透き通った空に浮かぶ星 作:哲学の階司書補
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少し時間は遡り、混乱に包まれている古聖堂前の広場。
空中で突如爆発した巡航ミサイル。その爆発音は補習授業部が集まっていた教室にも届いていた。
「なになに!? 爆発音!?」
「花火……ではなさそうですよね」
「方向は…………古聖堂の方ですね」
「っ……先生がいる場所!」
ミカが捕らえられた後に起きたこの爆発、思い当たるのはアリウスしかない。そう判断したアズサはかなり焦った表情で教室を飛び出る。
「アズサちゃん!?」
ヒフミが手を伸ばすも届かず、3人はその姿をただ見送ることになる。
「そうよ先生よ! エデン条約の調印式に出てるんだから、爆発の近くにいるかも!」
ハッとアズサの行動の理由に気付いたコハル。
「なら、アズサちゃんは先生を探しに?」
「…………私達も探しに行きましょう。動かなきゃ、情報が少なすぎます」
ヒフミとコハルは頷くとハナコと共に教室を出ていった。
3人が校舎を駆けていると、高身長で黒い服を着た人とすれ違う。
ハナコはそれに違和感を抱き2人を引き止めて振り返るが、ちょうど角だったこともありほんの一瞬しか姿は見えない。
この学園で黒い制服といえば正義実現委員会だが、今は調印式の真っ只中。しかもこの周辺で他の正義実現委員とは出会っていない。
それらの状況からハナコが導き出したのは、すれ違った人物がビナーである可能性。
トリニティ屈指の実力者であるミカすらも退けたという力を持ちながら、ヘイローを持たない謎の大人。
危険な相手なのは間違いない。そんな相手に近づくのに、2人を連れていくのか。それを即座に考えた結果、ハナコは2人には引き続き先生を探してもらい、ひとりビナーの後をつけることにした。
「(こっちは確か聖堂の裏口……一体どこに向かおうとしてるのかわかりませんね……)」
少し距離を置いてビナーを尾行するハナコ。
ビナーの素性を知らないこともあり、どこに向かっているかさっぱり予想がつかない。
「(これは、地下への入口? 聖堂の地下にはカタコンベがあるとは聞いたことがありますが……)」
道に迷ったり、考えたりするでもなく、まるで目的地があるかのように進んでいくビナー。すると、明らかに周囲の雰囲気が代わり、迷宮を思わせるような複雑な通路が姿を見せ始める。
そんな中、ビナーを見失わないようになんとか着いていくハナコ。細い通路を抜けた先に広がるのは廃墟。古びてはいるものの、その建築様式には見覚えがあった。
「(これは……歴史書で見た事がある……どこかの組織と関連付けられていたような……)」
「少しばかり、境界を崩してみようか」
ハナコが思考を巡らせている最中、静寂の中にビナーの声が響く。
視線を移すと、どこから連れてきたのか、ガスマスクをつけた、恐らくアリウスと思われる生徒がビナーの前に横たわっている。
ビナーが手をかざすと、その生徒はドロドロに溶け始める。自分と同じ人の形をしたものが、アイスのように溶けてしまう。そんな光景を目にしたハナコは胃の中身が上ってくるのを感じ、咄嗟に口を押さえる。
「物の本性は空、それはこの世の一切である。ならば全ては空しいだろうか。その時々に存在は可変であり、その本質だけがそこにある。故に、人の姿も捻れた其れも、そこに在るものは同じ。結局は観ている者に寄るのさ」
溶けたものは泡立ちながら膨れ上がり、台に座った仏像を形作る。背後には赤黒い円が浮いており、錫杖が傍らに浮遊している。
「例えお前が特別で無いとしても、存在を咲かせる事は出来るのだから」
錫杖の尖端がビナーへと向けられ、今にも突き刺さろうとするが、ビナーが手を下ろすとその石像は金色の線に瞬く間に切り刻まれる。分解され、その場に落ちた破片は、また泡立ちながら人の形を取り、生徒への姿を戻していた。カラン、と音を立てて落ちた錫杖を残して。
その様子を息を殺しながら、陰に隠れて見ていたハナコ。
理解の及ばない現象と、おそらくそれに関連しているのであろうビナーの言葉。
空しい、というワードとアリウスの生徒。これらから 『Vanitas vanitatum et omnia vanitas』に近しい概念についての話だと推測した。
それと同時に、聖堂の裏口、地下通路、カタコンベを辿ってやってきたこの場所は、アリウス自治区へと繋がっているのとを確信する。
誰も知らないと言われていたアリウス自治区への道。そんな場所になんの迷いもなく一直線にやってきたビナー。それでいながら、トリニティ、いや、セイアに協力的な姿勢を見せている。
今の手持ちから真相にたどり着くことは不可能と判断したハナコは、アリウスの生徒を置いたまま先に進み始めたビナーの尾行を再開した。