────────────────────────―――――――――
白峯さんことサリーと共に光虫を集めてから3日後。私は再び『New Wolrd Online』にログインしていました。3日ぶりの感覚に軽く柔軟をして体を慣らしながら目的の場所へと向かいます。向かう先は二層の街の少しばかりはずれにある山脈近くのエリア。なんでもミィはそのあたりにギルドホームを構えたらしく、本日はその拠点に御呼ばれした、という訳なのです。
「にしても……少しばかり街から離れすぎてはないかのぅ」
ミィが立ち上げたギルド『炎帝の国』はかなりの大人数ギルド。ホームもそれなりに大型の物を選択していたと事前のメッセージでは送られていましたが……。かなり交通の便悪くないですかミィ!
いや、バスもタクシーもないファンタジー世界で交通もなにもあったものではないんですがね。イベントの準備とかでポーションの買いだめとか、武器製作の材料を街に買いに行く時とか少しばかり面倒な距離にありませんかね?
「この辺りのはずだが……」
そんなことを考えつつ歩いて行けば、ミィから送られてきた座標の近くまでやってきていました。もうそろそろ何か建物が見えてくるはず……。当たりを見回すと目に入るのは切り立った山肌に枯草、枯れ木、所々に積もる灰と火の手。……溶岩は見える範囲にはありませんがここは火山だったりするんでしょうか?
おや、あれは……?
「あ! 師ー! こちらだー!」
少し遠くの位置に見えたのは大きく、荘厳な雰囲気を纏った館。そしてその前に供を連れて待機していたミィでした。ミィは私を見つけると大きく手を振って声をかけてくれました。返事として軽く手を上げながらそちらに向かって歩いていきます。そうしてミィの目の前までやってくれば彼女は笑顔のままこちらに寄ってきて手を差し出しました。
「師よ、わざわざ遠いところまでありがとう」
「なぁに、可愛い弟子からの招待、苦である訳なかろう」
その手を取りながら挨拶を交わす。
「後ろのが?」
「あぁ! 我ら『炎帝の国』のギルドホーム、『火山館』だ!」
────────────────────────―――――――――
「おぉ……これは」
ミィの案内で火山館を案内されていますが……これは、これは。中も外側と同じように豪華絢爛でありながら決して派手過ぎさは感じない絶妙なバランスでとても良い。ええ、とっても良いですね。『New Wolrd Online』の運営はスキルやバトル難度、イベントの発生条件などたまに正気か疑いたくなるものがありますが、本当に敵やエフェクト、建物などのデザインセンスに関しては文句なしに優秀です。戦闘よりも家具などの製作、収集を目的としているプレイヤーもいると聞いたことがありますが確かに納得できるというものです。
「我ら『炎帝の国』は大人数ギルドだからな、拠点となるギルドホームも大型の物でないと人数を収容しきれない。しかし街の中心部にそんな大型のギルドホームの建物があっては景観や非ギルドメンバープレイヤーの街中での動線が制限されてしまう。そう言った影響で大型のギルドホームは全て町から多少離れた郊外に設置されているらしい」
「成程のぅ、それでこんな山奥に……」
「『集う聖剣』のギルドホームも森林エリアの先にある『ファランの城塞』ってとこらしいからな」
「『集う聖剣』……? というかお主は……?」
聞いたことのない恐らく団体名に私は首を傾げてしまいます。というか火山館に入った時からついて来ているこの人は一体……?
「俺か? 俺はパッチだ。あんたと同じ客人、基本的にソロプレイヤーだが今はこいつら、炎帝の国の大盾部隊の、まぁ、面倒を見てやっていたという訳さ。後は……そうさなぁ、品ぞろえはその時その時だが、行商人もやってる。パッチ商店、見ていくかい? 決して損はさせないぜ」
禿げ頭に黒い皮の装備をしている大盾使い。パッチさんはそう言ってアイテムウィンドウを開いて見せる。少しばかり足を止めてアイテム欄を確認してみます。あぁ、すいませんね、ミィ。案内中に急に立ち止まってしかし
流れのソロプレイヤーですか……。あー、それなりに良い品ぞろえですね。案外強いプレイヤーなのでしょうか? いくつかの装備強化素材を購入させていただいて再びミィの案内で火山館のなかを進んでい良く。
「で、ここから先が居住エリアだ」
「おぉ」
ミィの案内で辿り着いた火山館の裏側には小規模とはいえ町がありました。ギルドホームってこういう形のものもあるんですねぇ……。確かに二層の中央の街よりかは小さいですが大人数のプレイヤーが生活する家々が並ぶ町がギルドホーム内にあるとは驚愕です。というか町中を溶岩が流れてる……暑くないのでしょうかアレ。オシャレなな水道みたいな雰囲気出してますけど、どう見ても溶岩。
「なぁ師よ」
「どうかしたかミィ」
眼下に広がる町を見ながらミィが私に声をかけてきます。その表情は真剣なもので私は少しばかり感激します。『やだ、私の弟子カッコよすぎ』と。ああ、でも最初は誰も頼れず一人でダンジョンに挑んでゴブリンにも負けそうになっていたミィがこうしてイベントで実績を残す様になって、多くの人を率いて、ギルドホームですがこうして一個の町まで納める程に成長したのは喜ばしいことです。
「実はお願いがあるんだ」
「言ってみると言い」
「師に私のギルド、『炎帝の国』に入って欲しい」
そう言ってミィは私に頭を下げて……ってお゛お゛い゛ッ゛ッ゛!
