体育祭当日
俺は個人競技で龍園とアルベルトをぶつけられた。
100m走では龍園に圧勝したが、ハードル走ではアルベルトが妨害したきた。
ハードルを飛び越える時、アルベルトは飛んでいる俺に向かって飛び込んできたのだ。
巨漢のタックルには流石に抗えず、突き飛ばされる。
「なっ?!」
こんなことしてくるとは思わず動揺するが、空中で翻り、地面に着地する。
しかし大きなタイムロスになり、ぎりぎり最下位を免れた。
競技が終わると帆波が駆け寄ってくる。
「優里くん、大丈夫!?」
「驚いたけど大丈夫だよ」
心配そうな帆波にそう返す。
Aクラスの上位層は順調に高順位を得ていた。
しかし下位層の順位には少し違和感を覚えた。
ランキング最下位の男が妙に順位が良いのだ。それだけではなく、下位層の白波を含め数人が全て悪い順位だった。
しかも毎回B、Dクラスの同じメンバーと当たって、似たような結果になっていたのだ。
「断定は出来ないが、スパイの可能性があるな」
総合ランキングで白波に代わって最下位になった彼はワースト2位から離されていた。
動機は十分にあるが、有栖と龍園が取り込む理由が見えなかった。
他に気になることと言えば、障害物競争で堀北が転倒したことだ。
Dクラスの生徒が堀北を巻き込んだため、おそらく龍園の策略だろう。
堀北は気の毒だが、帆波が狙われなくて良かった。
全員参加の競技となり、棒倒しから始まる。
最初はDクラスが守るそうなので、Aクラスが攻撃に出る。
Bクラスは鬼頭だけが突出しているので、俺が抑えている間に棒を倒した。
Dクラスが攻めの時には、砂煙が舞ってハッキリと見えない。
怒号や鈍い音がするから、龍園が仕掛けているのだろう。
棒が倒れた時には、ボロボロになったCクラスの須藤が龍園に詰め寄っていた。
綱引きでも龍園の策略が光る。
1度目はわざと負けて油断させ、2度目で本気を出して勝つ。
3度目、拮抗したところで綱から手を離す。B、Cクラスはそのまま後ろに倒れる。
須藤がブチギレて龍園に絡んでいる横で、葛城から話しかけられる。
「Aクラスがこんなことに加担するとはな」
「うちのクラスに害がないなら協力するさ」
女子の騎馬戦は堀北が集中的に狙われていた。
龍園の策略にはある程度協力するつもりだったので、女子は赤組の勝利となる。
男子の騎馬戦では突っ込んできた須藤をDクラスが対応する。
俺たちはBクラスを潰し、Dクラスの方へ向かう。
俺の騎馬に戦力を集中させたのでAクラスは俺だけだ。
残された騎馬は龍園と平田だけになっていた。
龍園が須藤を煽り一触即発の雰囲気だ。
俺が二組に近寄ると、
「ククッ、バケモンのお出ましたぜ」
龍園がそう言ってくる。
「2体1だがどうする」
「ククッ、猿どもの相手は任せた」
龍園がそう言うなり、顔を真っ赤にした須藤はこっちに突っ込んでくる。
「右に回避だ」
俺の指示に騎馬は即座に動いて避ける。須藤の突進を何度も避ける。
「避けてんじゃねえ!勝負しやがれ!」
バテ始めた須藤が言うが
「馬鹿の1つ覚えで突っ込んでくるからだ。危険な猿どもを相手にする必要はない」
「ククッ、そうだよなぁ。猿ども」
俺の挑発に龍園が乗っかる。
須藤が再び突っ込んでくるので、
「龍園、挟み込むぞ」
「ククッ、俺に指示すんじゃねえ」
龍園はそう言いながらも、突っ込んできた須藤を迂回する。俺の騎馬が受け止めているところを、龍園が強襲する。巨漢のアルベルトが横から接触することで、須藤はバランスを崩し平田が落ちそうになる。
俺は掴んでいた平田の腕を離さない。
騎馬が転倒したことにより、俺の腕に平田がぶら下がる格好になる。俺は鉢巻を掴んで、平田を掴んでいた手を離した。平田の落下先にいた須藤が悲鳴をあげる。
「ククッ、随分と甚振るじゃねえか」
「お前に便乗しただけだ。ヘイトはお前が受け持ってくれてるからな」
俺と龍園が話しているところに、須藤が突っかかってくる。
「おいてめえら、何しやがる!」
「ククッ、お前が思ったより雑魚だったんでな」
