転生したら怪人だったので、見込みのある魔法少女を片っ端から悪堕ちさせる。 作:悪堕ちが性癖の一般成人男性
仮面をつけた金髪の少女が、ステージへと登る。
それを見ていた観客は騒然とし、オークション会場には異様な空気が漂い始めた。
すると、会場の警護を務めている黒服は、自らの責務を果たそうと少女の肩を掴む。
「お客様、困ります。ステージに上がられては」
「自分勝手な理由で法律を破る癖に、他人にはルールを押し付けるんだ。まぁ、私も同族なんだけど」
次の瞬間。
くるりと振り向いた仮面の少女は、ものすごい速度で黒服の目に指を突っ込む。
不意打ちじみた目潰しによって生じた隙をついて、彼女は彼の腰にある刀を奪い取り。
「……え?」
流れるような美しい動作で横薙ぎをして、黒服の胴体を真っ二つにする。
当惑するような声を上げた彼の上半身は、どちゃりと音を立てて地面に転がった。
……自分が死んだ事すら気づくことなく。
「キャアアアアア!!!!!」
「に、逃げろおおおおおおおお!!!!!」
奴隷市場のVIP会員の奴らが、蜘蛛の子を散らすように駆け出していく。
脇目も振らずに走り、倒れた人間を踏みつけにし、出口へと殺到する。
逃げ惑う彼らを見ながら、仮面を外した少女は。
「……普段と立場が真逆の鬼ごっこが始まるね。でも、逃げる場所も隠れる場所もないよ」
心の底から楽しそうに、口元を歪めて笑う。
そんな彼女の姿には見覚えがあった。
……
魔法少女となって一年未満ながら、数多の戦果を残している正真正銘の天才。
パートナーが色んな意味で有名な事もあり、魔法少女協会内でも、世間の人々にも、注目を浴びている期待のニューホープであったのだ。
「『瞬歩』」
ツバメちゃんの姿がステージの上から消えて、人々が殺到する出口の前に出現する。
「は……え、な、なんで」
問いに答える事なく、無慈悲に刀を振り下ろす。
高そうなスーツを着たオッサンも、奇抜なドレスを着たおばさんも、次々と斬り殺していく。
血と臓物によって、地面が赤色に染まる。
どちゅ、びちゃ、ぐちゃり。
人間が肉塊へと変貌する音が、耳からこびりついて離れない。
目の前で起きている虐殺が、現実の出来事だとは思えなかった。
「嫌だ、やめてえええ、殺さないでえええ!!!」
この光景を一言で表すなら、地獄絵図。
泣き叫び、命乞いをし、失禁する者もいる。
それでも、ツバメちゃんは人殺しをやめない。
流れ作業のように淡々と、命を奪っていく。
「死ね、クソ女がっ!」
奴隷市場の主である怪人共は、己の顧客が殺されていく様を指を咥えて見たりはしない。
大挙して押し寄せ、ツバメちゃんに襲いかかる。
「や、やめろ! 攻撃しないでくれ!」
けれど、ツバメちゃんは客の一人を盾のように扱って、攻撃を防ごうとする。
そうすると、怪人共は足を止めた。
顧客を傷つけてはいけないと、判断してしまったのだろう。
そして、その隙を見逃すような彼女ではない。
「『瞬歩』」
魔法を行使して、背後を取ったツバメちゃんは怪人の背をグサリと一突き。
不意打ちに気がついた奴らは即座に攻撃を仕掛けるも、彼女は軽やかな身のこなしで対応する。
避けては斬り、受け止めては返す刀で斬り。
迷いのない太刀筋に対応できない怪人共は、何もできずに絶命していく。
その上、小柄な体躯を活かした立ち回りと、瞬間移動に酷似した魔法の相性は抜群であり、かすり傷すらつけられない。
危なくなれば魔法で離脱し、遠距離攻撃は遮蔽物をうまく盾にして防ぐ。
純粋な力の差だけでなく、知能の差もあった。
ともかく、最初から最後まで、怪人共はたった一人の少女に蹂躙されていて。
「……すごい」
その様子を見て、目を奪われた。
確かに、状況は違うかもしれない。
けれども、ツバメちゃんは圧倒的に不利な状況を苦にせず、怪人共に勝利しようとしている。
これは私に絶対にできない芸当であり、十分凄いとは思うが、それ以上に。
理不尽な局面に屈したりせず、己が進むべき道を切り開いている姿が……羨ましいと思った。
自分でも頭がおかしいと実感しているが、私もそう在りたいと、思ってしまったのだ。
だがしかし。
「た、頼む。もう絶対に悪事は働かないから、見逃してくれ……!」
「面白い事言うんだね。貴方は、命乞いをした民間人や魔法少女を見逃した事があるの?」
「まっ」
最後に残った怪人の首が刎ねられる。
あんなに大量にいた怪人も、悪趣味な客達も、一人残らず死に絶えて、この場には静寂が訪れた。
まるで、追い込み漁でもするような感覚で、VIPルームにいた存在全ての命を奪ったツバメちゃんはフラフラとした足取りで部屋を後にする。
