転生したら怪人だったので、見込みのある魔法少女を片っ端から悪堕ちさせる。 作:悪堕ちが性癖の一般成人男性
私の人生は満たされている。
両親はどちらも権力者であるため、生まれた時から望みを何でも叶えてくれる。
15歳の時に魔法少女になってからは、気色悪い怪人を思う存分潰せるようになる。
そういった活動を続けていく内に、私を慕ってくれる可愛い後輩が出来る。
地位も権力も金も実力も人望も。
何もかも持ち合わせている私に敵はいない。
恵まれた生まれと魔法少女として働いた十年間の積み重ねを活かせば、どんな事をしても許される。
この世界で最も嫌っている「人間と怪人のハーフ」を……穢らわしい血を引く人間の皮を被った化け物共を虐げても許されてしまうのだ。
とは言えど、直接手を下したら、事が露呈するリスクがあるので、精神的に追い詰めていく。
奴らの存在を許容してはならない。
徹底的に排除しなくてはならない。
一人残らず、駆除しなくてはならないのだ。
そうでなければ、私は……過去の過ちを清算する事が出来ないのだから。
「聞いてくださいよぉ、シオウ先輩。私達、ついに二人だけで怪人討伐に成功したんですよ」
「何回も言わなくたって分かってるよ。でも、おめでとう。もう私の助けは要らないのかもね〜」
「そんな悲しい事言わないで下さいよ。まだまだあたし達は未熟者です」
藤岡が運転する車に乗りながら、三人で和やかに談笑する。
私達は外見こそ未成年であるが、実年齢は18歳を超えているので、免許は取ってあり。
かなりの頻度で警察に呼び止められるのが面倒ではあるが、運転しても問題はないのだ。
因みに、今日は後輩二人とショッピングをする。
その後は、私のサポート無しで怪人討伐を成し遂げたお祝いとして、高級レストランを予約してあるので、そこで食事をする予定だ。
「昨日、戦った怪人はどんな奴だったん?」
「めっちゃ弱かったですよ。不完全な結界を張って自分の位置をバラす馬鹿でした〜」
「とは言っても、結構苦戦しましたけどね。まぁ、先輩なら楽勝だと思いますが」
……ああ、最高だ。
怪人に関する話題を振ると、後輩から持ち上げられて、際限なく自己肯定感が上がる。
人生を幸福に生きるコツ。
それは、自分が好きな物をこよなく愛でて、自分が嫌う物を徹底的に排除する事。
私に懐いてくれている後輩を可愛がれば可愛がるほど、心が癒される。
視界に入るだけで不快になる存在を消せば消すほど、ストレスが無くなる。
そうする事で、気分良く生きれる。
嫌な記憶だって、思い出さずに済むのだ。
「……先輩、ちょっとお願いがあるんですが」
「なぁに、どうしたん?」
「あの……ちょっと言いにくいんですけどぉ」
脈絡もなく、二人揃ってもじもじし始める。
それと同時に、違和感を感じた。
ピリッと肌に何かが触れる感覚。
具体的に言うと、微量の魔力を感じ取ったのだ。
この感覚は、結界内に入る時と同じ。
なんというか、嫌な予感がする。
「ここで私達と……」
「死んでくれませんか?」
私の後ろに座る後輩が、左手で私の体を押さえつけ、右手に持つ紫色の針で首筋を突き刺してきて。
運転席に座る藤岡が、隠し持っていたスイッチを押した次の瞬間。
……乗っていた車が、大爆発を起こす。
凄まじい轟音と共に、私の体は宙へと浮かぶ。
「あぐっ……」
どしゃっと、地面に叩きつけられる。
違和感を感じた時点で変身を開始していたため、致命傷は免れた。
しかし、ダメージは甚大。
火傷こそないものの、全身がギシギシと軋む。
その上、爆発する寸前に刺された針に毒でも塗ってあったのか、体が思うように動かない。
特に被害が大きい左手は、もうまともに機能しないだろう。
「なるほどね……そういう事か」
瞬時に、状況を理解する。
間違いなく、藤岡達は何者かに操られていた。
でなければ、自らの命を賭してまで、私を殺そうとする筈がない。
そして、私は結界によって閉じ込められており。
内部に入るまで違和感を感じさせないほど、精度の高い結界であるため、脱出は叶わないだろう。
ここまでのモノは、怪人には作れない。
恐らく、この結界を精製したのも、後輩達を操っていたのも、同一人物。
私に、殺意を抱く魔法少女に違いなくて。
……心当たりのある人物は一人しかいない。
「っ!」
「やっぱり、君しかいないよねー」
目にも止まらぬ速さで接近し、稲妻を纏った橙色の刀を振り下ろしてきたのは金髪の少女。
宇井森燕であった。
無詠唱魔法を発動させ、右手の爪を鉤爪に変えた私は、すんでのところで攻撃を受け止める。
「チッ……さっさと死ねっ!」
常日頃から無表情なツバメちゃんにしては珍しく、感情を露わにしながら刀を振るう。
