転生したら怪人だったので、見込みのある魔法少女を片っ端から悪堕ちさせる。   作:悪堕ちが性癖の一般成人男性

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皆様の反応が執筆の励みになっていますので、どうかこれからもよろしくお願いします。


悪堕ちしたので、復讐の下準備をする。

 

「ふんふんふーん♪」

 

「機嫌がいいですね、今日の先輩は」

 

 私とカナミ先輩は、住宅地を歩く。

 何も散歩をしている訳ではない。

 魔法少女の任務の一環として、担当区域を哨戒しているのだ。

 

「え、分かる? 朝ご飯に食べたアップルパイがすっごく美味しかったんだよね〜」

 

「皮肉ですよ。市民に見せても恥ずかしくない態度で任務を遂行してください」

 

 そう指摘すると、先輩はふふふと笑う。

 微笑ましい物でも見るかのように。

 ……何かおかしい事でも言っただろうか。

 

「ツバメちゃんって本当にいい子だよねぇ。きょうび、こんなに真面目な新人なんて殆どいないよ」

 

「……そんなこと無いと思いますが」

 

「いやいや、そんな事大ありだよ! 今の若い子はさ、ネット上で配信したり、アイドルみたいにライブしたり。メリハリをつけるなら良いと思うけど、怪人討伐任務を放っておいて、承認欲求を満たすのを優先してるんだから、由々しき事態だよ〜」

 

 そう言われると、何も言い返せない。

 確かに、ファンサービスに熱を注ぐ魔法少女は一定数存在する。

 先輩が述べたような職務怠慢を魔法少女協会が見逃しているのも、魔法少女が人気になればなるほど、懐が潤う……なんて背景があるようで。

 そのような事情もあり、タレント活動を中心に行う魔法少女に対して、私も意見があった。

 地道に職務に励む魔法少女が影に隠れ、外部への露出が多い魔法少女が評価される現状は。

 ……本来、あるべき姿とかけ離れているのではないかと、思ってしまうのだ。

 

「なーんて文句垂れても、現状は改善しないんだけどね。結局のところ、地位も権力もない我々は、コツコツと頑張るしかない訳ですな」

 

「……私達は不老の存在。殺されたりしない限りは死なないのですから、とにかく地道に頑張りましょう。心配しなくても、100年くらい経てば『七星衆』の一員になれる筈。そうなったら、魔法少女協会の改革を行って、万事解決ですよ」

 

「あはは。そりゃ、随分と気が遠くなる話だねぇ」

 

 先輩は冗談だと思っているかもしれないが、私は至って本気。

 今の魔法少女協会の在り方は歪んでいる。

 故に、変えなければならないのだ。

 強硬手段を用いては怪人と同じになってしまうので、内部からゆっくりと変革する。

 とても長い年月がかかるのは容易に予想できるが、それでもやらなければならない。

 顔すら知らない誰かに期待するのではなく、自分が行動しなければ、何も変えられないのだから。

 

「あ、あのっ。ちょっと、いいですか?」

 

 不意に、見知らぬ少女に話しかけられる。

 彼女は色紙と油性のマーカーペンを持っており、何を目的に話しかけてきたのか、すぐに分かった。

 

「お! 良かったね、ツバメちゃん。可愛いファンのご登場だよ!」

 

「いえ、あの、違くて……私、カナミさんにサインを頂きたいんです!」

 

「え……わ、私!?」

 

 頬を赤く染めながら、サイン色紙とペンを差し出す少女に驚きを隠せない先輩。

 ……この子はいいセンスをしている。

 私なんかよりも、カナミ先輩の方が何倍も凄くて偉大な人。

 本来であれば、いかなる魔法少女を押し除けて人気No.1になるべきお方なのだ。

 そんな先輩にサインを求めるのだから、他のボンクラと比べて見る目があると断言できる。

 

「本当に私でいいの……?」

 

「はい。寧ろ、カナミさんが良いんですっ!」

 

 困惑しながらも先輩はサインを書き始める。

 拙い手つきで、ゆっくりと。

 ただ名前を書くだけのサインではあるが、これ以上ない程に丁寧な字であった。

 

