ジョーズがせめてきたぞっ   作:SPC

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ほんとはボンプ偏愛一般異常男性の話を書こうと思ったんですが私の中のイアスが「ンナ!(まだオリ主モノを書くには情報量が少なすぎる)」と囁いたのでアキ×エレを書きました。続きません


ジョーズ

「ンナ(お客さんです)」

 

新エリー都、六分街、夜。

ひと仕事終えた人々が帰路につき、街はにわかに色づく。

 

喫茶店でマスター・ティンのコーヒーに舌鼓を打つサラリーマンがいれば、雑貨屋141で晩の肴を買い占めるOLもいる。チョップ大将が全力で作った激辛ラーメンを三杯分平らげる防衛軍の軍人だっている。

 

そうやって喧騒に包まれる時間になって、ビデオ屋Random Playはようやく寝ぼけまなこを擦るのだ。

 

「今日初めてのお客さんか。誰だろうね?」

 

日々に疲れた準市民の人々にビデオというとっておきの娯楽を提供するこの人気店は、驚くべきことにいまだ若きふたりの兄妹と多数のボンプ店員によって経営されていた。

 

あまりに自由気ままに運営しているものだから経営状況はどうなっているのやらと人知れず噂されているこの店の本日の店長は、兄妹のうち兄のほう──名を、アキラと呼ぶ。

柔和な微笑みを絶やさないこの優男が、実はプロキシというアウトローもビックリな裏稼業で名の知れた凄腕案内人であることは……ひとまず、その辺に置いておこう。

 

 

妹のリンと持ち回りで店長を担当するアキラは、敏感に客を察知したボンプ18号の言葉(ンナ)を受けて、外向きの表情を浮かべる。

 

やがて、何人をも拒まないビデオ屋の扉がそこそこの勢いで開かれ──

 

「やっほ」

「おや、エレンか。いらっしゃいませ」

「ンナ!(いらっしゃいませ!)」

 

そこに立っていたのは、真っ赤な瞳にショートの黒髪の女性。街を行き交う多くの若者と同じ制服を見れば、彼女が女子高生であることは容易く理解できるだろう。

 

しかし、なんと言っても彼女の一番の特徴は、腰から生えた立派な尻尾。

 

三日月状の尾びれに、まさしくサメそのものの肌。ファンキーなペイントは、その力強さを引き立たせている。ウエストと同じ、あるいはそれ以上ではないかと見紛うほどのそれは、主の情態を示すように緩やかに上下していた。

 

サメの亜人(シリオン)である彼女は、エレン・ジョー。

バイトと称してメイドとか謎のエージェントもやっているが、れっきとした華の女子高生だ。

 

「最近はご無沙汰だったね。今日は何か入り用かい?」

「えっと……それなんだけど……」

 

共に裏稼業に関わっていることもあり、紆余曲折あってアキラと親しい関係を築いているエレン。

時には昼間からビデオ屋に来てサボタージュがてらにアキラと映画を鑑賞していることすらある彼女は、しかし今日に限ってはやけに言葉を詰まらせている。

 

もしかして(プロキシ)関連かな?

 

そう疑ったアキラだが、もしそうであればたいていはインターノット越しにヴィクトリア家政から連絡が来るはず。

もしかして調子でも悪いのかと思った瞬間、エレン──正確には店の入口を塞ぐ彼女の尾っぽを押しのけて、いくつかの影が躍り出る。

 

「おぉ! ここがエレンちゃんの行きつけのお店かぁ!」

「うちらに内緒で新店開拓してたな!?」

「最近一人でどこか行っているなと思ったら……」

 

飛び出してきたのは、エレンと同じ制服を来た女性が、3人ほど。

 

彼女たちには、いくつか見覚えがある。

アキラがルミナススクエアで野暮用をこなしていたとき、よくエレンと一緒に遊んでいるところを目撃していたのだ。

 

つまりそのまま、素直に考えれば──

 

「エレンの同級生かい? いらっしゃい」

「「「お邪魔しまーす!」」」

 

名前は、モナとルビーと、凛だったか。

エレンとの過去の会話を辿ったアキラは、彼女らが表面上は無愛想に見えてしまうエレンの性格を一切気にせず仲良くしてくれる大事な友人だ、という情報を思い起こす。

 

しかしまた、どうして彼女らがビデオ屋に?

