息抜き投稿。
◎・・・
「これが……例のゲームですか」
一人の男が部屋の中でVRMMO用の機材を準備したベッドに横たわりながら、ゲームソフトの入ったパッケージをを眺める。『New Wolrd Online』通称『NWO』
今流行のVRMMOを使った新発売のゲーム。基本はオーソドックスなファンタジーRPGだが、プレイヤーの行動に応じてスキルを取得し独自のビルドを作り上げていくことも可能との触れ込みであった。さらに、発売近くになって発表されたある要素が男の期待を膨らませていた。
「ふふふ、私の推測通りなら……」
男は笑いながらゲームスタートし意識をゲームの世界へと飛ばす。ゲームの初期画面に移動した彼はゲーム内での見た目の設定に移っていた。
「ゲーム内での見た目ですか……。特に拘りは無いのでこのままでいいでしょう。いや……ロールプレイをするなら多少変更……あ? あー、髪や目の色程度の変更でしたか。なら別にこのままで」
NewWorld Onlineでのキャラクリに少しだけ不満を待ちつつもそこを余り重視していなかった男はそのまま次の項目に映る。
「おや……名前ですか。んー、本名から変化させて『―――』っと」
男はポチポチと名前を撃ち込んだ。
名前を決める為のウィンドウが閉じると、別のウィンドウが現れる。どうやら初期装備を決める為のウィンドウらしい。男は迷わず杖、魔法使いを選択する。
「ステータスは……INTとMPを多めにしてAGIを不快に感じない程度に上げてあとはHPに……うん。こんな感じで良いでしょう」
人によっては多いに時間をかけて悩む初期ステータスの設定だが、男は既に目指すものがはっきりとしているため、おおよそのステ振りは決まっていた。そうしてテキパキと作業を進めて、ステータスに納得がいったのか決定ボタンを押してウィンドウを閉じる男。
「ここから始まる私の……」
何かが引っかかったのか最後の『ゲーム開始』のボタンを押さずに考え込む男。
「私……いや、儂? あぁ、儂か。こちらの方がより魔法使いらしいのぅ」
男はニヤリと笑いながら『ゲーム開始』のボタンを押すのだった。そうして男の身体は光に包まれた。
◎・・・
目を開けると眼前に広がるのは中世の城下町のような風景。しかしそこかしこを行きかう人々の幻想的なと言ってもいい、武器と防具。そして現実では絶対に見ることの出来ないほど巨大な木と葉、そしてそれらを利用して作られた家屋。どれもこれも幼い頃にみた本のようで、実に男の心をくすぐった。
「あぁ、素晴らしいのぅ。今すぐにでも街を見て回りたいがまずは儂の目的を……」
そう言って男は初期リスポーン地点から移動して近くにあった丸太のベンチに腰掛けて、メニュー画面を開く。そして目当ての項目を見つけ出す。
「あった『魔術エディット』……」
男がポツリとつぶやく。
『魔術エディット』この男が『NWO』を始める切っ掛けであり、発売前になって発表された要素である。edit(編集)の名の通り、いろいろな魔素と呼ばれる魔術の元を組み合わせて自分だけの魔法を作ることが可能なのだ。これによって作られた魔法は魔素の組み合わせ次第で敵を自動で追尾したり、消費MPを犠牲に威力を追求したり、逆にダメージが無いで空中に絵を描いたりと様々な使い方ができるのだ。
「……ふむふむ。魔素はショップに各地のダンジョンの宝箱やモンスターのドロップで手に入る、か。なかなか骨が折れそうじゃのぅ。しかし……くくく、胸が躍るのぅ」
男はそう言いながらも上がる口角を抑えることが出来なかった。
◎・・・
「うぅ……予想はしてたけどソロでダンジョンクリアは難しいよね……」
西の森の奥地にある古い遺跡が舞台のダンジョンを赤髪の少女がゆっくりと進んでいく。おっかなびっくり進んでいくその姿はもはや哀れですらあった。しばらく進むと、遺跡の角からゴブリンが現れる。
