ようこそ支配者がゆく教室へ   作:藤村凛

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吐露。そして新たな関係へ

一之瀬が料理を作ってる中、俺は考えていた。

__なぜ一之瀬の笑顔が曇ったことに躊躇いを感じてしまったのか

__なぜ一之瀬には笑顔でいてほしいと考えたのか

 

そして気づく、一之瀬は茜お姉ちゃんと似ている。その純粋さ、善良な性格、他者を想える献身さ、花のような笑顔、共通する要素が多いのだ。

 

茜お姉ちゃんに似ていると気づいた以上は、彼女を駒として思えない。

__俺の中で一之瀬帆波は他の生徒よりも特別になった__

 

 

「橘くん、ご飯できたよ。オムライスですっ」

「ありがとう」

「「いただきます」」

一之瀬の作ったオムライスを口にする。

「美味い!!」

「ほんと?口にあったなら良かった」

夢中でバクバク食べる。

 

先に食べ終えて一息つく。すると一之瀬が

「食べてる時の橘くん、いつもと違って可愛かったよ」

なんて揶揄ってきた。

「んん! こういう手料理を食べてこなかったから幸せだったのかもな」

つい言わなくても良いことをこぼしてしまった。

一之瀬はどう反応すればいいかわからない、みたいな顔をしている。

 

橘家でも坂柳家でも豪華な食事ではあった。しかし目の前で作ってもらって食べる。なんてのは初めてかもしれない。

 

「一之瀬って茜お姉ちゃんに似てるな」

「にゃにゃ?!」

突然の俺の言葉に一之瀬は驚いている。

「そういう純粋な反応とか。似てるから一之瀬といて落ち着くのかもしれない」

「そう言われると悪い気はしないね・・でも意外、橘くんはシスコンなんだね」

そう言われたので俺は声高に返す。

 

「シスコンじゃない。ただお姉ちゃんが好きで何よりも大切なだけだ!」

 

「__それがシスコンなんだけどね」

と小さくつぶやいた一之瀬は、改めて俺に尋ねる。

「どうしてそんなにお姉さんのこと好きなの?」

その問いには自信を持って答えられる。

 

「茜お姉ちゃんは俺にとっての光だからね。それに10年ぶりに会ったから愛が爆発してる」

 

「にゃはは、私も妹がいるからこの学校卒業したら愛が爆発するのかも、、」

そう言って一之瀬は笑っていた。俺も釣られて笑う。

 

「橘くん、口調が柔らかくなった?」

「あー、お姉ちゃんに関係することだとどうしてもね。昔の話し方に近くなっちゃうんだ」

「今の口調の方がいいと思うけどな・・」

普段の俺の口調だととっつきにくいのだろう。

 

「クラスのみんなには無理だけど、一之瀬にはもうこっちの口調でしか喋ればいいかもしれない。」

「にゃ?!」

お姉ちゃんに重なって見えるのだ。いつもの支配者の口調と心で接することができない。

すると一之瀬は少し頬を赤めながら

「私だけ・・?」

と聞いてきたので肯定する。

 

「んにゃぁ!」

一之瀬が真っ赤な猫になってしまった。

 

「あ、有栖もクラスでの口調よりは柔らかく接しているかも」

と思い出したので呟くと、一之瀬の目がジト目になっていく。

「有栖ってAクラスの坂柳さんだよね。どういう関係なの?」

__なぜか圧を感じた。

「1年前に有栖に拾ってもらってて。恩人なんだ」

一之瀬のジト目は消えない。

 

「拾われたってことは、1年一緒に住んでたってこと?」

「そうだよ」

「同棲してたにゃ!」

__さっきから一之瀬は驚きすぎじゃないか?

 

落ち着いた一之瀬は1つの疑問を抱く。

「じゃあ拾われる前は何してたの?」

 

__どう答えようか。カバーストーリーに則るなら海外に行ってたになるんだよな。

それとも身の上話をするか。でもここで嘘はつきたくない。

 

