◎・第一回イベント から数日後・
私は荷物を纏めて学校へ向かう。『New Wolrd Online』のクヴァールも今日はお休み。それでも脳裏に浮かぶのは『New Wolrd Online』の事。ネットの掲示板や攻略非公式wikiを眺めて少しでも有用そうなスキル、魔素情報を仕入れておく。真偽は実際にプレイして確かめてみればいい。名一杯努力した先の報酬がショボくてもそれはそれで思い出になりますから。
「……にしても、ミィは惜しかったですね」
通学路を歩きながら数日前に行われた『New Wolrd Online』第一回イベント、バトルロイヤルの結果を思い出す。
1位はペインと言う名の剣士、白く蒼い装飾の鎧が目を引くいかにも勇者といった感じの青年だ。プレイヤースキルも勿論豊富なスキルと優れたステータスから繰り出される一撃は脅威でしょう。ですが……分かる。
2位はドレッド、かなり素早い動きの短剣使い。スキルや魔法などではなく、恐らく本人の直感で攻撃を避けている場面が幾つかありました。私としてはペインよりもこちらの方が遥かに恐ろしい。
3位のメイプル。
「貴女に初のデスを与えて差し上げましょう」
そして4位のミィ。かなり頑張っていたんですがねぇ……。純粋な火力ではペインにも負けていなかったと思うのですがなんというか、他の上位3名がかなり特異だったと思うほかありませんね。
そんなことを考えていたらいつの間にか、教室に辿り着いていました。教室に入れば既に本条 楓さんと白峯 理沙さんが席について会話をしていた。……あの二人はいつも一番に教室にいますね。一体何時に登校しているのでしょうか?
「おはようございます、本条さん、白峯さん」
「あ! おはよう、久羽くん!」
「おはよー久羽くん」
挨拶をしてから席に着く。そうして鞄の中から教科書などを取り出して授業に備える。そんな中、二人の会話が耳に入ってくる。
「そういうコンセプトでパーティーを組みたいと思ったから回避盾を目指す!」
「頑張って! 私はもっと防御力を上げるね!」
なんて事を話している二人。その内の本条さんの顔をちらりと見る。スー――ッ、
いや、やっぱりメイプルですよね!? 第一回イベントの中継を見ていた時からなんとなーく、見覚えあるなーとは思っていましたけどね! なるほどラスボスは同級生だったと! まったく……そういう展開、嫌いじゃないわ!
「……楽しみですね」
私は思わずそう口に出しながら、笑みを深める。あぁ、早く放課後にならないものか。
◎・・・
放課後になれば、クラスメイト達に挨拶をしながら教室を出て真っすぐ帰路に着く。帰宅してリビングを覗き、テーブルに置かれたメモから両親がどれくらいに帰ってくるのかを確認し、自室に入る。鞄の中から課題を取り出し、すぐに終わらせれば素早く『New Wolrd Online』にログインする。
「……むぅ」
目を開ければそこはここ一か月で随分と見慣れた街並み。ですが、決して私を飽きさせることは無く、同じプレイヤーを見かけても、装備が変わっていたり、喜んでいたり、悲しんでいたりと日々そのありようを変えている。されでも今日は一層の賑わいを見せている。それもそのはず。
「さてと……今回のアップデートで二層が追加さたわけだ、新たな魔素を求めていざ新天地へ、と行こうかのう」
今日は大型アップデートがあり二層が実装されたばかり。多くのゲーマーが我先にと二層目指して一層のボスダンジョンに挑んでいます。私もそんな一の一人ですが。あぁ~、二層には一体どんな敵が、スキルが魔素があるのでしょう。今から楽しみでしようがありません。
「し、師よ!」
「むぅ?」
NPCショップでポーションやらを買いそろえていざフィールドへ! という所で声をかけられて振り向く。するとそこにいたのはマイスイート弟子でした。……自分で言って置いてアレですが、寒気がしますね。普通にミィで良いでしょう。
「ミィ。 ……と何者だ、そ奴等は?」
ふと冷静になってミィの方を見直すとミィの背後には見慣れぬ赤い服で統一された男たち、そして白いシスター服の女性と白黒のローブを来た男がいた。
「彼らは私の作ったギルド『炎帝の国』のメンバーだ、師よ」
「ギルド……? はて、そんな機能は……」
「あぁ、まだない。だが、こういったMMOではギルド機能は欠かせない。ここからは私の推測になってしまうが、近いうちにギルド機能が実装されるはずだ。それまではパーティという形で活動している」
「そうか、そうか」
なるほど、ギルド機能。たしかにあるようでありませんでしたね。しかしこれから実装されるであろう機能を予測して、既に仲間集めを始めているとは……。改めてメンバーを見回す。成程、国というだけあって人数も多いですし、良い装備を支給されているようですミィを元首として赤い服の彼らは軍人でしょうか。今もそれぞれの武器を構えつつ見事に整列しています。となると……残りの個人で用意しているであろう装備をしているのは幹部、でしょうかね。
「あぁ、8位『トラッパー』マルクスと10位『聖女』ミザリーか」
「うぇ!?」
「あらあら」
「流石師、知っていたのか」
「第一回イベント上位10名の情報は抑えておるからのぅ」
私はそう言いながら顎を手でなぞるような動作をする。そんな私を疑惑の目で見つめるのが聖女ミザリー、おびえた様子でこちらを伺っているのがトラッパーマルクス。そんな背後の二人の様子に気づかず『師よ』『師よ』といって輝く視線を向けてくるミィ。あー、本当に可愛い弟子ですねぇ……。
「それで、ミィ? 一体儂に何の用だ?」
「む、師よ。何か用がなければ話しかけてはいけないか?」
「……そういう訳ではない」
むしろ可愛い弟子に話しかけられるなら話題何て無くても全然問題ないですが? こうしてあなたの姿を目に映るだけで尊みマックスで気分上々ですが?
