剣咬の虎に入った青年   作:氷結界の龍トリシューラ

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遅くなりました。
今回は、剣咬の虎、2日目の夜です。

場所は宿クロッカス・ガーデンです。










剣咬の虎・大会2日目の夜

 

剣咬の虎(セイバートゥース)の一同は彼らの泊まる宿()()()()()()()()()()の1階にてマスターであるジエンマの前に整列していた。

 

大会メンバーの5人を先頭に立っている彼らの顔には緊張が見える。

 

マスタージエンマはギルドメンバーを見ながら果物を咀嚼し、やがて口を開いた。

 

 

「情けねえ、情けなくて涙も出ないぞクズ共、我々を何だと思っている。これが最強ギルドか?天下一のギルド、剣咬の虎(セイバートゥース)がこの様とは、泣けてくる。」

 

 

ジエンマの説教はまだ続く。

 

 

「他のギルドなど相手にするな。口を聞くな。我々が見ているものはもっと偉大なものだろう。天を轟かせ、海を黙らせ、地を砕く、それが剣咬の虎だ。」

 

 

一通り説教した後、ジエンマは列の先頭を見やる。

 

 

 

 

 

そして…

 

「スティング、」

「はっ、」

 

 

ジエンマは取り敢えず、競技パートに出たスティングの名を呼ぶ。

 

呼ばれたスティングは前に出てくる。ジエンマは重々しく口を開いた。

 

「貴様にはもう一度チャンスをやる。2度とあんな無様な真似はするな。」

「は、かしこまりました、必ずやご期待に応えてみせます。」

 

 

スティングはジエンマに一礼すると列に戻る。続いて、ジエンマは列の左端を見やる。

 

…一瞬だけ、2列目の左端にいるフリスと目が合うが…

 

 

「ユキノ、」

「はい、」

 

視線を前の列に戻してユキノを呼ぶ。

 

ユキノは前に出てくる。

 

一拍おいて、ジエンマは口を開く。

 

 

「貴様には弁解の余地はねえ、分かってるな。」

「はい、私は他のギルドの者に敗北し、剣咬の虎の名を傷つけてしまい、」

「貴様はっ、試合で相手に終始上から目線で圧をかけてたにも関わらずっ、

勝負では己の実力を使わず星霊に頼りきりで、挙句の果てには圧倒的な実力差で完膚なきまで敗北し、観客からのギルドの侮辱を引き起こしたっ!!、

貴様のせいで、我がギルドの評判は地に落ちるところだった。」

 

 

謝るユキノにジエンマは容赦なく現実を叩きつける。

 

ユキノは固まり、その身体が震える。

 

 

「待ってくれマスターっ」

「…!」

 

そんな中後ろから声がかかる。

ユキノはハッとして震えが止まりジエンマもユキノの後ろの人物に目を向ける。

 

……ユキノの後ろでフリスが緊張しながらも片手を上げ、口を開いた。

 

 

「観客の侮辱は、大鴉の尻尾の煽りは俺のせいだ。

…俺が初日の妖精の尻尾と奴らの試合に横やりを入れたから、今日は剣咬の虎が目をつけられているんだ。

 

バトルパートの時の言動も元はといえば俺がユキノに試合前に頼んだんだ。

…相手の実力を分かっていてだ。」

 

「何?、…」

「え、私は、そういう訳では、」

 

 

フリスの話に、ジエンマは閉口する。

ユキノは落ち着きを取り戻し、慌ててフリスの発言を撤回しようとするが、フリスの眼とジエンマを見て声が出なかった。

 

 

「初日の試合で大鴉の尻尾の奴らは観客を人質にとったり、外野から魔力を消そうとしたりと反則ばかりをしていた。

俺がそれを妨害したから、剣咬の虎全体が目をつけられていて執拗に狙われている。

競技パートではスティングも狙われたし、競技後にも煽られた。

そして、ユキノの試合だが、試合前に俺がユキノに試合を盛り上げて欲しいと強く頼んだんだ、他のギルドが賭け事ばかりしていて、見ていて気分が悪かったんだ。

 

そういう訳で、全ての責任は俺にある。だからマスター、スティングもそうだが、今日のユキノをあまり責めないで頂きたい。お願い致します。」

 

 

フリスの弁解にジエンマは無言だった。聞いているのか果たして、

その場にいるギルドの面々も緊張しながら様子を見守る。

 

 

 

 

 

…しばらく沈黙が続くが、

 

 

