透き通った空に浮かぶ星 作:哲学の階司書補
「ああ、酷い……一応、救護騎士団に要請を出したから死人は出ないだろうが、どれが誰の内臓かわかったものでは無いね」
ぬちゃ、ぬちゃと水気のある足音を立てながら抱き合いながら号泣していたナギサとミカのところに近づくセイア。
「ミカ……ティーパーティーホストとして、君に告げる。3日間の生徒会室の掃除番。それが君への罰だ」
「は? ……まあ、どうせそれだけじゃないんでしょ?」
「察しがいいね、ミカ。次は君の責務だ。自身の派閥をしっかりと統制すること。ココ最近、面倒なちょっかいのかけられ方をしていたのでね。力でも恐怖でも説得でも、好きに統制してくれればいい」
「それで、他は……?」
「いや、ない。これで以上だよ」
泣き腫らしたミカに淡々と告げるセイア。
ナギサは何を言うでもなく頗る嬉しそうにミカを抱きしめる。
「優秀な人材を捨て置くほど私は愚かでは無いし……それに、言っただろう?」
「あ……ただのお茶会」
数日前の、ほとんど進展のなかった会議を思い出す。なんでもない会話だった。ミカも、セイアがそれを本気にしてるなんて思ってなかった。
「エデン条約の調印式の間は少し大人しくしてもらうことにはなるだろうがね。調印式に参加しては、反対派が多いミカの派閥からの印象は良くないだろうから」
セイアは、少し考える素振りをした後、紅茶を飲んでいるビナーの方を向く。
こういう人だと言うのは何となくわかっていたが、実際にこうも無茶苦茶してくれると、頭が痛くなる。
「先生……好きにしていいとは言ったが…………」
「ああ、興が乗ってしまってな。つい遊びすぎてしまった」
慌ただしく救護騎士団が、何も言わずに怪我人たちを運び出していく。
「死というものは、キヴォトスでは見えにくい概念、なんて思っていたけど……ここまで濃密な死を肌で感じるなんてね」
「おや、視えていなかったか」
「先生のことは、正直なところ良くは視えない。ナギサを助ける方法として最善であった。ただそれだけだよ」
仕事が進むにつれて、部屋の中の死が薄まっていく。
少しずつ足音が減っていき。
「ヒッ」
泣き腫らし、ふと冷静になったナギサは、気絶した。
少し前までただのセーフハウスだったのに、臓物は片付けられたとはいえどこもかしこも真っ赤になって、血の匂いもとても濃いのだから、当然の結果だった。
仕方なさそうにミカはナギサをお姫様抱っこして、セイアと共に、ひとまず生徒会室に戻るのだった。
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一方その頃ゲヘナでは……
「イブキ、イロハ、遊びに来たよ。あと、マコトも」
「あ! ヒナ先輩だ!」
「ああ、風紀委員長。今日も助かります。コーヒーはいつもの棚なんで」
ゲヘナの風紀委員長、ヒナの姿は万魔殿にあった。
普段は(主にマコトのせいで)敵対気味な組織のトップが、ある意味敵地ど真ん中にいる理由。それは……
「出張だと! 言っている! だろう! 書類の山を押し付けてやっているというのに淡々とこなしてはイブキと遊んでるし……ぐぬぬぬぬ!」
いつもの嫌がらせであった。長期間ヒナを拘束するべく、エデン条約への賛同を理由に関連書類の全てを任せていた。ついでに現場に出れないよう、機密書類というのを理由に、作業場を万魔殿にした上で。
しかし、風紀委員がそれぞれアビドスとの合同訓練によって強化されているがために、そもそもヒナが休んでいても大きな問題は無い。
ハスミにデカ女呼ばわりした時にマジで死ぬかと思うくらいにビビり散らかしたり、ヒナへの嫌がらせがイマイチ上手くいかなかったりで、シナシナになっているマコトだった。
しかもヒナがすぐ仕事を終わらせるせいで、イブキと遊ぶ係を取られてしまっている始末。
「イロハ、その書類、半分貰うわ」
「ああ、じゃあそこの資料使って下さい。私はこっち側進めるんで」
「わかった。1時間もあれば済みそうだから、ちょっと待っててね、イブキ」
「このマコト様を無視して仕事するなぁ!」
「マコト先輩、いつもより元気いっぱいだね!」
ずっとこんな調子で、たまには賑やかな中仕事するのもいいな、と思うヒナ。
仕事量が減って、ヒナがいる間はそんなサボらなくても良さそうだなーと、実は作業スピードが向上したイロハ。
そして、真剣な表情で黙々と作業をこなしていくヒナやイロハの表情を見るのが好きになってきたイブキ。
和やかな空間で1人しょぼくれてるマコト様。
「(キキキッ、空崎ヒナめ、絶対に目に物見せてやる! あの、えーっとアリさんマークのなんとかみたいな学校と秘密裏に結託しているのだからな! エデン条約なんぞ、このマコト様のキヴォトス征服計画の踏み台に過ぎんのだ!)」
それから1時間ほど経ち、ヒナの仕事が一段落した頃。
「ねぇイブキ、今から新しく出来た洋菓子店に行こうと思うのだけど、一緒にどう?」
「洋菓子店……あ、プリン屋さん!」
「よく覚えてましたね。偉いですよ」
褒められたことと好物のプリンを食べに行けることに飛び跳ねて喜ぶイブキ。
ヒナとイロハはそれを微笑ましげに見ながら、両側から手を繋ぐ。
「そこまで遠くないですし、今日は徒歩にしましょうか」
「お散歩だー!」
まだ仕事を終えていないマコトは当然留守番となり、プリンを幸せそうに頬張るイブキの写真がヒナから10枚以上も送られて来て、執務室で1人悶えるのだった。