転生したら怪人だったので、見込みのある魔法少女を片っ端から悪堕ちさせる。 作:悪堕ちが性癖の一般成人男性
基本的に、主人公視点は明るい雰囲気、他のキャラ視点は暗い雰囲気……といった感じで進みます!
片田舎のさほど栄えていない観光地。
しばしの休養を取った私とカナミ先輩は、争いとは無縁な郊外の土地を訪れていた。
日中は観光地を巡ったり、評判が良いお店でご飯を食べたり。
任務のことも怪人のことも忘れて、とにかく羽を伸ばした。
そうしていると、瞬く間に至福の時間は過ぎ去り、夜の帷が落ちてしまう。
「ねぇねぇ! 折角だし、探検に行こうよ! 大冒険の始まりだ〜!」
あまりにも突拍子のない提案。
先輩は返事を聞かずに旅館を飛び出してしまったため、私も後をついていく。
「幽霊とか出てきたら、面白いのにな〜」
「……私は嫌です」
「え〜? もしかしてぇ、ツバメちゃんってホラーとかダメなタイプ? いつもクールなのに、お化けが怖いなんて……ふふふ、随分とお可愛いねぇ!」
「いざとなったら、先輩を盾にして逃げますね」
「ひどぉっ!!!」
電灯を頼りに、2人並んで歩みを進める。
よく手入れされた田んぼ、利用者がいるか怪しい古びた自動販売機、鬱蒼とした木々。
それらを抜けて辿り着いた先にあったのは……満月を映し出す池と、ささやかな灯りを放つ蛍。
都会では見られない幻想的な情景を前にした私達は、時間を忘れて見入ってしまった。
「見てよ、ツバメちゃん。ぶーんぶーんって、たくさんの蛍が飛んでる! すごいキラキラしてて、ものすごく綺麗だね!」
「……そうですね。中々見られない景色です。あと、ぶーんぶーんって擬音はやめて下さい」
「え〜、何でダメなのー?」
「雰囲気がぶち壊しなので」
「おっけー、分かったよ! これからはもっとリアリティを追求して、蛍の触角が蠢く音を……」
「全然分かってないじゃないですかっ!」
ほんの少しだけ声を荒げると、カナミ先輩は口元を抑えて、ふふふと笑う。
常日頃から無口な私が、感情を露わにする様子を見て、楽しんでいるのだ。
このように、彼女は事ある毎に弄ってくるが、決して不快にはならない。
寧ろ、私達の仲が良い事を実感できるので、嬉しいくらいだった。
「スマホ、持ってくれば良かったかな。写真撮りたいけど、撮れないのがもどかしいよ〜」
「……持ってきて、ないんですか?」
「うん。休養の時くらい世俗と離れたいっていうかさ。ストレスの源は出来るだけ排除したいからね」
「??? ……スマホがストレス?」
「…………ツバメちゃんはピュアだねぇ。ずっとそのまま、良い子なツバメちゃんでいて欲しいな」
そっと、頭を撫でられる。
他人に触れられるのは大嫌いだが、カナミ先輩だけは例外。
優しく撫でられると、心がふわふわする。
何処となく、落ち着けるのだ。
気恥ずかしいので、自分から撫でて欲しいとは言わないけれど。
「そういえば……ツバメちゃんはどうして、魔法少女になりたいと思ったの?」
「なんですか、脈絡もなく急に」
「良いじゃん。2人きりで旅行だなんて、珍しい事この上ないシチュエーションなんだから、ここでしか話せない本音トークをしようよぉ〜」
むぎゅっと抱擁される。
紛れもないウザ絡みだった。
真正面から抱き締められると、年齢の割には大きい先輩の胸に潰されるので息苦しい。
撫でられるのは好きだが、ハグされるのはあまり好きではなかった。
けれど、今回ばかりは好都合。
魔法少女を志した理由を、顔と顔を突き合わせて話すのは照れるため、丁度良かったのだ。
「……私には、警察官の父親が居たんです。彼はどんな時も真面目に職務に臨んでいました。それこそ、愚直と言えるくらいの熱を持って」
「…………」
「何故、そこまで身を粉にして働けるのか。ずっと昔に一度だけ父親に尋ねた事があるんです。すると、怪人という脅威に怯える人々に少しでも安息を与えたいから。幼い身で怪人と戦う魔法少女達の力になりたいから、と答えました」
つらつらと、自分語りを垂れ流す。
己の生い立ちを他人に話すのは、生まれて初めてだった。
カナミ先輩は、相槌を打たずに耳を傾ける。
口下手であるが故に、言葉を上手く紡げない私にとって、それは有難い気遣いだった。
「その発言を聞いた時、私も彼のようになりたいと……正義を掲げ、平和のために尽力したいと、そう決意したんです。だからこそ、私は魔法少女に憧れを抱いた。正義という言葉をその身で体現する彼女らのようになれれば、幼い私でも父の助けになれるとそう思ったので。しかし、父親は……私が魔法少女になる数日前に、怪人の魔の手から市民を身を挺して守り、殉職してしまいました」
「…………」
「エンバーミングされた父親の遺体と対面した瞬間、絶対に魔法少女になりたいって思いました。私達が信じる正義を貫くためには、悪逆非道な怪人に負けない力が必要だから……これで終わりです。ご清聴ありがとうございました」
必要な事だけ淡々と述べて、話を終わらせる。
詳細を語ると、感情が昂ってしまいそうだから。
ちらっと先輩の表情を伺うと、憂いを帯びた顔つきで私をじっと見ていた。