「放浪してた。家もないし学校も行ってないし」

俺が普通のトーンで言うもんだからか、一之瀬は驚いて声も出ない。

「それって言っても大丈夫なやつなの?」

「大丈夫じゃない」

「じゃあなんで・・?」

「一之瀬だからなのかもしれない。俺の過去の話を聞いてほしい」

 

そう言って俺はホワイトルームを濁して過去の話をした。

 

_________________________________________________

「とあるシスコンの独白」

 

5歳までお姉ちゃんと過ごしていたんだけど、ある日教育施設に移されてそこからお姉ちゃんとは会っていなかったんだ。家から出る時に父親が「姉に会いたいのであれば、橘家にとって会う価値のある人間になれ」と言われたんだ。

 

その施設には9年くらいいたんだけど、勉強やスポーツいろんなことをやらされたし、常に競争の毎日だった。

不出来な者から脱落していく。それを止める人もいない。個人の能力を高める日々が続いていたんだ。

 

僕はそれなりに優秀だったけどずっと2位止まりだった。1位のあいつはずっと1位で僕はずっと2位だった。何年かして気づいた。僕は要領のいい凡人で彼は天才なんだって。睡眠時間を削るのも三年くらいした。賞賛されるのは彼で僕には価値がなかった。

 

そこから個ではなく群で彼に勝つことを目指したんだ。集団を支配するとか言ってて。今思うと睡眠時間も足りないし、まともな精神状態じゃなかったんだろうね。僕に執着させたのと彼に執着しているので集団を作った。

 

結局それでもラッキーパンチ1発当てただけだった。その後起きた混乱に乗じて施設を逃げ出した。

 

施設脱出後は不良から金を巻き上げて生活していた。そんなある日有栖を助けたことから坂柳家に保護された。

 

そしてこの学校に入学してからお姉ちゃんと再会した。それだけでこれまでが報われた気がした。

 

支配は僕にとっての価値証明手段だったからね。このクラスを支配するために行動していたよ。

 

そんなある日彼と再会してね、聞いたらもう競争から降りるんだと。もう彼に勝つ必要は無くなったんだ。

 

それでも僕は価値証明のために動き続けた。それで今日君に問い詰めたんだ、本当にリーダーやれるのかって。

 

あれは穏便にリーダーに成り代わるためだったんだ。そうすれば僕がクラスの支配者になれるから。

 

でも笑顔でない君を見ているのが嫌になって、君には笑顔でいて欲しいと思っていて__

 

__________________________________________________

 

話し終えて横を見ると一之瀬が泣いていた。

「そんなつらい過去があったなんて・・」

「どうしようもなかったからね。必死に生きてただけだよ」

すると一之瀬は無言で俺の頭を抱えて自身の胸元に寄せた。

 

自分の過去を語ったことで気づいた。

「俺は今どこへ向かえばいいのかわからないんだ・・」

「生き急いでいたんだよ。今はゆっくりしても誰も怒らないよ」

一之瀬は優しく返しながら俺の頭を撫で始めた。

 

「橘くん、私も考えたんだけどさ。お姉さんに会うために必要な価値って、最終的にはお父さんが判断するんだよね」

「そうだよ」

「お父さんは財閥の家の当主でしょ。だったら橘くんが、大企業の社長や政治家になって会いに行けばいいんじゃないかな?」

 

__目から鱗だった。俺はホワイトルームにいるうちに視野狭窄になっていたらしい。

 

「そうだよ。あの男が認めるものなんて社会的地位くらいだろうしな。なんで気付かなかったんだろう・・」

つい愚痴をこぼしてしまう。

 

「大丈夫、橘くんは間違いってないよ。だってあの施設を脱出したからこそ、今こうして気づけているんだもん。大丈夫だよ。」

 

__この子は俺の光だ。自分にはないその善性がただ眩しい。

 

俺は手持ち無沙汰の両手を一之瀬の背に回した。

「んにゃ?!」

「ねえ、帆波って呼んでもいい?」

「にゃまえで!?」

彼女の体は硬直していた。

 

