転生したら怪人だったので、見込みのある魔法少女を片っ端から悪堕ちさせる。   作:悪堕ちが性癖の一般成人男性

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 一週間ほどお待ちくださいと言いましたが、投稿します。
 我慢できませんでした。
 次の話は、いつ投稿できるか自分でもわかりません。


第二章
第二部 プロローグ


 

「走れ、もっと早く走るんだ、二人とも!」

 

「あと少しで避難所に着くから頑張って!」

 

 息を切らせた父の声と、悲痛な母の声。

 両親の後を追うのは、年端もいかぬ二人の姉妹。

 ……お姉ちゃんである私と、妹のクルミだった。

 

「な、なんで、こんな事になっちゃったの……? 私達、ただ平和に暮らしてただけなのに……」

 

 妹の問いに答える者はいない。

 とにかく逃げるので必死だったから。

 ……無我夢中で逃げ惑う私達の頭上には紫色の空が広がり、周囲に転がる夥しい量の死体から流れる血が、地面を真っ赤に染めていた。

 普段であったら注目するであろう異常な光景を見向きすらせず、とにかく走り続ける。

 私達は今、国が指定した避難所に向かっていた。

 つい先日まで平和だった片田舎の農村は、突如現れた怪人に襲撃され、瞬く間に地獄と化したのだ。

 

 一般市民を無差別に殺して回る怪人達と、奴らを討伐する為に魔法少女達が放つ魔法は、のどかな街並みをいともたやすく破壊した。

 建造物からは黒煙が立ちのぼり、逃げ遅れた人々の悲鳴をかき消す爆音がそこら中に響き渡る。

 母親の死体のそばで泣き叫ぶ子供。

 瓦礫に挟まれた家族を助けようとする男性。

 全てを諦めたかのように立ち尽くす老婆。

 惨劇は広がるばかりで止めようがなかった。

 

「みんな、避難所が見えたぞ!」

 

 父親が指を差した方向を見る。

 そうすると、辺りを警戒する事を忘れて走り続ける私達の目に、目的地である避難所が映った。

 避難所の前には避難誘導をしている軍人と、周辺の警備にあたる魔法少女の姿があって。

 死という名の絶望が迫ってくる中で、一筋の希望が生まれた。

 それを実感してしまい……まだ助かったわけでもないのに、瞳から一筋の涙が溢れ落ちる。

 もう少し頑張れば生き残れる、と。

 そう実感することが出来た。

 

「きゃあ!」

 

 不意に、耳に届いたのはクルミの声。

 足元の瓦礫に躓いて転んでしまったらしき彼女は、その場に倒れ伏してしまう。

 

「クルミ!」

 

 私は即座に妹の所へ向かった。

 ただでさえ、一刻を争う事態。

 いち早く、救出して避難場所に向かわなければ、怪人に襲われてしまうと考えたから。

 ……その刹那。

 

 前方に彗星のような物が降り注ぐ。

 痛みを堪える妹の手を取った瞬間、奇妙な轟音と共に凄まじい強風が全身を襲う。

 予期せぬ衝撃に耐えきれない私と妹は、なすすべもなく吹き飛ばされてしまって。

 どことなく、不穏な空気を肌で感じた。

 心臓は、どくどくと激しく脈を打つ。

 身体中を流れている血が、一瞬で冷え込んでしまったような不思議な感覚を覚えたのだ。

 

「お父さん……お母さん……」

 

 二人とも無事でいて欲しい、と願いながら、痛みが止まらない体に鞭を打つ。

 さきほどまで、居た場所を見渡す。

 すると、辺りの様相は一変していた。

 地面が抉れ、新たに炎の手が上がっており、ぶすぶすと焼け焦げたような匂いが鼻に届く。

 

「お姉ちゃん……パパとママは、どこにいっちゃったの……?」

 

 私が聞きたいくらいだった。

 燃え上がる炎を意に介すことなく、私は懸命に瓦礫を退けて、両親の捜索を行う。

 そして、一際大きく抉れている穴に目を向けると、いとも簡単に見つかってしまった。

 

「……え?」

 

 言葉にならない声を漏らす。

 視線の先には両親の変わり果てた姿があった。

 人としての形を留めておらず、体のパーツはぐちゃぐちゃになってそこら中に飛び散っている。

 それも、焼け焦げてしまったのか、炭化していて真っ黒になっていて。

 ついさっきまで、怪人の侵攻に怯える私達に優しく声をかけたり、力強く手を引いてくれた両親は、ほんの僅かな時間で物言わぬ屍と化したのだ。

 寡黙だが優しい父も、おっとりしてるが芯の強い母も、もうこの世にはいない。

 無造作に地面に散らばっている残骸。

 

