幽霊達のヒーローアカデミア   作:雑歌

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入学式とガイダンスなんてなかった。

──グラウンドA

 「「「個性把握テストォ!?」」」

 「に、入学式は!?ガイダンスは!?」

 

クラスメイトの『麗日お茶子』が相澤に抗議するが、「ヒーローになるならそんな悠長なイベントに出てる暇は無い」と一蹴される。

 

 「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り…中学の頃からやってるだろ? “個性”禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる。合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だよ」

 

サラッと愚痴を言う相澤にミミックは少し引っかかるが、相澤はスマホを少し弄りある人物の方に目線を向けた

 

 「入試1位は…爆豪か。お前中学の時ハンドボール投げ何メートルだった」

 「…67メートル」

 

『アイツ人外ちゃう?』と幽霊がツッコミを入れるが体格を見るに出そうな記録ではある。中学生の記録ではなく完全にプロスポーツ選手の記録だが

 

 「なら個性使ってやってみろ。円の中なら何してもいい。早よ。思い切りな」

 「んじゃまぁ……死ねぇ!!!」

 『アイツヒーローちゃうやんけ!!』

 

ヒーロー志望らしからぬ言動に幽霊が思わずツッコミを入れてしまうが、それは周りのクラスメイトもそう思っていた。しばらくして相澤の端末からピピッと音がなり、ミミック達に画面を見せる

 

 「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段だ」

 

相澤の持つ端末には【705.2m】と記載されていた。その記録にクラスメイト達ははしゃぎ、中から「面白そう!」と声が上がる。その言葉に相澤はため息をついた

 

 「面白そう…ねぇ。君たちはそんな腹づもりで3年間過ごすつもりかい?」

 

場の空気が凍り、その空気をものともせず相澤は続けた。

 

 「よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 「「「はぁぁぁ!?!?」」」

 

入学初日で除籍処分宣告されてしまった。それもそのはず、相澤は去年の1年A組を丸々除籍処分にしているのだ。

 

 『おいおい流石にやりすぎだろ』

 『ブラフの可能性が高いですが…全力にやるに越したことはないですねぇ』

 『面白いねあの人。ポーカーフェイスが上手だよ』

 「生徒の如何は先生の自由! ようこそ、コレが雄英高校ヒーロー科だ」

 

前髪をかきあげながら不気味に笑うその姿は、まるで立ちはだかる高い高い壁のようだった。

 

 『ミミックどうする。お主の力だけでは無理じゃぞ』

 「大丈夫任せて。私達なら大丈夫だから」

 

御霊が心配そうに声を掛ける。それに対してニヤリと笑い、体を震わせるミミックを見てクラスメイトは((笑ってる!!))ドン引きしていた

 

 

 

第1種目 50m走

 「私は瀬呂くんとかな。順番的に」

 「須藤。お前の場合は誰が何をしても(・・・・・・・)お前の記録だ。いいな」

 「分かりました。なら『セーイ』。行っておいで」

 「あい。全力でいいんだよな?」

 「うん。そのままの力全部使っちゃって」

 

実体化したセーイがスタートラインに棒立ちで付く。その姿を見た蛙のような子が声を掛けてくる

 

 「萌豊ちゃん…だったかしら?走らなくても良いの?」

 「蛙水さん。うん大丈夫だよ。あの子は私みたいなものだから」

 《位置について──》

 

セーイはグッと足を踏み込む、セーイ自身は裸足だが、その指先から伝わるのは地面にめり込んでいる感触だった

 

 《スタート!》

 

ズドン。そう音が鳴り、砂煙がほんの少しだけ舞う。3秒も経たずしてピピッと音が聞こえる

 

 《須藤萌豊。記録2.4秒》

 「んぁー、砂だから指の食いつき甘かったわー」

 「お疲れ様セーイ。なかなか良いスタートだったと思うよ」

 「そーかぁ?私は納得いってないけどな…まぁいいや。後は他の奴らに任せる」

 「ん。ありがと」

 

圧倒的瞬足で瀬呂を置き去りにしたセーイはミミックの前で立つと消えていく。

 

 「さっきのねーちゃん美人すぎたな…」

 「だな…」

 

セーイの容姿に見惚れた上鳴と峰田は2種目目への移動中にミミックに声を掛けるがセーイに『下心しかないじゃねぇか』とバッサリ切られて意気消沈していた

 

記録:2.4秒(1位)

 

 

第2種目 握力

 「ここは『鬼』。お願い」

 「吾輩の出番か…リミッター解除(オフ)…ふんぬぁっ!!」

 

