透き通った空に浮かぶ星 作:哲学の階司書補
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残るアリウススクワッドのミサキは、順調に事を進めていた。巡航ミサイルは空中で爆散してしまった為、予定よりも被害は軽微だが、それでも混乱を引き起こすには十分で。
先生の指揮もあってか正義実現委員会の一般委員やシスターフッドに想定よりも抵抗されているが、委員長や副委員長が出張ってこなければ押し切れる、そう確信していた。
不安要素と言えば聖徒会の複製が中々送られてこないことと、アツコとの通信が上手くいかないこと。
前者はあの人形がしくじったと考えられるが、後者は万が一だが、トリニティやゲヘナに捕まった可能性があり、それがミサキの心をジワジワと蝕んでいく。
ザッザッザッと複数の足音が遠くから聞こえてくる。敵か味方か、どちらにせよ増援だろう。
その姿が見えてくると、ヘイローが歯車で、脳みそが露出していて、覚悟が決まった服装をした集団が、気を失ったアツコをロープでぐるぐる巻きにして掲げながら歩いている。
「あれは……何?」
ユスティナ聖徒会の姿は確かあんな感じだったと記憶していたが頭部がどう考えても別物。
アツコが捕らえられているが、数が多すぎて、今の戦闘を脱しながら仕掛けるにはリスクが大きすぎる。
そして、その珍妙な集団の最後尾には一つ目の仮面を付けた二人組。恐らくヒヨリから通信があった敵対勢力の仲間だろう。
ジジッと誰かからの通信が繋がる。その相手は名乗ることなく、聞こえてきたのは知らない声。
「……実さ……たしと……ら崎ヒナ……いるだけ、先生をきっかけとして」
「先生……やはり…………」
そして、もう1人はサオリの声だ。
恐らく敵との会話を情報として流してくれているのだろう。それを察したミサキは自分のマイクをミュートにし、それがバレないよう協力する。
「先生が居なければ、私とヒナによる連合は作られなかっただろうね」
今も指揮をしている先生、それがやはり簡単なはずのこの作戦を困難にしている元凶。それさえ排除してしまえば、話は簡単なはず。
「今なら……狙えるか」
意識を戦場へと戻したミサキは、標的を先生に合わせる。
アリウスの兵士達に指示を飛ばし、敵勢力の意識に集めさせ……
「……そこ」
アリウスの生徒が少しずつ倒れ、トリニティ側が優勢になり始めたその瞬間。完全に先生の死角からミサキは凶弾を放つ。
勿論、ロケットランチャーの発砲音を隠すことは、いくら乱戦状態といえど不可能だ。
しかし、爆撃範囲から先生を連れ出すには、あまりに距離を開けすぎていた。今が攻め時だと誘導されていたから。
「先生!」
アロナが悲鳴を上げて緊急でバリアを展開する。連続で降り注ぐ爆弾は、確実にバリアを消耗させていく。
「あと一撃はいけるかな」
ちらりとアリウス生と正義実現委員会、シスターフッドの様子を見ると、アリウスが劣勢ではあるものの、戦線が大きく崩れるほどでは無い。ミサキの相手をするにはもう少し時間がかかるだろう。
「(複製が来ない以上、私が戦況を変えるしかない)」
リロードを済ませ、もう一度照準を合わせる。
そして、もう一度、放つ。
パリンとガラスが割れるような音と共に、先生はボールのように吹き飛ばされて地を転がる。しかし、追い討ちのように降り注ぐはずの爆弾が突如空中で弾けた。
「やっとお仕事の時間ですね〜」
ミサキの真上から降ってきた声。危険を察しそこから飛び退くと、落ちてきたのは1つ目の仮面を付けた1人の生徒。
「その仮面……」
アツコを拐った集団の仲間であることは間違いないだろう、と踏んだミサキは、増援を呼ばれる可能性を考慮し、アリウス生に一時撤退を命じる。
「うーん、帰っちゃうんですか?」
