予報しよう。今日の天気は俺次第   作:報予気天

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三報

 砂に呑まれた校舎を前に、天木タクスは目を細めた。

 砂狼シロコと名乗った少女に連れられてやって来たその場所は、外観こそ校舎として保たれているが所々には手入れの間にあっていない部分が見受けられ、長年の砂嵐の被害を感じさせた。

 

「ここか」

「ん。こっち」

 

 シロコに先導され、タクスもその後に続く。

 校舎内にも砂が積もっていた。どうやら、割れた窓や乾燥し亀裂の走った壁の隙間などから降り積もっているらしい。

 一応、生活動線は清掃されており目的の部屋へ向かうまでは特段砂が気になりはしない。

 前を行く灰色頭を追いながら、タクスは特に意味もなく校舎内に視線を滑らせる。

 彼の空白の記憶は、ピクリとも刺激されない。だが、その一方で彼自身の持ち合わせた知識が照らしあわされていく。

 そして、導き出す一つの結論。

 

「砂狼」

「ん、なに?」

「この学校には、生徒はいないのか」

「……少ないだけ」

「そうか」

 

 校舎の規模と、それに対しての圧倒的な物音の無さと人の気配の少なさ。

 

 少し話が逸れるが、音というのは空中よりも水中の方が速く進むとされている。これは主に、空間を満たす密度の違い。音が伝播するために必要な媒体の分子密度が詰まっている方が音は速く進む。

 

 動きの阻害にならないように調整しながら、タクスは周囲の空気の密度を増していた。

 空気というのは、一定の粘性という物を持っている。それは、本来日常生活では知覚出来ない僅かな物。

 だが、その空気の密度が増せばその限りではない。

 密度を増した空気は、周囲の音を通常時より速く届け、これをタクスは実行した。

 具体的には、この校舎丸々一棟。空気量を調整し、且つ人には影響が無い様に更に微調整。これによって校舎内の人数と活気の無さを確認し、その会話内容すら耳に納めていた。

 

 だからといって何かをするつもりはなかったが。

 天木タクスは記憶喪失だ。故に、彼には目的意識という物が無い。

 その上で、人の役に立つ事をしているのはそれが一番都合が良いからだろう。

 敵対関係を取られるよりも、友好関係。最低でも互いに不干渉が可能な状態がベストだとタクスは考えている。

 故に、役に立つ事をする。幸いなことに、街の掃除も砂嵐の対処も彼にとっては特別大変な事ではなかった。

 

 会話も程々に、辿り着くのはとある部屋。扉の隣に張られた紙には、アビドス廃校対策委員会。

 

(廃校。生徒不足、砂嵐。後は盗み聞いた()()か)

 

 砂嵐は兎も角として、その他の問題に関してタクスが出来る事は無い。

 タクスは一人で、その上金など持っていないのだから。

 連れの内心など知る由もなく、シロコは扉へと指を掛けて引き開けた。

 

「ん、ただいま」

「あ、シロコ先輩。お帰りなさい。何か見つかり……え?」

 

 部屋へと入ったシロコを出迎えたのは、メガネをかけたエルフ耳の少女。

 その少女が、シロコの後に続いて入ってきた少年(タクス)を見て、その目を大きく見開いた。

 彼女だけでなく、この部屋にいた()()()()()も同様の表情だ。

 

「?アヤネ?」

 

 彼女らの表情の意味を分かっていないシロコが首を傾げる。彼女は彼女で、色々と疎い。純真と言っても良いだろう。

 そして、三つの視線が向けられたタクスはタクスで別室に居るもう一人へと意識を向けていた。

 

(寝ている、のか。()()()()()()()()()()

 

 空気を利用した盗聴術。二度目ともなればその動きは更に洗練され、より一層周囲に気付かれる可能性は0となる。

 直後、姦しい叫び声が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――え、ええっと、それでは改めまして」

 

 ズレた眼鏡を戻して、奥空アヤネは改めて先輩の連れてきたお客へと向き直った。

 

「アビドス高等学校一年の奥空アヤネです。先ほどは、失礼いたしました」

「いや、気にしていない。在校生でもない外部の人間が勝手にやってくれば驚くだろう」

「えーっと、とりあえずお名前を聞いても良いでしょうか?あ、私は十六夜ノノミです」

「名前…………天木タクス」

 

 若干の間は、仕方がない。自分で名乗る機会など、名前を付けられて一度もなかったのだから。

 少女たちが落ち着いて一息ついた所で、一同は改めての顔合わせと相成った。

 構図としては、三対二。シロコとタクスが並び、対面にアヤネ、ノノミ、そして猫耳の気の強そうな少女。

 

