予報しよう。今日の天気は俺次第   作:報予気天

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五報

 天木タクスの一日は、日の出前より始まる。

 

「……朝か」

 

 正確過ぎる体内時計。目を覚ましたタクスは、二度寝する事も無く身を起こした。

 腰を落ち着けるようになって一週間ほど経っただろうか。彼の今の住処は、アビドス高校の用務員室。たたきがあり、板張りの上がり框が設置された、元々は泊まり込みも想定されたであろう内装。

 彼の力を使って干し乾かした布団を畳んで脇へと寄せて、寝間着替わりであったジャージから常の白いシャツ、紺のスラックス姿へ着替え、最後に深緑の腰布を腰に巻く。

 靴下を履いた足をローファーへと突っ込み、彼は薄暗い廊下へと音もなく侵入。向かったのは、校庭だった。

 

「ウェザー・リポート」

 

 外へと出た所で、呼び出す力の化身。

 天候を操る能力。しかし、別に雨を降らせるだとかそんな事をするために呼び出したわけではない。

 タクスが両手を上に向けて少し待っていれば、彼の手の中に影が差した。

 程なくして、落ちてきたのは一匹の魚。

 オオクチバス。通称ブラックバスと呼称される淡水魚の一種だった。

 

 ファフロツキーズ、という現象が存在する。

 世界各地で観測される現象であり、その内容は主に()()()()()()()()が降ってくる。

 降ってくるモノの種類は様々で、カエルであったり、魚であったり、肉であったり、血の雨であったりオタマジャクシであったり、トウモロコシであったり。

 この現象の原因は、未だにハッキリとはしていない。有力なのは、竜巻説。海上で発生した竜巻に巻き込まれた魚などが空高く運ばれて、遠く離れた地に落ちてくるという物。

 他にも、錯覚説や飛行機説。誰かの悪戯や鳥が原因である等々。幾つも仮説はあれども正確な真実には辿り着いていない。

 

 タクスの食費などが必要ないと言ったのは、この現象を自前で起こす事が出来るから。因みに、彼自身もこの能力で降ってきた魚などは何処から来ているか、そもそも()()()()()()()()()()()()。知らない上で、食べていた。

 三十センチほどのバスを手に、向かうのは家庭科室。

 表面を流水で流して余分な汚れを取り除き、鱗を取って皮を剥ぐ。腹を開いて内臓をこそぎ落として血で汚れた身を漱ぐ。

 頭を落として、身、骨身、身の三枚おろし。余分な骨を抜いてから、後は豪快に切り身を焼いていく。

 味付けは塩だけ。焼いた切り身をそのまま手づかみで食べて、朝食はお終い。

 使った食器類は手に持って窓から突き出し、局地豪雨で洗浄。油汚れも大雨でバラバラにして土に巻けば後は微生物が分解してくれる。

 雨で洗浄し、続いて熱風で一気に乾燥。乾いた表面を布巾で軽く拭ってから元の場所へと戻して、再び外へ。

 最初にやるのは、校舎外壁の掃除。

 砂嵐を相殺できるタクスといえども、気付かなければ意味はない。特に夜間の眠っている時などはどうしようもない。

 風で砂を吹き飛ばし、その飛んだ砂埃で周りが傷つかないように更に風を操作。

 校舎外壁の砂を纏め、タクスが向かうのは学校の外だ。

 砂漠へと向かう道すがらで町を風で清掃していく。

 どうしても砂漠に隣接している関係上、砂嵐だけでなく一定方向から風が吹くと砂の粒が宙を舞って街に降り注いでしまう。

 人力とは比べ物にならない規模で砂を払えるタクスですら、半ば鼬ごっことなっているのだ。人の手だけでやろうと思えば発狂待った無しだろう。

 慣れたように頭上の風の檻に溜まった砂を砂漠へと捨てて、踵を返して来た道を戻る。

 続いて行うのは、雨による洗浄、風による乾燥、熱風による仕上げの三工程。

 ウェザー・リポートは、数十キロ単位で正確に局所豪雨で車を足止めできる程度には操作精度が良い。タクスがやっているのは、この応用。

 彼の歩いた道に沿うようにして砂を払った通りを雨が濡らして汚れを落とし、風が水分を飛ばして、最後に熱風が吹き抜けて余った水分を蒸発させる。

 ここまでくると良い時間。太陽も既に地平線から昇っており、朝の時間である。

 同時に、ピンクのアホ毛も襲来。

 

「やあやあ、おはよー天木君ー」

「ああ。おはよう」

 

 並んで歩く小さな頭。

 朝の掃除の帰りに、隣をホシノが歩く事は既にタクスの中ではいつもの事として受け入れられていた。

 

 例えソレが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としても。

 

「勤勉だねぇ、天木君。朝も早いのに、おじさん感心しちゃうよ~」

「朝が早いのはお前もだろう、小鳥遊ホシノ。見回りも程々にするべきだ」

「うへー……まあ、ねぇ。この頃この辺も物騒になって来たからさぁ」

 

 大きな欠伸を零すホシノ。目じりに溜まった涙をぬぐってから、大きく伸びをする。

 ぽけっとした昼行燈のような彼女だが、責任感は強い。それは、アビドス高校唯一の三年生であるから。そして、もう一つの理由も。

 いつもならはぐらかすホシノだが、タクスにそれはしない。

 彼には、用務員に就いた翌日あたりにバレてしまったから。はぐらかそうにも“空気を読む”という事をしない彼は踏み込んでくる。

 一応、ソレが嫌だと伝えれば彼は大人しく身を引いた。今も、色々と思っているかもしれないがホシノに踏み込んでは来ない。

 

(本当に、悪い子じゃないんだよねぇ)

 

 一週間。それが長いか短いかは人それぞれだろう。

 ホシノとしては、見極めの時間としてはまあまあ、といった所だろうか。

 そも、彼女が天木タクスを疑ってかかっていたのは彼女の立場もあるがもう一つ。このアビドス自治区、ひいてはキヴォトスという土地に理由が有った。

 

 神秘が息づく土地、キヴォトス。

 弾丸が致命傷にならない少女たち。二足歩行する犬。感情豊かなロボットの大人たち。

 その他にも、学園()()でありながら一つの国家の様に多種多様な自然環境、気候条件を持ち合わせている。同時に、その土地特有の生き物なども。

 

 だが、それだけではない。それだけではないのだ。

 

 この都市には、()()()()が存在する。

 何が理由なのか、原因なのかハッキリとは分からないがそれでも確かに()()

 

 ホシノがタクスの能力による砂嵐を疑ったのは、彼自身に対するものもそうだが、それ以上に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(まだまだ危ないけど……もう少し、信じてみても良いのかなぁ)

 

 欠伸混じりに、小鳥遊ホシノ(暁のホルス)は不確定要素を見つめるのだった。

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