「あ、あの、その……実は、私……カナミさんと同じ怪人と人間のハーフなんです。それで、虐められて辛い時もあったけど……同じ境遇のカナミさんが魔法少女として頑張る姿を見て、生きる希望を、もらえたんです」

 

 勇気を振り絞って紡いだ少女の言葉を耳にした途端に、カナミ先輩の手がピタリと止まる。

 その上、僅かに震えているように見えた。

 

「そう、なんだ……」

 

「はい。私も、いつか魔法少女になりたいなってずっと思ってて。もしもなれたら、その時はっ……ごしどうごべんたつお願いします!」

 

「……うん、分かった。ビシバシ鍛えてあげるから、覚悟しておいてね!」

 

「は、はいっ!」

 

 サインが書かれた色紙を受け取った少女は、にこりと笑顔を浮かべた。

 傍観者である私でさえも見惚れてしまうほど、お日様のように輝いている笑顔を。

 

「さよーならー! カナミさんもツバメちゃんもお仕事頑張ってくださーい!」

 

 たたたと駆け出して、少女は去っていく。

 対して、カナミ先輩はぶんぶんと手を振る。

 とにかく延々と手を振り続け……彼女の姿が見えなくなると、いきなり地面に蹲り。

 

「う、ううう……ううううう〜」

 

 声にならない呻き声を上げ始めた。

 気が狂ってしまったのだ。

 敬愛してやまない先輩の奇行を前にした私は、シンプルに恐怖を覚える。

 無意識の内に、後ずさってしまう。

 

「……ねぇ、ツバメちゃん」

 

「はっ、はい。何でしょう」

 

「なんで、わたしが魔法少女になったのか……喋ってもいい? ツバメちゃんに話させておいて、自分が話さないのは不公平だから話していいよね?」

 

「ど、どうぞ……?」

 

「あの、ね。知っての通り、私は……怪人と人間のハーフ。だから、親に捨てられたし、孤児院では虐められてさ。生きてても良い事なんてないから、幼いながらにずっと死にたいと思ってたんだ」

 

 相変わらず、蹲った状態。

 ダンゴムシのように丸まっている変な体勢ではあるが、重めの導入が始まった。

 とてもじゃないが、軽い気持ちで聞く話ではないので、私は居住まいを正す。

 

「そんな時、ふとテレビを見たら……私と似た境遇の人がこの世界に何人もいて、同じような悩みを抱えてるってニュースがやっててね」

 

「……はい」

 

「それを見てさ、考えたんだ。どうせ死ぬのなら、命を有効的に使うべきじゃないかって。今までに前例のない、人間と怪人のハーフの魔法少女になって、大活躍でもすれば……世の中の認識も少しは変わるんじゃないか。同じ境遇の人達に勇気を与えられるんじゃないかって、思っちゃった訳ですよ。死んだら死んだで、自殺するよりも意義がある感じがするしね〜」

 

 先輩の声は震えていた。

 それだけでなく、全身も震えている。

 

「それで、運良く魔法少女になれてさ。色々と言われたり、辛い事が沢山あったけれど、私なりに頑張ってて。そ、それで、それでね。今日、初めてだったんだよね。私のファンって子から、同じ境遇の子から声をかけられたのは……」

 

「…………」

 

「わ、わたしって本当に馬鹿だよねえ。たっ、たったそれだけ。私の姿を見て、希望がもらえるって言われただけで……今までの努力が報われた気になっちゃうんだからさぁっ……」

 

 カナミ先輩は、泣いていた。

 悲哀ではなく、歓喜の涙を流していたのだ。

 それを見て、私も涙腺を刺激される。

 彼女が頑張っていた姿は、ずっと側で見てきた。

 人間と怪人のハーフというだけで不当に虐げられても、落ち込む顔を見せず、精力的に魔法少女の活動を続けてきた事を、誰よりも私が知っていて。

 だからこそ、嬉しかった。

 魔法少女として頑張ってきて良かったと、他の誰でもない先輩自身が思えた事が。

 本当に、何よりも、嬉しかった。

 

「ツバメちゃん。私、100年……いや、1000年は頑張ることにするよ」

 

「そうですか。なら、私も1000年頑張ります」

 

