放課後、星之宮先生に呼ばれて職員室へ行く。
「1年Bクラスの橘です。星之宮先生はいらっしゃいますか」
そう言うと星之宮先生が来て、
「あ、橘くん来た〜。ちょっと生徒指導室に行こうね」
と言われて生徒指導室に連れて行かれた。
「それで、橘くんはどこまで気づいてるの?」
「上級生に敷かれている緘口令の内容を多少は」
「どうやって知ったの?」
「上級生同士の会話を盗み聞きして」
そう告げると星之宮先生は眉を顰めた。
「普通はできないはずなんだけどな・・」
完全に困った様子だ。
「とりあえず知っていることを全部説明して見て」
「まずクラスポイントの概念ですね。毎月のポイント支給額はこのクラスポイントに依存していると考えてます。クラスポイントは授業態度、テストの成績、特別試験で変動します。
あとはクラス分けですね。Dクラスは不良品だとあちこちから聞きました。おそらくAに行くに連れて優秀になっていくのではないかと」
星之宮先生は頭を抱えていた。
「ほとんど正解じゃないの・・」
顔を顰めた後に
「橘くんに緘口令を敷くことは確定だからね。逆に聞きたいことある?今ならある程度答えられるよ」
既にある程度の情報を得て口止めが確定しているからだろうか、情報を増やしても問題ないのだろう。
「それでは1つだけ、この学校の退学条件を教えてください」
星之宮先生はギョッとしている。クラスポイントのことを話した時と比べて違う本能をしている。よりまずいことが起こったかのような。
「あー、、えーっとね、、」
この質問は想定外だったのだろうか。答えられない、とも言ってくれない。
「よし、いずれ知ることだからか教えるね。退学条件はテストで赤点を取ったらだよ」
__やはり明確なボーダーが設定されていたか。
何故自分がここまで行き着いたのか。それはこの学校がホワイトルームに似ていると感じたからだ。ホワイトルームでカリキュラムをこなし、下位は脱落していく。五期の人数と比べて少ない四期。そしてこの学校も年下の人数が多く、年上の人数が少ない状況。生徒のふるい落としが行われている。
「そうですか、ありがとうございます」
「まあ入試満点の橘くんには縁の無い話かもしれないけどね」
すると星之宮先生は契約書を取り出して書き始める。
__口止め契約の前に聞いておくか。
「あー、先生、口止めするほどじゃ無いかもしれないんですけど聞いてもいいですか」
「何かな」
「Bクラスの入試の成績、もしくはBクラス内での成績順位とかって知ることができますか?」
「んーー。それは無しかな」
星之宮先生は悩んだ末に答えを出した。
「わかりました。聞きたいことは以上です」
「よし、それじゃあ契約しようか」
契約書を渡されたので目を通す。
・今日先生に話したことの内容、質問した内容と返答を他者に伝えることの禁止
・代わりに100万pt譲渡される
・星之宮先生が公表した内容については、公表後に発言可能
・破ったらマイナス100万pt
「100万ptって多くないですか?」
「4月にバレたくないことのほとんどを口止めするからね。その分よ」
「わかりました。契約します」
契約書にサインして契約が完了した。
「これで契約完了だね。こんな頭のキレる子がいるんだもん。うちのクラスのこれからが楽しみだねー!」
星之宮先生は先ほどと打って変わって随分嬉しそうだ。
口止め契約を交わしてから1週間が経った。
4月の後半に差しかかっているところ、俺は入学式の二日後に見つけたジムに通い詰めていた。
体のメンテナンスもあるが狙いは1つ。上級生とのコネクションを作ることだ。
いつものようにトレーニングしていたところ声をかけられた。
「失礼、良い体つきしているもので声をかけさせてもらった。俺は2年Aクラスの藤田だ」
随分とガタイの良い先輩に声をかけられた。
「ありがとうございます。1年Bクラスの橘です」
名乗ると藤田先輩は驚いていた。
「噂の橘か。入学早々に生徒会入りしたと、上級生の間で話題になっていたぞ」
「姉のおかげなんですけどね。ランニングしながら少し話しませんか?」
そう言ってランニングマシンも方へ移る。
「橘はスポーツは何かやっていたのか?かなり引き締まった体をしているが。」
藤田先輩が走りながら聞いてくる。
「色々齧ってましたが武術がメインですね。いろんな術理を教え込まれてました」
それを聞くと藤田先輩は納得した様子だ。
「藤田先輩はがっしりした身体ですが何のスポーツを?」
「ああ、ラグビーをやっていてな。部活の人数は少ないがそれでも関東大会はいくレベルなんだ」