基本的に、笑ってばかりいる彼女の悲しげな表情はとても珍しい。
振る舞いも言動も子供っぽいカナミ先輩。
だけれど、今に限っては大人っぽく見えた。
「ツバメちゃんも大変な思いをしていたんだね……ごめんね、辛い話をさせちゃって」
「いえ、全然平気です」
「……どうして?」
「今の私は1人ではなく……敬愛する先輩が、ずっと側に居てくれるので」
先輩の胸に顔を埋めながら、そう呟く。
流石に、目を見て言える程の勇気は無かった。
当然ながら、反応を確認する事も出来ない。
気恥ずかしさによって、私の顔が……真っ赤になっているに違いないから。
「えへへ、嬉しいな。ツバメちゃんって、想像以上に私のこと大好きなんだね〜」
「………………はい」
「私もさ。ツバメちゃんと仲良くなれたから、辛い事があっても頑張れる……出逢えて本当に良かったと思ってるんだよ。だから、もし良かったら、だけど。これからもずっと一緒にいようね……」
先輩も私のことを憎からず思っている。
それを実感すると、溢れんばかりの幸せで胸がいっぱいになってしまう。
蛍が飛び交う場所で、2人きり。
誰にも邪魔されずに趣のある光景を味わっていると……次第に視界が歪む。
間も無く、夢が終わろうとしているのだ。
しかし、これは確かに存在した記憶。
私と先輩の仲がより一層深まった大切な思い出。
彼女が、私とずっと一緒にいたいと思っていたのは、嘘偽りない事実のはずだ。
だからこそ、疑問に思う時がある。
本当に、カナミ先輩は……………。
朝の挨拶は大切だ。
元気な挨拶は、人の心を豊かにする。
そして、豊かな心は悪人にだって必要不可欠。
如何なる時もポジティブシンキングで物事を考えなきゃ、人生楽しくねーからな。
という訳で俺は、まだ早朝なのに自室から出てきた新人ちゃんへ元気な挨拶をする。
「おはよう、ウイモリー! ご機嫌いかがァ?」
「……おはよう、ございます」
驚くほど小さな声でそう呟く宇井森燕。
びっくりするくらい元気がない。
目の下には夥しいクマ、瞳は虚で涙の跡もあり。
悪夢でも見たか、魔法少女協会が管理する病院に居る先輩の事が脳裏にチラついたのか。
或いは、魔法少女の身でありながら、悪の組織に所属した事を悔やんでいたのか。
全くもって判断はつかないが……いずれにせよ、迂闊に触れない方がいいだろうな。
彼女の機嫌を損ねて「やっぱ辞めます」なんて言われたら、全てが水の泡になっちまう。
「どうしたんだい、新人ちゃん。幸せだった頃の楽しい夢を見て、クソみたいな現実との差異に苛まれてる、という感じの表情をしているが」
「相変わらず、びっくりするくらいデリカシーが無いですねェ……貴女という人は」
欠伸をしながら現れた総統によって、俺の気遣いは無に帰してしまった。
思った事を口にして相手を不快にするのは、悪の組織のトップとしては100点。
だが、人間としては0点だと言わざるを得ない。
俺は、そんな総統を敬愛して止まないのだが、新人ちゃんはどうだろうか。
「……貴女は、この組織のトップの方ですか?」
「まぁ、厳密に言えば違うが、便宜上はそうなるね。気兼ねなく総統と呼んでくれて構わないよ」
「これからお世話になります、総統。私の名前は宇井森燕と言います。誠心誠意努力する所存ですので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
「おおー、志が高いのはいい事だねぇ。取り敢えず、説明とか諸々は怪人一号君に任せるから、後はよろしく頼むよ。それでは、私は自室に戻ってぐーたらするので、これにて失礼」
心配は無用だった。
新人ちゃんは想定よりも大人であり、総統の失礼な言葉を意にも介さない。
礼儀を重んじて、完璧な対応をしてみせた。
対して、総統は最初から最後まで本能の赴くままに生きており、人間性の格付けは完了。
言うまでもなく、総統の完全敗北だったのだ。
「まずは、一番初めに渡すものがある。せいぜい期待に胸を膨らませながら着いてくるんだなァ!」
「分かった」
思う所はあるが、ひとまずは総統に与えられた命を完遂しなければならない。
とは言えど、悪の組織に関する説明を任せられたのは僥倖である。
……正直に言おう。
俺は、この時を心待ちにしていた。
魔法少女を悪の道へと引き摺り込み、とある贈り物をする日をずっと待ち侘びていたのだ。
否応にも、ワクワクとドキドキが表に出て、早歩きをしてしまう。
そうすると、あっという間に倉庫へと辿り着く。
「おいおいおい。開けるぞ、開けちまうぞ? 心の準備はいいか、新人!」
「そういうのいいので、さっさとして下さい」
「ならば、開けるぜェ! ……とくと見よ、刮目せよ、俺の情熱の結晶を!」
扉を開く。
そうして、俺達の視界に飛び込んできたのは、一際奇抜なコスチューム。
それは、正に漆黒のレオタード。
胸元にはハート型の穴が開いており、ハイレグの角度は際どく、背中には悪魔を連想させる羽根と尻尾が付いている。
布面積を可能な限り削った……俺が理想とする悪堕ち衣装だった。
さぁ、新人ちゃんはどんな反応を見せる?
