予報しよう。今日の天気は俺次第   作:報予気天

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二報

 アビドス自治区が砂に呑まれたのは、数十年前から激しくなった天災によるものだった。

 砂嵐。砂漠がその範囲を広げる原因の一つでもあり、場合によっては一晩で町一つが砂の中に飲み込まれてしまう事もある決して侮れない現象。

 アビドスではある時を境に気候変動か砂嵐の勢いと風向きが変化。街が大きな被害を受けるようになった。

 自然現象を前にして、人々の力など無力だ。精々が、被害を耐え忍び、終わった後に降り積もった砂に肩を落としながら片付ける位。

 

「……」

 

 砂に覆われた家の屋根の上に立って、天木タクスは遠くを見つめていた。

 彼の見つめつ視線の先には、黄色い壁が今まさに迫りくる所。

 砂嵐だ。それも見上げるほどに巨大で、対面すればただそれだけで心をへし折られるほどの自然の雄大さを感じさせる規模。

 だが、タクスの表情は動かない。鉄面皮には焦りの色も浮かばない。

 代わりに変化するのは、彼の周り。

 白い小さな綿の塊のようなモノが緩く渦を巻きながら現れる。それが、幾つも。

 その一つ一つに関しても、水滴が滴ったり火花が散ったり、雪が降ったり、光を発したり。とにかく幾つもの現象を内包していた。

 塊は急速にその体積を増して、互いに結合。人型を形成する。

 青みがかった白のボディに隆々とした体つき。関節部には雲をデフォルメしたようなサポーター。頭部には五本の角。顔面は鼻と口が無く、赤紫の両目が輝いた。

 

「ウェザー・リポート」

 

 タクスの口が名前を呟いた。

 これこそが、何も無い彼の持ち合わせた唯一と言って良いかもしれない個人証明。

 同時に、青白い人型は唐突にその形を失って白い雲へと解れさせていく。

 

 モーニンググローリー、と呼ばれる気象現象がある。

 ある一定の条件下において、朝方を中心に現れる巨大なロール状の雲の帯の事だ。

 驚くべきは、やはりその長さ。最大で1000キロメートルにも達し、最高で時速60キロで移動する。

 正しく、雲の津波とも言うべき現象だ。

 

 白と黄の巨大な壁が相対する。

 両方互いに宙を突き進み、街と砂漠の境界線上で激突。

 ここで両者の特性の違いが如実に表れた。

 

 砂嵐は、暴風などによって砂が舞い上げられた現象。

 モーニンググローリーは、長大な雲による自然現象。

 

 前者は乾いた風。後者は湿った風。そして、砂粒は水分に吸着される。

 ぶつかり合った2色の壁は、しかし雲の壁に軍配が上がった。

 前へと回転し続ける雲のロールはそのまま砂嵐を巻き込んで、同時に湿った空気と乾いた空気がぶつかった事によってその境目には雨が降り注ぐ。

 この降った雨もまた砂嵐を阻む壁となった。

 時間にすれば、どれ程か。ズボンのポケットへと手を突っ込んでいたタクスはその目を細めて雨の降る境界線上を眺める。

 ぐっしょりと濡れた砂。それが境界線を境に砂漠側へと大きく広がって、砂の色を変えていた。

 相殺された。自然災害がたった一人の手によって。

 砂嵐が収まった事を確認して、タクスは屋根の上から飛び降りた。

 着地の瞬間に強い風が吹いて落下の衝撃を一瞬やわらげ、危なげなく着地。

 

「ウェザー・リポート」

 

 同時に背後へと再び人型を出現させて、彼は砂に塗れた道を歩き始めた。

 奇妙なのは、その道中。

 タクスの歩く周囲では不自然な風が吹き荒れており、その荒れた風が道路やガードレール、電柱やポスト等々。街中に積もった砂を勢いよく空へと舞い上げていた。

 驚くべきは砂の行方、ではなくそれら構造物を傷つけないように逐一構築される風の防護壁だろう。

 舞い上がった砂は、風に巻かれて凶器と化す。その暴れ回る砂粒を一切触れさせる事無く上空に造られた風の檻が留め、圧縮していた。

 

 天木タクスという少年が、このアビドス自治区へとやって来て数日。

 彼はこの土地の清掃を行っていた。

 具体的には、降り積もった砂の除去と砂嵐の相殺。それから、水不足に陥りやすい場所へ雨を降らせること。

 元々は、拾ってもらった紫関ラーメンを手伝うような事になる筈だったが、如何せんタクスは不器用だった。その上、愛想も悪い。

 客商売を任せようものなら、売り上げのマイナスを叩きだしかねない。

 記憶の無いタクスとしても、恩人を相手に不義理はしたくない。という訳では別口で役に立つ事を考えて、目を付けたのが己の能力。

 