どこか残念そうな一つ目の仮面は、撤退するアリウス生の方向へ跳躍すると、空中からの斉射を行う。
トリニティには警戒していたが、空中から突然機関銃の斉射が降ってくるとは思うはずもなく。凶弾に一人、また一人と倒れていく様をみて、ミサキは舌打ちを打つ。
先生のいた場所を見ると、シスターフッドのヒナタが先生を背負い、既にその場を離れていた。何もかもが上手く噛み合わない。
このまま大人しくやられる気はないので、ひとまず身を隠す為に撤退をはかろうとするが、後頭部への重い打撃を受け、呆気なく意識を失ってしまった。
「ん、これで全員回収」
「なんというか、あんま仕事した感じしないわね……」
輸送中に意識を取り戻しても暴れられないよう、ロープでぐるぐる巻きにだけしてから、猫耳のほうの一つ目仮面が背負い、その場を離れるのだった。
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ヒナタによって先生が救護騎士団へと運び込まれ、なんとか一命を取り留めた頃、セイア、ヒナ、アビドスの5人、アリウススクワッドの姿はセイアの自室にあった。
「アビドス復興委員会、そしてヒナ風紀委員長。今回の作戦への協力を改めて感謝するよ」
アリウスの4人はしっかりと意識を刈り取られているので、一つ目の仮面は外され、アビドスの面々は素顔を晒している。
「おじさん達からしたら、トリニティとのパイプが欲しかったタイミングだったから、渡りに船だよ。まあ、そうじゃなくてもヒナちゃんからのお願いだったら、応えない理由もないしね」
「ホシノ……最近エデン条約でバタバタしてて、ホシノニウムを摂取できてなかったから、こうやって会えて嬉しい」
人前ということを気にせず、ベタベタとホシノにくっつくヒナ。E.G.O.で消耗した分のエネルギーを補充するためということらしい。そしてホシノはホシノで、アビドスでの諸問題が解決し、対策委員会改め、生徒会と同じ権限を持つ復興委員会の委員長として、手続きやらなんやらで結構疲れ気味だったこともあり、同じく人目を気にせず思いっきりヒナを吸っている。
「ま、まあ、おふたりのことは置いておいて、この後はどうされるんですか?」
ETOによる産物はヒナが私兵へと変化させてしまった為に解決したが、エデン条約はアリウスによって勝手に調印されてしまったまま。急な話だったのもあり、ここまでの展開しか聞かされていなかったアヤネは、セイアに問いかける。
「お互いの学園の代表が、聖堂の前でエデン条約の調印、及びエデン条約機構の設立を宣言する。ただ、万魔殿の議長は、乗り込もうとしたタイミングで飛行船が突然爆発したせいで、不貞腐れてしまったらしい」
「ああ、その件なら心配しないで。マコトから『キキキキキ、もう知らん! マコト様は寝る! 今日の残りはお前がゲヘナの代表とする! 調印でも何でもすればいい! それはそうとトリニティとアリウスの連帯責任として飛行船代くらいはぶんどってくるように!』と、一日議長っていう不名誉な仕事を数十分前に電話で託されたから。私が代表として調印出来るはず」
流石に可哀想に思ったのか、イロハも3人分のプリンを買ってきたり、イブキもマコトのことを褒め倒していたり。
ヒナも、終わったらトリニティの新作プリンでも買って帰ろう、と珍しくマコトを気にかけるほどだった。
「まずは聖堂前の広場の混乱を治める所から始めようか。アビドスの5人は万が一に備えてアリウスの監視を頼む」
「すぅ〜〜〜〜〜……あ、監視ね、了解〜」
別れる前にヒナを思いっきり吸っているホシノのことはあまり気にせず、他の4人も頷く。
そしてトリニティとゲヘナ、ふたつの学園の代表は、条約を調印すべく、部屋を後にしたのだった。
ぬるっと死にかける先生、可哀想。