「俺は平田を助けただけだ」
俺と龍園が立ち去るのを須藤が追おうとするが平田に止められている。
Cクラスは雰囲気最悪だ。
昼休み、俺は帆波と昼食を食べる。
「また優里くんは無茶して・・」
隣に座った帆波が心配そうにしている。
「外は俺の担当だからね。龍園に対して何も行動しない方が危険なんだ」
「それでも心配だよ・・」
すると帆波は俺の肩を抱き寄せ、俺の頭を自分の膝に乗せる。
「私を心配させた罰だよ。昼休みが終わるまでこうしてもらいます。」
「ごめんね。こんな優しい彼女がいて、俺は幸せだよ」
「そ、そんにゃこと言われても解放しにゃいからね!」
俺は帆波に膝枕をされ、昼休みを終えた。
午後1番の競技は借り物競争だった。
俺は真っ先に紙を手に取り、お題を確認する。
「好きな人」
俺はそれを見た瞬間、帆波の下へ駆け出した。
「帆波、来てくれ!」
「にゃにゃ?!」
驚く帆波の手をとり駆け出す。
ゴールした後お題を確認される。
「お題は好きな人ですね。本当に彼女のこと好きなんですか?」
司会に言われたので俺は帆波の肩を抱き寄せて言う。
「ええ、俺と帆波は付き合っています」
<うおおおおおおお>
歓声と悲鳴が入り混じり、会場が沸く。
司会に確認され、帆波はコクコク頷いた。
「橘、一之瀬ペアが一位です!」
帆波の番が来た。
お題を見て顔を赤くした帆波はこっちへ来る。
「優里くん、来てほしいにゃ・・」
帆波は俺の手をとり走り出す。
「お題は大切な人ですね。先ほどので分かりましたが、、、今ここで彼が大切な存在だと証明してください!!」
悪ノリした司会が帆波に言う。
「にゃぁ!?」
顔を赤くした帆波は俺の頬にキスをする。
再び会場が沸いた。
男女混合二人三脚で帆波とレーンに並ぶと、周囲が騒がしくなる
_あれが噂のカップルか
_アツアツで羨ましいわ
_イケメンに美少女なんて反則だろ
様々な声が上がる。
「にゃはは・・こんなことになるなんてね・・」
「俺は男どもを牽制出来て良かったよ。帆波は俺のものだって周知できたし」
「にゃ?!・・それは私もだよ。この体育祭で優里くんのこと好きになった子絶対いるもん」
当然、二人三脚は1位でゴールした。
最後の学年対抗リレーになった。
俺は他のアンカーを見てギョッとする。
綾小路がいたのだ。
__どういうつもりかわからないが、全力を出さないと負けるな。
1番手の柴田がスタートダッシュして、2位でバトンを渡す。
特訓の成果が出てその後も順調に進み、2年Aクラスと1位争いをしている。
アンカーが待機しているところで南雲先輩がいつものように会長に絡む。
南雲先輩に目をつけられた綾小路は2人に宣戦布告する。
俺はその言葉に恐怖する。かつて何度も見た、淡々と他者を蹴散らす光景がフラッシュバックする。
2年Aクラスと接戦になりながらバトンを渡してきた帆波を見て覚悟を決める。
「優里くん!!」
その言葉で俺は飛び出した。
横に並んでいた南雲先輩の姿はすぐに見えなくなる。それでも俺は一心不乱に走る。心の中は恐怖と、それでも負けたくないという思いでいっぱいだった。
結果、俺は1位でゴールした。
後を振り返ると南雲先輩がゴールしたとこだった。
その遥か後ろから会長と綾小路が、競り合いながらとんでもない速さで前の選手を追い抜いている。
倒れた選手を避けたせいで綾小路は4位となった。
俺は驚きを隠せなかった。公衆の面前で実力を発揮した綾小路も、その綾小路に並び競り勝った会長にも。
アクシデントがあったとはいえ、会長は綾小路に一対一で勝ったのだ。俺が10年間達成出来なかったことを会長はやってのけたのだ。
__知らないところでやってくれれば良かったのに、俺はそう思わずにはいられなかった。
俺はどうしようもない劣等感と、後悔と虚無感に苛まれた。
結果は赤組が勝利した。
クラスは学年で1位になり、柴田が学年優秀賞を獲得した。
体育祭のポイント変動は
1位 Aクラス +50cpt
2位 Dクラス +0cpt