それをいなしながら、思案に耽る。
私の魔法は「魔爪」。
文字通り、魔法によって自らの爪を鉤爪に変える魔法であるが……左手が碌に動かせず、右手しか使えないため、この時点で戦闘力は50%減。
更に、爆発による傷と麻痺毒により、普段の30%くらいの力しか出ない上に。
ツバメちゃんが持つ橙色の電気を放つ刀によって、攻撃を受け止める度に手が痺れてしまう。
「『水砲』」
物陰に隠れていた何者かによって、圧縮された水の弾丸が放たれる。
ジャンプして回避するも、着地狩りを試みたツバメちゃんによって、右の耳を削がれてしまった。
……中々に、不味い状況だな。
突如現れたツバメちゃんの仲間らしき人物は、顔を覆い隠す仮面をつけているため、素性は分からないが、魔法少女なのは間違いない。
前衛一人と、後衛一人。
敵と対峙する時のセオリーを遵守して、高度な連携を取るのは、怪人に不可能だから。
「本当にしぶといね、貴女」
「そりゃ、しぶとくもなるよ。私、まだ死にたくないもん。君の先輩みたいに」
「……はい、ぶっ殺す」
ツバメちゃんはお得意の『瞬歩』を使う事なく、とにかく距離を詰めて攻撃を仕掛け。
後方で控えている魔法少女は、水の弾丸を自由自在に操り、ツバメちゃんの行動を阻害する事なく、的確に私だけを狙ってくる。
……良く研究し、練られた戦法だ。
変わった事をせずに、膠着状態を作る。
そうして、時間が経てば経つほど、私の全身に毒が回って、動きが鈍くなる。
今の時点で無理せずとも、次第に弱体化するため、衰弱しきった際に命を刈り取れば良い。
恐らく、そういう考えなのだろう。
本当に見上げた殺意である。
敵ながら、あっぱれだ……。
「苦しげな表情だね。そろそろ限界?」
「さぁ、どうかな」
今の私が突けるような隙はない。
じわじわと体が斬られて、水弾を喰らわされる。
身体中ボロボロであり、意識も朦朧とする。
本当に、もう限界だった。
間も無く、私は彼女らに殺されてしまうだろう。
「あっ……まずっ」
そう考えていると、不意に足がもつれる。
殺意を抱いた敵を前にしているのに、無防備な姿を晒してしまったのだ。
立ちあがろうにも毒が回っており、上手く体に力が入らない。
「随分と呆気ない幕引き」
必死に立とうとする私の姿を見据えながら、ツバメちゃんはこちらに近寄ってくる。
彼女は、見るからに勝利を確信していた。
「じゃあね」
ゆっくりと刀を持ち上げて、振り下ろす刹那。
私は……戦闘が始まる前から左手に溜め込んでいた魔力を、惜しむ事なく全開放した。
「……!?」
「あぁ……っ!」
地を這う爪状の衝撃波が、油断しきっていたツバメちゃんと後衛の魔法少女を襲う。
勢い良く吹っ飛ばされた彼女らは地面に倒れ伏し、身動きが取れないでいた。
「く、くく……あはははははっ!!!」
笑いが止まらない。
こんなにあっさりと引っかかるものなのか。
無詠唱で尚且つ魔力を隠匿していたとはいえど、ここまで不意打ちが上手くいくとは思わなかった。
本当に、間抜けにも程がある。
私は、10年も活動してる魔法少女。
いざという時に用いる奥の手を隠し持っている事を、想定しておくべきだろうに。
「あらあらあら。どうしたの、ツバメちゃーん。まだおねんねの時間じゃないよ〜?」
地面に転がっているツバメちゃんの顔面を容赦なく、踏み付けにする。
最高に気分が良い。
それと同時に、怒りも湧いてきた。
……私は、あの時、見逃してやったのに。
穢らわしい血を引くゴミクズと仲良くするという罪を犯し、正しい裁きを行った私をタコ殴りにしたこいつを、寛大な心で見逃してやったというのに。
後輩を操り、自爆させやがった。
間違いなく、彼女らは絶命している。
それに、爆発によって損傷した状態で酷使した私の左手も、二度と動かないだろう。
そう考えると、殺意が沸々と湧いてきた。
やはり、人間の皮を被った化け物と馴れ合うような人格破綻者は許すべきではない。
奴らと同様に一人残らず駆除すべきなのだ。
そうでなければ、また……あの時のような悲劇が生まれる。
まんまと騙されて、悲惨な目に遭う被害者が生まれてしまう。
だから、絶対にただじゃ死なせない。
散々痛めつけてから、ぶっ殺してやる。
「ねぇ、どうしたの? 心の底から憎いんでしょ、私が! それなら、殺してみなよ。こんなところで寝っ転がってないでさぁ!!!」
周囲の様子を伺いながら、踏みつけ、足蹴にして、体の骨を念入りに一本一本へし折っていく。
その度に、奴は苦しげな表情を浮かべる。
微かに呻き声を上げ、痛みに悶えた。
そうすると、胸がスッとする。
ちょっとは溜飲が下がる。