「・・・だめ?」

そういうと彼女の緊張がほぐれた。

「ダメじゃ、、ない」

俺は顔を上げて耳元で囁く。

「ありがとう、帆波」

 

「にゃあああ!!」

帆波はオーバーヒート状態になり動かなくなった。

とりあえずベッドで寝かせておこう。

 

 

いつの間にか寝てしまったようだ。いつ寝たか覚えてない。

帆波の声がしたので目を開けると、

__帆波の顔が目の前にあった。

目が合って、今にも叫びそうだったので手で口を塞ぐ。

 

「んんーーーーーーーっ!」

 

窓の外を見てもまだ暗い。時計を見ると午前2時だった。

「帆波をベッドで寝かせた後俺も寝ちゃったみたいだ、ごめんね」

そう言って帆波の口から手を離す。悲鳴を塞がれたせいで肩で息をしてた。

「ううん、私もベッドで寝ちゃっててごめんね」

 

「ねえ橘くん、朝までこの部屋にいてもいい?この時間に部屋から出るの怖くて、、、」

2人で向き合って寝ている体勢のまま帆波は俺の袖を掴む。

 

「もちろんだよ。俺にも責任はあるし。帆波は眠気はどう?今午前2時だけど」

「眠気はないけど寝ときたいな」

「そしたら眠るまで喋ってようか」

__2人同じベッドで寝ながら喋り始めた

 

「もし良ければ帆波の過去の話も聴きたいな」

俺がそう言うと帆波の声がしなくなる。

「無理しなくても、、」

「ううん、橘くんには聞いてほしい」

そう言って帆波は過去を語り始めた。

 

_________________________________

「一之瀬帆波の独白」

 

私の家は母子家庭でね、お母さんと妹と3人で暮らしてたんだ。裕福ではなかったけど、幸せだった。

 

小学校の頃からお母さんに迷惑かけないように、いい子でいなきゃって思いが強くてね。

学級委員とかを率先してやってたんだ。それでもみんなと仲良くして楽しく過ごしてた。

 

中学校に上がっても私は何か変わったつもりはなかったんだ。でも周りは変わっていった。

今になって思うけど、私は思春期が遅かったんだと思う。

 

私はみんなへの接し方は変わらなかった。でもみんなは私への接し方が変わった。

率先して人助けして、みんなの前に出てまとめて、分け隔てなく接していた。

 

私にとっては当たり前のことだったけど、みんなにとっては当たり前じゃなかった。

その頃からか、私はただのいい子からすごい子にもなってしまった。

 

勉強も運動もそれなりにできて生徒会に入ってもいたからね。

生徒会長になったあたりからか、私は学校中でいい子ですごい子と認識されるようになった。

 

恋愛もしてみたかったけどそんな余裕は無くなっていった。

家でのお母さんの様子がおかしくなっていったんだ。

 

いつも以上に疲れていて、家計簿を見る時間が多くなった。

私は物心ついてから我儘を言ったことなかったと思う

 

だからこそ、私は

 

__我儘の叶え方を間違えた。

 

きっかけは買い物中に妹がアクセサリーを欲しがったことだった。

お小遣いの十倍くらいの値段だったから、印象に残った。

 

別に妹が駄々をこねていた訳ではなかった。

でも私は妹が我慢していると思った。

 

妹の欲しいものを自分じゃ買えない。

私は親に妹が欲しがっているからと頼めなかった。

 

自分でどうにかしなきゃと思っていた。

親への甘え方が下手くそだった。

 

__そして私は万引きをした__

 

バレていないか不安になりながら帰路に着いた。

家の玄関前まで着いたところで我に帰った。

 

私が盗んだものだと知ったら妹はどんな反応をする?

お母さんはどう思う?

