透き通った空に浮かぶ星   作:哲学の階司書補

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遅くなりました、申し訳ない……!

今回忙しかったのと、かなり難産だし、正直もっと書けた題材だったんですが、お待たせしているというのもあり、また短めですが上げさせて頂きます

また、いつも感想や評価、お気に入りにしおりありがとうございます!励みになります!


シャーレの先生と私の先生

 ミカからの密告の翌日。

 私は、ティーパーティーのセイアからの呼び出しを受けていた。

 

 ミカ曰く、トリニティを内側から変えている怪物、ビナーを連れてきたのが、セイアだという。

 ビナーを連れてくる少し前、突然体調が改善された、と聞くとなにか危ない実験や薬なんかが思い浮かんでしまう。

 しかも、体が弱かったのが急に良くなるなんて、いくらキヴォトスといえど普通では無い。

 でも、私が初めてセイアと会った時から、特に体が弱そうな様子もなかった。ミカが嘘をついている可能性もあるが、出来ることなら生徒の言うことを信じたい。

 なので、この機会に、セイアに昔身体が弱かったのが本当か聞いてみることにしよう。

 そう考えながら歩いていると、目的の部屋の前に辿り着く。

 

「どうぞ。入ってくれたまえ、シャーレの先生」

 

 扉にノックをすると、中からセイアの声が聞こえてくる。

 中に入ると、そこにはセイアの他に1人、黒を纏った大人がいた。

 ミカから聞いた容姿と一致している、生徒に危害を加えている可能性がある大人。

 

『お前が、ビナー……!』

 

「おや、こうして逢うのは初めてというのに、随分と感情を昂らせているね」

 

「あぁ……シャーレの先生…………」

 

 つい語気を強めてしまう。2人の反応は真反対とも言えるもので、ビナーは気にも留めない様子。一方でセイアは、眉を下げ、少し悲しげにも見える。

 

「その激情は果たしてお前のものなのだろうか。今の私は表舞台に立ち踊ることは稀であるから」

 

 ビナーの言葉は、すとんと心に落ちてくる。ミカが飲み込むような、と言っていたのが何となくわかった気がする。そして、自分がビナーという存在に圧倒されているのも。

 

「お前の心はお前のものなのだから。誰かがその水面に波紋を落とすことはあっても、その水瓶はお前の手を離れない」

 

『…………』

 

「epoché. 一切の判断を捨てて、お前の目で、ただ私を見詰めてごらん」

 

 ミカの言葉に心を揺さぶられすぎていた。すっと冷めてきた頭でそれを理解する。

 ビナー。ミカから聞いた事以外には、ほとんど何も知らないじゃないか。ただ、言い回しが難しくて、理解するまでに時間がかかるだけ、そこはセイアとそこまで大きく変わらない。

 

『……ごめんなさい、冷静さを失ってた』

 

「ふぅ。よかった、シャーレの先生が話を聞いてくれなければ、今回呼び出した意味が無いからね」

 

 ビナーからの返事は無かったが、セイアはどこか安心したような表情でこちらを見る。余計な心配かけさせちゃったかな。

 

「今日シャーレの先生を呼んだのは、補習授業部の調子について聞きたかったのと、私の先生、ビナーと会わせる事。このふたつだね」

 

 私の先生。なるほど、だから私のことをシャーレの、と呼んでいたんだ。ひとつ疑問が解消されてスッキリした。なんというか、独特の距離感だったから。

 

『補習授業部は、ヒフミがしっかりとリーダーをしてくれてるおかげで、全員合格もきっと出来るよ』

 

 過去問から模擬テストを用意するというアイデアはヒフミが提案してくれなければ試すこともなかっただろうし。

 

「それなら良かった。ああ、ひとつ安心するといい。もし3度試験に落ちても、厳重注意と謹慎処分になる。ナギサは退学させると言っているが、あれはハナコに対しての脅しのようなものでね。飽くまで対等な関係でエデン条約に臨みたいというのに、トリニティに汚点は残しておけない」

 

 文武両道を謳っているからにはね、とつけ加えるセイア。ティーパーティーのメンバーでこうも言っていることが違うと、少し困っちゃうな。

 出来ることなら全員のことを信じたいけど……

 

 

「こう言ってしまうと信じにくいだろうが……身も蓋もない話、私がティーパーティーのホストであるから。ナギサやミカが退学にする、と決めても、私が許可を出さなければ実行されない」

 

『セイアがストッパーになってくれるのなら、それは安心できるね』

 

 まだセイアのことを信じきれてるわけではないけど、最後の防壁にはなってくれる、のかな。

 

「ただ……」

 

『ただ?』

 

「白洲アズサ。彼女はトリニティの敵対勢力と通じている可能性がある」

 

 ミカから聞いた、アリウス分校とアズサの関係。そして、書類を偽造してアズサを入学させたこと。これをセイアに話すかどうか。

 

「だから、彼女のことをよく見ておいてあげて欲しい」

 

『分かったことを逐一報告とかじゃなくていいんだ』

 

「大きな流れには逆らえないものだからね」

 

「然し、人は流れの中に居ることを知らないのだよ」

 

 ここまで沈黙していたビナーが、急に口を開いてびっくりする。

 大きな流れ……何のことを指してるのかは分からないけど、アズサのことは気にかけた方が良さそうだ。

 セイアからの用事はひと段落着いたようだし、この際だし気になっていたことを聞いてしまおう。

 

『そういえば、セイアが昔身体が弱かったって言うのは本当?』

 

「それもミカから聞いたのかな。過去の話だから構わないが、あまり言いふらすような事でもないのだけど、弱かったよ。私の持つ特殊な力。まあ、シャーレの先生ならいいか、端的に言えば、未来視。予知夢のような形でそれを視ることが出来て、夢の中ならば、好きに動くことが出来る、時間も場所もね。しかし……夢の中で触れた恐怖により、酷く心を弱らせてしまってね。それを解いてくれたのが、私の先生であり恩師、ビナーだよ」

 

『そういう経緯だったんだ。ビナーはお医者さんってこと?』

 

「いいや、私はただ空に浮かんでいただけ。其れを見詰めたのはセイアさ」

 

『う────ーん…………?』

 

 結局分かったのは、セイアは自身の力で見た未来でトラブルに遭い精神的に衰弱。それを助けてくれたのがビナーであったことだけ。

 悪い人ではなさそうなんだけど、あまりにも何も分からなさすぎて信用も出来ない。

 ミカの情報なしに、自分の目でその姿を捉えて、整理したとしても、イマイチ掴みきれない存在だった。




大人だから、自分の目で見詰めるよ
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