◎・第2層・
第2層は森林と洞窟が数多くあった言うなればファンタジー世界の田舎町といった感じの第1層とは違い、石造りの建物が多く並んでおり、ファンタジー世界の城下町といった感じですね。木々は減りましたが、広大な平野に雪山や、砂漠という真逆の性質をもった地形もあり心が躍ります。
さらにこの階層には街やその周辺にファンタジー世界から飛び出してきたような空き家が多くあり、マイホーム機能、そしてミィの言っていたギルド機能が追加されるのではと噂がプレイヤー間で飛び交っていますね。
「さて……」
そんな石造りの街の中心にある広場で私は座り込みながら運営からの連絡を見る。その内容は第二回イベントの告知とそれに伴うメンテナンスの連絡だった。その中にある一文に私は眼を止める。
「スキルの一部修正……。防御力貫通攻撃スキルの実装とそれに伴う痛みの軽減。……むぅ」
どう考えてもメイプル対策であろう運営の行動。それはつまり……第一回イベントで見た圧倒的な防御力をもったあの黒い悪魔とでも言うべきメイプルにはもう挑めないという事!? あ、あぁあああ……そんな、そんな……ッ!?
「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!」
思わず両手を地面に叩きつけて後悔の念から唸り声をあげてしまう。通行人からは一体何事かと視線を向けられるが努めて無視。通行人の視線なんかよりも私はあの魔王状態だったメイプルにもう挑めないということが悲しくてしょうがなかった。こんな事になるんだったら早めにメイプルを殺しに行くべきだった! ……いや、仮に今の状態で行ったとしてもあのメイプルのVITを抜けることが出来るか分からない。功を焦ってはなんとやらです。そもそも私の目標はこの『New Wolrd Online』で最強の魔法使いになること、その一つの指標としてメイプルを倒す、そういう事だったはずです。危ない、危ない。初心を忘れる所でした。
「しかし、これ以上時間をかけて更にメイプルが弱体するようなことがあれば……痛手よなぁ」
弱体化が仮にまた来るとしてもそれは今回の第二回イベントでどれほどメイプルが暴れたかにもよるはずです。で、あるならば! 今回のイベント、私も参加すると致しましょう。今回のイベントは探索型。期間はゲーム内時間で一週間。ただし時間を加速させ、現実での経過時間は二時間。その関係で一度ログアウトしたらイベントに再参加は不可能。目標物はフィールド内に散らばった300枚の銀のメダル。銀のメダルは10枚集めると金のメダルと交換出来て、イベント終了後に金のメダルをスキルや装備に交換できる、と。どのようなスキルが手に入るのか楽しみですね……。まぁ、何にせよ。フィールドにまかれているメダルの数に限りがある以上、後半になればPKをしてメダルを奪うという行為が多くなってくるはず。で、あれば!
「儂はそこでメイプルを討つとしようかのう……クックックッ」
と言う事で、イベント開始までの一週間はこの二層の魔素集めとなにか珍しいスキルがないかの探索と行きましょうかね。二層が実装されてまだそれ程時間は経っていませんが、ミィからよさげな魔素の周回場所の情報も送られてますし、これは期待が出来ますね……。にしても、この情報収集能力、ソロではないからこそですね。ミィが所属している『炎帝の国』はかなり大人数でしたし、魔法使いも数多く所属していました。そういう情報は逐一集めているんでしょうね……。ふふふ、いい友人に恵まれたようで師は嬉しいですよミィ。という訳で今日も私は魔素集め、魔素集め~。
◎・四日後・
「むぅ……。周回しすぎたかのぅ」
魔素周回兼レベリングを始めて四日目。いくつかの地点を時に移動しながら周回したのですが、入手できる魔素がどれもこれも見覚えのある物ばかりになって来ましたね……。これは、困りました……。
「この階層で追加された魔素は殆ど入手してしまったという事かのぅ……」
いえ、元々第一層の時点で約300種類はあったのですからそれに今回追加された約100種類。この時点で少なくとも何万もの組み合わせが出来るのだから満足するべきでしょう。今後の追加で更なる魔素の追加は期待するとして残り三日は今手にしている魔素でどれだけ『
「そうと決まれば、今日は街に帰るとするかのぅ」
そうして、今まで周回を繰り返してきた洞窟から帰ろうと出口に向かって歩きはじめます。しかし、まだ推測とは言え、まさか魔素のほとんどをゲットしてしまうとは予想外でした。そもそもこの『New Wolrd Online』は『魔術エディット』を使わなくても強力な魔法は山ほどあります。正直に言ってしまえば攻略も対人も既成魔法で十分です。それでも『魔術エディット』が実装されたのは私みたいな一部の人間が激しく食いつきますし、ゲームの魅力の一つとして広告に使えるからというのもあるでしょう。実際プレイをしていると強力な魔法を『魔術エディット』で作り出すには良い魔素を周回して集めないといけませんし、それを魔法陣の上にまるでプログラミングのように配列して行かないといけません。そうして努力して作った魔術も既成魔法と似たような性能だったりします。それなら魔素周回なんてせずにレベルアップと同時に自動で覚える既成魔法で十分となってしまうわけです。
「結局、突き詰めなければ費用対効果がまるで合わんからな……」
私ほど周回しているプレイヤーはいないと情報屋をしているプレイヤー『アルゴ』さんも言っていましたしねぇ……。あー、もっと多くのプレイヤーに『魔術エディット』が広まらないですかねぇ……。今では騒ぎたいときに打ち上げる花火魔法の柄を弄る程度にしか使われていませんですからねぇ。
「ん?」
今、視界に何か違和感が……。考え事をしなから歩いていた道を戻り、違和感を感じたあたりの洞窟の壁を摩ったり、叩いたりして見ます。これは……?
