透き通った空に浮かぶ星 作:哲学の階司書補
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純心無垢な善人。それがビナーから見た先生の印象だった。他になかなか見るタイプではない。とことん利他的で、ある意味で破滅に近いタイプの人間。
都市にいた頃には、まず出会うことがないであろう人種だ。
ビナーは、ふと気になり、先生に少しかまをかけることにした。
「ああ、そう言えば。生徒を酷く痛めつけた事はあったな。その身を鎖で縛り何度も切り付ける。勿論、苦悶の表情を浮かべていただろうね」
『…………は?』
少しの困惑、そして純粋な怒り。ころころと変わる先生の感情につい楽しくなってしまう。
そしてこのビナー、嘘はひとつも言っていないが、事実を正しく伝えてもいない。
ヘイローを持つ存在と持たない存在。その力の差というのを、先生は知ってしまっているから。
ビナーがヘイローを持たざる者でありながら、キヴォトス最強クラスの生徒複数人だろうが歯が立たない、圧倒的な強者であるなんて、想像が付くわけが無い。
故に、生徒の善意に漬け込んで、酷い事をしている。しかも、何度も傷つけたとも取れるような言い回し。
『セイア、今すぐビナーから離れて!』
先生はまず生徒の安全を優先する。なんて優しいんだろうか。なんて愚かなんだろうか。
「そんなところ無理だよ、なんて息を荒らげながら懇願されてしまっては、つい可愛がってしまうのも無理はあるまい?」
その言葉に先生は最悪の想像をする。
一方でセイアは、何となくビナーのしていることを理解して、酷い人だ……と独りごちる。
その独り言すらも先生には悪い影響を及ぼす。
『っ……お前は、お前はそんなに酷いことを、子供相手に!』
ガタン、と椅子を倒しながら立ち上がり、ビナーに掴みかかる先生。
その力はとてもか弱く、自分以外の誰かのために戦った人として浮かんでいた同僚とのあまりの差に、ため息を吐く。
しかし、そうであるが故に、とても興味を持った。
「物事の一側面だけで熱くなってしまうのは危ういな。然し、顔も知らぬ相手のためにこれ程の激情を駆ることが出来るのは、とても稀有な事だね」
「先生がそう誘導したからでしょうね」
掴まれたまま、何事もないようにセイアと会話するビナー。
自分がそこに居ないような感覚になり、少しずつ先生は頭が冷めていく。
物事の一側面。誘導。
「私が説明役なのは納得がいかないが、まあ仕方ない。シャーレの先生。あなたと同じく先生、ビナーはヘイローを持たないが、この世界の誰よりも強い力を持っている。それ故、自ら生徒たちの訓練に付き合うことがある」
『そんなことが、ありえるの……?』
ひたすらに困惑が先生の頭を支配する。アリスの一件のこともあり、どう考えてもヘイローを持たない人間が、ヘイローを持つ生徒たちに敵うはずがない。それがこの世界の常識だから。
「無ければ私が力を使いこなすまで至らなかったさ。物事の一側面。先生は逃げ場を無くすような戦い方を好むから、時に相当難度の高い立ち回りを要求することがある。故に、そんなところへの攻撃は避けられないよ、という意味の言葉となるわけだね」
『確かに、それなら納得は行くけど……』
何事も無かったかのように優雅に紅茶を飲んでいるビナー。彼女が本当に生徒たちに勝るだけの力があるのか。それを測りきれない先生は、疑いを持ちつつ、不思議そうにビナーを見るしか出来なかった。
『とにかく、生徒たちに酷い事はしてない……って事でいいのかな』
「さて、どうだろうか」
『………………』
肯定すれば話が終わるものを、わざわざ含みを持たせて答えるビナー。
「酷い事、という曖昧な言葉の意味が、意味もなく傷つけることならば、していない。と答えてもいいだろうね」
なんとも微妙な空気が3人の間に流れる。
「はぁ……先生、会話を楽しむのはいいが、あまり苛めないであげて欲しい。そもそも先生の存在を測りかねてるだろうに」
「ふむ……それはすまなかったね。先生、お前との会話は良いものだった。またゆっくりと時間を持てるのを楽しみにしているよ」
『あー……うん、そう、だね』
ただ弄ばれていただけというのが分かった先生は、酷く疲れた様子で部屋を後にするのだった。
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