「だから何だ、試合に負けたのも、ギルドの侮辱を招いたのも全てユキノが弱えからだ。」

「……!!!!」

 

 

ジエンマの判定は変わらない。全てはユキノが弱いからだと。大鴉の尻尾(レイヴンテイル)に執拗に目をつけられたのも関係無い、

 

()()()()()()()()()が原因だと。

 

 

「我がギルドに弱者は必要ない。」

「……!!」

 

 

ジエンマは冷たく言い放つ、

 

 

「ユキノ、服を全て脱げ、」

 

「まっ、待てっ!!、何させる気だっ!!、ジエンマっ!!」

 

 

ジエンマの一言にフリスは声をあげ、敬称を忘れて呼び捨てにする。思わず、前に出た。

 

 

「ユキノに…何やらせる気だっ…!!」

「煩いぞフリスっ!!、ギルドの名を汚した女には全てを捨てさせて、紋章を消させ、ギルドを辞めさせるのだっ!!

たかが雑魚1人辞めたところで、貴様が闘えば、剣咬の虎(セイバートゥース)評判が元に戻るのだっ!!」

 

 

ジエンマは怒鳴り、はっきりと言い切った。

 

 

しん、とギルドが静まり返った。

 

 

そんな中、前列から前に出てきて、ユキノの横に立った青年、フリスが口を開いた。

 

 

「つまり、あんたはユキノにギルドを辞めろと言うんだな。」

 

「だからそう言っている。」

 

 

ジエンマの一言でフリスの目が居据わる。

 

 

「そうか、」

 

「そうだ、それで出場者の枠が空く。フリス、お前が演武に出て闘え…」

 

 

ジエンマの再度の押しの一言にギルドの面々はジエンマがやろうとしている事を理解する。

 

 

 

フリスは目を閉じて、

 

そして、すぅ、と息を吐き…

 

 

 

 

 

 

「そうか、なら俺もギルドを辞める。」

 

「「「「!!!」」」」

「なっ、」

「!!、フリス様っ!!」

 

 

フリスの一言にギルドは騒つき、ジエンマの顔が驚愕の表情に変わり、ユキノは驚きと、焦りが混じった声をあげた。

 

「な、き、貴様っ今、なんと言った。」

「あんたのギルドを辞めると言った。」

「…貴様っ!!」

 

フリスの一言にジエンマはわなわなと震える。ユキノは焦って振り返り、フリスの両手を掴んだ。 

 

 

「フリス様、落ち着いてください、私なんかを庇っても」

 

「ここに来る前だった、」

 

 

ユキノの声に被せるようにフリスは低い声で畳みかけるように話し出す。

 

 

「俺はギルドを辞めて仕事が見つからず、彷徨っていた。

たまたま雪山にいた怪物を退治していたらそこで偶然()()()()()()()がいた。

その人に身の上を話したらその人は自分のギルドに誘ってくれただけじゃなくて丁寧に道まで教えてくれた。

 

…お陰で俺はギルドに入れた。安定した収入も手にした。

ギルドに入ってからも調子に乗り過ぎた(ギルドメンバーを煽ってボコボコにした)俺を止めてくれたり、俺の失敗(演武での無謀な介入)をフォローしてくれたりとずっとその人に支えられて来た。

 

本当に良い人だった。

 

俺を支えてくれた人を()()()()()()()()()()()()()()()()()()に俺は残らない。」

 

 

フリスは一気に言い切る。そして、右手を左手首に置くと、()()()()()()()()()()

 

「な、き、貴様っ!!」

 

「もうあんたに様は無い。」

 

 

 

ジエンマを無視するフリス。 

 

 

そして、目の前で固まっているユキノの肩に手を置いて、

 

 

 

 

「ユキノさん、また新しい仕事を紹介して欲しい。また世話になるけど良いかな?」

「え、」

「こんな俺だけど、またよろしくお願いします。」

 

 

そう言ってもう片方の手を出した。ユキノはあたふたしながらもチラッと一瞬周りを見て、差し出されたフリスの手を見て、顔を上げてフリスを見る。

 

 

 

そして、

 

 

 

「はい、わかりました。」

 

 

笑顔でその手を取った。

フッ、とフリスの肩が降りる。

そしてユキノの肩を叩いて身を翻す。

 

 

「それじゃあ、仕事探しに行こうか、」

「はい、一緒に探しましょう。」

 

 

幾らか表情を柔らかくするフリスに同意して少し笑いそうになるユキノ。

 

 

