ピーンポーン、そんな間抜けな音が部屋の中に響き渡った。
「はーい、どちらさんですかー?」
『八一くん、あーそぼ!』
「どちら様?!」
聞き覚えはないはずなのに、嫌な思い出に直結していて、鳥肌が立つようなこの声は。
『八一くんの生涯のライバル、獅子堂蘭だよ!もしかして、忘れちゃった? 自分が負けた相手のこと』
げ、いま将棋界で1番話題の人物。というか誰からここの場所を聞いたんだ。出入りする奴なんて一握りしかいないはずだぞ。
『え?椚くんに八一くんのお家わかる? って聞いたら丁寧に住所と郵便番号と部屋番号まで添えて教えてくれたよ?』
「あのアホ天才小学生が……!」
『というわけで将棋指そうよ、どうせ負け続けで対戦相手の研究も必要ないでしょ?』
こっちが連敗中だからって言いたい放題言いやがって。
とはいえ獅子堂と指すのは別にいい、アマでも指折りどころかトップレベルの実力者。しかも先月は姉弟子をコテンパンにしている、スランプを抜けるキッカケになるはずだ。ただ……。
今あいが風呂に入ってる。姉弟子に目撃されるよりはマシだが風評が広がりやすいこっちの方が評判が終わる。
「い、いやぁ。今日は姉弟子とのVS予定があって」
『銀子ちゃんは私の姿みて舌打ちして帰ってったよ?』
姉弟子ぃ!!!見捨てたな!
『八一くん、不調で自信失ってるし、色々と思うところはあると思うけど。それでも私にとって、八一くんはどんなに調子が悪くても、負けが込んでいても、酷い将棋しか指せなくても。私にとってはライバルだよ』
だから、私と将棋指そうよ。そう言う、獅子堂の声が悪魔にも天使にも見える。
「師匠?お外に誰かいるんですか?」
このタイミングであいが風呂から上がってしまった。まずい。
『……今女の子の声がしたね、誰か女でも連れ込んでるの? そうだとしたらお祝いだね!銀子ちゃんにも知らせなきゃ』
「開けるので本当に勘弁してください!!!」
「……この子が、石川県から電車でねぇ。……八一くん、本当にこの子が親の承諾をもらってここに来たと思ってる?」
八一くん、将棋に夢中になって見抜けなかったな?
表情がこわばり、ギギギギと音が鳴ってるように見える雛鶴あいちゃん。そんなあいちゃんを黙殺して八一くんにも目を向ける。
「将棋をするのにも親の許可が必要だったような過保護な家庭で育った私だから考えすぎなのかもしれないけどさ、まともな親ならたとえ相手が竜王でも小学生を見知らぬ男性の家に乗り込ませないよ?」
「まずは親御さんに連絡を取って、本当にこっちに来ていいのか聞かないとダメだよ八一くん」
八一くんがみせ……未成年者りゃくしゅ?で捕まるのは流石にこまるから。
「ま、そう言うわけで。私ちょっと将棋を指す気分じゃなくなったや、銀子ちゃんにはことのあらまし連絡しとくからしっかり絞られてね」
「待て待て、なんで獅子堂が姉弟子の連絡先知ってるんだ」
そらもう。
「三段編入試験の時に終わった後裏で交換したから。八一が変なことしたら連絡してって」
さ、椚くんち行って相手してもらうか。対面するのは初めてだよね。
……後日銀子ちゃんから連絡があって、案の定家出だったし、特に連盟とも銀子ちゃんとも連絡を取らずに一夜を将棋で使った八一くんはしっかり絞られたらしい。