私にとって獅子堂蘭は悪夢ともいうべき存在だ。
八一が取るはずだった小学生名人も、私が目指していた史上初の女性三段も、史上初の女性
普通なら憎んで当然、絶対許さないリスト入り確実ではあるのだけど。
どうにも獅子堂蘭のことは憎めない、嫌いになれない。それは……私が彼女に追い越されて、不幸になってないから。あと八一を泥棒猫しようとしてない。
八一は負けても特に問題なく奨励会入りしたし、獅子堂蘭が竜王戦や三段リーグで活躍したおかげでマスコミはそちらに集中し、取材が減ったので多少は羽が伸ばせるようになった。
好きか嫌いかでいえば、苦手な人間。悪い意味で
ともかく私にとっては獅子堂蘭は悪夢ではあるのだが、同時に恩人とは言いたくないけども、矢面には立ってくれているし……有難くも鬱陶しくもあり……。
将棋の星から地球に落ちてきたお姫様。私が届かない将棋の星を目指すのと逆で、将棋の星から離れて感覚の違う人間ばかりの間でひたすらに生きてきたのがわかってしまう。
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やあやあ、僕に取材とは……これも獅子堂さんの活躍のおかげかな?
「獅子堂蘭新四段について、アマの大会で何度も対局がある辛香さんから聞かせていただきたくて」
ううん、僕としては三段編入試験のことを取り上げて欲しいんやけど……ま、ええわ。
第一印象としてはやね、将棋の神様がおるんやったら、なんでこの子のことを見てくれへんねやろ。
そう思ったね。
「それは……」
奨励会の僕なんかよりもよっぽど努力してて、奨励会におったころの自分よりよっぽど強くって。
そんな子が親から奨励会に入るなって言われとって、逆に結局プロになられへんかった自分が奨励会に10年以上いとったわけで。
僕は将棋の神様に嫌われとったかもしれんけど、この子のように見てもらえてもない訳やないんよ。
「そんな獅子堂蘭新四段が三段リーグを一期抜けしたことについてはどう思われましたか?」
正直なところ驚きは無かったね、当然というか。
三段リーグを抜けられへんかった僕がいうのもなんやけど、現時点でも生石くんのプロ入り直後より強いんとちゃうかな。
「そんな獅子堂蘭新四段の強さの源、何があると思いますか?」
よく普通の人は人生の合間に将棋をして、僕らのように将棋に囚われた人間は将棋の合間に人生をしてるとかいうでしょ?
蘭ちゃんは人生が将棋で将棋が人生やとおもってるんや。
普通に考えたらそんなことはないんよ、ただあの子にとってはそうである、という一点で誰よりも強くなる素地がある。
僕に言えるのはこれぐらいやね。
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氷のように冷え切った退会駒に触れ、動かなくなった指先で駒を投じる直前。
「実は初めまして……じゃないんやけどね。まあ、勝手に僕が覚えとるだけやから気にせんとって」
妙な一言を辛香アマは言い残していた。私と辛香三段は奨励会の在籍も被ってない、だとしたらどこで……。
そんな感傷を抱く間もなく。報道陣に勝者である辛香三段は囲われ、声を震わせながら取材を受けていた。
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