あまりの出来の良さに、感極まって泣いてしまってもおかしくないぞ……。
「何ですか、この気色悪い衣装は。まさか、これを着ろと言ったりしませんよね」
「!?!?!?!?」
ストレートな言葉の刃が、心に突き刺さる。
お披露目をずっと待っていた分、ダメージは凄まじかった。
ぐ……そう言われると、確かに気色悪いか。
衣装のデザインが奇抜すぎるし。
出会ったばかりの少女に露出度の高い服を着させようとする行為が、何よりもキモい。
碌な信頼関係が築けていない以上、非難されて当然だと断言できる。
「ずっと黙ってますが、どうかしましたか? まさか、本気で着せるつもりだったんですか……? だとしたら、とんだロリコン野郎ですね」
誰がロリコンだ!!
俺の精神年齢は、まだ14歳。
見た目は大人だが、頭脳は子供。
同年代の少女のえっちな格好が見たいと思うのは、健全だろうが!!!
しかし、口が裂けても言えない。
新人ちゃんは、心の底から先輩の復讐を成し遂げたいと……世界を変えたいと思っている。
そんな中で、ほぼ初対面に等しい俺がえっちな格好で戦って欲しいと言ったらどうなるか。
……確実に、ふざけていると思われる。
昨日語り合った話は嘘方便だと断じられて、悪の組織脱退待ったなしだろう。
それだけは、阻止しなければならない。
「ク、ククク……そんな訳ないだろうが。お前に用意したのは奥の衣装だ」
そう告げて、倉庫の奥に指を刺す。
その先にあったのは、武器を隠し持てるくらいにはサイズが大きいジャケットと、特殊な素材で作られたインナーウェア。
動きやすさを重視したショートパンツに、足の露出を隠す防刃の黒タイツだった。
要するに、ロマンの欠片もない衣装。
強いて言えば、色遣いやデザインが全体的にサイバーっぽい点が厨二心をくすぐるが……俺はそれでも、悪堕ち衣装の方が何倍も良かった。
この衣装はあくまで、万が一のために用意したものなので、思い入れがさほど無いのだ。
「こっちの衣装は……すごい良いデザインですね。早とちりしてしまい申し訳ないです」
「……そうか。気に入って貰えたのなら、とても嬉しい……な……」
俺の野望の第一歩目が潰えた。
その絶望は計り知れないもの。
ぶっちゃけ、泣きそうだった。
だがしかし、凹んでいる暇などない。
「お取り込み中のところ申し訳ないが、例のターゲットが出現したよ。今すぐ、指定した座標に向かってくれ」
倉庫内に設置されたスピーカーから、総統の気だるげな声が聞こえてくる。
これもまた、好都合だった。
悪の組織である俺達が何をするのか……口頭で説明しなくても済むからな。
「……ターゲット?」
「心配せずともすぐに分かる……もう一度着いてこい、新人。俺達の『在り方』を教えてやるぜ」
ドラマで出てくるハードボイルドな男のように、バサっとジャケットを羽織った俺は歩き出す。
もちろん、ミスする事なくバッチリ決まった。
ここだけの話、いつの日か出来るであろう仲間の前でカッコつけるために、総統にバレないよう陰で何度も練習していたから一安心。
……さぁ、新人ちゃんはどんな反応を見せる?
「怪人さんって、もしかして厨二病?」
……クソッ!!!
全部見透かされていた!!!!
穴があったら入りたい!!!!!