獅子動乱し、竜に喰らいつく   作:区星

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里帰り

『高校時代は公式戦無敗?!新進気鋭の女性棋士、ライオンちゃんこと獅子堂蘭に迫る!』

 

『特集!小学生時代の九頭竜竜王を破った消えた天才、新人女性棋士獅子堂蘭の全てに王手!』

 

 荷物をいくつか取るために川崎市の一等地の実家に帰ると、いつのまにか自室が獅子堂蘭コレクションルームになっていた件について。

 

 まあ、壁に貼られたスポーツ紙や新聞の特集記事はいいとして、棋譜録ってなんだよ、わざわざ竜王戦の棋譜を印刷してるのか……。

 

 と思ったけど、どうやら自室に残していた(コピーは取って持って行った)棋譜までご丁寧にファイリングしてある。

 

 リビングに戻ると父はパソコンで何やら操作して……ウェブ会議か?相変わらず忙しい父母である。

 

「お父さん、あの部屋なに?私の展示室?」

 

「ああ、蘭か。リビングに置いておくのもアレだからお前の部屋に貼ってある」

 

「……そっか、お母さんは……」

 

「台湾だ、私も1週間ほどしたら台湾に戻るから」

 

 こんな感じの癖して私が奨励会に行きたいって言ったら大反対したんだよ?もうちょっと子供のことを大事に扱ってくれてもいいんじゃないかな。

 

 ま、大学入ってから急に手を離して自由にしてくれたからいいけど。

 

 ………あったあった、小学生時代の棋譜だ。

 

 懐かしいなぁ………あ、これは………見なかったことにしたいやつだ。

 

「昔の私は弱かったなぁ、プロはこんなミスほぼしないから当然と言えばそうだけど」

 

〜〜〜〜〜〜

 

「創多くん、クイズだよ!この局面の次の一手で対局が終わりました、どうしてかな?」

 

「………必至も王手も掛かる手はないし、詰めろもかかってないですね。とすると……反則?」

 

「正解、具体的には角がこう」

 

「あ、ワープした」

 

「ひっどいでしょ、これよくよく見ると勝勢だったのにね」

 

 あまりにひどかったのか、あの小学生の当時にしては珍しく棋譜に「角はワープできない(戒め)」と描かれたメモが残ってる。

 

「普通に考えたらアマチュアでも見ないミスですね、二歩より少ないと思いますよ」

 

 二歩自体はまま、反則の中でもよくあるミスだと思う。

 

「創多くんも見かけたら言ってあげるんだよ。その角はどこから来ましたかって」

 

「……で、これ誰の棋譜なんですか?」

 

「私」

 

「?」

 

「可愛く首を傾げても現実は変わらないからね、私の小学2年生のときの棋譜」

 

「いや、そんなはずは……」

 

 目の前の人間が残した棋譜、それが事実だとするならあまりにも稚拙なミスがすぎる。

 

 まるで最初は彼女に天賦の才がなかったかのような。獅子堂蘭の棋力が努力で積み上げられたものだとは薄々気がついているが。それにしたって目を疑う棋譜である。

 

 今すぐに彼女から全てを聞き出したい衝動に駆られるが、貴重な研究会の時間をドブに捨てるわけにもいかない。なんせ獅子堂蘭は忙しいのだ、今をときめく銀子ちゃんに次ぐアイドル性と、銀子ちゃん以上の話題性、誰もが求める将棋連盟の救世主。

 

 奨励会員だったころより更にネットでの研究会を開く暇もないほどにスケジュールは分単位で詰まっている、創多が相手だから獅子堂蘭も時間をわざわざこじ開けて作っているようなものだ。

 

 それなのに今のところどの棋戦でも順調に成績を残しているのは恐ろしいと言うほかない。

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