……けれども、次第に飽きてきた。
化け物を虐めるのは大好きではあるものの、純粋な人間をいたぶる趣味は私にはないのだ。
それじゃあ、そろそろ……。
「お別れの時間としますか〜」
改めて、右手の鉤爪を出現させる。
そうすると、ツバメちゃんの表情に恐怖の色が見え隠れした。
どんな時も狼狽えなかった彼女が、この時になってようやく……死の恐怖に怯え始めたのだ。
「くく、本当に気分が良いよ。最後に良いものみせてくれて、ありがとうね! じゃあ、バイバイ!」
勝利を確信した私は、ゆっくりと鉤爪を振り下ろそうとする。
その構図は奇しくも先程のツバメちゃんと酷似していて、僅かな違和感を覚えた。
「『瞬歩』」
聞き慣れた声が耳に届く。
それと同時に、ぐさりと音が鳴る。
私の体に、何かが刺される。
視線を落とすと……胸に刀が刺さっていた。
心臓を、一突きにされていたのだ。
ゆっくりと後ろを振り返る。
すると、そこにいたのは……。
「さようなら、シオウ先輩」
心底楽しそうに、ぐにゃりと口元を歪める。
本物の宇井森燕であったのだ。
シオウ先輩の心臓を貫いた刀を引き抜く。
そうすると、彼女はどしゃりと音を立てて、地面に倒れた。
生命力が高い魔法少女であっても、心臓を貫かれたら死は免れない。
トラブルはあったが、作戦は成功した。
怪人一号の能力『洗脳』によって、取り巻きをコントロールし、毒の針を刺した後に自爆させ。
弱体化したシオウを、私の姿に成り変わった怪人一号とアザカの二人で強襲する。
そこで殺せれば終わり。
彼らが負けてしまった場合は、奴が油断しきった隙をついて、本物の私が奇襲を仕掛けて殺害する。
最初から最後まで気が抜けなかったが……これで、ようやく終わったのだ。
「大丈夫、みんな……?」
声をかけてみるも、返事はない。
当然ながら、二人とも傷だらけ。
怪人一号は白目を向いて気を失っており、『擬態』も解けてしまっていた。
要するに、私の姿から元の姿に戻っており。
元魔法少女の新人、アザカも気絶していて。
改めて、どちらが勝つか分からない戦いだった。
シオウは怪人一号にトドメを刺そうとする直前まで、奇襲を警戒していた。
彼を痛めつけていたのも、存在するかもしれない伏兵を炙り出すため。
もしも、あの時に焦って飛び出していたら、負けていたのはこちらだったに違いない。
とは言え、私が不甲斐ないせいで無駄な手傷を負わせてしまい、本当に申し訳なかった。
「く、くく。うまくやったもんだね。私も似たような手を使ったのに……あとちょっとのところで、騙されちゃったよ」
息も絶え絶えなシオウが、私に向かって声をかけてくる。
彼女は口から血を吐き出しながらも、ニヤニヤと意地汚い笑みを浮かべていた。
……想像以上にしぶといな。
まだ、何らかの策を隠している可能性があるので、トドメを刺すとしよう。
「ねぇ、君はこれからどうするつもりなの?」
「…………」
「答えるつもりはないか……酷いねぇ。こちとら今際の際なんだから、少しくらいお喋りに付き合ってくれてもいいじゃんか」
魔力の流れや仕草をつぶさに確認しながら、無言のまま刀を構える。
こいつと話すつもりは毛頭ない。
さっさと殺す事しか、頭に無かった。
「それなら、良い事教えてあげるね。私の心臓に刀を突き刺した時……ツバメちゃん、笑っていたよ。これ以上に楽しい事はないって感じでさ」
「…………!」
「く、くくく……悪人を殺すのが楽しいだなんて、歪みすぎでしょ。元から、君は正義を名乗る器じゃなかったんだよ。快楽殺人鬼は人殺しらしく……無惨に殺されて、死ぬのがおに」
シオウの首元に刀の切先を突き刺す。
たったそれだけで、彼女は死んだ。
最後に……呪いの言葉を残して。
自覚は無かった。
しかし、心当たりはあった。
悪人を殺して喜びを感じる瞬間が、幾度となく存在していたのだ。
罪を犯した人間と言えども、人間を殺して、充足感を覚える。
そんなの……シオウが言うとおり、快楽殺人鬼と何も変わらない。
私は、正義のために悪を成している。
悪人である私がこの世に存在する悪人を蹂躙し、真に美しい世界を作る。
……そのために、戦っているのに。
「ツバメ、ちゃん……?」
私は、頭の中がぐちゃぐちゃになっていて。
だからこそ、幻聴だと思った。
ここに来る訳がない。
来れる筈が無い人間の声が聞こえるなんて、絶対にありえないと思ったから。
ゆっくりと声の主を確認する。
そうして……言葉を失った。
シオウの喉元に刀を突き刺す私を、唖然とした表情で見ていたのは、他の誰でもない。
「何……してるの……?」
……カナミ先輩、本人だったから。
次回、第一章のエピローグです。