10センチ程の角が30センチ近くまで伸び、体格も筋肉量も大きく変わる。ギリィッと握りしめられた握力計は470キロを記録し、握力計からはギリギリと音が鳴る

 

 「須藤の個性どうなってるんだ…?」

 「あっはは…私がやると20行くかも怪しいから。仕方ないよ」

 「個性ってスゲーんだな!」

 

しかし直後に障子に540キロの記録を見せつけられた鬼は「あんな小僧に負けるとは…」と少し落ち込んでいた。

 

記録:470キロ(3位)

 

 

第3種目 立ち幅跳び

 「えー…もうこれはレイスじゃない?」

 「私だとずっと飛べてしまうし、記録として成立しないかもしれないわ」

 「いやだって浮遊系レイスしかいないし」

 「…仕方ないわね」

 

レイスがスタートラインに立ち、合図と同時に浮き上がる

 

 「…須藤。彼女は何分間飛べるんだ」

 「えっ、測ったことないので分からないんですけど…」

 「1時間が限度よ」

 「えっそうなの」

 

ミミックはレイスの浮遊時間の限界を初めて知るが、相澤には「正確な数値が測れないから無限にしておくぞ」と言われ記録は無限になる

 

 「おおぉー!すげぇ無限だってよ!」

 「凄いね須藤。いい人材が揃ってる」

 「あ、耳郎さん…いやいや、無限っていいの?」

 「時間で測るより速い」

 

大雑把だなぁと思いながらもミミックは記録無限に少しばかり喜んでいた

 

記録:無限(1位)

 

 

第4種目 反復横跳び

 (うーん…セーイは使っちゃったしデフォルトで足速い子が居ないなぁ…)

 『メインぐらいじゃねぇの?』

 『みんなよりちょっとしか足早くないもん』

 (じゃあ私がやるか)

 

ミミックが真ん中のラインに立つ。それを見た周りの人は興味津々にミミックの方に視線を向ける

 

 「おっ!ついに須藤本人が登場か」

 「ただあの自分の中から出てる人達が個性なんじゃないの?」

 「まぁ見ててよ…【セーイ】、完全模倣(コピー)

 

ミミックがそう言うと、ミミックの周りが一瞬黒くなり、セーイの姿へと変貌する。服装はそのままなのだが、ミミックとセーイの身長差がかなりあるため、へそ出しの状態になる。(峰田と上鳴 変態共)からは歓声が上がるが、耳郎の個性によって黙らされる

 

 (セーイもうちょっと縮んでくれないかな。色んなとこ)

 『無茶言うな』

 

自分のスタイルとセーイのスタイルを比べてミミックは不満を漏らす。そんな気持ちとは裏腹に計測は始まり、スタートの合図で最初から最高速を出していく

 

 「須藤速ぇ!?」

 「もう残像じゃねぇか!」

 「ケロ…流石ね」

 

セーイの力は凄まじいが、ミミックはその速さに目を回していた

 

 (早すぎて酔う…ウォェ…)

 『頼むから私の姿で吐くなよ。汚いから』

 

驚異的な身体能力はセーイの能力だが、ミミック本人は運動神経は中の下あたりなので、この早さには慣れていない

 

 「ゼェ、ゼェ…ゲホゲホ」

 「大丈夫かしら、須藤ちゃん」

 「ハァ…ふぅ、もう、大丈夫。ゲホッゲホ」

 

実際今すぐにでも吐きそうなぐらい酔っているが、心配をかけまいと自分の体にムチを打って耐える。まだテストは続くのだ。

 

記録:93回(1位)

 

 

第5種目 ハンドボール投げ

 「相澤先生」

 「なんだ。手短に言え」

 

ミミックは1つだけ疑問に思ったことがあり、相澤に質問を投げかける

 

 「…私自身が(・・・・)円の外に出なければ大丈夫なんですよね?」

 「そうだ。それがどうした」

 「いや、なんでもないです。行きます」

 

ふぅと一息着き、円の後ろの方に立つ。ミミックは1人のゴーストを召喚する

 

 「おいで『ポルターガイスト』。このボール思いっきり遠くに飛ばしていいよ」

 「え!いいの!?やったー!!」

 

無邪気にはしゃぐポルターガイストを横目に、早くしろと威圧をかける。ポルターガイストはボールを包み込むように持つと、紫色のオーラを放つ

 

 「どっかーん!!!!」

 

ズドォォォン!!!!!