 ──それが、私達の父親と母親であった。

 

「……嘘、でしょ?」

 

 両親の死を脳内で処理しきれない。

 それは妹も同じなのか、泣いたりすることなく、呆然と立ち尽くしていた。

 

「おやぁ……? これは、驚きましたねぇ。先程の攻撃を喰らって生きている人間がいるとは。それも、まだ子供ではないですか」

 

 何者かの気配を感じて頭を上げる。

 そこには、シルクハットを被り、漆黒のスーツを身に纏う、紳士然とした男性が立っていた。

 しかし、彼は間違いなく怪人であろう。

 口元は異常なくらいに裂けており、歯茎が剥き出し。

 異形としか形容できない風貌を有する化け物と、視線が交差する。

 その時になってようやく……私は我に返り、今の状況を完璧に理解した。

 

 こいつが……この怪人が、私のお父さんとお母さんを殺したんだ。

 そう結論付けた途端に、憎悪が沸いてくる。

 だが、それでも体は動かない。

 戦闘経験のない生身の子供が、超人的な肉体と異能力を持つ怪人に敵うはずがない。

 その摂理を、良く理解していたから。

 強い意志で立ち上がり、両親の仇に立ち向かう勇気を持てなかったのだ。

 

「実に幸運でしたねぇ……ですが、最後の最後で私に見つかってしまった。運が、無かったですね」

 

 怪人は、地面にへたり込む私に向かってゆっくりと手をかざす。

 恐らく、自らの能力を発動させようとしているのだろう。

 きっと、両親と同じように、焼き払おうとしているに違いない。

 その事を察知した私の胸の中に、様々な感情が生まれていく。

 

 悲しみ、憎しみ、憤り。

 

 それらの負の感情は胸を食い破る程に大きく膨らんだが……それ以上に、無力感に苛まれていた。

 どんなに殺したいと思っても、実行に移せない。

 だって、私は魔法少女でも何でもない、ただの民間人に過ぎなくて。

 ……何も成さずに死を待つ事しか出来ないのが、悔しくて悔しくて仕方がなかった。

 

「お姉ちゃんを……虐めないで!」

 

 全てを諦めて目を閉じようとした時、一人の少女が怪人の前に立ち塞がる。

 妹であるクルミが、私を庇うような形で飛び出してきたのだ。

 正に、予想だにしない行動。

 私も、怪人でさえも、唖然としてしまった。

 

「もう、止めて! これ以上、酷いことするつもりなら、私があいてになるからっ!」

 

 クルミの瞳には、決意の炎が宿っていた。

 圧倒的な力を持つ怪人を前にしても、怯えることなく毅然とした態度で立ち向かう。

 それは、私には出来ないこと。

 最初から全てを投げ出そうとしていた、臆病者には決して出来ない勇気ある行動だった。

 

「……おお、おおお。なんと素晴らしいのでしょうか。何の力も持たない幼子が、身を挺して愛する人を守ろうとする。ああ、なんたる意思、なんたる胆力。怪人という身でありながら……思わず、感嘆してしまいましたよ。涙を拭う用のハンカチーフを持ってくれば良かった」

 

 それを見た怪人は己の体を両手で抱きしめて、身悶えするようにぶるぶると震え出す。

 容姿、言葉、行動。

 全てが不気味で、全てが歪。

 楽しげに振る舞う奴は、うっとりと粘つく視線をクルミへと向けた。

 

「小さな体躯に秘めた大いなる勇気に免じて、見逃してあげましょう。貴女が命を賭してまで、守りたいと思った人だけはねぇ……!」

 

 怪人は勢い良く、クルミを掴む。

 次いで、恍惚とした表情を浮かべ、苦しそうにする彼女をしげしげと眺め始めた。

 

「……う、ぐぅ……」

 

「ああ……苦しむ姿も美しい。まさか、こんな場所で運命の出会いを果たせるとは。無神論者である私ですが、今日ばかりは神に感謝したい気分ですよ」

 

 奴はゆっくりと歩き始める。

 どこか満足げに、軽快な足取りで。

 ……このままだと、クルミが連れ去られてしまう。

 そう確信した私は無我夢中になって走り出し、怪人の足にしがみついた。

 

「まって、まってよ! クルミを連れてかないで!」

 

