透き通った空に浮かぶ星 作:哲学の階司書補
かなりバタバタしてて、この後もまたバタバタしちゃうんで、また投稿期間空いちゃうかもです
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「浦和ハナコ。お前は植え付けられた感情と言うものをどう見る」
そのまま薄暗い街を進んでいたビナーは、突如足を止めハナコに問いかける。
ハナコは、自分が認知されていることも、そして尾行がバレていたことも、想定はしていたものの、ほとんどないだろうと踏んでいたため動揺する。
植え付けられた感情、それが指すものはおそらくアリウスの生徒達だろう。そして目の前の大人が求めている答えはなんなのかを考える。思い起こすのは元はアリウスにいたアズサの告白。トリニティとゲヘナは憎いものだと"習った"と。
「……本心では無いが、そうしなければいけなかったから、それを口にした。そう習ったから、でしょうか」
「私はお前の考えを問うたつもりだったのだけれど。然し、確かな自我を持つ者はそうだろうね」
ビナーの反応にハナコの息が浅くなる。恐怖がゆっくりと心を蝕んでいく。
「お前のことは良く識っているよ、ハナコ。他人から逃げ、そして自分自身からも逃げた。それでいて、退屈に苦しんでいる」
ハナコは、何を知った口を、と反論しようとするも、補習授業部に入る前の自分は、確かに他人との関わりを嫌っていたのは事実で。勉強も1年の時点で3年分の試験全てで満点を出した。できてしまったから。
その成績を見て、色んな勢力から、自分を取り込もうと声を掛けられた。そこに映っていたのは誰なんだろうか。
そうして、ハナコは思うがままに自分を作り出した。でも、それはきっと仮面で。かつての自分はここに居るんだろうか。
「何を遠慮する必要が有るだろうか。お前は目の前に、待ち望んだ未知を捉えていると言うのに」
ハナコは心のどこかで恐怖しながらも、姿を晒し、ビナーの後ろを着いていく。
知っていることだらけだった。何を見ても蒐集した知識ばかりで。だから、古書館に通い詰めては、新たな知識を蓄えた。
だが、直に新たな知識は過去の情報の掛け合せから導き出せるものになって行った。つまらなかった。理解できない何かをハナコは求めていた。
でも、それじゃいけないもと分かっていた。ただ知恵や知識を求めるだけの案山子になってはいけないんだと。
それからは欲を、自分を心の奥底に隠し、"浦和ハナコ"として生きてきた。
先生やミカからビナーのことを聞いて、"浦和ハナコ"は危険な存在だと警戒したが、浦和ハナコは、彼女を求めていたのかもしれない。
理解の及ばない存在だったから。ハナコにとって、完全なる未知であったから。
「ビナー……さん、あなたは、退屈が怖くないんですか……?」
「訪れることの無い出来事にどうして感情を持つことが出来ようか。物事に本質が存在したとしても、捉えようは幾らでもあるのだよ」
ハナコは置いていかれないように足を進める。すると、ビナーがふと足を止める。
ハナコが視線を上げると、目の前にあったのは、本能的に嫌悪感を覚える祭壇。
そして、長身に長い黒髪、赤肌に大量の目を持った女性、ベアトリーチェが立っていた。
「ここに誰かを招待した覚えはありませんが……あなたは確か、浦和ハナコでしたか。利用価値のある子どもとして、よく覚えていますよ」
話をするベアトリーチェを無視して、ビナーは腕を前に出す。反応する暇もなく打ち出された鎖は、ベアトリーチェを祭壇へと縛り付ける。
「興味というものは、ふとした瞬間に生まれる。此を井戸とし、釣瓶を落とした時、そこから何が見えるだろうか」
ハナコにひとつひとつ説明するようにゆっくりと話すビナー。
「一体何が!? この鎖を____
鎖はいとも容易くベアトリーチェの首を捩じ切る。
「此処は、ある意味世界の淵であるから。そして、人がひとつの意思のもとに統一されている。安定しながら不安定である祭壇は、世界の根底に流れる水に触れ、あらゆる人間の大河となる。少量であれ、その思考が汲み上がるのであれば、この世界もまた、病に侵されているのかもしれないね」
ベアトリーチェから溢れ出た血を祭壇が吸い上げる。
本来であればアツコの血と神秘を喰らうはずだった祭壇に注がれたのは永遠の淑女の血。
ビナーは再び歩を進め祭壇のそばまで辿り着くと、ベアトリーチェの死体が少し揺れ動く。
ぴちゃぴちゃと音がすると、死体の陰から現れたのは一羽の小さな目玉。
その嘴を大きく広げ、死肉を食んでいた。
濃厚な死という概念。そして死肉を食らう奇怪な鳥のような生物に、ハナコは恐怖しながらも、その内心、今まで眠っていた浦和ハナコがようやく目を覚ましたようで。
興奮と歓喜に満ち満ちていた。
身体は恐怖に震えていても。
その心は、いつよりも澄み切っていた。
初回ぶりの死人が出ましたね