透き通った空に浮かぶ星   作:哲学の階司書補

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サオリの迷い

「おはよう、随分とお疲れだったようだね」

 

 気付けばまた眠ってしまっていたサオリが目を覚ますと、そこはきらびやかな部屋ではなく、普通の教室。椅子に座らされていて、さっきまでと違うのは拘束が解かれていること。直ぐに普段腰に提げているライフルを手に取ろうとする。内心、武器は取り上げられているだろうと思いながらも。そこに無いだろうと思っていた銃は自然に手に収まった。

 理解が追いつかない。

 

「これから君たちをどうするか、トリニティのトップである私と、ゲヘナの事実上トップであるヒナ、協力者であるアビドスのトップ、ホシノ、この3人で会議する。何か意見があれば申し出るように。他の3人は既に納得しているから、後はサオリ、君の同意を得られれば会議を開始しよう」

 

「…………」

 

 サオリが横を見ると、アツコも、ヒヨリも、ミサキも諦めと同時にどこかこの会議の結果に希望を抱いている、そんな様子で椅子に座っていた。

 全ては虚しいと知っているのに。いや、もう抵抗することすらも虚しいのかもしれない。3人が救われるのなら、何かこれで変わるのなら、それでいいのかもしれない。それに、どうせアリウスに戻ったとしても、彼女に殺されるだけ。結局、サオリに残されたのは諦めだった。

 

「ああ、もう好きに裁いてくれ」

 

「では会議を始めよう。まず、アリウスは広義においてトリニティである。これを前提に話を進めていくが、異論はあるかな?」

 

「それだと今回の騒動はトリニティはゲヘナに危害を与えた、ということになるけれど」

 

「ああ、エデン条約機構はゲヘナトリニティ間の問題に介入できる。これを有効活用しない手はないだろう」

 

「風紀委員会だけでも十分手は足りてると思うけど。その後はどうするつもり?」

 

 アリウスの制圧はゲマトリアがいようとE.G.O.持ちの3人で既に事足りている。アリウスの処遇を決めないことには、動いたとしても持て余すだろう。

 

「アリウスの相手は大体おじさん達がやったから、トリニティやゲヘナからの印象はそこまでだろうけど、問題は逆だよね」

 

 妙にヒナと距離が近いホシノが発言する。エデン条約調印のための打ち合わせの時からそうだったので、最早セイアは気にしていない。

 

「アリウスはゲヘナとトリニティ両方への憎悪を植え付けられている。ただ制圧するだけだと反発による暴動は避けられないでしょうね」

 

「アズサのように分かり合えるならいいんだが……まあ、全員にそれを強いるのは無理があるだろう」

 

「そこで、アビドスの出番って事だよね〜。希望者はアビドスが受け持つよ。生徒も増やしたいところだったしね。転校手続きはちょっと面倒だけど」

 

 トントン拍子で話は進んでいくが、アリウスから特に意見が上がることは無い。そもそも、そういう習慣がないから。

 

 

「私たちスクワッドはどうなる。先生に重傷を負わせ、巡航ミサイルによって調印式に混乱をもたらした」

 

「シャーレの先生の件は必要事項、巡航ミサイルは少し低空飛行してしまった花火。その程度の話で、大きな問題はないが……」

 

「1人先に青空の下を歩いたアズサや、今まで憎悪の対象として強く教えられたトリニティやゲヘナで共同生活を送ることに、あなた達が耐えられるかどうか、ということ」

 

「君たちがスクワッドである事は公表しないが、情報統制を行うつもりは無い」

 

「おじさんはアビドスに来るのをおすすめするけどな〜。とりあえず人目を気にせず生きれるし、おじさん達は人手を求めてるからね。誰かに頼られる経験ってのも大事なんじゃない?」

 

 アリウススクワッドの4人は顔を見合わせる。

 

「私は、アズサと……ううん、アビドスに」

 

 まず最初に口を開いたのはアツコだった。

 

「姫……じゃあ私も同じく」

 

「き、きっとトリニティやゲヘナよりは苦しまずに生きられますもんね……ちょっとあの人の目は怖いですけど…………」

 

 ミサキ、ヒヨリと続く。

 

「私は……」

 

 しかし、サオリは言い淀む。自分もついて行って良いのだろうか。自分がリーダーをしていなければ、自分が決断をしなければもっと上手く行ってたんじゃないか。そんな後悔が頭の中を巡る。3人から離れ、ひとりいた方が、迷惑をかけることも無いのかもしれない。

 

「今結論を無理に出す必要はない。少なくとも、アリウスをゲマトリアから解放するまでは時間があるさ」

 

 いつもリーダーとして率先して決断するサオリが、こうも悩んでいる姿を意外に思う3人。どれを取っても悪いことにはならないというのに。

 

「サオリ……ううん、サッちゃん。我儘を言うなら私は一緒に居たい。でも、私たちの事は気にせず、決めていいんだよ。今までサッちゃんが私たちのために決断してきてくれたことに、とても感謝してる。だから、今は自分のために決めて欲しい」

 

 アツコはそう言ってサオリを抱きしめる。何時ぶりだろうか、人の温かさを感じるのは。やるかやられるか。ずっとその二つに一つの世界で生きてきたから。

 




次回は補習授業部の予定
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