「……はぁ。特別である彼女に対して、貴女はとことん凡庸なようですね。穢らわしい手を離しなさい。でないと……殺してしまいますよ」

 

「ダメ、絶対にダメだから……お母さんとお父さんも殺した癖に、妹まで奪わないでよぉ……!」

 

「本当に、みっともない姿だ。親の仇にすがりつき、懇願するなんて……さようなら、凡人さん。貴女と相見える事は、もう二度とないでしょう」

 

 ふわりと怪人は飛翔する。

 肝心のクルミは……ぎこちなく笑い。

 

「……お姉ちゃん。元気でね」

 

 淡々と、そう告げる。

 きっと、心の中は恐怖で一杯な筈なのに、気丈に振る舞っていたのだ。

 お姉ちゃんの癖に守られてばかりだった私を責めないために。

 そして、彼らは消えていく。

 光の粒子に包まれ、どこかへ転移してしまう。

 ……それで、終わりだった。

 あまりにも呆気なく、クルミは怪人に連れ去られてしまったのだ。

 

「あ、ああ……うああああああぁぁ!!!!」

 

 紫色に染まる空を仰いで、獣のように叫ぶ。

 家族を失った悲しみ。

 怪人に対する憎しみ。

 無能で愚かな自分への怒り。

 心を食い破って出てきたそれら全ての激情を、遠慮なしに吐き出していく。

 それでも、気持ちは晴れなくて。

 この苦しみは……奴を殺すまで消える事はないと、確信した。

 両親の仇であり、妹を攫って行った怪人の姿を脳裏に刻み込む。

 

「殺す……絶対にぶっ殺してやる……!」

 

 噛み締めるように、言葉を紡ぐ。

 溢れんばかりの殺意を胸に、私は強くなる。

 己の全てを闘争に捧げて、強くなり強くなり強くなり……誰にも負けない存在になってみせる。

 そうやって、いつの日か。

 

 全てを奪い去った怪人を殺して、妹を取り返す。

 

 そのためならば、なんだってする。

 他の追随を許さない力を手に入れるためならば、悪魔にだって魂を売る……と、心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女協会第七区支部。

 局長室を訪れると、先客がいた。

 長めの赤い髪に、キリッとした瞳。

 常日頃から話しかけるなオーラを全身から出している彼女は、私の姿を見た途端に、落胆したような表情を浮かべる。

 

「よく集まってくれた。ライハ、ヤヤコ。単刀直入に用件だけ話すが、今回の任務を遂行するにあたって、君たち二人にバディを組んでもらう」

 

「了解で〜す」

 

「………………………はい」

 

 赤髪の少女、ヤヤコちゃんは言葉を飲み込む。

 文句を言おうとしたけれども、ギリギリのところで耐えたって感じだ。

 私と組むのが嫌というよりも、誰かと組む事自体が嫌なんだろう。

 彼女はいつ、どんな時だって、自分一人で戦うことを望んでいるから。

 ……それでも、誰かと一緒に任務に臨んだ方が良いと思うんだけどな。

 まぁ、私も固定のパートナーを作っていないので人のことは言えないか。

 

「今回、君達に討伐を頼む怪人は……」

 

 もさっとした口髭が印象に残る局長が、任務の概要を説明し始める。

 その間も、ヤヤコちゃんはむすっとしていた。

 瞳の奥に、燃えたぎる炎をゆらめかせながら。

 

「先に言っておきますが、貴女と馴れ合うつもりはありません。任務も一人で行いますので、休んでもらって結構です」

 

 怪人の出現場所に到着し、いざ戦地へ赴かんとすると、ヤヤコちゃんは無表情にそう告げた。

 と、言われても、討伐対象とされている怪人「牛頭のゴズ」の等級はB。

 弱い順からE、D、C、B、A、Sとランク分けされる中で、三番目に強い相手。

 まだ魔法少女になって日が浅い彼女が一人で相手するのは、かなり危険だと思う。

 

「そう言わずにさ、仲良くやろうよ〜。心配しなくても邪魔にはならないからさー」

 

「丁重に断らせて頂きます。私には……やらねばならない事があるんです。そのためには、一人で戦う力が必要なので」

 

 言いたい事だけ口にしたヤヤコちゃんは、そそくさと結界の中に入っていってしまう。

 ……猪突猛進極まれりだなぁ。

 彼女が魔法少女になった背景を考えれば、仕方ないのかもしれないけど。

 