「グギギッ……ギヒッ」
深緑色の体表とギョロギョロと黄ばんだ目を動かすゴブリン。ゴブリンは赤髪の少女を見つけると歪んだ笑みを浮かべ少女に向かって走り出す。
「ゲギャギャギャギャギャ!!」
「ひっ……
少女は叫ぶように魔法の名を唱える。そうすると少女が両手で握りしめていた杖の先に火が集まり球体を作り上げる。そしてそれが迫りくるゴブリンに向けて跳んでいく。
「ヴケェッッ!?」
火球は真っすぐゴブリンに向かって着弾する。直撃したゴブリンは衝撃で倒れ込み、次の瞬間体中が炎に包まれて燃え上がる。ゴブリンは直撃ダメージの他に炎による継続ダメージが入っているようで、ジタバタともがいていた。しかしそれもゴブリンのHPがゼロになり体が黒いポリゴンとなって消えたことで終わる。
「やった!」
杖を胸に抱きしめて、嬉しそうに小さく呟く少女。けれどもその表情は次の瞬間絶望の表情に早変わりした。
「ゲギギッ」
「ゲビャッ」
「ギギギギ」
何体ものゴブリンが遺跡の角から姿を現したのだ。
「……え」
最初のゴブリンが少女に突撃しながら上げた声。あれは仲間に獲物の居場所を知らせるためのものだったのだ。少女の姿を見つけて次々に走り出すゴブリンたち。
「あ、あぁっ、火球! 火球! 火球!」
迫りくるゴブリンたちに向かって火球を連射する少女。このダンジョンは本来パーティで攻略することを前提とした難易度の調整されている。しかし気弱な性格をしている少女は始めたばかりで周りに知人の一人もいない環境で見知らぬ人に協力を要請などすることは出来ず、一人でこのダンジョンに来てしまったのだ。
「火球! え、な、なんで出ないの! 火球! 火球! あ、MP切れ……」
『NWO』のMPの回復方法は時間経過かポーションを使い回復するかの二種類がある。しかしゲームを始めたばかりの少女にとってMP回復ポーションは高く買える代物ではなかった。結果、時間回復のみが彼女のMP回復方法だったのだが、考えなしにゴブリンたちに火球を放ってしまい回復は追いつかず直ぐにMP切れを起こしてしまったのだった。
「グギギギギッッッ」
「ギヒヒ」
「い、いや、待って取らないで!」
少女に抵抗の手段がないと理解したのかゴブリンたちは少女に飛び掛かりその身体を押さえつける。その上で完全に彼女から抵抗手段を奪うため少女の持っていた杖を奪い取る。すでに魔力は切れていて意味のないことだとしても少女は唯一の武器を取り返そうと手を伸ばす。その手はゴブリンの持ったこん棒によって地面に叩きつけられる。
「痛っ!? あ、いや、嫌嫌嫌嫌! 痛い、痛い!」
次々に少女の身体に叩きつけられるこん棒。ゴブリンは低級モンスターであるため一撃のダメージは低い。それでも数が多ければ無視できるものではない。ドンドン少女のHPが減っていく。気弱な少女にとって大勢に囲まれて攻撃されるというシチュエーションが耐えきれるものではなく。精神的に追い込まれゲームだと分かっていても恐怖で涙が零れそうになったそんなとき。
「
突如遺跡内を走る幾つもの黒い光。それらは少女に覆いかぶさっていたゴブリンたちを次々に射抜き、黒いポリゴンに還していった。
「え?」
「……ここはパーティ向けのダンジョンだ。確かに現時点では良い魔素の周回場所ではあるが一人で、それも初心者が来るとはのぅ。愚か者か、自信家かと思ったわ」
少女の後ろの暗闇から姿を現したのは少しばかり外側に跳ねた黒い長髪、水色の少しクマのある目とチェーンのついたアンダーリム眼鏡をかけた男が現れた。
「あ、貴方は?」
「儂か? 儂の名は―――
これが後にプレイヤーキル数一位になる賢老と呼ばれる男とそんな彼に弟子入りした炎帝と呼ばれる少女の初邂逅であった。
独自設定・魔法エディット
今はまだクヴァールの見た目ではない。