透き通った空に浮かぶ星 作:哲学の階司書補
アヤネとビナーが優雅なお茶会を楽しんだあと、教室にやってきたのはノノミ。
簡単に挨拶すると、何かとビナーのことが気になっていたようで、キョロキョロと教室を見渡す。
「アヤネちゃん、先生はどこにいるか知っていますか?」
「私を呼んだかい、ノノミ」
「うわぁっ! びっくりした! 先生〜、あまり驚かせないでくださいよ〜」
「ふふっ……」
突然後ろに現れて声を掛けてきたビナーに、飛び上がる勢いで肩を跳ねさせる。
カップを片付けるために給湯室に行っていたから、当然と言えば当然な話で。アヤネはなんとなくこうなることを察していたが、言うタイミングもなかったので、思いながら顔を背けて笑いを堪えていた。
「私に用があるのだろう? 数日は時間があるから、応えられることなら応えよう」
「うーん、昨日、ホシノ先輩とシロコちゃんに何があったか教えて欲しいですー。私もアヤネちゃんも気絶しちゃってたのでー」
ビナーはふむ、と少し考える素振りを見せると、事細かに事の顛末を話してくれる。
もちろん、1度頭が胴体から離れていることも包み隠さず。
飛び上がるように驚いたノノミがツボに入っていたアヤネもどんどん顔を青くしていき、首に少し手を当てたあと、ガタンと椅子を倒して立ち上がると教室を出て行った。
同じようにノノミも顔を青くする。いくらキヴォトスと言えど、頭と胴体が離れた状態から生き返るなんてありえない。そもそも死というものが強く忌避されている中で、知らぬ間にそれが自分自身に降り掛かっていたと知らされれば、アヤネのような反応も仕方の無いもの。ビナーからすれば、脳を掻き出され鉄の箱に詰められた経験がある上に、頭部さえ無事なら案外何とかなる都市だったりするので、若いなぁ、位の感想しか抱いていない。
「なんだか、とんでもないことになってたんですね〜……」
目を瞑り何度か深呼吸をしてから、零すように呟くノノミ。
「でも、結果的にはホシノ先輩が強くなった、ってことですよね? 私たちはちゃんとこうやって生きてるし。なら、よかった、のかな?」
「ああ、ホシノは眼を醒ました故」
「先生の言い回しは難しいですけど……うん、何となくわかります。過去の柵から解かれたってことですよね? 昔のホシノ先輩は、いつも何かに駆り立てられてるようで、全てに焦っていたので」
ホシノの雰囲気が変わっているのをノノミは感じ取っていた。昔の刺々しいものでも、最近の自堕落さすら感じるものでもなく。カラッとしていて、それでかつ柔らかな優しい雰囲気も併せ持ったような。とても前向きな目をしていたから。
「私も、強くなりたいなぁ……」
自分も大好きなアビドスを守りたい。そんな気持ちが口から溢れ落ちる。
心のどこかで引っかかったままの、ネフティスのこと。家出した身とはいえ、全く情が無いわけではなかったから。
過去に整理をつけて、未来に目を向けられるようになったホシノ。
自分もそうなれたら、もっとアビドスに向き合えるのだろうか。
「焦りは禁物だよ。お前にはお前にあったやり方が在るから」
ビナーは優しく語りかける。ホシノはねじれる素養があったからそうしただけで、誰彼構わずねじれさせる様なことはしない。別に、順当に修練を積めば強くはなるのだから。
ホシノに行ったことは、強い精神的負荷を掛けることで心を砕き、自我の殻を作らせる。その後、自身と向き合う事により、心を修復しその殻をより強固なものとする、ねじれを経由して自分だけのE.G.O.を発現させる手法。本来であれば閉じ篭るための殻を作らせるのはビナーの役割では無い。ホシノは、既におじさんを一人称とする仮面を、外殻を成していたから。その中身を満たすようにビナーは振る舞うことで、色彩に依らず、カルメンに依らずともねじれを発現させ、恐怖に身を落とさせた。そして、特異点の力により無理やり殻をこじ開けて、正しく恐怖と対峙させた。
これをノノミやアヤネに行っても、恐らく心を折られて廃人になるだけだろうから。
「うへぇ、さっきアヤネちゃんがすごい勢いで走って行ったけど、何があったのー?」
相変わらず眠そうなホシノが教室を覗き込む。
恐らく胃の中身を引っくり返しているであろうアヤネを放ったらかしにしていたことを思い出したノノミは、少し気まずそうにしながら、様子を見てきます〜、と教室を出て行った。
「あんまり後輩ちゃん達を苛めちゃダメだよ、先生」
「私は聞かれた事を応えた迄だよ」
「あー……多分昨日の事だよね。それなら仕方ない、か」
何かを察して、嫌なことを思い出しなような、微妙な表情をするホシノ。
それもそのはず、あのショッキングな光景を実際に目にしていたのはこの2人だけ。知りたいと懇願されたら簡単にではあるが、その事実を伝えていただろう。目の前の大人は態々事細かに話していたが。
「先生、ひとつお願いがあるんだけど〜。私たちのこと、強くして欲しいんだ。これからアビドスは良くなっていく。マイナスだった所からプラスに」
「力とは、ひとつ明確な指標であるから」
「うん、他の学校や自治区と関係を持つ時に、舐められないようにしないとだからね〜」
元々はマンモス校に匹敵する規模だったアビドスも、今や在校生5人の弱小も良いところ。しかし借金の返済の目処が立ち、ビナーという大人の顧問も得た。それに、砂嵐も数日前から発生しなくなっている。この機を逃す訳にはいかない。その上でホシノがまず重視したのは力だった。他の学校と対等な関係を持つために。ゲヘナの風紀委員長のように、事実上ワントップも今のホシノなら容易いだろうが、そうではなく、対策委員全員で強くなりたい。それがホシノの次なる願いだった。
そう言えばなんですが、ブルアカssによくある、掲示板とかは、やっぱり欲しいものなんでしょうか
やるとしてまだ少し先の話にはなると思いますが