……羨むのと同時に、恐ろしかった。
今のツバメちゃんは魔法少女とは程遠い存在であると、本能的に察知したから。
切れ長の瞳に狂気を宿らせていた彼女の姿は、怪人のそれと何ら変わらない。
奴隷市場を仕切る怪人達やその顧客達に向けた殺意が、自分にも向くかもしれないと考えると……ひたすらに、怖くて怖くて仕方がなかったのだ。
「な、何があったんだ、これ……流石にグロすぎるだろ。うっぷ、吐きそ……」
そんな折、舞台裏から一人の青年が現れる。
ギョロッとした瞳が印象に残る彼は、吐き気を抑えるように口に手を当てていた。
「あ、ターゲット発見。さっさと確保してトンズラするか。新人ちゃんも心配だしなァ」
何者だろうかと思った、次の瞬間。
視界が暗転し、意識が途切れる。
そうして、またもや囚われの身になった。
「さっさと出せや、コラ! 今なら、顔面一発ぶん殴るだけで許したるから!」
「お、落ち着いてください、先輩。そんな事言ったら、絶対に逆効果ですよぉ……」
「…………」
紆余曲折あり、私は今……悪の組織のアジトの牢屋に入れられている。
それも、二人の魔法少女と共に。
ツバメちゃんと配下らしき怪人にまんまとしてやられた彼女らは、きゃんきゃんと吠え続ける。
こちとら物思いに耽りたい気分なので、ちょっと静かにしてほしいが、口には出さない。
……結局のところ、ツバメちゃんは悪の組織の一員になっていた。
その原因には心当たりがある。
間違いなく、パートナーだった
噂によると、彼女は自殺未遂をしたらしい。
何故、自らの手で死ぬことを選んだのか、明確な理由は分からないが、心当たりならばある。
市浦は、人間と怪人のハーフというだけで、一部の魔法少女に虐められたり、民間人に心ない言葉を言われたりする事があった。
それらによって精神的に限界が訪れて……と、考えれば辻褄は合う。
要するに、彼女もまたクソみたいな社会の犠牲者の一人だったかもしれないのだ。
もしかして、ツバメちゃんはそんな世界に絶望して、悪の道を進むことを決めたのかも。
「ククク……元気そうでなによりだなァ」
なんて事を考えていると、浅黒い肌と筋肉質の肉体を有する男が部屋に入ってくる。
こちらを嘲笑うようにニヤニヤ笑う彼は、悪の組織の怪人に違いない。
一体、何の用があるのだろうか。
そもそも、どんな目的があって、私たちを捕獲したのだろうか……?
「俺は前置きが嫌いでな。単刀直入に言わせてもらおう……貴様らも悪に染まらないか?」
疑問は、即座に解消する。
ツバメちゃんを仲間に引き入れたように……私達も、悪の組織の一員にしようとしているのだ。
「寝ぼけた事抜かすな! ウチらを誰だと思っとんねん!」
「そ、そうですよ。私達は魔法少女。怪人に手を貸すわけないじゃないですか……」
真っ先に拒否反応を示したのは二人の魔法少女。
どちらも人一倍正義感が強いのか、提案を飲む選択肢すらなさそうだった。
双方共に鋭い目つきで怪人を睨みつけ、反骨精神を丸出しにしている。
手足が拘束されている上に、魔封じの結界が張られているにも関わらず、闘志を燃やしているのだ。
皮肉でもなんでもなく、素直に凄いと思う。
……決して、私には出来ないことだから。
「本当にいいのか? 仲間にならなければ、俺は魔法少女としての力を奪う。これからは、普通の民間人として生きてくことになるんだぜェ?」
「だからって、従うわけないやろ。あんまり、ウチらを甘く見るなや……!」
「そ、そうです。私達は悪になんか、屈したりはしません……!」
脅し文句も、既に覚悟を決めている二人には全くもって意味を成さない。
なんというか……正義を重んじる魔法少女の鑑過ぎるな、この子達は。
色々と下衆な真似をしている奴らに、爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。
「取りつく島もない……か。そういう事なら、仕方ない。大事な話の邪魔をされちゃあ困るから、しばらく黙っていてもらおうか」
「……? …………!」
「ククク……魔法が使えない魔法少女は無力だなァ。ちょっと能力を使うだけであっさりと無力化出来ちまう」
怪人がパチンと指を鳴らすと、二人の魔法少女が押し黙る。
いや、奴の能力によって、口封じされているのだろう。
しきりに口をパクパクさせてはいるものの、一向に声が聞こえてこない。
「それでお前はどうすんだ? 悪に堕ちるのか、堕ちねェのか。二つに一つだ。これからの人生に関わる大事な選択だから、じっくり悩んで決めろよォ」
口調はチンピラみたいだが、随分と親切だ。