3位 Bクラス -150cpt
4位 Cクラス -200cpt
結果を見れば唯一ポイントをプラスにしたAクラスの快勝だった。
それでも俺の心は晴れなかった。
打ち上げの店を予約してクラス全員を向かわせる。
「優里くん、どうしたの?」
動かない俺を見て帆波が尋ねる。
「ごめん、今日はどうしても打ち上げに行けない。打ち上げは帆波にお願いしたい」
リレーの後から俺の顔が暗かったのに気づいていたのだろうか。帆波は俺の顔をじっと見つめ、
「・・わかった。でも終わったら優里くんの部屋に行くから」
「ありがとう・・・」
そう言って俺は1人で寮に戻る。
部屋に戻った俺は電気もつけないままうずくまる。
どうしてもこの感情を整理できなかった。
会長が実力者であることはわかっていた。それでも綾小路に並べるほどでは無いと思っていた。
圧倒的な天賦の才を持っていたなら、納得ができた。だが会長は埒外の存在ではない。
俺がどんなに手を尽くしても遂に得られなかったものを会長は得ていたのだ。
自分が埒外の存在でないことは自覚している。出来ることはなんでもやったつもりだった。
__俺は自分の積み上げてきたものに大きな亀裂が入ったように感じた。
帆波が俺の部屋に入ってきた。
「優里くん・・・」
俺が返事をしないでいると、
「リレーの後だよね、優里くんの様子がおかしくなったのは。1位になった時じゃない・・・。もしかして会長と綾小路くんを見て?」
「会長の期待・・優里くんが一番警戒する人物・・Dクラス・・目立ちたくない人・・・」
帆波が思考した後に告げる。
「優里くんが警戒してる人って、綾小路くんのことだよね。彼と何があったの?」
俺が何も返せないでいると、帆波は俺の両頬を掴んだ。逃がさないと言わんばかりに顔を近づけ、俺の目をじっと見つめる。
「私は優里くんの隣に立ちたいって言ったよね。楽しいことも辛いことも全部2人でして、2人で幸せになろうって言ったよね。優里くんはそうじゃないの?
・・・私には、、何も言ってくれないの・・?」
帆波が涙を流す。揺らいだその瞳に、情けない顔をした自分が映る。彼女に涙を流させている自分に苛立ちと情けんさを感じる。
「前に俺が教育施設でどうしても勝てないやつがいる、って言ったでしょ。それが綾小路なんだよ。施設にいた9年間、あらゆる分野で俺は1度も勝てなかった。彼の倍の努力をしても、数を揃えて挑んでも、ダメだった。
今日会長が綾小路に勝ったのを見て、もうダメだった。会長が天才だったら納得できたのに。俺は9年間誰よりも努力してきたはずなのに。自分が積み上げてきたものを否定された気がして。」
「そっか・・・・」
「優里くんはここで諦めるの?もう努力しないの?今まで1度も勝てなかったんでしょ。なんで負けた数が1つ増えただけでそんなんになるの。
なんで彼に勝った人を参考にしようと思わないの?なんでもするんだったら、会長を喰らうぐらいすればいいじゃん。」
「私が好きになった優里くんは、こんなところで諦めたりしない。いつだって前を向いて、努力して、ひたむきで、輝いてた。そんな優里くんだから、私は好きになったんだよ。
また立ち上がればいいじゃん。不安なら私が支える。私は優里くんのこれまでを肯定するよ」
帆波はいつだって眩しい。彼女の瞳の輝きに俺は恋焦がれ、救われてきた。
「そうだ・・そうだよな・・。俺は俺であるために、俺の価値を証明するために立ち止まってなんかいられない。
未来を掴み取るために、俺は前に進まなくちゃいけないんだ」
「私はずっと一緒だよ。2人で前に進もうよ」
俺は帆波を抱きしめて言う。
「ああ、ずっと一緒だ。2人で前に進もう。そして2人で幸せになろう」
彼女の瞳の輝きが伝播するかのように、優里の瞳に輝きが灯った。
体育祭後のクラスポイント
坂柳クラス 740pt
一之瀬クラス 1420pt
龍園クラス 400pt
堀北クラス 220pt
長年勝てなかった綾小路が負けたのを見たのですから、主人公の情緒はぶっ壊れますよね。