「それじゃ、お世話になりました。」

「マスター、短い間でしたが、ありがとうございます。」

 

 

フリスはユキノを連れてギルドを出て行こうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、待て、貴様らぁっ!!、どれだけギルドを馬鹿にすればっ…」

 

 

 

 

 

2人に向かってジエンマが唸り声をあげる。魔法を放とうとまでしてくる。

 

 

 

そこに…

 

 

「マスター、俺もギルド辞めます。」

 

「スティング君っ!!!?」

「な、何だと!!?」

 

 

真っ先に手をあげたのはスティングだった。驚くジエンマ、それに対してスティングは淡々と返した。

 

 

「俺は強者であるフリスを倒すと心に決めています。彼が辞めるのならこんなギルド、アンタのギルド(強者のいないギルド)にいても強くなれません、

今まで世話になった。レクター行こう。」

「す、スティング君がそう言うなら、それではお世話になりました〜、」

 

 

一礼してレクターを抱えあげて、ジエンマに背を向けた。

 

それに続いて…

 

 

 

「マスター、俺もギルドを辞めます、お世話になりました。フロッシュ行こう。」

「フローも辞める〜、ユキノいないと寂しい〜、世話になった〜」

 

 

スティングの相方のローグもフロッシュを持ち上げて一礼すると背を向けた。

 

 

「ふ、双竜のエクシードがいないんじゃな、

俺も辞めるぜ、じゃあな老害。」

「マスター、僕は貴方のギルドの日々を今日までとして記憶に残します。

また更なる高みを目指すので…

それでは、お世話になった。」

「マスター、あまりにも酷すぎる。じゃあな。」

 

 

オルガとルーファス、ドーベンガルも彼らに続いてジエンマに背を向ける。

 

 

「酷えな、ありゃ、」

「俺もや〜めた。」

「最低、女の子にあんな事言うなんて、」

「流石に無理だぜ、」

 

 

他のギルドメンバーも次々にジエンマの発言を非難し、背を向けて去ろうとする。

 

 

「ま、待て貴様らっ!!」

 

 

ジエンマの声など無視しようと、皆背を向けた。

 

 

 

 

 

 

「ふんぬうううううっ!!!!」

 

 

しかし、背後からジエンマの唸り声が聞こえたと思うとその魔力が高まった。

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

「きええええっ!!!!」

 

 

「「「ぐあっ、」」」

「がふっ!!…」

「うぎぃっ!!」

 

 

 

 

一気にギルドメンバーに向かって行き、飛びかかり、その面々を殴り叩きつけた。そのままずんずん突き進んでいく。

 

 

 

「うおおおおっ!!!」

 

 

 

ドカドカと突っ込んでいく男。それに吹き飛ばされていくギルドメンバー達。スティング達が止めようとするがそれを一気に押し退けて、

 

声を荒げ、ギルド面々を一気に掻き分けて、

その先頭…

 

 

 

 

 

フリスとユキノに飛びかかる、

 

 

 

 

 

 

 

「うがああああっ!!」

 

 

 

「え、…」

「ふ、…」

 

 

魔力を込めて迫りくるジエンマに少しびびるユキノと振り返りもしないフリス。

 

 

 

 

直後…

 

 

 

 

 

 

ドオッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

「カハッ」

 

 

 

破壊衝撃音と共にジエンマは体内の空気を吐き出して斜め上に吹き飛び、ドサリと地に落ちる。

 

 

 

その先には、

 

 

 

 

 

 

後ろを向いたまま、()()()使()()()拳を後ろに突き上げた青年がいた。

 

 

 

 

 

静まり返るクロッカス・ガーデン。

静寂の中青年が口を開いた。

 

 

 

「悪いな、少し前までのマスター…」

 

 

「フリス、さ、まっ…」

 

 

ジエンマを一撃で気絶させたフリスを見てユキノは静かに、しかし何処か感嘆混じりの声でその名を呼ぶ。

 

 

 

 

 

瞬間、辺りが湧いた。

 

 

 

「うおおおおっ!!強えっ!!、」

「凄え、凄えよフリスっ、

マスター…、()()()()を一撃でやっつけちまうなんてよっ!!」

「化け物じゃねえかっ!!」

「なんか俺、感動したっ!!」

「ユキノさんの彼氏さん、凄く強いっ!!」

「流石ユキノさんの男っ!!」

「フローもそう思ーうっ!!」

 