 

 「「「ぎゃああああ!?!?」」」

 

ポルターガイストがそう言うと、周りに凄まじい衝撃波が伝わり、ボールが消える(・・・)。ちゃんと飛んでいっているのだが、加減を間違えてしまったポルターガイストはびっくりして目を丸くしている

 

 「…ポルター、?」

 「び、びっくりした…力加減間違えちゃった…ごめんなさい」

 

しゅんと項垂れるポルターガイストに対して仕方ないなと言わんばかりにミミックは頭を撫でる。パッと見は姉弟である

 

 「…相澤先生。記録の方は…」

 「まだ計測中だが…このままだと雄英の敷地外に行きかねん。軌道は落下中だがな」

 「ポルターあのボール戻せる?」

 「思いっきり飛ばしちゃったからどこかわかんない」

 

周りのクラスメイトは爆豪以外は(規格外過ぎる…)とドン引いていたが、ミミックとポルターガイストには知る由もない。その後ボールは敷地外に出てしまい、計測不可能になった為無限になった。

 

記録:無限(同率1位)

 

 

 

 

 

ある程度時間が経ち、次は緑谷のハンドボール投げの番だが、彼は未だに目立った記録が無い。

 

 『あのままだとアイツ除籍なるんちゃう?大丈夫か?』

 (まぁそこら辺は見て判断しないと、みんなも心配してるっぽいし)

 

周りに居るクラスメイトも緑谷に視線を集める。ミミックは緑谷と同じ試験会場だったが、そんなの微塵も覚えていない。そんなミミックは緑谷の個性を精神干渉系などの個性と推測していた。

 

 「緑谷くんはこのままだとマズイぞ…!目立った記録がない…!」

 「ったりめーだ!アイツは【無個性】のザコだぞ!」

 

“無個性”。その言葉に引っかかったミミックは爆豪に話しかけようとするが、その前に緑谷の行動が目に留まる

 

 (…今、絶対個性使おうとした)

 『分かる。今あの子絶対使おうとしたよね』

 

ミミックの考えとスピリットの考えは一緒のようだった。ただ個性が使えないとなると、何かしらの発動条件があるのかと考察をしていると、相澤が口を開く

 

 「個性を消した…つくづくあの入試は合理性を欠くよ。お前のような奴も入学出来てしまう」

 

そう言う相澤は、包帯を宙に浮かせ、髪の毛は逆立ち、目は赤く光らせていた

 

 『あぁ…イレイザーヘッドですか』

 (ジン?知ってるの?)

 『知ってるも何も、“生前(・・)”私は彼に逮捕されました。確か個性は…【抹消】。あの時は初見殺し過ぎましたね』

 『ジンも逮捕されたのか。儂も逮捕されたぞ』

 

ジンと御霊が彼の話題で盛り上がる。イレイザーヘッドこと相澤は、個性を消せる個性持ちで、メディア嫌いの性格からかあまり表舞台には姿を表さなかった。

ヒーローオタクである緑谷は当然のように知っていたが、周りのクラスメイトはそもそも知らなかったり、名前だけ知っているという人が大半だった。

 

 「お前…まだ個性を制御出来てないだろ。また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりだったのか?」

 「そ、そんなつもりは…!」

 

緑谷は相澤に反論しようとするが、相澤の捕縛布によって近くまで引き寄せられ、何かを言われたようだったがミミックには聞き取れなかった。

 

 「何話されたのでしょうか…?」

 「はっ!除籍宣告だろうよ!」

 (…100無いとは言いきれないんだよなぁ)

 

聞き取れなかったのはミミックだけではなく、クラスメイトも同様だった。ミミックは爆豪の言った言葉に少し同情する。

 

 「個性を戻した…ボール投げは2回。早く済ませろ」

 

相澤は緑谷を解放すると、緑谷はブツブツ呟きながら投球準備をする

 

 (このままだと、彼は除籍…一日目だけど、しょうがないよね)

 『いやミミックまだ早いで。アイツの目を見てみぃ』

 

幽霊が緑谷の方を見るのを促す。ミミックは緑谷の目を見つめる

 

 『覚悟決まってんで。まだ諦めてない』

 (個性が分からない以上、なんとも言えないけど…そうだね。何か策がありそう)

 

緑谷が第二球を振りかぶる。先程と姿勢は変わらない。相澤は「見込みなし」と呟いた。

 

 「SMASH!!!!!」

 

緑谷が放ったボールは空高く飛んでいく。相澤の端末には【705.3m】と表示されていた

 

