関わった生徒からは、概ね好印象を受けている。
『話があるんだよね? ミカ』
「うん。それにしても、随分と綺麗になったよね、このプール。ちょっと前までかなり汚れてたのに。秘密のプールパーティでもしたりするのかな?」
『ミカも参加する?』
「魅力的な提案だけど、遠慮しとこうかな。早速なんだけど、ナギちゃんから取引を提案されなかった? 裏切り者を探して、とか」
その質問に対し、沈黙する先生。しかし目を逸らしたりはせず、しっかりとミカを見つめている。
「沈黙は肯定と見なすね。私が教えてあげる、トリニティの裏切り者が誰なのか」
『私は私のやり方でやる。って答えたから、その情報は必要ないかな』
「それは補習授業部に情が湧いたから? それともトリニティのことは見限っちゃったかな」
『私は生徒の味方だから』
「…………そっか、誰の味方でもあるけど、誰の味方でもないんだね。でも、ナギちゃんから余計なちょっかいをかけられないように、裏切り者について教えておくね。調査が進んでないって分かったら、何するか分からないし」
トリニティの裏切り者。ナギサは疑心暗鬼に陥っており、少し前にセイアが何者かにより襲撃を受けており、ホストがダメなら次は自分だろうと考えている。裏切り者は居るかどうかではなく、居ることは既定路線となってしまっていること。
そして、補習授業部のメンバーにかかっている疑惑について。
ハナコは2年になってからの奇行、突然成績を落としたのもトリニティを裏切るから、進学する必要がない、とも取れる。
コハルは特に何も無く成績が悪いだけだが、副委員長のハスミがかなりのゲヘナ嫌いであることから、正義実現委員会への人質のようなもの。
ヒフミはブラックマーケットへの出入り。
アズサは転校元の学校も素性も何もかも不明。
ミカがアズサの必要書類を偽造し、ある意味では自分も裏切り者であるということ。
アリウス分校の成り立ちについて。エデン条約がもたらす可能性、エデン条約機構という巨大な戦力を得ようとしているティーパーティーもトリニティの裏切り者足り得るのでは、という話。
そして……
「先生はセイアちゃんって覚えてるかな。狐耳の」
『うん、覚えてるよ』
「セイアちゃんはね、昔は身体が少し弱かったの。口うるさいし説教ばっかりだし、言い回しはいっつも難しくて文句言ったりしてたけど。ある日を境に、前線に立つなんて言ったり、妙なボロ傘を持ち歩きはじめたり」
『それはどうして?』
「ある日、セイアちゃんがティーパーティーに1人の大人を連れてきたの。素性の知れない、黒衣を纏った、吸い込まれるような黒い目をした大人。名前は、ビナーって言ったかな」
『ビナー……』
「セイアちゃんが連れてきたビナーこそが、今のトリニティを内側から変えてしまってる怪物。最近は正義実現委員会にも手を出してるみたいだし。それにおかしいと思わない? 身体が弱かったセイアちゃんが一晩でそんな変わっちゃうなんて、なにか危ないことをしたに違いないよ」
『もしそうだとしたら、放っておけないね。ハスミ達も危ないかもしれない』
「だから……補習授業部のみんなをビナーから守りながら、出来れば情報を集めて欲しいな。私はセイアちゃん達が近くにいるから、探りを入れたらきっとバレちゃう」
『……わかった、できる限りの事はしてみるよ』
ミカの思い通り、先生にティーパーティー、そしてビナーへの警戒心を抱かせることに成功した。
徐々に退学が迫る補習授業部、わざと低い点数を取るハナコ、ティーパーティーに疑いの目を向けさせるミカ。そして生徒に危害を加えている可能性のある謎の大人、ビナー。
先生は様々な問題を抱えながらも、生徒達と共に前に進むしかない。
ミカのことを完全に信用することは出来ないが、話が事実であれば、正義実現委員会(補習授業部を卒業するまで復帰できない)である、コハルから何かしら情報を得られるだろう。ということで、先生は、コハルと二者面談を行うことにした。
「大人の人が個室に女子高生を連れ込むなんて……えっち! そんなのダメ! 死刑!」
『まあまあ落ち着いて、一応、真剣な話だからさ』
「そ、そんな言い方されたら、私がふざけてるみたいじゃん……」
いつもの調子なコハルだったが、先生の真面目な空気にしゅんとしてしまう。
『コハルが正義実現委員会にいた時に、私以外の大人って見たことある?』
「え、お、大人? えぇっと…………真っ黒な人がいた気がする。私は話してないけど、ツルギ委員長とハスミ先輩が話してたような」
『話してた内容は分かる?』
「盗み聞……じゃなくて、偶然聞こえただけ!」
『うん、わかってるよ』
「湧き出す激情がどうとか、水瓶から溢れたとか、感情が己を飲み込むとか」
『凄く抽象的だね』
「でも、ハスミ先輩はそれでいいんでしょうか、って返してたから、悩み事の相談とか?」
ビナーの言葉は比喩を多用し、時に雲を掴むような話もするため、断片的に聞いただけでは、さっぱりなんの事か分からない。そのせいで、2人して頭を悩ませることになった。
そして、なかなか帰ってこないコハルを探しに来たハナコに、2人して揶揄われる。それに対して、案の定顔を赤くしながら騒ぎ散らかすコハルだった。
邂逅しそうで邂逅しない……!