歩夢との久しぶりの研究会を、対面で終えた後。
「獅子堂は……異常だ。我とも、貴様とも戦わぬ間に積み上げた物は、『神』すら殺しうるものに育っている」
「噂ではソフト研究もやっているらしいが、その程度で生み出される盤面理解ではない」
獅子堂の読みの深さ自体はそこまでではないけど、それ以上に盤面理解が高い。竜王戦でのプロ棋士は序盤研究で勝っても中盤に失点してそのまま終盤で盛り返せないのが大半。
「序盤でリードを奪われれば、あの無謬の終盤力を有する『神』といえどひっくり返すのは難しい」
現に目の前の歩夢も6組ランキング戦決勝で中盤に薄皮を一枚ずつ剥ぐような繊細な指し回しで徐々に優位を奪われて獅子堂に負けたわけで。
「そうなると挑戦者決定戦は獅子堂がどれだけ隠し腕を準備して、どれだけぶつけるかに掛かっている。というわけか」
戻ってきて、釈迦堂さんと女流棋士や姉弟子と祭神雷の話をしていた、
「獅子堂蘭はどうですか?」
「難しい人間だ、だが。周りから伝え聞いたことや余が直接会話して経験したことを踏まえるとこう捉える他あるまい」
「あやつはな、将棋以外の全てに価値を置いていない」
「エゴイストとは違うんですか?」
違う、と釈迦堂さんは言い切った。
「自身が強くなることに価値を置いてすらいない、将棋に関わることが全てでそれ以外には平等に価値を感じておらん、最初は奨励会で化粧すらしようとしなかった」
「将棋に関わること全てが楽しく、全てを糧にして成長する。こういえば見た目はいいが、それ以外に一切の楽しさも見出せない、人間関係も将棋に関わる部分だけ」
欠落者ではあるが、それゆえに。誰よりも努力を苦しく感じない、誰よりも努力を惜しまない、誰よりも努力を重ねられる。それが釈迦堂さんから見た獅子堂蘭だ。
「このような欠落者が、銀子も祭神雷よりも先に、三段リーグに挑んでいることを考えると複雑な心境だが……。彼女にとって女流棋士がその選択肢にすらならなかったことは余の不徳かもしれんな」
「余が見る限り、将棋の才能だけなら正直山刀伐八段より少し上。と言った感じだ。だがな、どの奨励会員より、どのプロ棋士より努力を継続する才能がある」
「最終的に将棋が強くなる才能が走り続けられることだとすると、獅子堂はそれに最も近い」
祭神雷が躊躇なく犠牲にすることで強くなるとすれば、獅子堂蘭は強くなるために何も犠牲にしていない。彼女にとって将棋以外は等しく価値がない、する価値がないことをしないことに痛痒を感じるだろうか。誰もが将棋が強くなるための努力で苦しむ中、彼女はそれに苦痛を感じない。辛くないんだから止める理由がない。
「人間としておかしいですよ、そんなの」
そもそも自分の強さにすら執着していない、そんな人間はエゴイストなんかよりよっぽど怖い。
「そうだろうな、だが事実として獅子堂はそうだ」
「獅子堂が最初の女性プロ棋士になったとしても、将棋の中の礼の精神を破壊することにはならん。将棋が関わることの中ではあやつは存外まともだ、さぞ見栄えのするマスコットになるだろう」
獅子堂本人も、それを望んでいるのかもしれんな。と釈迦堂さんは締め括った。
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蘭さんに才能がない?ありえませんよ、それは見る目がないというか、見誤っているだけです。
小さな実が出来たばかりのスイカときゅうりを比較してきゅうりの方が才能があるって言ってるようなもんですよ。
蘭さんはおかしいんですよね、将棋を指してる時間より棋書を読んだり、棋譜を調べたり、それらをAIに掛けてる方が圧倒的に長いんですよ。それで強くなってるんです。
ソフトで育った僕が言うのもおかしいですが、この学習方法でプロに勝ててる蘭さんの頭の中が覗いてみたいですよ。明らかに常人が強くなる理論の外で強くなってます。
もっと人と将棋を指すようになればさらに蘭さんは強くなりますよ。