 

客であれば軍人だろうとアウトローだろうと歓迎するRandom Playだから、もちろん学生だって大歓迎だ。しかし、エレンから聞く限りでは同級生の彼女らにそのような趣味はないように思えた。

 

新しい趣味を開拓する気になったのか、それとも……

 

早くも店番を務めるボンプ18号の可愛さに気を取られている3人を見て、それからエレンの方へと視線をやると、尾びれの先っちょを指先で弄るエレンはどうにも居心地悪そうに答えた。

 

「いや……あたしは用事があるから先帰ってって言ったんだけど、ついて来ちゃって……」

「なるほど。友達に隠し事は通用しないね、エレン」

「はぁ……めんど」

 

ここに至って状況を理解したアキラは、普段より苦笑成分二割増しの笑みを浮かべた。

 

要するに、いつものように今晩のお供のビデオを借りようとしたエレンにお友達が着いてきただけだ。それならば何も気にする必要はない。彼女らも立派なお客様で、アキラはビデオ屋の店長だ。ならば、やることはひとつ。

 

「今は特別キャンペーンで初回割引をやってるんだ。せっかくだから、会員カードを作っていかないかい?」

 

 

 

「プロキ──あー、えっと、店長」

「なんだい?」

 

プロキシ、というのは、アキラの裏の顔である。

そして裏の顔というものは、得てして秘匿されるべきものだ。

 

無関係の第三者(友達)を前にしてエレンがどうにか言葉を捻じ曲げたことを察して、アキラはニンマリと笑う。

 

「その……ごめん」

「謝ることはないさ」

 

何について謝っているのか、などと野暮な質問を飛ばすほど、アキラは唐変木ではない。

もし仮にここでそんなトボけた発言をしようものなら、ボンプに記録された情報がすかさずfairyに伝わり、最終的にリンからの『お説教』が待っていることだろう。

 

映画は好きだが、アキラが好きなジャンルはドキュメンタリーとかなのだ。人情入り乱れる映画をぶっ続けで鑑賞させられるのは、さしものパエトーンの片割れとて、つらい。

 

「それに、新しいお客さんはいつだって歓迎だからね」

「あたしを連れ込んだみたいに?」

「人聞きの悪い」

 

それに、新規顧客獲得のチャンスをみすみす逃したとなれば、それはそれでリンやfairyから手厳しい言葉の数々をぶつけられるかもしれない。

fairyの運用で爆増した電気代を賄うため、Random Playは一切のロスを許容できないのだ。

 

「ンナンナ(ボクも充電できなくなると困るよ!)」

「大丈夫だよ。……たぶん」

「ンナ!?」

 

アキラとエレン、あと18号がそうやって店の片隅で言葉を交わしている間、エレンの級友の3人は仲良くビデオを物色していた。

 

聞くところにやると、お泊まり女子会で見る映画を探しているんだとか。

そういえば、妹のリンはそういったお泊まり会だとか女子会に参加していたことがないような気がする。

 

もしかして友達が……?

 

そこまで考えたアキラは、邪兎屋の面々に依頼してリンと遊びに行ってもらおうかと考えた。

だってほら……ニコに、アンビーに、猫又に、ビリー、あとアミリオン。女子会にはちょうどいい感じだろう?