「ふふふ。なら、これからも一緒に。心がおばあちゃんになっても、魔法少女、頑張ろっか!」

 

 ゆっくりと立ち上がったカナミ先輩は、こちらに手を差し出す。

 もちろん、私は迷わずに手を取った。

 より一層の熱意を胸に。

 彼女と共に歩んでいこうと心に決めたのだ。

 

 ……すると、次第に視界が歪む。

 安らぎの時が終わろうとしているのだ。

 しかし、これは確かに存在した記憶。

 私と先輩が、以前よりも熱心に魔法少女の活動に望むきっかけとなった大事な思い出。

 彼女が、揺るぎない意思を抱きながら、魔法少女として頑張ってきたのは嘘偽りない事実のはずだ。

 だからこそ、疑問が疑問ではなくなる。

 

 絶対に、カナミ先輩は自殺していない。

 彼女は何者かに殺されそうになり、その犯人が自殺に見せかけた隠蔽工作を行ったに違いないと。

 ……そう、確信した。

 

 

 

 

 

 

 

「はーあ。やんなっちゃうなぁ。よりによって、シオウ先輩が休みの日に怪人が現れるだなんて」

 

「ぶつくさ文句言ってんじゃねーよ。さっさと終わらせてしまえば済む話なんだからよ」

 

 パートナーである藤岡香織の愚痴を聞きながら、歩みを進める。

 今日の任務の内容は、担当区域に出現した結界の発生原因の調査。

 私はここに居ますよ、と誇示している馬鹿な怪人の駆除の仕事だった。

 本来、結界は対象を閉じ込めて、外部の存在に内部の事象を認識できないようにする術。

 要するに、結界外にいる人に気づかれる事なく、ボコしたい奴をボコすための手段なのである。

 それなのに、私達の担当区域に発生した結界は、結界としての役割を果たせていない。

 外部の存在である、あたし達に認識できている上に魔力もダダ漏れ。

 結界内に、怪人が潜んでいるのは明白だ。

 

「まっ、結界内にいる怪人が雑魚そうなのが救いかな。とは言え、ダルいのはダルいけど」

 

 ようやく、目的の場所に到達する。

 私達の眼前にあるのは、廃墟と化している工場。

 如何にも、怪人が好みそうな汚い場所だった。

 

「……いくぞ、警戒を怠るなよ」

 

「はーい、わかってます〜」

 

 結界を潜り抜け、工場へと足を踏み入れる。

 心なしか、瘴気は薄い。

 やはり、怪人はさほど強い個体ではないようだ。

 ……良かった。

 これでようやく、成長したあたし達の姿を先輩に見てもらうことが出来る。

 そう思うと、嬉しくて仕方がない。

 

 あたしや藤岡は……ベテランの魔法少女であるシオウ先輩と常日頃から行動を共にしている。

 プライベートの時も、任務の時も。

 そのため、彼女が不在の状態で怪人と戦う事に恐怖感を覚えていたが、心配しなくても良さそうだ。

 ……シオウ先輩は他人に厳しくて、身内には優しい田舎のヤンキーみたいな人。

 魔法少女としての才能が無いあたし達は、どんな時もおんぶに抱っこされていた。

 だからこそ、いつの日か恩を返したい。

 頼りにされるような存在になりたいのだ。

 少なくとも、あたしは世話になった先輩のためなら、何だって出来る。

 つい最近だって、あの人が嫌う奴を……。

 

「もしかして、魔法少女の人ですか……?」

 

 工場に置かれた機械の物陰から、ボロボロの衣服を着た少女が現れる。

 最初こそ、怯えた様子を見せた彼女だったが、あたし達の服装を見た途端に涙を流し始めた。

 心の底から安心したのか、泣きながらも笑みを浮かべている。

 

「よ、良かったあ。私、怪人に連れ去られて。ずっと一人で怖くてぇ……」

 

「おー、よしよしよし。もう大丈夫だからね。善良な魔法少女である私達が保護したげる」

 

 あやすような言葉を投げかけながら、藤岡は少女に近づいていく。

 討伐対象である怪人を見つける前に民間人の保護をしてどうするんだ、と言いたい所だが……ここで放っておく訳にもいかないので、口は出さない。

 どこに怪人が潜んでいるか分からない所で放置するより、あたし達の側の方が安全だと思うしな。

 ……呑気に、そう考えていたら。

 