「や、やめろミィ! お主はイベント上位のプレイヤーでこのギルドの長、そう簡単に頭を下げるでない」
「いや、それ以前に貴方は私の師なのだ。頭を下げない訳がない」
なぁぁぁぁぁ!? 怖! 怖い! さっきまで和気あいあいと過ごしていたはずの炎帝の国のメンバー全員がこっち見てるぅぅーーー! なんで、なんで気が付いた! うっわ、ミザリーさんもおるやん。ってか一番笑顔怖いまである。しっかし……どうしましょう。ギルドかー、もうしばらくはソロプレイヤーでもいたかったんですけどね……。
「……」
「ぬぅぅ……」
ミィは今だに頭下げていますし……。手が震えてる? そこまで緊張するんですか、私を勧誘ことが!? 表情は見えませんがきっと、とても強張っていることでしょう。……というよりなんでこんなに必死に私を勧誘しているんでしょう? このギルドにはもう既に優秀な魔法使いが多数いますし、なんならミィがその筆頭です。
「ミィ、このギルドには既に優れた魔法使いが多い。今更ワシを必死に勧誘する理由はなんだ?」
「それは……その……」
私の質問に固まり何やらもじもじとしだすミィ。あ、どうにか頭は上げてくれましたね。一安心です。
「わ、私が……」
「ミィが?」
「私が師と一緒にいたいから……。ダメ?」
「いいぞ。これからよろしく頼む」
はい、即決です。顔を真っ赤にしちゃってぇ~。本当に可愛いんだから! 最初っからそう言ってくれたらよかったのにもうー! いい、全然良いよ~! 私、ミィのギルドに入っちゃう! まぁ? 冷静に考えればギルド機能が実装された今、今後のイベントはギルドに所属していた方が有利になると思われますから別になんの問題もありませんね、ヨシ!
────────────────────────―――――――――
「ということでこれから世話になる、クヴァールだ。よろしく頼む」
「うえぇぇ!?」
「あら、良かったですねミィ」
「う、うん」
「へぇー、アンタがあの盾殺しか」
客間に案内されギルド幹部に挨拶することになったのですが、皆さん大変驚いていますね。マルクスさんは絶叫し、ミザリーさんはミィに何やら耳打ちしてるし、ミィはそれを聞いてまた顔を赤くしています。そして最後に私を物珍し気に見てきているのが第一回イベント第7位『崩剣』のシンさん。たしか、空中で分裂する特殊な剣を使用するんでしたか。基本的に何でもできて弱点は少ないが決め手にもやや欠ける、といった器用貧乏な印象を受けたのですが……。というか……
「盾殺し?」
「アンタの異名だよ。ほら、メイプルをPKしただろ? それで一部で呼ばれてるんだよ」
ほえー。そうなんですね。盾殺し……嫌いではありませんが……。
「ふむ、ではその異名は改めさせる必要があるな。儂は『腐敗の賢老』クヴァールだ。こちらの方が気に入っておるでな。できればこちらで呼んで貰おうかのぅ」
「へぇー『不敗』か。良い名じゃねぇーか」
「くくく、そうであろう?」
どうやらシンさんは交友の輪を広げることもできるらしい。彼のお陰で私は他のプレイヤーともすぐに打ち解けることが出来たのでした。
炎帝の国、集う聖剣のギルドホームはフロムゲーから
パッチと言う名のプレイヤー
もし彼に『向こうにお宝があった』等の話を聞かされたら用心するべきだ。特に背後には……。
器用貧乏扱いのシンさん。原作ではそこまでは言われてなかったけど、本作ではこういう扱いに。