「隠匿魔法……? ほほう、なんと複雑な術式よのぅ」
成程、読める、読めるぞォ! この隠匿魔法、既成のものではありませんね……。そして先ほどまでの周回では影も形も無かった。つまりこれは一定条件を満たすと、出現する隠しダンジョン! そしてこの『魔術エディット』で作られた既成のものとは違う隠匿魔法! この術式……トラップが仕込まれていますね、既成の発見魔法に対してのカウンター防壁が仕込まれている……。つまり今この場で所有している魔素を駆使してこの隠匿魔法に対する発現魔法を作り出さないといけない訳ですか……。これには多くの魔素と『魔術エディット』豊富な経験が問われるますね。とどのつまり、
これは運営からの挑戦状とみて間違いないですね!
「クックックッ……面白い」
そうして私は洞窟の床に座り込み、この隠匿魔法に対する魔法を作りはじめました。ふぅん……、これがここで、この術式がここに作用していて、ほほぅ、これならこうして……。
「これで良いかろう……。では、『
私が完成した魔法を壁にかけると魔法陣が現れ、その幾重にも重なった線が一つずつほどけ消えていく。そして全ての線が消えるとそこには木製の扉がぽつんと置かれていました。恐る恐る扉を開けて中に入る。中は正に秘密基地といった感じで、何やら魔法の研究をしていたらしく多くの書物やポーションを作るための道具が置かれていますね……。ん? 何かウィンドウが?
『クエスト【人を捨てた先に】』
「ふむ、クエストが始まったか……ッ!?」
部屋の中を見て回っていると突然ゲームウィンドウが開かれました。何事かと確認していると視界の隅で青白い光が見える。驚いた私はそれが攻撃魔法であることを前提に避けました。
「何だ!?」
視線を光の飛んできたほうに動かすと部屋の奥の陰からまるで幽霊か、魔物かのように黒い靄を纏った人間の姿をしたナニカが出てきました。そのナニカは何の言葉を喋るわけでもなく、ただひたすらに青白い何かを手のひらから放ってくる。先ほどと同じ見たことのない魔法! 部屋から飛び出して洞窟内に飛び出す。そのナニカは追ってきて洞窟内の戦闘に発展しました。……あの青白い……まるで流星のように飛んでくる魔法、既成のものではないですね。ならばこれも運営が『魔術エディット』で作り出したこのクエスト専用の魔法なのでしょう。回避して顔の脇を跳んでいった魔法に一瞬解析魔法をかける。長時間の解析は出来なかったため、あの魔法の全ては解明できなかったがおおよそは理解できました。ならそれに対する術式を手持ちの魔素から構成して……即席防御魔法の完成ですッ!
「『
私が唱えた防御魔法は正しく機能してナニカの放った魔法の一切を遮りました。やはりあの魔法には『星』の属性があったようですね。あの幾重にも飛んでくる流星、発動前に見せる空へ祈るような動作……仮の名前ですが『星空への呼びかけ』とでも呼んでおきましょう。MPに上限はないのか何回も『星空への呼びかけ』を使用してくるナニカ。確かに強力な魔法ですが……。
「既に防御魔法も作られ、対処された芸当を擦り続けるとは……つまらんなァ!」
前面に『
「ククク……ここまで、ようやくここまで来たか。あと少し、もう少しで……。では、行くぞ? 『
「―――ッ!?!?」
私が放った黒い閃光は真っすぐにナニカに向かって跳んでいき、その身体を綺麗に貫いた。今まで満タンにあったナニカのHPは一瞬にして消し飛びナニカの体はポリゴンとなって消えていった。
『クエスト【人を捨てた先に】』完了
「お、クリアしたようじゃのぅ……」
ウィンドウにそう表示されてナニカが倒れた場所に光り輝く宝箱が現れました。おそらくこれがクリア報酬なのでしょう。私は宝箱に近づいて中身を確認する。中にあったのは一つの指輪。効果は……『魔族化』ですか?
『【魔族化】この指輪の装備者自身が「魔族」に変身するスキル。【MP】と【INT】が100ずつ上昇し、HPが1000になる。ただしこの指輪以外の装備の能力値上昇やスキルは使用不能となる。外見も能力もモンスターそのものだが、使用者の意思で操作することができる。使用者が指輪を外す。または「魔族」のHPが0になるとスキルは解除され、使用者は無傷で分離する。指輪を外した場合は再び指輪を付ければ再びすぐに使用可能。HPが0になった場合は1日開けないと再使用は不能』
「成程。魔素を集め、魔法の更なる高見を目指し、その果てに人外へと至った……。そういうストーリーだったのか」
魔族化のスキル説明とは別に指輪のフレーバーテキストを読んで私は先ほどのナニカをそういう存在だと認識した。気になった私はその指輪を装備してスキルを発動する。するとすぐに私の姿はめきめきと音を立てて変形していく。頭髪は白色になり、角が生えてくる。肌は黒く染まり、体はゴツゴツと筋肉質な物へと変わっていく。
暫くして変形が終わった後私は洞窟内の水たまりで自身の見た目を確認すると正に魔族といった人外がそこにはいた。