ユウカと先生がハレの実験に付き合うだけの話   作:遅瀬ユウカ

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即興でやってみるとどうなるのか、的な

「あ、ユウカ。今、手空いてる?」

「今は大丈夫ですけど」

 

 ここはシャーレ。

 先生とユウカは天高く積みあがった書類の整理を終え、少し休憩していた。

 

「うん、それなら少しお願いしても良いかな」

 

 先生からのお願い。

 ユウカに"断る"なんて選択肢はない。すぐに頷く。

 

「えぇっと……」

「お願いって、そんなに言いづらいものなんですか?」

 

 ユウカが訝しげな眼で先生を見た。先生が言い淀むというのは中々に珍しい。

 

「簡単なお願いなんだけど……ちょっとどう伝えれば良いのかが上手く出て来なくて」

「今日は書類整理で疲れてますしね。そういうこともありますよ。コーヒーどうぞ」

「苦じゃないよ、この程度……と言いたいところだけど、本当のところはちょっと疲れてたんだ。ユウカ、ありがとう」

「健康が第一です。身体壊さないように気を付けて下さいね」

 

 ユウカはホットコーヒーを先生の机に置いた。こういう地道なところでポイントを稼げるのがユウカの強みであり、こういうポイントの稼ぎ方に甘んじているのがユウカの現状であった。

 

「こういう言い方しか思いつかなかったんだけど」

 

 一口コーヒーを飲んで先生は言った。

 先生の言葉をユウカもコーヒーを飲んで待った。

 

「最近、気になってる子がいて───」

 

 ボフッ!

 ユウカは思わずコーヒーを吹き出しそうになった。むせてコーヒーが少し零れる。

 

「書類にかかっ……いや、誤差です! それより、続きを、お願い、します……!」

「少しキャラ変わった?」

「先生、はい! 今、はい!」

「そんなキャラじゃないよね、やっぱり」   

 

 先生の爆弾発言はユウカのキャラクターを崩すのには十分な威力だった。

 明らかにキャラ崩壊しているユウカをなだめながら、先生は続きを語り始めた。

 

「たとえばの話、私がその子を手に入れたら」

「違います先生。そんなことは起こりません。なぜなら私が許さないからです。はい続きを」

「続きをって、今のが続きだったんだけどなぁ」

 

 ユウカはもう無敵の人だった。むてキヴォトス。

 

「手に入れるとしたらね、たとえばの話」

 

 先生はコーヒーを飲んだ。

 

「取り急ぎこの思いに身を任せるかどうかが───」

「なんてことは許しません。なぜなら私はそれが本当に先生の意志であるなら、尊重しますが思考誘導による結果の可能性もあるからです。許しませんよ」

 

 ユウカの即レス。早口ユウカである。貼り付けたような笑顔を浮かべるユウカに先生は冷や汗をかいた。

 

「ニコニコした顔が逆に怖いよユウカ……」

「ぬぁにか?」

「ねぇ、やっぱり怖いよユウカ」

 

 怖い、と言われたら仕方ない。

 ユウカの数少ない理性が笑顔を引っ込めた。

 

「飲みものでも飲んで落ち着いて」

 

 ユウカはコーヒーを煽った。カップを机に叩きつけるようにして置く。

 

「はい、落ち着きました」

「表情しか落ち着いていないよ」

「普通です。これが早瀬ユウカのスタンダードですが?」

「ヘイローが震えているけど」

 

 先生は若干後悔していた。まさかユウカがここまで豹変してしまうとは。やっぱりお願いなんて言いださなければよかったのだ。しかし、もう今更止まれない。無理矢理に話題を変えるんあんて、この状態のユウカは許さないだろう。

 

「他のよりも、その子が輝いて見えたんだ。そう、まさに一目惚れってやつなのかな」

「まぁ! それは良かったです、ねッ!」

「魅力であり溢れていてね。もう全身が美しいんだ」

「向こうは先生のことどう思ってるんでしょうね」

「めちゃくちゃ見てくる人じゃないかな」

 

 ユウカは立ち上がって先生の目の前に来た。

 そして先生の膝の上に座った。

 

「申し訳ありません……立ち眩みが」

「ヤバいくらいに無理があるよ? 机を迂回してたよねユウカ」

 

 ユウカはそのまま先生の飲みかけのコーヒーを手に取った。

 

「ゆ、ユウカ! それは……」

「良くないものが私のカップには塗られていたみたいです。早く身体を浄化しないと」

 

 私の飲みかけも良くないと思うけどなぁ……と先生は呟いたが、ユウカには届かなかった。

 

「らめです、先生ぇ。これも良くないです。だから私が全部飲み干します」

「理性が溶けてるよ、ユウカ!」

「ルーズなんですよ先生は」

「レロレロになってるユウカに言われても」

「6倍は先生より私、強いですからね。私は地球です」

 

 ユウカの理性はもう尽き果てていた。こんなことになるなんて、と先生は忸怩たる思いを抱いた。

 ユウカは先生の飲みかけのコーヒーをぐいぐい煽ると、先生をせっついた。気になっている子って誰ですか、と横腹を肘で突っついてくる。痛い。

 先生はちょっと悩んだ。

 ユウカに怒られるかもしれない。この状態のユウカには少し刺激が強すぎるかもしれない、と予測したのだ。

 だから、少しだけ気弱になって紙で魅せることにした。整理していた書類の中から一枚引っこ抜く。

 

『CSM キヴォトスドライバー アローナ強制排出補助機構付初期型』

 

「……私に早く言って下さいよ~、欲しいものがあるなら♪」

 

 ウッキウキであった。

 そのチラシを見た瞬間のユウカは、キヴォトスで一番ウキウキだと言っても過言ではないだろう。

 なぁんだ、好きな人ができたわけじゃないのか、それは良かったぁ……と。

 どうかな、と恐る恐る見てくる先生にユウカは正真正銘の笑みで答えた。

 

「ん、ダメに決まってます」

 

 シャーレの財政事情は今日も苦しい。 

 

 


 

 

ハレ「ん~、これは目を見張る結果だね」

 

先生「本当に『頭に気を付けて話す』だけの実験だった?」

 

ハレ「私がやることがそんなに過激だと思う? 少しコーヒーがエナジーなドリンクになっていただけだよ」

 

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