 守屋ヤヤコ。

 彼女が魔法少女になった動機は、復讐のため。

 自身の人生をめちゃくちゃにした怪人を殺すためらしい。

 

 ここだけの話、復讐などが理由で魔法少女になる子達は決して少なくない。

 それに加えて、そういった事情を有する子達は大抵の場合、優秀な事が多い。

 その例に漏れず、ヤヤコちゃんも新米にしては十分すぎるほどの実績を積み重ねていた。

 まぁ、それもそうだろう。

 悪逆非道を尽くす怪人と戦うような覚悟を、普通の女の子は持てたりしない。

 重めの過去を持つ子が積極的に怪人を討伐し、苦労せずに生きてきた子が魔法少女というブランドを掲げて広報活動を行う。

 このような役割分担が、魔法少女教会の中で出来つつあったのだ。

 

「ついてこないで下さいって言いましたよね?」

 

「そんな事言われた覚えはないかな。仲良くやろうって言ったのを断られただけ〜」

 

「……そうですか」

 

 会話しながらも、周囲の警戒は怠らない。

 結界の内部にある廃ビルを一階一階、しらみつぶしに巡回し、怪人の姿を探していく。

 討伐対象の怪人「牛頭のゴズ」は等級がBにされるだけあり、人間と同程度の知能を持っている。

 そうして、人間と何ら変わらない賢さの相手と戦うにあたって……今回のようなシチュエーションだと、待ち伏せされているこちらが不利になる。

 何故なら、私達に発見されるのを待たずに。

 

「………!!!!」

 

 大抵の場合、不意打ちしてくるから。

 突如出現した……牛の頭を有する二足歩行の怪人「牛頭のゴズ」は無言のまま、巨大な肉切り包丁を躊躇いなく振り下ろしてくる。

 一番に標的にされた私は、後方に飛び退く事で回避した。

 

「……奴が、今回のターゲットですね」

 

「そーそー。結構強いからさ、二人で連携して」

 

「私が対処します……『加速』」

 

 即座に刀を構え、突進を仕掛けるパートナー。

 彼女は使用した魔法の影響によって、自らの速度を加速させ……牛頭のゴズの腹を貫いた。

 土手っ腹の奥深くに刀が突き刺さり、奴の口からは血飛沫が噴き出ていて。

 見るからに、かなりのダメージを受けていた。

 確かな手応えを感じたのか、ヤヤコちゃんは口元に笑みを浮かべる。

 ……だがしかし。

 

「よぐも、やっでぐれだなぁああ!」

 

「…………っ、ああああああ!!!!!!」

 

 怒り狂った牛頭は腹に刺さった刀を無視し、ヤヤコちゃんの腕を掴んで力を込めると。

 ベキベキと音を立てて、両腕の骨が折れていく。

 当然ながら、私も動き出してはいたが、自らを加速させていた彼女とは足並みが揃わない。

 

「『魔弾』」

 

 バランスボール程度の大きさがある魔力の弾を放つと、牛頭はヤヤコちゃんから手を離す。

 次いで、腹に刺さっていた刀を引き抜くと、みるみると傷が治っていく。

 まるで、元から無かったかのように。

 瞬く間に、刺し傷が癒えてしまったのだ。

 

 ……なるほど。

 恐らく、奴の能力は『再生』。

 能力が不明だった時点の等級がB。

 更に、強力な再生能力も加わるとなると……A−程度の力を持つと仮定して差し支えないだろう。

 

「い、痛い、痛いぃ……助けてよ、ママぁ……」

 

 対して、こちらはヤヤコちゃんが戦闘不能。

 両腕がへし折られているため、得意としている刀を用いた戦闘が不可能な状態にある。

 それに、心も折れてる気がしてならなくて……残っているのは、接近戦が不得意な私だけ。

 フィジカルに自信がある牛頭に距離を詰められたら、そこでゲームオーバー。

 はっきり言って、絶望的な状況であると言わざるを得ない。

 

「でも、何とかしなきゃね〜。私は……どんな手を使ってでも、使命を果たさないといけないからさ」

 

 自らを鼓舞するように、そう呟く。

 私はまだ……死ぬ訳にはいかない。

 だって、私もヤヤコちゃんも同じ。

 復讐のために魔法少女になった身であり……。

 

 両親の仇を取るまでは。

 

 5年前に連れ去られた妹を救うまでは。

 

 そして、私から全てを奪った怪人を……この手でぶっ殺すまでは、絶対に死ねないのだから。

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