「それはすごいですね。関東大会まで行くとボーナスとか貰えたりするんですか?」
「ああ、部活で結果を残すとポイントがもらえるぞ。おかげでポイントは苦労していないな」
ランニングは続く、先輩にも少し疲れが見えてきた。頃合いだな。
「先輩、1年の最初のテストっていつですか」
「5月半ばに中間テストが・・いや、4月終わりに小テストをやらされたな。かなり難しかった記憶があるぞ」
難しい小テストか、少し気になるな。
「でもAクラスの先輩なら余裕だったんじゃないですか?」
「そうでもないさ。俺たちは最初Bクラスだったからな。小テストの出来が悪くて不安だったとこにな、南雲が過去問を持ってきて小テストと中間は過去問そのままだと、、あ」
__かかった__
「すまない、過去問のことは聞かれるまでは言ってはいけないんだ。聞かなかったことにしてくれるか」
藤田先輩が焦って頼み込んでくる。
これはチャンスだ。
「先輩、取引をしませんか」
「取引だと?」
「ええ、先輩は過去問を譲ってください。そしたら俺はテストが過去問そのままだと知らなかったことにします。」
藤田先輩は少し悩んでから尋ねてくる。
「しかしそれだと橘に過去問を渡す理由がないぞ」
「それは大丈夫です。ただ復習のために譲ってもらったことにしますから」
「過去問を譲る代わりに、過去問の使い方は黙っておくということか。それなら問題なさそうだな」
「はい、契約書は必要ですか?」
藤田先輩は少し笑いながら
「そこは生徒会書紀を信じることとしよう。それにいずれ誰かが気づくしな」
「ありがとうございます。連絡先の交換しましょうか」
ジムから帰ってきた夜、先輩から小テストと中間テストの過去問が送られてきた。
小テストとその過去問、二の矢としては最適だな。
数日後、放課後に俺は図書室へ来ていた。ジムに張り込む必要がなくなったから放課後に余裕ができたのだ。
久しぶりに小説を読もうと小説コーナーに向かうと、そこには俺の宿敵と呼べるやつがいた。
__綾小路清隆がいた__
あいつもホワイトルームを脱出しようとしたなら失敗するはずがない。そして高校生で身を隠すならここが1番だ。
驚くのはそれだけではなかった。
__綾小路清隆が女子と会話してる!!
ホワイトルームで9年見てきた俺には信じられない光景だった。他者に関心のないあいつが人と雑談しているなんて。
意味がわからん。あいつが変わったのか、あの銀髪の少女が特別なのか。これは確かめる必要がありそうだ。
「気づかれる前に撤収して、寮の前で待ち伏せしよう」
寮の前で張り込んでいると綾小路が現れた。
「綾小路清隆、少しいいか」
俺は綾小路の前に姿を現し声をかけた。
「誰だ。少し見覚えがあるようだが」
「少し見覚えがある、か。9年間共に白い部屋にいたのにひどいじゃないか」
白い部屋と聞いた習慣に綾小路の蹴りが飛んでくる。腹部目掛けてきた足をかわし、追撃の拳を受け流して距離を取る。
「ストップストップ!俺は敵ではない!」
俺がそう言っても綾小路は警戒を解かない。
「とりあえず場所を変えよう。どのみち俺に勝てるのであれば問題ないだろ」
すると綾小路も少し納得したようで、
「それもそうだな。オレの部屋でいいか?」
「ああ」
綾小路の部屋に入る。
__随分と無機質な部屋だな
「とりあえず俺の身の上話をしようか。」
ホワイトルームに入るまで、ホワイトルームでのこと、脱出してから入学するまでのこと全部話した。
「ああ、アンタは四期でずっと2位だったやつか」
__ここまで言ってやっと思い出されるレベルだったのか。本当に他者への興味がなかったんだな。
「ああ、橘優里だ。綾小路もホワイトルームを脱出してからの話を聞いてもいいか?」
流れは似たようなものだった。
「俺は俺の勝ちを証明するためにこの学校に来ている。綾小路は何をしにこの学校に来たんだ?」
「オレは普通の学校生活を送るためにきた」
__普通じゃない学校で普通の高校生活とは??
俺が固まっていると綾小路が言葉を続ける。
「事なかれ主義。目立ちたくないってことだな」
「目立ちたくないのはわかった。一応連絡先の交換はしておこう」
綾小路と連絡先を交換して別れた。
「綾小路と再会したのに敵意が全然湧かなかった」
ホワイトルームの時と比べて闘争本能が鈍っているのかもしれない。それに茜お姉ちゃんと再会したことで、綾小路への執着が薄くなったのかもしれない。ホワイトルームにいた頃が異常だったのだろう。
「綾小路が表舞台に立たないなら何とかなりそうだな」
所持金約135万pt