 

 

「店長さん!」

 

そこまで邪な考えを巡らしたアキラの思考は、しかし飛んできた声に遮られて断ち切られた。

 

声の主の金髪の彼女の名前は、確か……

 

「どうしたのかな、ルビーさん」

「私たちだけじゃ選び切れないんだ〜。店長さん、なにかオススメある?」

「オススメ……ふむ、なるほど」

 

確かに明確な目的もなしにビデオを探そうとするのは、一般人にとってはいささか困難なことだ。

店にある作品は一通りは見たと断言できるアキラにとってはいくらでも作品を挙げられるが、それが果たして華の女子高生に適しているのかどうか……

 

「これとかいいんじゃない?」

 

思案するアキラを差し置いて、勝手知ったると言わんばかりにとある棚に近寄ったエレンがひとつのビデオを手にする。

 

「なにそれ?」

「プロ……店長がオススメしてくれたやつ。面白いよ」

「オススメしてくれたって……エレン、店長さんとそんなに仲良かったの? まさか抜け駆け!?」

「そんなんじゃないって」

 

それは、いわゆるアクションスリラーものだった。

確か、サメがこう、グワーッと海から上陸し、すったもんだの末に世界を征服するが人類はそれに対抗してメカザメを作成して争うみたいな内容の……

 

そういえば、少し前に深夜にやってきたエレンからの「頭空っぽにして見られる映画」というリクエストを受けて一緒に鑑賞会をした記憶がある。しかし、記憶が確かならばエレンはその時にも……

 

「まぁ、いいか」

 

友人に揶揄されて鬱陶しそうに、しかしどこか楽しげにいなしているエレンを見て、アキラはどこか満足気な笑みを浮かべる。

 

厭世的な彼女の女子高生らしい面は、プロキシ家業を通じてエレンと知り合ったアキラにとってはとても珍しいもので、そして同時に得難いものでもあったから。

 

「ほら、見るやつ決めたら早く行くよ」

「エレンちゃん、なんでそんなに急いでるの?」

「店長さんと私たちを近付けたくないとみた」

「ちょっと、なにそれ……あたしは変なコト吹き込んで欲しくないだけだし!」

「私たちが、店長さんに? それともその逆?」

「どっちも!」

 

「ンナ?(吹き込むの?)」

「吹き込まないよ。まったく、失礼だなぁ」

 

たぶん、エレンがアキラと友人たちにあまり接してほしくない、というのは本当だろう。

 

最初から「連れてくる気はなかった」という気持ちがよく透けて見えたし、今だって「早く出ていきたい」とこれでもかとばかりに言動が示唆している。

普段は何事も面倒くさがって自分から動こうとしないエレンが、あえてビデオを選んでみせた。それが何よりの証拠だ。

 

きっと、バイトと称してメイド服を着込み、時には給仕だってしていることを知られたくないのだろう。

 

ならば、彼女の意を汲んで動いてやるのが本物のプロキシというもの。

 

「ンナナ〜(ありがとうございました〜)」

「ありがとうございました〜」

 

「お邪魔しました〜!」

「またね、店長」

 

 

 

──しかし。

 

アキラの中の童心が、囁きかけた。

 

「あぁそうだ、エレン!」

「……なに?」

 

ただで帰すというのも、いまいち面白さに欠けるのではないだろうか?

ほら……今のアキラはプロキシではなくビデオ屋Random Playの店長なので、娯楽を提供するのが真の職分というか。

 

うん、そうだ。そうに違いない。

心の中のイアスが体をいっぱいに使ってンナンナと(ンナず)いたので、アキラは最後の最後に本心からの笑みを浮かべた。

 

「前は映画の途中で寝ちゃってたけど、今日は起きているんだよ!」

「なっ!?」

 

驚愕に振り返ったエレンの横顔を最後に、扉が閉まる。

 

向こうから聞こえてくる姦しい嬌声は、本当に楽しそうなもので。

ドン、と扉を叩いた大きな尻尾の一撃は、次に会ったときに覚えてなさい、という意思を如実に含んでいた。

 

「おお、こわいこわい」

「ンナンナナ」

 

言葉だけは怖がってみせるアキラと、あえて翻訳モジュールを介さずに呟いた18号。

 

 

本日も満員御礼、ディニーに万々歳。

ビデオ屋random play、今日も今日とて元気に営業中!

 

 

 

 

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