「助けてくれて……ありがとうなァ。怪人が変身してるリスクを考慮しねぇ、お間抜け魔法少女さん」

 

 少女は懐から紫色の針を取り出し、勢い良く藤岡の脇腹を突き刺した。

 あまりにも予想外の出来事。

 理解が追いつかないあたしは、ばたりと音を立てて倒れたパートナーの姿を呆然と眺めるばかり。

 

「ククク……たっぷりと麻痺毒を注入した。これで相方は動けなくなっちまったなぁ。さぁてどうするよ、一人残されちまったお前さんは」

 

 そういう、事だったのか。

 少女の正体は変身の能力を持つ怪人。

 あたし達は、嵌められた。

 ぶら下がっていた餌に飛びついた結果、まんまと釣り上げられてしまったのだ。

 もしかして、不完全な結界を張っていたのも魔法少女を誘い込むための罠?

 仮にそうだとしたら、この怪人は並の怪人の何倍も賢い。

 いや、それどころか、人間よりも狡猾で。

 パートナーは身動きが取れず、あたしは戦闘が得意という訳でもない。

 その上、怪人の実力は未知数。

 こんな状態で、勝機は皆無。

 戦って勝てないのであれば、取る行動は一つ。

 

「仲間を見捨てて、どこに逃げるつもりなの?」

 

 思考を読み取ったような発言を耳にした瞬間、心臓がどくんと跳ねる。

 聞き馴染みのある声が、後方から聞こえてきた。

 即座に振り返ると、小柄な体躯の金髪の少女。

 能面のような面をした宇井森燕が、こちらをじっと見ているのに気がつく。

 もしかして、こいつ……。

 

「テメェ……魔法少女協会を裏切って、悪の組織に入りやがったな!」

 

「うん」

 

 悪びれる事なく、ツバメは返事をする。

 何故、裏切ったとは聞かない。

 理由なんて、とっくに分かりきっている。

 こいつは……カナミを虐めて自殺させたあたし達に復讐するため。

 そのためだけに、怪人と手を組みやがったのだ。

 才能が認められつつあり、周囲から期待されていた自分の立場を捨てて。

 

「つらっとしてんじゃねぇよ! お前、自分の立場分かってんのか!? こんな事が協会にバレたら、そこら中の魔法少女がテメェを始末しに来るぞ! くだらねぇ理由で反旗を翻したばかりにな!」

 

「くだらなくないよ。私の命を対価に……貴女達みたいなクズを殲滅できるなら、安いくらい」

 

「……えっ?」

 

 本当に、イカれているとしか言いようがない。

 ツバメの目には感情が籠っていなかった。

 奴の発言に嘘偽りはないと、確信できるくらいには目が据わっていたのだ。

 ……故に、あたしは怖い。

 今日この場所で、こいつに殺されてしまうと、察してしまったから。

 ガクガクと足が震えて上手く動けないので、逃げるなんてもっての外。

 ギロチンの刃が落とされるのを待つ死刑囚のように、怯えることしか出来なかった。

 

「あ、あた、あたしをどうするつもり?」

 

「利用させてもらう。シオウを殺すために。それじゃ、あとはよろしく……怪人一号さん」

 

「……ああ、任せとけ。『洗脳』」

 

 民間人の少女の姿をした怪人が、あたしの頭に手を当てて能力を発動する。

 その瞬間、脳みそがぐちゃぐちゃになって。

 あたしは……奴らの思い通りに動く傀儡になってしまった。

 

 薮をつついて蛇を出す、という言葉がある。

 シオウ先輩はともかく、取り巻きのあたし達は、何も考えずに薮をつついてしまった。

 その結果、出てくるのが蛇だったら、どれだけ良かったか。

 シオウ先輩は、強い。

 こいつらよりも、何倍も強いと断言できる。

 けれども、きっと、勝てはしないだろう。

 何故なら、薮をつついて出てきたのは……目的を果たすためなら、手段を選ばない。

 ……悪魔の集団なのだから。

 

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