 「あの痛みほどじゃない…!先生…まだ、動けます!」

 「コイツ…!」

 

紫色に腫れた指を抑えながら、緑谷は相澤に対して行動不能にはなっていないとアピールする。それを見た相澤は笑っていた。

 

 「うぉぉ!!705m!!」

 「やっとヒーローらしい記録が出たよー!」

 「指が膨れ上がってるぞ!入試の件といい…おかしな個性だ」

 

少し遅れて、クラスメイトがドッ!と湧き上がる。ミミックは爆豪の方を見る。そこには口を開け呆然としている爆豪が居た

 

 「どういう事だコラ!!訳を言えデクテメェ!!」

 「ッ、『御霊』!」

 「止まれ小僧。“影縫”」

 「んが…離せこの、!」

 「悪いな。少々そこで止まっておれ」

 

今にも緑谷に殴りかかりそうな爆豪を御霊は個性を使って止める。自らの影と爆豪の影を結び、体ごとガチガチに固定する

 

 「須藤。もういい、爆豪を解放しろ」

 「ッ、クソが!」

 

その場で跪き地面を殴る爆豪。一悶着あったが、ボール投げは無事に終了した。

 

 

 

その後も幾つか種目があったが、ミミックは平均的な結果に落ち着いた。全ての種目が終わり、結果が出される。ミミックは後半の記録がなかなか振るわず、3位という結果に落ち着いた。無限を2回も出しておいてこのザマである。

 

 「うーん…もっと行けたなぁ」

 「3位なんて凄いわ萌豊ちゃん。私なんて14位よ」

 「そーかなぁ…でもありがとう。蛙水さんもお疲れ様」

 「梅雨ちゃんと呼んで。こちらこそありがとう」

 

ミミックは蛙吹と軽くグータッチをすると、相澤は順位表を消しながら生徒に向かって一言

 

 「ちなみに除籍は嘘な」

 

ミミック達はその場で固まり、相澤の方を見る

 

 「君らの最大限引き出す合理的虚偽」

 「「「はぁぁぁぁぁ!!??」」」

 

八百万と轟を除く生徒は全員声を大にして叫んだ。八百万は「あんなの嘘に決まってます…ちょっと考えればわかりますわ」と呆れ返っている

 

 『んっんー僕はそうだと思わないね』

 『同感だ。某も虚言とは思わぬ。恐らくだか奴は彼に見込みを見つけたのだろう』

 

ハントゥと妖怪が八百万の意見を否定するが、その声は当然ミミックにしか聞こえていない。

 

 (んー…まぁ、私テレパシー能力とか無いし、分からないけど良かったのかな?)

 『そういうことやな!初日から1人欠けてしもうたら皆泣いちまうしなHAHAHA!』

 

幽霊が冗談交じりに笑う。笑い事じゃないんだなぁと思うが、それよりも相澤の言葉に耳を傾ける。

 

 「今日はこれで終わりだ。教室にカリキュラム等の書類がある。目ぇ通しとけ。明日からはもっと過酷な訓練の目白押しだ」

 (まじか……もっと体鍛えないとな)

 

相澤は緑谷に対して何かを言っていたが、気にせずその日は帰路に着いた。

 

 

 

夜。自宅にてミミックはメアーと怨霊と話をしていた

 

 「みんな凄かったんだよ。足がエンジンだったり、巨大な氷作ったり、大砲作ってたりで」

 「あらあら……なかなかの強個性ばかりじゃない?」

 「……」

 

怨霊は相変わらず何も喋らない。あまりにも喋らないのでミミックは怨霊(コイツ)喋れないんじゃないかとも思っている。メアーは引き続き話を進める

 

 「話はジンから粗方聞いてるわ。結構辛い日々になりそうじゃない?」

 「かもしれないね。でも僕一人じゃないから。みんないるし。メアーも怨霊もね」

 「……フン」

 

怨霊が喋った!?とミミックは少し驚くが、その時メアーから少し耳打ちされる

 

 「怨霊ね、バンシーにだけ喋るのよ。貴方寝てたから知らないでしょうけど」

 「えぇ?そうなの?」

 

その耳打ちが聞こえていたのか、怨霊はスッと立ち上がり、襖をピシャン!と閉めて自室に篭ってしまった。

 

 「……怒っちゃったかな?」

 「大丈夫でしょう。ほらもう寝なさい」

 「はーい。メアーもおやすみ」

 「おやすみ」

 

明日からはもっと過酷な訓練の目白押しだ。

相澤の言葉を反芻しながら、ミミックは眠りについた。

 

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