「私は、黒見セリカよ。それで?シロコ先輩は、何でその人を連れてきたの?」

「ん。ここ最近、街が綺麗になってた犯人だから」

「はあ?……この人が?」

 

 セリカが胡乱な目を向けるのも無理はない。

 彼女らが知っている範囲でも、最低でも数十人規模の動員をして漸く綺麗にできるのではないか、と言った範囲が綺麗になっていたのだから。

 セリカだけではなく、アヤネとノノミもいまいち信じ切れていない様子。

 自然と、一か所へと視線が集まった。

 

「…………本当に?」

「信じようと、信じまいと構わない。報酬を得るための行動じゃないからな」

「つまり、天木さんはお金には困っていない、という事でしょうか?」

「いや……そもそも、俺は金銭を使っていないからだ」

 

 タクスの言葉に、返って来るのは怪訝な視線。

 先の通り、綺麗になった通りはかなりの規模で、それこそ復興の第一歩ともいえるほど。勿論、報酬を請求すれば渡されてもおかしくない。

 にも拘らず、報酬を必要としない。何より、現代社会を生きて金銭のやり取りを必要とせずに生きていく事など出来る筈もない。

 疑いの目。しかし、それらを一切合切タクスは無視する。

 元より、シロコに大人しくついてきたのも最低限の義理を通すべきだと考えたから。ついでに、柴大将にも交流を広げるべきだと提案も受けたから。

 気まずい沈黙。これを打ち破ったのは、急に開いた扉の音。

 

「――――うへぇ、皆何騒いでるのさぁ。おちおち眠ってもいられないよぉ」

 

 欠伸をしながら入ってきたのは、桃色の髪をした小柄な少女だった。

 少女は、欠伸で涙の滲んだ目を一瞬だけタクスへと向ける。

 ほんの一瞬だったが、それでも確かな敵意ともいえる警戒の色。向けられたタクスは気付き、しかし特別何かアクションを起こす事は無い。

 先程の盗み聞きで、この現れた彼女が()()()()()()()()であると知っていたから。そんな相手を警戒しろという方が難しい。

 一方で、彼女の登場に席を立ったのは、セリカ。椅子を蹴り倒す勢いだ。

 

「ちょっと、ホシノ先輩!今までどこに居たの!?」

「近くの空き教室だよぉ。ちょーっと、御昼寝をねぇ」

「お昼寝って………!とにかく、こっちに来て!」

「あ~れ~」

 

 引っ張られるがままに、小鳥遊ホシノはこの部屋の一番の上座へと座らされた。

 そして、改めて追及を始める。

 

「ええっと、天木さん?」

「なんだ」

「街の清掃は、本当に貴方が?」

「砂を払ったというのなら、俺だ。手持無沙汰でやる事もないからな」

「手持無沙汰……お一人で、でしょうか?」

「生憎と、知り合いは一人……しかいない」

 

 アヤネの問いに一瞬詰まったのは、タクスの知識の中で犬を数える場合は匹と数えるから。柴大将はその見た目ガッツリと犬だが、体格は人のソレ。扱いに困る。

 言葉での説明では要領を得ない。そも、信じられる根拠が無さすぎた。

 そう考え、ノノミはシロコへと水を向ける。

 

「あの、シロコちゃん」

「ん、なに?」

「天木君が、掃除をしている所を見たんですよね?」

「ん。アレは、凄かった」

「凄かった……?」

 

 掃除を形容するには違うのではなかろうか。ノノミは首を傾げた。

 確かに、手際の良さなどを褒める事はあるかもしれない。だが、シロコの反応はただ掃除の手際が良い、と読み取るには余りにも目が輝いていた。

 静かなように見えて、エキセントリック。無表情のままに突飛な事を言い出すのが砂狼シロコという少女なのだから。

 そんな彼女が瞳を輝かせる。それ即ち、真っ当な事ではない。

 

「ふ~ん………えっと、天木君でいいかなぁ?」

「なんだ」

「シロコちゃんが見た掃除の仕方って再現性のある事だったりする?」

「可能だ」

「そっかぁ……それじゃあ、おじさんも見て見たいなぁ」

「おじさん?お前は、十代の少女だろう?…………まあ、見せる分には構わないが」

「うへぇ、楽しみだねぇ?」

 

 交差する視線。そこに宿った感情は――――

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