「まぁ、用が無いわけではないのだがな」
「ほぅ?」
なぁんだ、この茶目っ気さんめ! 師匠、笑顔になっちゃうぞ!
「これから一層ボスに向かうんだ。良かったら師匠も一緒に来ないか?」
「パーティの誘いという訳か。うーむ……」
さて、どうしましょうか……。考え込みながらチラリとミィの方に目線をやる。するとミィはキラキラとした目で私を見ていました。あー、すっごい期待されてるー。
正直なところ自分一人でダンジョンに向かって今の自分の実力がこのゲームのフロアボスに大してどれだけ通用するかを試してみたかったんですが……。前回のイベントは一緒に行けなかったですし……。今回も断るというのは少しばかり気が引けますね……。それに可愛い弟子の頼みを聞くのも師の仕事ですか……。
「よかろう。であれば、早速向かうとしよう」
「! そうかそうか、では師よ、こっちだ! ついて来てくれ! よし、諸君らもついてこい!」
「「「おおぉー!」」」
うぉ、うっさ。
◎・二層へと向かうダンジョン・
一層のボスがいるダンジョンに入った私と炎帝の国のメンバー。というかこのゲームのダンジョン、いっきに10人までは入れるんですね。いっつもソロかミィとのペアでしかダンジョンに行っていませんでしたからね……。しかしです、この狭い洞窟で10人は中々きついものがありますね。
「む? 止まれ、ミィ」
「どうした師よ」
「トラッパー、何か突進してくるぞ。魔法を仕掛けろ」
「え、は、はい!」
私の言葉にマルクスさんが前方に罠を張る。その数秒後、暗闇の奥から突進してきたのは大きな牙をもったイノシシでした。罠の可能性なんて考えていない正しく猪武者という言葉が似合う突進をしてきたイノシシはそのままマルクスさんの罠を踏んで動きを止められる。というか。
「拘束罠だったか」
「えっ、ご、ゴメンなさい。どんな罠かは言ってなかったから……」
あ、私のミスでした。確かにどんな敵で、どんな罠なのかは指定してませんでしたから取り合えず動きを阻害しようとしたマルクスさんの選択は間違っていませんね。
「ミィ」
「分かった! 『炎帝』!」
私の言葉に素早く反応したミィが『炎帝』を放ってイノシシを瞬く間に焼き尽くしました。……私のプレゼントした『炎帝』をしっかり使ってくれているようで感激です。
「使いこなしているようだな」
「あぁ! 師が私の為に用意してくれた最高の魔法だからな!」
そう言って燃え盛るイノシシをバックにこちらに笑顔を向けるミィ。どことなく猟奇的な絵面だが、可愛いのでまぁ、ヨシ!