フリスがジエンマを倒した事に驚き称賛する()ギルドメンバー。何人か勘違いているが。彼らにとって自分達を押さえつけていた男が倒れている光景は湧き上がるものがあった。皆興奮し、雄叫びを上げていた。フリスの横にいるユキノも感動混じりの目で見上げている。

 

 

そんな中、スティングがフリスに近寄る。

 

 

「よっ、お見事っ、」

「…そうか?」

「ふん、あんただけだよ、俺達の元マスター、ジエンマを倒してしてそう言えるのは、ま、期待外れだったってのも本当だけどよ。」

「僕もそう思いますよ、せいぜい一人を除いて、」

 

元ギルドメンバーが遠巻きに恐る恐る見ている中、恐れもせずに倒れているジエンマを見ながらスティングは話す。スティングの後ろからも、もう一人…

 

「やはりこうなったか、薄々そうじゃないかとは思ってたんだ。」

「ローグ…、」

「ふ、俺達を舐めすぎた。数日の特訓とは言え、俺はお前の強さを身を以て分かっている。」

「フローもそう思う。」

 

フロッシュが両手を上げる。

 

「フリス、お前…少なくとも、この辺の魔導士ギルドに詳しく無いだろ、ユキノも多分そこまででは無いな?」

「え、はい実はそうなんです。」

「そ、そうなのか、すまん…」

 

ローグの問いに困り顔で肯定するユキノ。苦い顔のフリス。「だったら、」スティングがフリスの肩を叩いた。

 

「なら、俺達があんたとユキノのギルドを探してやるよ。」

「良いのか?、」

「ああ、俺はあんたのギルドに入ると決めている。

そしてあんたを倒すっ!!、だから逃がさねえよ。」

「俺もそうしよう、俺達にお前の見ている景色を見せてくれ。…勿論ユキノとの時間の邪魔はしない。」

「ローグ様っ?」

 

焦り声を上げるユキノにローグは静かに笑いかける。

2人はフリスとユキノの為にギルド捜索の手を貸してくれるそうだ。王国の正規ギルドに疎いフリスには願ったり叶ったりだ。

 

「そうか、なるべく良いところを頼む。」

「ああ、任せろ。」

「よっしゃあっ!!、これからもよろしくなフリス。」

「嬉しいですっ!!」

「スティング様、ローグ様、ありがとうございますっ…」

「フローもそう思〜う。」

 

ガシッと握手をするフリスとスティング。飛び跳ねるエクシード2匹。

ユキノも2人にお礼を良いローグに手を伸ばした。ローグもその手を優しく握る。

 

「俺達も行くぜ、」

「また、新たに記憶させて貰っても良いかな。」

「オルガ様、ルーファス様、」

「良いに決まってるだろ、また勝負しに来いよ。」

 

オルガとルーファスもフリス達の方に来る。

後ろにいる面々も、「俺もついていこうかな」とか、「彼らについて行った方が強くなれる。」とボソボソと言っている。

 

 

そんな中、フリスは「ん?」と首を傾ける。

 

 

「そう言えばレクターだっけ?」

「はい、何でしょう」

 

礼儀正しくレクターはフリスの方に身体を向ける。

 

 

「その、ジエンマに強く出られる奴が俺以外に1人を除いてって、他に誰かいたのか?」

「ん、ええ、いますよ、彼女なら多分、あの元マスターに勝てるかと、」

 

レクターは曖昧だが、いると言う。

 

…実力についてはレクターの想像している人物がジエンマに勝てるかは勝算は高そうだが、実際には不透明な部分がある。

困るレクターにスティング達が、取り敢えず付け加える。

 

 

「1人いるさ、俺達よりは強い奴がな、そいつは、そうだな…」

「フリス様は会った事無いですが、実は…」

 

 

説明に困る2人。

ローグがふっと息を吹き話し出す。

 

 

「ジエンマの実の娘がいたんだ、お前が来る4日前から仕事で外出していてな、…。

 

…そう言えば、彼女は今日帰って来る…」

 

 

ローグがそう言った時、

 

 

 

 

ザッと足音がして皆そちらを振り返る。

 

 

 

 

 

 

東洋風に黒髪を結んだ青い服を来た女が、フリス達の前に立っていた。

 

無言で宿の入り口に立っている。

 

 

 

()()()()()()()()()()()を見て無言の女。

 

 

 

 

そして、フリスの方、

 

 

…スティング達を見て一言、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはどういう状況か、妾にも説明してくれぬか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 








ミネルバ初登場!!


剣咬の虎はどうなるのか?



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