 “ウェザー・リポート”そう名付けられた能力は、天候を自在に操るというもの。

 雨を降らす、霧を発生させる、雷を落とす、雲を広げる、雨天を切り開く。凡そ、神の領域にでも足を踏み入れたかのような破格の能力。

 オマケに、“天候”とは単なる自然現象だけに留まらない。

 世界には何故そのようなものが!?という代物が降ってくる天候が存在する。天候と呼んでいいのか微妙な所だが。

 彼の能力は、それすら再現する。

 更に、空気中の成分や密度なども操作可能。射程距離は、数十キロから百キロに迫るかもしれない。

 

 空へと巻き上げ、纏めた砂はその足で砂漠へと持っていく。

 問題はその道中。

 

「っへっへ、ちょーっといいかよ」

「アタシら金に困ってんだよねぇ」

「ま、速い話有り金全部置いてってくれっかね」

 

 どこから現れたのか、着崩したセーラー服の少女たちがタクスの道を阻む。

 明らかに人知を超えたことをやっている彼に絡む辺り、バカなのか、或いはよっぽどの自信があるのか。

 タクスには、分からない。分からないが、この手の輩に対する対応という物は知っていた。

 

「ウェザー・リポート」

 

 呟く。直後、

 

「うわっ!?」

「雨!?晴れてんじゃん」

「あぶぶぶぶぶ!?あ、雨じゃなくて滝じゃん!?」

 

 少女たちの真上から天気雨のスコールがピンポイントに降り注ぐ。

 反射的に逃げ出そうとしても、雨はまるでスポットライトの様に何処までも追いかけてきた。

 ギャーギャーと喚く少女たちから視線を外して、タスクは再び歩き始める。

 頭の上に光の輪(ヘイロー)を浮かべた少女たちは頑丈だ。タクスも数度絡まれてその頑丈さを把握していた。

 雨に濡れれば風邪をひくかもしれないが、ここはアビドス。濡れた所で直ぐに乾く。

 因みに、最初は近くに雷を落として追い払っていた。もっとも、雷を落とした地点が焼け焦げてしまうため、街を壊すのは忍びなかったため集中豪雨で鎮圧する事にした。

 不良の少女たちを躱し、タクスは砂漠の方へとやって来た。この間、彼の頭上にあった風の檻は砂によって満タン状態。具体的には、二十五メートルプール一杯分ほど。

 この頭上の砂へと、タクスは雨を降らせた。これは、砂を濡らす事で下ろした時に舞い上がってしまわないようにするため。

 器用に砂を下してから、タクスは砂漠の地平線へと目を向けた。

 砂嵐の確認だ。自然現象を相手取るならば、いついかなる時でも気を抜くわけにはいかない。

 ただ、タクスは前ばかりではなく後ろにも気を配るべきだった。

 そもそも、ここ数日急に砂嵐の被害が無くなったのだ。そして、このアビドスには少ないながらも住人がいる。

 

「――――ん、漸く見つけた」

 

 砂漠を見つめるタクスの背後。自転車のブレーキ音の後、少女の声が響く。

 自分だろうか。ゆっくりと振り返ったタスクの目に映ったのは、ロードバイクを傍らに立つ一人の少女だった。

 灰色がかった髪に二つの獣耳。僅かに違う青いオッドアイに、熱い砂漠を前にマフラーを巻いた少女だ。

 知った顔ではない。いや、彼の知っている顔など柴大将位か。若しくは鏡に映った自分の顔だろうか。

 一方で少女もまた、天木タクスという少年をピンポイントで探していた訳ではなかった。

 彼女は、このアビドス自治区にある高校の生徒の一人だ。彼を探していたのは、この高校にあるとある組織の目的のため。

 

「掃除してたのは、貴方?」

「ああ」

「皆びっくりしてた。急に綺麗になった通りが増えたから」

「止めた方が良かっただろうか」

「ううん。でも、急にそんな事になったから変だなって。だから、探してた」

「それが、俺か」

「ん」

 

 頷く少女。

 彼女の言う事はもっともだ。突然綺麗になる通りが幾つも現れれば驚かない方が難しい。当然、その原因を探す。

 

「一緒に来てもらう」

「何処へ」

 

「――――アビドス高校」

 

 

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