「えぇ!? 『炎帝』を作ったのってミィでは無かったんですか!?」
「ん? そうだ、この『炎帝』は師が私の為に魔法エディットで作ってくれた魔法だ」
ミザリーさんが驚いた声を上げて私の方を見てきました。あー、ミィ、説明してなかったんですか。
「あの『炎帝』作成者……ッ!? 前に一度だけ『炎帝』の魔素構成を見させてもらったけどあの芸術的でありながら精密機器のプログラミングの様な緻密な組み合わせがされていた『炎帝』の作者!?」
マルクさんが壊れました。なるほど先ほどの拘束魔法のトラップ。通常習得できる魔法よりもはるかに高性能……彼も、エディターでしたか。
「先ほどの拘束魔法、アレはお前が作成したのか?」
「う、はいぃ……」
「見事だった」
そう一言だけかけて先に進みます。後ろから茫然とした気配と『う、うらやましい』なんて可愛らしい声が聞こえましたがあえて聞こえなかった振りをします。ふふふ、ミィ。私に実力で褒められたかったらもっと精進することですね。
そんなこんなでたどり敷きましたよ、ボス部屋。道中の敵は確かに通常の一層にいるモンスターよりもステータスは高くなっていましたが、ここにいるのはトッププレイヤー。まぁ、敵ではありませんよ。マルクスさんのトラップで足止めして『炎帝』や私のもう一つの得意魔法『腐敗』で蹴散らして終わりです。
「さて、ここがボス部屋かのぅ……」
「『New Wolrd Online』初のフロアボス……! 諸君気を引き締めてかかるぞ!」
「「「おおーーー!」」」
ミィが後ろの団員達にそう声をかけて士気を高める。兵たちは大いに活気に満ちて、マルクスさんやミザリーさんも声こそ上げていませんがゲーマーの性、でしょうか目に見えてワクワクしています。霧の帳を潜るとそこは神秘的なミドリ溢れる空間でした。まるで聖樹の中ともいうのでしょうか。木の中にさらに木が生えているという少々可笑しな光景ですが……。
「アレは……ボスか!?」
ミィが何かに気が付いて目の前の巨木に『炎帝』を放ちました。すると巨木はめきめきと音を立てながら『炎帝』を避けながら変形、大きな鹿になりました。
「ほぅ、さながら森の祖霊と言ったところかのぅ……」
「感心してないで攻撃してください!」
私が顎に手を当てながら森の祖霊を観察する。隣で魔法を飛ばしているミザリーさんに怒られるが観察は止めない。
「ミィ、明らかに炎が効きそうだが?」
「ダメだ師匠、『炎帝』も歯が立たない」
「うーむ……ダメージが通らないという次元ではなく、効いていない、効かない、といった概念が正しいかのぅ」
祖霊の出してくる蔓の攻撃を避けながら考える。何か……何かヒントになるようなものは……。ッ!
「ミィ、頭のリンゴを落とせ! あれだけエフェクトが違う!」
「了解だ、師よ!」
ミィが私の言葉に応えて火球で祖霊の頭になっているリンゴを落とす。すると祖霊の全身に揺らぎの様なエフェクトが出る。
「なるほど、頭のリンゴを落とせば攻撃が通るのか! 総員、リンゴを狙って攻撃!」
ミィの言葉に全員がリンゴを狙って攻撃する。まるで軍隊のように統制された攻撃は瞬く間にリンゴを落としきり、エフェクトが大きく揺れ消える。すると今までは祖霊の身体は淡く発光していましたが、その輝きが消えていました。
「あとは儂に任せよ。蹴散らしてくれる、腐り、爛れ、地に堕ちよ。『朱き腐敗の華』」
私の身体の周りに朱い花弁が纏わり付き、相手に突撃する。祖霊と衝突すると同時に花弁が開花、辺りに腐敗を撒き散らかす。祖霊の体は直ぐに爛れ始め、体の内から膿が噴き出てボロボロに崩れていく祖霊。そして画面に表示される『クリア』の文字。
「師、師よ。その魔法は?」
ボスを一撃で撃破した魔法に恐る恐るといった様子でミィが声をかけてきます。
「これは『腐敗』という私が魔法エディットで作り出した状態異常を放つ魔法だ」
「魔法エディットで状態異常を作り上げた……?」
「そういうことになるのぅ」
「そんなことが……」
私の言葉に驚愕するマルクスさん。確かに今まで聞いたことは無いでしょうが、努力すれば何とかなるものですよ。
「賢老だ……」
「ぬぅ?」
炎帝の国の一人の兵士が私の方を見てそう呟きました。すると周りにいた兵士たちも同じように声を上げる。
「賢老……腐敗の賢老だ」
「腐敗の賢老!」
なるほど二つ名という訳ですか……。『腐敗の賢老』……いいですね。ならこれからはそう名乗らせてもらいましょうか。
「良い名だな……『腐敗の賢老 クヴァール』それが儂の名だ」
ボス部屋の中心でふわりと周り腐り堕ちた祖霊をバックに炎帝の国の面々に笑いかける私。私の浮かべた笑みに炎帝の国の面々は怯えた表情を見せてくれた。
今の私、絶対にカッコいい! 悪の大魔法使いとして成功に絵になっている! これこれ、このロールプレイがしたかった! あー、『New Wolrd Online』最高ッ!