待ってくれるというのならば、お言葉に甘えて思考に耽るとしよう。
魔法少女の力を失ったらどうなるか。
間違いなく、碌な事にならない。
ヒステリーババアこと母親はブチギレて、否応なしに私を殺そうとするだろう。
それに、ただでさえ不安定な世の中で、社会経験のない私がまともな仕事に就けるとは思えない。
最悪の場合、体を売る事になるのかも。
……それだけは、嫌だ。
次に、悪の組織の一員になったらどうなるか。
間違いなく、碌な事にならない。
警察や魔法少女からは追われる身となり、大手を振って街を歩けなくなる。
それに、犯罪を犯すのも忌避感があるし、民間人を傷つけたら、罪悪感で眠れなくなるだろう。
最悪の場合、精神を病んでしまうかも。
それも、嫌だな。
体を売るよりはマシだけれど。
こうやって考えると、どっちも普通に無理。
無理、だけれど。
脳裏には、オークション会場で虐殺の限りを尽くすツバメちゃんの姿が。
何者にも縛られず、己の欲求に従って、暴れ散らかす悪人の姿が浮かぶ。
私はあの時、彼女が羨ましいと思った。
きっと、それは……誰よりも、自分に素直に生きているように見えたから。
環境や親に縛られて、歩むべき道を流されるままに決めてきたあたしと真逆だったから。
故に、羨望したのだろう。
……私も、自由の身になりたいと思ったから。
その事を踏まえて、考えてみる。
答えは一つ、とは決して言わないが。
どちらの方がマシかは明白だった。
「あの……悪の組織の一員になりたいです」
「!?!?!? ………!!!!」
「………? ………????」
「え、嘘、マジ!? じゃなくて、ククク……歓迎するぜ。ウチは人手不足極まれり。猫の手も借りたいくらいだからなァ!」
ジタバタと暴れるオレンジ色の髪の魔法少女と、頭の上に疑問符を浮かべる紫色の髪の魔法少女を無視して、怪人の元へ歩みを進める。
すると、カチャリと音を立てて手足の拘束が外れるのと同時に、牢屋の扉も開かれた。
これからの人生、波乱万丈という言葉では済まないくらいに大変かもしれないが。
「他のメンバーとの顔合わせは、もうちょっとだけ待ってくれ。どうせなら、サプライズ的な演出をした方が盛り上がるに違いねぇ」
ツバメちゃんも配下の怪人も、今までに会った悪人と比べると、そう悪い人には見えない。
母親のように、ヒステリーじゃないし。
私を魔法少女にするために母親の前で勧誘したクソマスコットみたいに、打算的じゃないし。
性悪魔法少女のように、ネチネチとしてないし。
元パートナーのように、土壇場で見捨てたりしなさそうだし。
一般的な悪の組織のように、人身売買なんてしなさそうだ。
……だから、きっと何とかなる。
自分でも楽観的だと感じるが、不思議とそう思えてならなかった。
「と、言うわけで。今日から俺達の仲間になる……
「宜しくお願いします。皆さん」
「ぱちぱちぱち」
「うーーーーーん」
研究室にて、悪の組織の新たなメンバーであるアザカの紹介を行う。
新人ちゃんことツバメは無表情ながら拍手をしていたが、総統は怪訝そうな表情を隠していない。
何か、不満でもあるのだろうか。
「真面目な敬語キャラか……些か没個性だねぇ。面白みのある、隠された性格とかはないのかい?」
悪魔か、この人は。
ほぼほぼ初対面の人に投げかける言葉ではない。
遠慮という概念が存在しないのだろうか。
だとしたら、根っからの悪すぎる。
流石の俺もドン引きせざるを得ない。
それでも、嫌いにはならないけどね!
「典型的な研究肌の女性キャラ……って感じのありふれた口調をしてる総統には言われたくないです」
「え……え? い、今なんて言ったんだい?」
「典型的な研究肌の女性キャラ……って感じのありふれた口調をしてる総統には言われたくないです、と口にしましたっ!」
「分かってて聞き返したんだよっ。君は鬼か!」
「……二人とも、どっちもどっち」
ツバメの言う通りだった。
しかし、仲良くはなれそうで一安心。
ここだけの話、総統はM気質な欲しがり屋なので、キツイ事を言ったくらいでは怒ったりしない。
寧ろ、内心では喜んでるくらいで。
何よりも、言いたい事を言える関係を築けるのが一番だから、言い返せるのは良い事だ。
「それでは、新メンバーの紹介も終わった事だし……ツバメちゃんの宿敵である
総統がそう告げると、和気藹々としていた雰囲気が消えてなくなり、しんと静まり返る。
その要因となっているのは、計画の中心人物。
如何なる時も復讐心を抱き続けるツバメの瞳には……純然たる殺意が秘められていて。
この場にいる誰もが気圧されてしまったのだ。