 

私は急いで引き返して店に戻った。

万引きした商品を渡して精神誠意謝罪した。

 

店員さんは警察沙汰にはしないと言ってくれた。

でも私は自分を許せなかった。

 

私はいい子じゃなかった

私は咎他人だった

 

みんなから頼りにされ、みんなのいい子だった私は、誰にも頼ることが出来なかった。

 

誰にも言えないと己の罪を塞ぎ込もうとして、

 

私は半年間家に引きこもった。

 

その間いろんな人が心配してくれたけど私は外に出れなかった。

いい子でいられる自信がなかったから。

 

きっかけは些細なことかもしれない。

私は結局これまでの生き方でしか生きられないと思った。

 

いい子じゃない私がこれまで通りのことなんて出来ない。

でもだからこそ、その生き方は罪を犯した私への罰になると思った。

 

いい子でなくちゃいけない強迫観念と罪の意識が、今日も一之瀬帆波を形作る。

______________________________________

 

__万引き1つで大袈裟、なんて言えない。

彼女はその善性故に自分を許せないのだ。

罰されたい、でもどこかで許されたいと思っている。そんな矛盾を孕んでいるからこそ答えを出せない。

 

「帆波、話してくれてありがとう」

帆波の目には涙が浮かんでいた。目が合うと涙がこぼれ落ちたから指で拭う。

 

「俺は今の話を聞いて、帆波から離れない。失望しない。揶揄しない。

俺は一之瀬帆波は尊敬に値する人間だと思っている。過去の話を聞いてもこれは変わらない」

俺は帆波の手をとりそう告げる。

「なんで・・・」

「帆波は純粋無垢だったんだ。心が真っ白すぎて黒が一滴入るだけで自分が壊れてしまったと思い込んでいるんだ。でもたった一滴で全てが黒くなる程、帆波の善性は柔じゃないと信じているから」

 

「でも、私は罪を犯して・・」

握っている手の指を絡める。

「それだったら俺だって、不良をボコして財布から金抜き取ってたから暴行と窃盗の罪だよ。帆波は俺を罪人だと言う?」

「・・言わない」

「どうして?」

「橘くんが過去にしたことは変わらないけど、橘くんが私にしてくれたことも変わらないから。私のために動いてくれたことも、今こうして手を握って話を聞いてくれていることも。私にとっては大切にしたいものだから」

 

__素敵な考え方だ。

 

「今帆波が話してくれた考えは俺もそう思っているんだよ。心の底から人のために動ける人がいるんだって教えてくれた。苛立ちも演技も傲慢もない、純粋な善意と献身。その存在を教えてくれたんだ。

だから、、自分を罰するのをやめてほしい。帆波の生き方は罰なんかじゃないんだから」

「でも私は・・」

言葉が続く前に手を解き、帆波を胸に抱き寄せた。

頭を撫でながら耳元で囁く。

「もういいんだよ、帆波。罰は終わりだよ。今は誰も見てないから、泣いていい、謝っていい」

 

「ごめんなさい、、、お母さん、、みんな、、、ごめんなさい、、、、」

帆波は嗚咽し、俺のシャツを掴んでいた。

帆波が泣き止むまでずっと待っていた。

 

「ありがとう、、、私はずっと泣いて謝りたかったんだと思う。親からも友達からも逃げたからその機会を失くしてしまってたんだ」

帆波の顔に生気が戻る。

「スッキリした?」

「うん、かなり吐き出せたと思う」

「それで、帆波はどうしたい?良いことがしたい?それとも悪いことがしたい?」

そう帆波に問いかけると彼女は迷うことなく答える。

 

「私はやっぱり良いことがしたい。人の助けになって、人のためになることがしたい」

 

その善性は消えることなく、決意を宿した瞳が光る。その瞳に目を奪われる。

やはり一之瀬帆波は眩しい。

 

すると帆波はどこかしたり顔になり、俺の耳元で囁く。

 

「私、悪いことにも興味出てきたかも」

 

動揺して動けないでいると、帆波は俺の両頬に手を添えて__

 

__キスをした__

 

「付き合ってない男の子とキスするのは悪いことだよね、優里くん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一之瀬帆波は小悪魔の側面を持つようになった
最強かよ
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